デザインで社会の課題を解決したい
クリエイティブサロン Vol.71 西川亮氏

毎回、さまざまなジャンルのクリエイターにその活動や仕事の原点となった想いについて聞く「クリエイティブサロン」。今回はゲストスピーカーにNPO法人「Co.to.hana」の代表理事であり、デザイナーとしても活躍する西川亮氏を迎え、NPO法人立ち上げのきっかけから、「Co.to.hana」が取り組む社会の課題をボランティアではなく「ビジネス」として解決する仕組みにについて語っていただいた。

西川亮氏

与えられるのを待つのではなく、なければ自分たちでつくればいい

「僕は小学校の頃、野球少年で365日野球をしていました。」サロンは西川さんの活動の原点となった子供時代のエピソードから始まった。小3の頃に同級生と野球チームを立ち上げ、ひたすら試合と練習を続けた西川さんは、小学校を卒業する頃には強豪のシニアリトルクラブチームに誘われるまでに成長。家庭の事情からクラブチームには行かず地元の学校に進学したが、顧問は野球をまったく知らず、部員はいわゆるヤンキーばかり。それでも一から野球部を立て直し、後輩が大会で優勝するほどにチームの状況を改善させた。「誰かに与えられるのを待つのではなく、なければ自分たちでつくればいい。」このときの体験は、後のNPO法人立ち上げに繋がっていく。野球を諦め、夢も希望も失っていた西川さんはその後、建築家 安藤忠雄に出会い衝撃を受ける。建築家として社会に向き合いながら建物をつくる姿勢に憧れ、高校卒業後は神戸芸術工科大学に入学。しかし在学中に日本全国の有名建築を見てまわった際、大きなギャップを感じた。業界で評価されている建物でも多くの利用者が「使いづらい」「住みにくい」と不満を口にしていたからだ。今ではソーシャルデザインなど建築家が手がける仕事の幅は広がっているが、当時は目に見えない部分にコストをかけないことが多かった。建物をつくるだけではなく、つくる過程からその後の活用までトータルに手がけたい、西川さんの胸にそんな想いが芽生えたことがCo.to.hanaを立ち上げるきっかけになった。

会場風景

震災の記憶を未来に伝えたい
強い想いは海外にまで広がっていく

Co.to.hanaのコンセプトは地域や社会課題をデザインで解決すること。グラフィックやファシリテーション、建築など多方面のデザイナーが集まり、自分たちの持つスキルを活用して社会にムーブメントを起こしていく。イベントや企画、ワークショップ、展示会の設計などその活動は多岐にわたるが、設立以来ずっと続けているのが、「シンサイミラノハナPROJECT」。阪神大震災から時間が経過する中、震災の記憶を未来に伝え、人と人のつながりを育みたいとはじめたこのプロジェクトでは、花びらの形をしたカードにそれぞれの「私にとっての震災」を記入してもらい、5人分のカードを組み合わせると一本の“シンサイのハナ”が咲く。それを街中に飾ることで多くの人に震災について考えてもらうという取り組みだ。予算もなにもないところからのスタートだったが、活動に共感した学校や全国の人たち、他の地域で暮らす震災経験者へと徐々に伝わり、3カ月で3万枚のメッセージが集まった。そして今、その活動はインドネシアにも広がっている。「すごいことやと思いました。」想像もしていなかった飛躍的な拡散にメンバー全員が驚いた。
「世の中に課題はたくさん溢れていますが、多くの人が行政や他の誰かが解決してくれるだろうって考えていて、結局何も改善されないんです。だから、自分たちでできることは自分たちでやりたい。それが僕たちの活動の原点です。」

