日々更新、動き続ける上町荘の日々。
懐かしいようで新しい、働く場所の在り方。
クリエイティブサロン Vol.72 白須寛規氏 / 山口陽登氏

建築家の白須寛規氏と山口陽登氏が仲間と立ち上げた“上町荘”は、シェアオフィスという言葉だけでは表しきれない、外へと開かれた空間。仕事をするだけの場ではなく、利用者みずからが活用の幅を拡張し続ける、実験の場=ラボでもある。そんな“上町荘”のはじまりから、場づくりの極意、さらには今後の展開について語っていただいた。

白須氏と山口氏

ふたりの建築家が求め、たどり着いた、
秘密基地のような空間。

「上町荘」−−その昭和な響きを持つ空間が誕生したのは2013年。事務所や工房のほか、ホール、屋上菜園などがあり、個人個人がゆるやかにつながることができるスペースを持つ、魅力的な場として注目を集めている。こちらを立ち上げたのは、ともに建築家の白須寛規氏と山口陽登氏。大阪市立大学で別の学部に在籍していたというふたり、卒業後はそれぞれ就職、現在はともに独立している。インスタレーション作品をつくることもあれば、都市レベルの大きな複合施設の経験もある山口氏。対して白須氏は地域に入り込んでのコミュニティデザインから、個人住宅までを得意とする。ともに大きなスケールから小さなスケールまでを扱い、一方で住宅設計と都市再開発という建築のど真ん中の仕事もしつつ、非建築的な領域にも踏み込む。「ふたりでいろんなことができるねと言いながら、なかなかやらないという(笑)。そんな微妙な距離感のふたりです」(山口氏)

2013年、あるワークショップに参加した際、そのビルのペントハウスを2人でシェアしないかという話が持ち上がる。しかしペントハウスの150m²の空間は、2人でも持て余す広さで、友だちで大工の伊藤氏を巻き込んで話を進めていたところ、話が頓挫。すでに自分たちの中で夢を大きく膨らませていた彼らは、それを実現する場所を探し始める。広い空間で思い描いた設計図を実現するために“一棟借り”を目論むも、不動産屋を通した物件では条件が合わず、地道に自分たちの足で探すことにした。「今日はこのエリアを探索、と自転車で探してました」(白須氏)。「今思うとヒマだったんですね(笑)」(山口氏)。
4ヶ月ほど経ったある日、上本町四丁目の交差点で運命の出会いをする。それは、「3階建て、340m²」と想像を遥かに超える広さだった。

上町荘

上町荘≠シェアオフィス
完成形を決めずに、思いがけない変化を楽しむ場。

それから1年あまり。今日撮ってきたばかりという写真を見せながら、上町荘の現状を報告。昭和の高度成長期に建てられたであろうこの建物、上町筋に面した壁面は総ガラス張り。白須氏曰く「最初見た感じは、ほぼ廃虚」。内部は鉄骨の構造材むき出しで、吹き抜けの2階は手すりも仕切りも取り外されたまま。それを伊藤氏が現場から持ち帰った廃材を使って、少しずつ手を加えていった。ある時、広いスペースの一部しか使っていない状況に気がついた。「今さらながらですが、ここ大き過ぎると(笑)」(白須氏)。
3人では使いきれないから人を集めようと、2013年暮れにお披露目パーティーを開催。昨年春以降、続々と入居者が決まる。

上町荘は「シェアオフィス」として紹介されることが多いが、入居者が入った今でも、オフィスとして使用しているのは全体の1割程度。建物の大部分を占めるのが吹き抜けのあるホール。時に作業スペース、時に打ち合わせの場へと姿を変える。入居者企画によるトークイベントやDIYカフェ、展示会などをおこなうほか、貸しスペースとして提供することもある。それらの総体として“上町荘”。名前以外に特に決められた用途がない、自由な空間。「だからシェアオフィスという呼び方はしっくりこない。オフィスを貸すというより、ここの鍵を貸している感じ。デスクで煮詰まったら、ホールに出て広いテーブルで仕事をしたり、カメラマンは3階で写真を撮っていたり、みんな好き勝手に使ってますよ」(白須氏)。

2人が口を揃えて言うのは「先のビジョンがない」ということ。「必要に応じて変えていってる感じで。たまたま、ぼくたちが楽しんでやっている場所に賛同してくれた人が集まってきている。今思えば、ぼくらは世間一般で考えられるシェアオフィスの形がしっくりこなくて。それなら自分たちでつくってしまおう、となったんだと思います」(山口氏)。
1階の壁面にかけられた大きな抽象画は、友人のアーティストが上町荘にあう絵を選んでプレゼントしてくれたものだというし、階段の塗装も入居者が自主的に塗ってくれたという。個性的なハコの魅力に吸い寄せられた人たちが、それぞれに空間の意味を見出し連動することで、場が色づき、カタチづくられる。混ざりあうことで生まれる化学変化を楽しむ、そんな実験の場のようだ。

