“守破離”を経て学んだ、“真善美”
クリエイティブサロン Vol.142 仙石吉徳氏

さまざまな分野のゲストを招き、活動や人となりをじっくり伺う「クリエイティブサロン」。第142回目となる今回は、SENGOKU DESIGNの仙石吉徳氏を迎え「デザインから教えてもらった学びの視点」についてお話を伺った。幼少期から、数々の師の元で学んだ仙石氏は、前々回行われた第140回目のゲスト・嶋高宏氏とは師弟関係。最も影響を受けた存在だと言う。この日は嶋氏が会場から温かく見守る中、熱い思いを語っていただいた。

仙石吉徳氏

三人の師との出会い、学び

現在、SENGOKU DESIGNのグラフィックデザイナーとして、コンセプト立案からブランディング、アートディレクション、商品開発と多彩な活動を展開する仙石氏。その美的センスのルーツと言えるのが、生まれ故郷である島根県益田市だ。“電車が一両しか走らない田舎”と紹介されたこの町は、青く透き通る海と地平線に沈む太陽、豊かな山々や草花の彩りに恵まれ、四季折々の情緒を感じられる場所。この環境で培われた感覚が仙石氏のデザインのベースとなっている。

また、絵を描くことが好きで幼少期より画塾へ。ここで、最初の師・A氏と出会うこととなる。「当初、先生から中学校に入るまではクレヨンで描くようにと言われ、『描き直せないから面白くない』と感じていました。ですが今思えば、書き直せない状況でトライすることで失敗への恐怖心をなくし、チャレンジすること、工夫することの楽しさを学びました。他にも、何事に対しても『なぜ?』と考えて行動することや、物事は『教わる』のではなく『盗む』ものであることなど作品を作る上での考え方を学びました」

その甲斐あって、中学に入る頃には全国規模の絵画コンクールでベスト20に選ばれるほどの実力となった。だが一方、学校の勉強に対しては「なぜしなければいけないのか?」と疑問を持つようになる。教師に質問するも「いい大学に入るため」「いい会社に就職するため」という返答ばかり。勉強に意味を見いだせず、無気力になる一方であった。「当時、あまりに勉強しないので校長先生から『俺が教えたら勉強するか?』と直々に言われました。その言葉に心を打たれて勉強を始め、学ぶことの楽しさを知りました」。この校長先生が、二人目の師・B氏である。当時、仙石氏の学校では、ある取組みにより企業の経営者が校長を務めており、“教育者”と“経営者”二つの顔を持つB氏は、仙石氏に学問に加え、人との付き合いで必要な礼儀作法や幅広い分野の人と繫がる大切さを教えた。

「石見帖」の中面
マチオモイ帖に出展した「石見帖」の中面。
仙石氏の育った島根県益田市 / 写真:yoshizaki yoshinori

その後、大学入学を機に大阪へ出ることになるのだが、ここで得たのが三人目の師・嶋高宏氏との出会いである。「ハット帽に上品なスーツといういでたちから、イタリアのマフィアのように近づき難い存在でした」と話す仙石氏だが、関西のデザイン業界をけん引する嶋氏の「デザインは愛である」という哲学に強く惹かれ、師と仰ぐようになる。授業やデザインの相談のみならず、映画・エンターテインメントという共通の嗜好によって親交を深めていくこととなった。「嶋先生は本当によく人を見ておられて、デザインでも映画でも『この人のここがいい』と的確に指摘されます。しかもそれは年齢、ジャンルを問いません。自分より若くても良いものは良いと、誰に対しても学ぶ姿勢を持っておられます」。この恩師の影響を大いに受け、仙石氏はデザイナーの道へ踏み出したのである。

作品

オリジナリティーを出す上で欠かせないものとは

と、ここまで聞くと仙石氏を導いた師は三者三様、それぞれ分野が違うように思うだろう。しかし、実は共通して言われた言葉がある。「守破離(しゅはり)の心を持って物事を見なさい」ということだ。守破離とは、茶道や剣道などあらゆる「道」の修業の段階を示した言葉で、まず素直に教えを守り、その基本を破り(応用し)、最後は師から離れ独り立ちすることを意味する。「堅い言葉のようですが、オリジナリティーを出す上でとても大切なことです。私にとって、学びの視点になっています」。さらに、仙石氏は「守破離」の言葉に照らし合わせながらこれまでのデザイナー人生を振り返った。

まず「守」とは、大学卒業後、最初に務めた阪急阪神東宝グループでのデザイナー時代。全く無知だったファッション部門に配属されると、基礎の基礎となるブランド名、商品名を覚えるところから始まり、その他飲食業、運輸業、不動産業など多業種を担当し幅広い知識を得た。また、さまざまな広告媒体を制作しながら、時には自身でイラストやキャッチコピーを作成。デザイン制作だけでなく写真補正、印刷加工まで請け負うなど、デザインを取り巻く環境に触れそれぞれの役割を学ぶこととなった。

