1500日間の連投が切り開いた、信用やつながり。
クリエイティブサロン Vol.176 多田卓也氏

176回目のクリエイティブサロンはデザイナーの多田卓也さんをゲストに迎え、「毎日続けていたら、少し変われた話」というトークテーマで語ってもらった。事前情報によれば1500日も何かを続けていたという。いったい何を続け、どう変わったのか? その真相に迫った。

多田卓也氏

多田さんは兵庫県赤穂市生まれ。大学への入学をきっかけに大阪での生活がスタートし、一人暮らしを満喫する中でインテリアに興味を持ち、大学卒業後には専門学校で空間デザインを学んだ。その後、2006年に空間演出や広告プロモーションの株式会社プロテラスに就職し、会社員クリエイターとなる。

深夜遅くまで働き続けた会社員クリエイター時代

デジタルサイネージやスペースデザインの分野が当時の多田さんの主な仕事であり、大阪に住んでいれば誰もが知っているような商業施設や店舗の外観、内装に携わっていた。

3年ほどは先輩クリエイターの元でデザイナーとして働き、その後の10年間はデザイナー兼アートディレクターとして活躍。大きな案件を任され、社内でデザインするだけでなく、施工現場での指示や大勢が集まる会議にてオーナーに直接プレゼンするなど、さまざまな貴重な体験をしたと会社員時代を振り返る。2011年には日本全国に支社のある会社内で最優秀クリエイター賞を手に入れた。

「20代から30代前半は、ほぼ毎日深夜まで働いていました。職場近くに住んでいたので帰る時間を気にせず遅い時間まで仕事をしていましたね。休みの日は本屋やギャラリーを巡っては、仕事に役立つ情報を仕入れていました」

転機が訪れたのは結婚して長男が生まれた頃。夫婦で共働きする中での子育てのため、生活スタイルが激変し、うまくいかない日々もあったという。そんな働き方を見直す機会の中で、ふつふつと「面白いことをもっとしたい!」と考えるようになったと語る。

「会社員としての仕事以外も経験したいと考えるようになって、いろんな人に会いに行くようになったんです。会社の名刺を渡してアピールしてもなかなか覚えてもらえなくて。それでどうアピールしようかと考えるようになったんです」

毎日夜0時までにパターン柄をSNSに投稿

そこで個人としてアピールできるものとして登場するのが日常のワンシーンを写真や映像で切り取って投稿できるInstagramだ。毎日Instagramにパターン柄を投稿し、ポートフォリオサイトとしてInstagramを活用した。

当日のスライド
Instagramの投稿と同時に、画像素材を販売できるストックフォトのサイトにパターン柄を掲載することで、売り上げがあればモチベーションにもつながると語っていた。

「パターン柄を制作する作業が楽しいんですよ。見てください。面白いでしょう?」とひとつずつの柄の思い入れや、つくるプロセスを楽しそうに解説する。

手作業で紙工作したもの、輪ゴムや業務用シールなど日常で利用するもの、あるいは友人やお子さんが描いたものなどをスキャンしてデジタルデータに変換し、多田さんのデザインの力でクリエイティブな表現にほどこしてゆく。

このようなつくり方のプロセスそのものを楽しみ、その日の夜0時までに公開すると制限を決めて創作しているのだとか。

「100日目で終わるつもりだったんですが、アカウントをフォローしてくださっている方から『毎日見ています。これからも楽しみにしています!』とコメントをいただいて。それでうれしくなって作り続けたんです」

「パターン柄の面白いところは、出力したものをさまざまなものに展開できるところ」と持参したTシャツやトートバックを見せてくれた。カタチにしたり、発信することで思わぬ問い合わせがあるそうで、さまざまなコラボが生まれている。

例えばグロテスクなホラー菓子で有名な「中西怪奇菓子工房。」の壁紙パターン柄、高知愛に溢れるブランド「ブランド高知」の高知パターン柄制作のお手伝いもSNSへの発信がきっかけで生まれた。

