見て、聞いて、比較して分かった「売れる商品のパッケージ」
クリエイティブサロン Vol.106 孝橋悦達氏

商品パッケージは平面のグラフィックデザインとは違った要素があり、「難しい」と二の足を踏んでいるデザイナーも多いと聞く。また、クライアント側も、よく分からないとデザイナー任せにしているケースもあるだろう。そんなパッケージデザインについて理解を深めていただこうと、今回のサロンは、創業以来80年間、パッケージの制作・印刷ひと筋に事業を展開してきた明成孝橋美術の3代目社長・孝橋悦達氏に登場していただき、同社の歴史や、孝橋氏のパッケージデザインに対する考え方などについて伺った。

孝橋悦達氏

同業他社が量産化に走る中、あえて少量多品種に特化

歴史を感じるスクラップブックを開くと、昭和レトロな雰囲気漂う商品ラベルがズラリと並ぶ。サロンは、明成孝橋美術が戦前、戦後に制作・印刷した、地酒のラベルの紹介から始まった。同社は孝橋悦達氏の祖父が戦前に創業し、地酒屋がつくるお酒のラベルを印刷していた。当時は石版印刷で少量のラベルを手作業で印刷していたとのこと。戦中はインクや紙が統制品になり休業を余儀なくされたが、戦後、イチから事業を再開。戦後の経済成長に伴い、商品の量産化が進み、同業他社は大型の自動化印刷機を導入して大量印刷に対応していくが、同社はあえて少量多品種印刷に特化することを決意。それが高品質で細かな加工を必要とする美容・健康業界のラベル・パッケージに注力するきっかけとなる。

「化粧品や健康商品のラベルやパッケージは小型なモノが多いのですが、光らせたり、エンボス加工をしたり、金箔を乗せるなど、細かい工夫が必要です。それらの工程を一つひとつ、ていねいに小さな設備で印刷しています」

事業の紹介を終え、話題はパッケージ特有の印刷工程の説明へ。パッケージの企画・デザインは、立体設計→グラフィックデザイン→パッケージデザイン→パッケージデザイン見本作成→特色製作→本紙色校正→最終調整・下版というプロセスがあり、印刷・加工工程では用紙断裁→製版→印刷と工程が進む。グラフィック印刷は、この段階で完成するが、パッケージの場合は表面光沢加工やホットスタンプ加工、トムソン加工、貼り加工という加工工程がある。会場では製版で使うアルミの版や、金箔を貼る銅・アルミ製の金型、トムソン抜き加工で使う木型などの現物を見せながら分かりやすい説明が進んだ。

ラベルのスクラップブック
創業当時に印刷していた地酒や化粧品のラベル

デザインに対してクライアントから厳しい言葉を受けたことも

ところで孝橋氏は、最初から家業を継ぐつもりだったのだろうか。「家の一階が印刷工場だったので、物心ついたころから職人さんが働く姿を見て、機械の音を聞いて育ちました。しかし、全く印刷やパッケージには興味がなく、『紙の上にインクを乗せて何がおもろいねん!』と父親に悪態をついたこともありました」と笑う。大学卒業後は好きなクルマに関わる仕事をしようと自動車ディーラーでセールスを経験。25歳の時に父親から「おまえが会社を継ぐ気がないのなら、廃業の準備を進める」と言われ、「面白いかどうか分からないけど、一度やってみよう」と、この道に進むことを決意。東京の印刷学校で勉強した後、大阪に戻り、明成孝橋美術に入社し、無我夢中で仕事を覚えていった。しばらくして、ある程度、印刷のことは理解し、クライアントにも話しはできるようになるが、デザインについては正直、よく分からなかったという。

そんなある時、クライアントの担当者から、こんな質問を投げかけられた。「孝橋さん、売れる商品のパッケージと、売れない商品のパッケージの違いは何か分かりますか」。すぐさま、「デザインの違いです」と答えたものの、具体的にはどのような違いがあるかは明確に答えられなかった。当時は何の基準もないままパッケージのデザインを制作し提案していたと述懐する。そんな姿勢をクライアントも見透かしたのか、「こんなパッケージで売れると思っていますか」と厳しい言葉を受けたこともあったそうだ。

工場の作業風景
印刷したパッケージ用の紙を小型のトムソン加工機で展開図の形に抜く

「見て、見て、見まくって」感覚的に分かりはじめたパッケージの本質

「これではいけない」と、パッケージに関するセミナーに通ったり、インターネットで情報を仕入れたりして勉強をしたものの、売れる商品のパッケージについて、いまひとつ分からなかったという孝橋氏。そんな時、ある知人から「ネットの情報やマーケティングのデータを調べるのもいいが、実際に商品が売られている店頭に行き、店員に売れている商品と売れていない商品と、売れている理由を聞くことが一番勉強になる」と教えられたそうだ。

それ以来、孝橋氏が実行したことは市場に出ている商品を「見て、見て、見まくる」。販売店の店員の声を「聴いて、聴いて、聴きまくる」こと。クライアントの商品はもちろん、競合商品などを購入し、比較・検討するスペース「アイデアポット」を社内に創設した。アイデアポットでは売れる商品だけではなく、売れない商品も並べて比較・分析し、企画・デザイン・印刷加工それぞれの立場で、「売れる」商品パッケージづくりのためのアイデアを提案していった。