イベント風景

「このキャラの濃い建物を面白がれるか」
それが入居者の第一条件。

上町荘全体を貫いているのは、楽しげでゆるやかな空気。細かなルールもないのに、絶妙な距離感を保つ。そんなコミュニティづくりの極意について、山口氏はこう語る。「月に1回はミーティングをしています。ゆるいものなんですが、それぞれが思っていることをぶつける場を設けています。基本的にぼくたちは管理をしていないので、自分のことは自分でするスタイル。でもそうやって放置しながらも、コミュニケーションを図れている状態が、うまくいく秘訣かも」。

現在のメンバーはグラフィックデザイナー、カメラマン、Webデザイナー、アーティスト、アートコンサルタント、イベントの管理をする人と職種もバラバラ。ことさらにクリエイティブ系の仕事をしている人に限って募集したわけではないが、入居者の人選については、この建物がハードルになっているとも。一般的な価値観でオフィスを探している人は、まず上町荘には来ない。興味を抱いた時点で、すでに人選はなされているのかもしれない。また、キャラの濃い建物を事務所としていることが自分自身の表現にもなるという。「クライアントにここに来てもらうことで、自分自身のプレゼンをしているつもり」(山口氏)。

「入居者の第一の条件は、ありのままの“上町荘”を気に入ってもらえるかどうか。自分たちで直したり、暑かったり寒かったりはするので、普通のシェアオフィスのクオリティを求められたらゴメンナサイとしか言えない。一緒に良くしていこうとか、ラフなスタンスがいいと思える人は上町荘に合うと思う」(白須氏)。
入居者の多くが、この建物の得体の知れない感じが良かったと言う。足を踏み入れた瞬間に借りることを決めた人もいる。入居者の多くは友だちの友だち、面識のない人たちが噂を聞きつけて集まってきた。上町荘は只今入居者募集中。「今度は本当に知らない人がやって来るかも。そう思うと少しドキドキする。転校生がやって来るみたいで(笑)」。

イベント風景

外へと開かれた自由な空間で、
人と出会う。街とコミュニケーションする。

話を聞いていると、“上町荘の仲間たち”は親密そうに思えるが、けっしてベタベタした感じはなく、理想的な距離感が保たれているという。「学校のクラスに近いのかも。仲のいい人がそれぞれ一人ずついる感じ」。
飲食店時代、さらに遡れば車のショールームだった頃の名残である、自動ドアとガラス張りの構造に集約される、いつでもウェルカムなスタンスは、入居者以外の人も惹きつける。朝、オフィスに行くと、誰かの知り合いや親戚が遊びに来ていたり、近所の子どもがかくれんぼをしていたりする。

当初は意図していなかった“外から見えること”。それとは逆に意識して始めたアプローチもある。「建築設計事務所は路面にあるところが少なくて、街の人と触れあう機会がないんです。うちは外から丸見えなので、建築模型を並べておくと、近所の人が眺めていて。模型が変わるとちゃんと気付いてくれる」。
街に向けてつくり、コミュニケーションを図る。それは模型だけでなく、上町荘そのものについて語っているようだ。生活感漂う街の一角で突如活動を始めた上町荘、ガラス張りの建物の中、いつもなにやら楽しそうな様子を不思議そうにのぞく人々の姿が思い浮かぶ。今回のサロンにも近くに住む人が参加しており、やはり「ずっと気になっていた」と話す。

これからは、もっとメンバーを増やしたいという。「オフィスメンバーだけでなく、イベントなどに関われる層を増やしたいなと。最初3人から始めて、“人が増えると確実に楽しさが増す”ということは実感しているので」。ここでイベントを開催するには、特にルールはないと白須さん。「こんなスペックですけど、よかったら使いますか?というスタンスで。無料というわけにはいかないけれど、できるだけ続けられる仕組みを考えたい。必要なものを買うお金は欲しいけれど、なぜか買わなくてもどこからか回ってきますし。もっと関わる人が増えて、みんなが困らない状況になればいいな」

上町荘

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.72 白須寛規氏 / 山口陽登氏
上町荘について

大阪の上本町で「上町荘」という小さなビルを運営しています。
上町荘は、シェアオフィスのようでいて、ライブハウスのようでもあり、またギャラリーのようでもあり、カフェのようにも見えます。
「上町荘」という名前以外に、特に決められた用途がない自由な空間です。

少人数で始めた「公園のような場」に人が集まり、運動しながら場が作られていく。
小さなビルの中で、使う人それぞれが空間の意味を見出しながら、少しずつ手を加えていく。
そんな動き続ける上町荘の日々の様子をお話したいと思います。

開催日時

2015年02月12日(木)19:30〜21:00

会場

メビック扇町 ロビー

白須寛規氏

建築家。大阪市立大学、摂南大学にて非常勤講師。
1979年京都府生まれ。大学院修了後、設計事務所勤務を経て2010年に「design SU」設立。第1回高齢者いきいき居住アイデアコンテスト優秀賞ほか。
2014年SDレビュー2014鹿島賞受賞。

山口陽登氏

建築家。大阪市立大学非常勤講師。
1980年大阪府生まれ。大学院修了後、設計事務所勤務を経て2013年に「siinari一級建築士事務所」設立。2010年13th archiforum in OSAKAコーディネーター。
2014年SDレビュー2014鹿島賞受賞。

公開日:2015年03月26日(木)
取材・文:町田佳子 町田 佳子氏