そして「破」となるのが独立。ある日嶋氏から「独立して自分の力でやってみたら?」と言われたことを機に即決し独立。その後は、旅行関係のパンフレットをはじめ、商品デザインやステーショナリーグッズのパッケージデザイン、展示会の空間デザインなど、未経験の分野にも果敢に挑戦し、最近では動画クリエイターと共同するなど活躍の幅を広げている。また2017年大阪地下鉄のコンビニエンスストアが一斉に「LAWSON」に切り替わる際には、依頼を受けて「OSAKA SUBWAY LAWSON」のロゴマークを制作。電車のイラストを囲む円を、赤、青、紫、緑、ピンク……と沿線のカラーにし、さらに長さも距離と比率を合わせるという意表を突くアイデアでクライアントの心を見事に掴んだ。「この時は、採用の知らせが4月1日、エイプリルフールだったのでてっきり嘘だと思っていました。数日後、本当に採用されたと分かった時は驚きました! 自分のデザインが世の中に出る喜びを改めて感じました」と話す。

また数年前からは、DAS(一般社団法人総合デザイナー協会)と、JAGDA(公益社
団法人日本グラフィックデザイナー協会)大阪地区の活動に積極的に参加。2017年にはJAGDAと平和紙業株式会社が毎年協賛で行う企画展「BODY WORK」の実行委員長を務めるなど、これまでの「守」「破」を経て「離」の段階を迎えている。

「OSAKA SUBWAY LAWSON」ロゴマーク

新たな視点「真善美(しんぜんび)」、そして「愛」

こうした独立後の活躍の中で、仙石氏の中に新たに芽生えたのが「真善美」という視点だ。「真」とは真理のことで「正しい本当のこと」。「善」は「善い行い」。そして「美」は「美的感覚」。それぞれ学問・道徳・芸術における三つの大きな価値概念であり、これらは相互に関係し「本当に正しいことは、美しく、善い行いである」という意味を成す。その中でも「善」は良心の表れであり、分け隔てない「絶対愛」を示す。「デザインは愛である」という嶋氏の哲学に影響を受けたこともあり、仙石氏は自身のデザインの根本を「愛」と考え、作品を通して全ての人に愛や幸せを届けようとしている。

さらに、その「愛」は作品だけでなく、クライアントに対する姿勢にも見て取れる。例えば「集客のためにチラシを作ってほしい」と依頼を受けた場合、チラシが正しいアプローチであれば効力を発揮し人を集めることができる。しかし、そうでないと判断した場合は、他の媒体提案を通して正しいアプローチへ導き、クライアントが求める結果に近づけるよう愛を持って対応する姿勢を貫いている。

サロンの終盤、会場から「嶋先生という偉大な師に対して、今、守破離のどの段階ですか?」との質問が寄せられた。これに対し仙石氏は「たぶん破と離の間くらい。つかず離れずちょうどいい関係を保っています」と自らを捉えつつ、「私は、他にも筋トレの師、美容の師……と周囲にたくさん師がいて、その一人ひとりとの間に守破離が存在するんです。こう考えると、普段の生活の中にも学びがたくさんありますよ」と語った。「守破離」を経て、「真善美」そして「愛」へと進化し続ける仙石氏。今後、作品がどのように変化するのか楽しみである。

イベント風景

イベント概要

デザインから教えてもらった学びの視点
クリエイティブサロン Vol.142 仙石吉徳氏

このサロンでは、私自身の学びの視点と最近の活動についてお話します。幼少期からの沢山の師と出会った経験と環境が私のベースをつくり、デザインへの哲学を作っていっています。阪急阪神東宝グループのデザイン会社で学んだモノづくりの舞台をはじめ、グラフィックデザイナー嶋高宏を師事し、学んだ哲学、デザイン協会での活動などの話を通して学びの視点についてお話しします。これからデザイナーを目指す人、デザイナーで独立したい人、企業の中でデザインという視点を持ちたい人の役に立てればと思います。

開催日:2018年1月17日(水)

仙石吉徳氏(せんごく よしとく)

SENGOKU DESIGN

SENGOKU DESIGN / アートディレクター、グラフィックデザイナー。島根県生まれ。戦国時代の武将 仙石秀久の子孫らしい。阪急阪神東宝グループのデザイン会社を退社後、独立。現在はブランディング・ロゴマーク・パッケージ・広告・展示会などのブースデザインを中心に活動を行っています。すべてのデザインコンセプト(哲学)は「Peace(ピース)」。Peaceとは「愛と優しさ」であり、それを具現化するのがデザインだと考えています。

https://www.sengoku-d.com/

仙石吉徳氏

公開:
取材・文:竹田亮子氏

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