西川氏と「シンサイミラノハナPROJECT」メンバー

被災地の高校生たちと地元をつなぐ、かぎかっこプロジェクト

阪神大震災から16年が経った2011年、東日本大震災が発生。全国のさまざまな団体が被災地を支援したが、子供たちへのサポートは小中学生の学習支援がメインで、高校生の就職や自立への支援が行き届いていなかった。そこで立ち上げたのが「かぎかっこプロジェクト」。プロジェクトのひとつである、いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)では、石巻市内の高校生が空間から商品開発、運営など0からカフェづくりを手がけた。“石巻を多くの人に知ってもらいたい”と地元の食材をメニューに取り入れるため、農家や水産加工会社を訪ねたり、地元の大人たちから多くのアドバイスをもらいながら一歩ずつ進めていくことで、さまざまな学びと気づきがあり「学校では決してできない体験だった」と高校生たちはいう。店名である「 」の中には当初、高校生たちが考えた名前を入れるつもりだったが、既成概念にとらわれず何でも入る可能性や個性、原点のワクワクを大切にしたいという想いから「 」のままにした。また1人の両手ではなく、二人の手でつくる括弧のロゴマークも彼らの発案だ。次々に立ちはだかる課題に全員で対峙しながらカフェづくりに取り組む彼らを見て、西川さんは東北の若者の中に新しい価値観が生まれているのを感じている。もともと石巻は大阪などの都心に比べて閉鎖的で、高校生たちも最初は自分の意見を人に伝えたり、知らない者同士で交流することをためらっていたが、1年を過ぎた頃にはそれが大きく変わり成長しているという。

石巻の「かぎかっこプロジェクト」

NPOはボランティアではない
課題解決を「仕事」にするということ

Co.to.hanaが手がける地域の取り組みは震災だけに留まらない。少子高齢化による空き地や遊休地の増加が全国的な問題になる中、かつて造船業で栄えた北加賀屋も例外ではなく、産業構造が変化するにつれ工業が衰退、人口もどんどん減っていた。そこで地元の不動産会社が立ち上げた空家や工場地跡などの遊休不動産にアーティストやクリエイターを誘致する「北加賀屋クリエイティブビレッジ構想」の一環として、古くから住む地元の人とアーティストの交流を目的とした「みんなのうえん」という取り組みをスタート。なにもない空き地に土を運んでつくった農園で野菜を栽培することからはじめ、今では料理研究家と供に食に関する勉強会やワープショップを開催したり、企業のパーティーや地域の集まりに育てた野菜を使った料理のケータリングを行うなど活動の幅を広げている。その他、地域ごとの防災情報を発信する「シンサイミライ学校」、民間版の就労支援施設「ハローライフ」の空間設計や仕組みづくりなどその活動は年々多くの人を巻き込みながら広がっている。
西川さんが大切にしているのは、「これを仕事にし、食べていく」ということ。Co.to.hanaの取り組みがビジネスとして成り立っているのは、企業やNPO団体のブランディングやプロモーションを手がけることができるプロフェッショナルが集まっているからこそだ。「それでも一年目はお金にならないことばかりやっていましたし、今だって赤字のプロジェクトはあります。でもそれが本当に社会に求められていることなのか、自分たちに解決できることなのかを考えながら、最終的に会社として回ればいいんです。」そう語る西川さんの言葉に迷いはない。

「みんなのうえん」の様子

イベント概要

デザインで地域を元気にする
クリエイティブサロン Vol.71 西川亮氏

身の周りにある課題は、誰が解決するのでしょうか?
社会にはさまざまな課題があります。また社会の変化にともない、行政の施策や制度では対応できない課題もたくさんあります。
自分たちにできることは何か。
コトハナは、デザインの力を大切に、そして地域とのつながりを大切にしながら課題解決に取り組んでいます。
課題解決と地域を元気にするためにデザインができること。みなさんとともに話し合えればと思います。

開催日:2015年1月22日(木)

西川亮氏(にしかわ りょう)

NPO法人Co.to.hana 代表 / デザイナー

2009年に神戸芸術工科大学を卒業後、シンサイミライノハナPROJECTを企画。その後、プロセスとカタチのデザインを大切に、地域や社会の課題解決に取り組むデザイン会社として、NPO法人Co.to.hanaを設立。社会の問題や地域の課題に対して、デザインが持つ「人に感動を与える力」「ムーブメントを起こす力」「人を幸せにする力」で課題解決をめざす。
主な取り組みに、阪神・淡路大震災の経験や記憶を未来に伝える「シンサイミライノハナPROJECT」や地域の遊休地を活用し、「農」を通して、世代や所属を超えた人のつながりを生み出す「北加賀屋みんなのうえん」、高校生によるゼロからのカフェづくりを通したキャリア教育プロジェクト『いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)』などがある。

西川亮氏

公開:
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus

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