パラダイムシフトの時代に求められる、新しいWeb戦略と人材
クリエイティブサロン Vol.63 高岡謙二氏

プロボクサーからタイ王国領事館で輸出マーケティングに関わり、その後、神戸大学経営学研究科の社会人院生を経て、2000年にインターネットに特化した海外向けマーケティングカンパニー、エクスポート・ジャパン株式会社を設立…。63回目となるクリエイティブサロンでは、そんなユニークな経歴を持つ、高岡謙二氏を招いて、先進的なWeb事業や業界で必要とされるクリエイターの資質等について話を伺った。今回は、“少人数制にして参加者とのコミュニケーションも大切にしたい”との高岡氏の思いも反映して、参加者がいつでも質問が可能なディスカッションスタイルで開催された。

イベント風景

他とは違う視点、モノの考えを自分らしく貫くスタイルがWeb事業につながった

「人と同じことをするのは大嫌い。他とはまったく違うとんがったビジネスやサービスを生み出し、提供することにこだわっている」という高岡氏は、現在海外向けWebマーケティング分野で業界でも知られる存在。大阪の中小企業をインターネットを通して発信するプロジェクトや世界でもトップクラスのアクセスを誇る訪日・在日外国人向けポータルサイト【ジャパンガイド】の運営、その他、行政機関と連携したWeb事業等、数多くの実績を築いており、今も新しいWeb事業に取り組んでいる。
そんな高岡氏が語るWeb業界に入るまでの経緯は実にユニークで興味深いものだった。「関西学院大学時代にボクシング部に所属していました。特に就職活動中は減量中でいつも食べ物のことを考えている状態。それが影響してか、卒業後は食品会社に就職したんです(笑)」とリアルな過去のエピソードをぽろり。
「でも、ボクシングでやり残したこともずっと心の中にひっかかっていて、働きながらプロライセンスを取得。プロボクサーとしてデビューしました」。デビュー後の成績は振るわず、1年間続けてから引退。その後、就職したのはタイの領事館だった。「私が所属した商務部はタイの製品をどれだけ他国に輸出できるかを考え、実行する部署。その中で貿易にも関わることになりました。この時“国がお金を稼ぐとはどういうことか?”を考え、知るチャンスに恵まれました」とタイ王国領事館での仕事が今の事業を始める最初のきっかけになったという。
数年領事館で働いた後、起業に向けた準備として神戸大学・経営研究学科の社会人院生としてマーケティングを学んだ高岡氏。2000年には日本の製品のポータルサイトをつくり、まだ世の中に普及していなかったチャット機能を使って、全世界の人がネット上で一同に会し、リアルタイムに商談できるという革新的なWebサービスを武器にWeb事業に参画。エクスポート・ジャパンを設立した。


「japan-guide.com」

起業直後のWeb事業で大失敗。Reスタートを経て業界をリードする存在に成長

「残念ながら、最初の事業は大失敗して倒産寸前に…。「チャットで商談」という革新性あるスタイルは、あまりにも時代の先を行きすぎていましたね。そこからは“ビジネスは早すぎても、遅すぎてもだめ”ということを意識して、企業のWebサイトの翻訳を中心としたサービスを提供することにしました」と当時を振り返る高岡氏。この時代とのマッチングを意識したことで、徐々に事業が軌道にのり、2003年には大阪府からの案件等に関わるようになった。当時は本格的にWebサイトの外国語化ニーズが出始めており、現地の人の観点から見た外国語サイトをつくる企業は少なく、高岡氏が先駆的に行ったことで、業界のパイオニア企業として大きなアドバンテージを得た。現在は、大阪・東京・中国に拠点を構築し、スタッフも外国人が活躍する無国籍な環境をつくりあげるまでに成長。案件としてもJICAやJR東日本の海外向けサイト等を任されており、行政や地方の観光局から外国向けに情報発信を行うブレーンとしてのポジションも得ているという。
高岡氏は、事業として世界に日本の情報を発信する外国語サイト【ジャパンガイド】をスイス人のビジネスパートナーと共同運営し、さらに最近は日本語のみの看板や印刷物を簡単に多言語化できる世界初のWebサービス【QR Translator】もスタート。これまでの概念を超えたスタイルでWeb事業の可能性を広げている。
「【ジャパンガイド】は英語版のGoogleでJAPANというキーワードやTOKYOというキーワードを入れると世界でトップ5内に表示される月間140万人の利用者を誇るサイトです。また、【QR Translator】は、看板等に表示されたQRTコードをスマホ等で読み込むとユーザーの使用言語に翻訳された説明が読めるという独自サービス。こちらは直近ではあべのハルカスにも採用されているんですよ」と語ってくれた。