Instagramの投稿は1500日続き、現在も不定期で更新を続けているという。多田さんは継続のコツをこう語った。

「好きであること、締め切りを決めること、クオリティにこだわらないこと、実験の場としてとらえること、評価にこだわらないこと」

長く続けるコツを語るくだりで印象的だったのは「つくっている作業が心の安定につながる」と語っておられたところだ。冒頭の大学生時代の話題で、毎日4年間、新聞配達のアルバイトを続けていたとサラッと話されていたが、毎日継続することが多田さんにとってのリフレッシュ方法なのかもしれない。

これからの目標

近年では、福井県内17市町の形を組み合わせた迷彩柄デザインのブランド「福井迷彩」の仕事を皮切りに、さまざまなご当地迷彩シリーズに携わり、「きぐみのつみき KUMINO」「KUMINO BRICK」のデザインなど、カタチを問わず、多彩なデザインの仕事に関わってきた。また、専門学校の講師や、2020年からはメビックのコーディネーターをはじめた。

作例
詳しくはウェブサイト「TURBO Pattern & Design」参照

これまでのプロセスを振り返り、「Instagramでパターン柄の投稿を続けたことで信用や信頼につながり、面白がってくれる人が周りに集まってきた」と総括し、「気にかけてくれる人や意外にも見てないようで見てくれる人はいるので、いろんな人に会いに行き、発信していきましょう」と会場を訪れた人たちに呼び掛けた。

多田さんの言う、いろんな人に会いに行くという真意は、ご自身の場合、Twitterで見かけたクリエイターの飲み会など「いいな」と思えばパッと足を運ぶようにしているそうだ。また、デザインとはまったく関係のない集まりに参加するなど、さまざまなジャンルの人と知り合うよう心がけているという。

最後に目標として「メビックつながりで生まれる実績をつくる」「海外からの依頼を受ける」「さまざまなブランドに関わる」などを挙げて、クリエイティブサロンは終了の時間となった。

サロンでのトークの間、多田さんの人柄が垣間見れる箇所が度々あった。それは他のクリエイターに対するリスペクトの言葉だった。当日参加していた顔馴染みのイラストレーターの方などを紹介する際、その方の「どこがすごいと感じているか」を必ず言葉にしておられた。ただひたすら職人のようにパターン柄をデザインし続けていただけでなく、無限につながるパターン柄のように、自分の表現と別の誰かの表現をうまくつないで、新しい可能性を広げているように感じられた。

イベント風景

イベント概要

毎日続けていたら少し変われた話
クリエイティブサロン Vol.176 多田卓也氏

誰に何を言われる訳でもなく楽しく続けられることを続けていたら、面白い人たちに出会い、様々なものに関わらせてもらえるようになり、いつの間にか誇れるものになっていたという話。

それが僕にとってはパターン柄とデザインでした。

パターンとデザインの面白さ / 魅力。
1500日継続していく中で変わっていったこと。
これまでの実績とこれからの目標。
現在関わっている商品 / プロジェクトについて。

など、自身の普段考えていること心がけていることを交えながらお話しします。
何かを始めたい人のきっかけのひとつになれば嬉しいです。

開催日:2020年8月26日(水)

多田卓也氏(ただ たくや)

TURBO Pattern & Design
デザイナー / ディレクター
大阪モード学園非常勤講師
Adobe Creative Residency Community Fund 選出(2020)

兵庫県生まれ / 大阪市在住
大学卒業後、商社にて空間演出 / グラフィックを軸としたデザイン&ディレクション業務を行う。並行して個人でパターンデザイナーとしても活動。1500日連続でパターン柄を作り続けながら様々なものに展開し活動範囲を拡げる。
2020年よりTURBO Pattern & Designとして活動を開始。空間とグラフィックを行き来する幅の広さとパターン柄の展開可能な面白さを活かして、さまざまな企業やブランドのデザイン / サポートをおこなう。
趣味は将棋 / ランニング / ギャラリー&イベント巡り。
ニックネームはターボです。

https://turbopd.com/

多田卓也氏

公開:
取材・文:狩野哲也氏(狩野哲也事務所

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。