サロン後半、孝橋氏はヒット塾という勉強会で実施している「あてっこゲーム」というゲームを会場で披露してくれた。「ここにドラッグストアで売られている2種類のリップクリームがあります。Aは新製品で価格は375円。小瓶入りで、クリームを指で取って塗るタイプです。パッケージは女性受けする可愛いデザインに仕上がっています。Bは大手老舗メーカーがつくったロングセラー商品。スティック型で、昔から定番のパッケージに入っています。どちらが売れているでしょうか」という質問に、会場の意見が分かれたが、正解はA。理由は圧倒的な安さと新製品であること、女性に受けるパッケージであるという店員の意見があったとのこと。逆にBが売れていない理由は、ロングセラーであるが価格が高く、使いにくい形という意見が聴けたそうだ。このように店に通い、店員の意見を聴き、「あてっこゲーム」などを実施して、比較検討し、社員もまたパッケージへの理解を深めているのだ。

このような活動を続けていくことで、売れる商品のパッケージと売れないパッケージの違いと理由が感覚的に分かってきたという孝橋氏。「僕はマーケティグやデザインの学校に通っていたわけではありませんし、専門のマーケティング手法を使って情報を入手しているわけでもありません。細かいデータを出しているわけでもありません。ただただ見て、見て、見まくる。聴いて、聴いて、聴きまくる。これを数多くこなすことで売れる商品のパッケージの本質が分かってきました。すごく泥臭い方法ですが、一番効率的に消費者が求める声に近づけると信じています」

陳列棚に並ぶ競合商品
社内に設置された「アイデアポット」のコーナー

売れるパッケージをつくり、「ありがとう」の言葉を集めたい

このように商品パッケージに対する目利きの目と、コンサルティング力を高めた孝橋氏のもとには、「商品が売れない、売れるパッケージをつくりたい」という、さまざまな困りごとや悩みの相談が寄せられる。社運をかけてつくった商品が全く売れず在庫の山を抱えて困っておられたクライアントには、パッケージデザインの一新を提案。デザインを変えて発売し直したところ、一気に商品が売り切れたそうだ。「あの時は、パッケージひとつで売れ行きが激変することを実感した」と振り返る。また、コンセプトがナチュラル志向の商品なので白い紙を使いシンプルなデザインにしてほしいと希望されたクライアントには、店側はホコリが目立つパッケージは置いてくれないと説明し、別の紙とデザインを提案したことがあったと話す。そんな店で聞いた声を活かしたアドバイスもできるようになった。さらに、孝橋氏は商品パッケージが分かってくると、容器や販促ツールの問題点も見えてきて、他の部分も変えましょうとプラスαの提案ができるようになったという。

商品はパッケージだけで売れるわけではなく、商品そのものの特徴や効果、広告、販促、営業展開など、さまざまな要素が融合して最終的に売りにつながっていく。では、そもそも売れる商品のパッケージとは何か。「パッケージの役割は、商品の魅力に気づいていただくために、店頭で目立つこと、特徴を理解していただくこと、好感を持っていただくことです。私たちは、この3つのポイントにこだわってデザインを提案しています」

また、パッケージは商品の顔、会社の顔であるだけに、どのようにすれば魅力的になるかクライアントの悩みも多いという孝橋氏。その悩みを親身に聞いて解決する方法を提案すること。その結果、売上が上がれば、クライアントの利益につながり、「ありがとう」という言葉をいただける。そんな「ありがとう」の言葉が沢山集まるパッケージ会社になりたいと、今後の目標を話していただいた。

会場風景

イベント概要

ありがとうが沢山集まる「買っていただける」パッケージをめざして。
クリエイティブサロン Vol.106 孝橋悦達氏

パッケージは商品開発において、生活者にその商品の想いを伝える重要なメディアです。「売れること」をめざして「売れないこと」はよくある話、「生産者の想いが伝わり、買っていただく為に……」そして、「ありがとう」という言葉が沢山集まるパッケージを目指して取り組んでいます。創業から80年の間、理想と現実の間に立って大事にしてきた事、微力ながらお伝えできれば幸いです。どうぞ、よろしくお願い致します。

開催日:2016年8月10日(水)

孝橋悦達氏(たかはし よしのぶ)

株式会社明成孝橋美術

大阪生まれ、大阪育ち。大阪産業大学・工学部卒。大阪スバル自動車入社。日本プリンティングアカデミー卒。株式会社 明成孝橋美術入社。2014年・代表取締役就任(3代目)。文部科学省認定 印刷専門士。
子供の頃から乗り物が大好きで、工学部に進学。学生時代にはモトクロスに明け暮れ、そのまま自動車業界へ進む。セールス・アドバイザー(企画営業)として、自動車ディーラーに入社。トップセールスの予定が、ワーストセールスに……。「売る」ことから「買っていただく」事を意識して利益率トップ。当時、家業としての「印刷」にはまったく興味が無かったが、クリエイティブ産業としての「パッケージ」「笑売」にチャレンジし現在に至る。

http://www.ideapot.co.jp/

孝橋悦達氏

公開:2016年9月2日(金)
取材・文:大橋一心氏(一心事務所

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。