「QR Translator」

一つのことに専業特化しつつ、商圏を世界に広げることが企業の生き残る一方策

さまざまな新しいWebビジネスを生み出し、展開している高岡氏が語ってくれたのは、「私は常々、“日本という国がお金を稼ぐためにどうすれば良いのか?”をコンセプトに事業を展開しています。そうした観点から考えると日本の企業は海外に絶対負けない技術や製品を持っており、世界にはニーズがあります」という企業の経営課題解決につながるマーケティング戦略の話。
高岡氏によれば、これまでの市場構造や環境、価値観は大きく変化している、言わばパラダイムシフトが起きている現在において、Webを活かせるかどうかが、今後中小企業が生き残っていく為のカギになるという。
「商品やサービスでとんがったモノを生み出す時に私が考えているのは、商圏をいかに捉えるかということ。商圏を小さく捉えると少ないユーザーに対して個別対応していかねばならず物事はすべて“よろずや化”していきます。逆に考えると商圏を拡大して、世界にも広げていくと、一つの商品で専業特化していっても、ユーザーが多いため、生き残れるということなんです。実際に弊社がWebをサポートしているハードロック工業は、“絶対にゆるまないネジ”という一つの技術を武器に世界の市場で成功しています」
これは、日本のクリエイターにも言えることで、優れたスキルや作品は日本という狭い商圏では弱くても、世界に広げればより多くの人に、より大きく影響力を発揮できることにつながるという。確かに、最近海外では日本のクリエイターが創り上げた映像やコンテンツがヒットしているという事例は増えているという事実がある。
「これまでと違い、今はスマホの普及によってプラットフォームが共通化され、言語の問題も私たちが行っているような翻訳サービス等で解消されつつあります。その意味で、日本の中小企業、クリエイターは数億・数十億というマーケットで勝負できる可能性が広がっています」

I型ではなく、T型クリエイターが新しいWebビジネスを創造する存在になる

「私は経営者として、Web技術者やクリエイターと関わることが多いのですが、その中でこれから業界に求められる人材とはどういった資質の人かを最後に話したいと思います」と高岡氏が語り出したのは、独自の人材論について。
「技術・知識の深さと広さを縦横にとったマトリックス図で、一般的な技術者・クリエイターを表現してみると、狭い部分の専門的で深い知識・技術を持った人、すなわち“I型人材”が多いと思います。この場合1人で専門性を発揮して活躍できますが、多くの人と連携するチームではどうでしょう。I型の場合、他の専門分野の人と重なる部分がなく、溝ができてしまいます。ではどういった人材がよいか?」
高岡氏の次の言葉に一同の意識が注がれる。
「ずばり私が思うのは、自分の専門となるプロフェッショナルな領域を持ち、広く浅くであっても多分野の知識を持っている“T型の人材”です。この広く浅くの部分が多分野の人と手をつなぎ、連携していける最高のチームワークを発揮できるポイントです」
スペシャリストでありながら、ゼネラリストでもある人材がこれからの業界で求められる人であるという理論に一同大きくうなずいた。
その後、今回高岡氏が話したことについて、参加者全員によるフリートークとなり、全員が終了時間を忘れる程に熱い議論が交わされたのだった。


T型人材のマトリックス図

イベント概要

クリエイティブサロン Vol.63 高岡謙二氏
クリエイティブ×マーケティング

10年間以上、海外向けのWebマーケティングを専門とする会社を経営している経験から、ビジネスの意思決定者が好むクリエイターの条件をお話して、逆にフィードバックを頂きたいです。異質なものの組合せが付加価値を産み、優秀なクリエイターには、グレートコミュニケーターであることが求められると思っています。

開催日時

2014年11月4日(火)19:30〜21:00

会場

メビック扇町 ロビー

高岡謙二氏

関西学院大学卒業後、プロボクサーを経てタイ王国総領事館商務部でタイ製品の輸出マーケティング業務に従事。その後、神戸大学経営学研究科の社会人院生となり、在学中の2000年にエクスポート・ジャパンを起業。インターネットに特化した海外向けマーケティング企業の草分けとして、東大阪の中小企業を世界に売込むプロジェクトや日本の観光資源を世界に紹介する活動で多数の実績を残す。世界トップの訪日・在日外国人向けポータルサイトであるジャパンガイドの取締役も兼務。

公開日:2014年11月21日(金)
取材・文:文士舎 北川 学氏