ものが溢れている時代に求められる、「企業の強み」を引き出すデザイン。
クリエイティブサロン Vol.61 福嶋賢二氏

単純にものを作るということより、あるコンテンツに対して、いかにデザインで付加価値を与えていくか。ものが溢れた時代に、企業の強みを見いだし、本質を形にしていくデザインに取り組む、KENJI FUKUSHIMA DESIGNの福嶋賢二氏をゲストに迎え、商品の販路まで見据えた、独自の仕事術について語っていただいた。

福嶋賢二氏

特殊な技術からデザインされた「SORATAYORI」。

2011年に独立、KENJI FUKUSHIMA DESIGN設立。32歳ながら、すでにさまざまな企業の仕事で実績を残している福嶋賢二氏。「ミラノサローネ」への出展を足がかりに、海外からも注目を集めている気鋭のデザイナーだ。最初に紹介されたのは、老舗封筒業者の緑屋紙工との仕事。気まぐれに変わる空模様をファンタジックに表現したレターセット「SORATAYORI」は、印刷を施したロール状の透明フィルムを、寸分の狂いもなく封筒に貼り付けていく技術を最大限に生かしたもの。
「こちらのメーカーは請求書やDMなどで使われる、窓付き封筒をつくっている会社。ロール状のフィルムに印刷を施し、ピッチをぴったり合わせて封筒に貼り付ける、実用新案を取った技術をお持ちです。この技術を使って小売店で販売できるような商品開発をして欲しい、というとこからのスタートでした」
「SORATAYORI」は、虹や雨粒を象った窓の部分にカラー印刷したフィルムが貼られ、付属の二つ折り便箋を入れる向きによって空の表情がさまざまに変わる。台紙のガイドに沿ってメッセージを書くことで、窓から言葉をのぞかせることも可能だ。1枚の封筒で送り手と受け手が何通りにも楽しめる、多くの仕掛けと遊び心が詰まっている。
「型抜きをしてフィルムを貼るのですが、バラバラの3種類の柄なのでコストがかかる。そこで中に貼るフィルムの形状を同じにすることで、コストを1/3に抑えることに成功しました。これによって住所を書くスペースも大きく取れるようになり、生産性も効率も上げることができた。それもフィルムをズレないで貼れるという技術があるからこそ可能だったんです」

SORATAYORI
「SORATAYORI」

「ボールペンで書ける和紙」明確なコンセプトで和紙の日常使いを後押し。

次に、和紙と活版印刷の組み合わせを活かした和紙商品が紹介された。大阪の和紙卸メーカーの大上と活版印刷の船木印刷とともに立ち上げた「off」というブランドだ。和紙を身近に使ってもらうことから発想されており、もっとも使われている筆記用具=ボールペンで書ける和紙とコンセプトを定めた。
「先ほどの緑屋紙工さんは、フィルムに印刷ができてズレないという点を強みとして商品開発をしましたが、ここでは和紙の“卸メーカー”で何ができるのかについて考えました」。そこでたどり着いた強みとは、数多くの和紙の産地を知っていること。ボールペンをリサーチし、それに対して相性の良いものを選ぶために、全国から400〜500種類もの和紙を集め、最適なものを厳選することができた。便箋と封筒は大小2サイズあり、それぞれ3種類の和紙を用意。「ふんわり」「なめらか」「しっかり」とペンの走り具合と触り心地で紙の種類を表現した。活版印刷は、ひとつの商品の中で凹凸のある印刷と、帯の商品名のような凹凸のない印刷が盛り込まれている。
「実は和紙と活版の相性はすごく良いんです。非常に薄くて繊細な和紙にも美しく印刷ができる。今、活版印刷というと凹凸をつけたものが良く知られていて、それが流行のようになっていますが、昔は薄いものに印刷できるほうが技術が高いと言われていたんです。この商品ではその両方の技術を見せています」
今年9月にリリースした第2弾はイラストレーター「西淑(にししゅく)」さんとのコラボレーション商品。千円札、五千円札、壱万円札という日本人にとってもっともポピュラーな「和紙」のデザインに注目してポチ袋をつくった。「現在、取り扱いの店舗数は80店を超えていて、年内には100店まで増える予定です」。すでに3弾、4弾のアイデアはあり、いつ、どのタイミングで発表するかを常に考えている状態だという。

作例
「ボールペンで書ける和紙(和紙ブランド「off」)」

ユーザーに届くことまで見据え、流通まで踏み込んで仕事。

「商品を買ってもらうためには、デザインして終わりではなく、そこから先も見据えなければいけない」。冒頭で福嶋氏は、他とは違った自分たちのアプローチを教えてくれた。その考えをもとにKENJI FUKUSHIMA DESIGNはデザイナー、バイヤー、海外担当の3人のチームで構成され、ものづくりから流通までトータルプロデュースの展開をしている。大きな企業であれば販路を持ち、プロモーション体制も整っている。しかし今までOEMをやってきた企業だと、小売り先までの販売網をつくりたいと思ってもノウハウがない。そこをサポートできるメンバーがいればと考えて、設立当初からバイヤー経験のある人をスタッフに入れている。
「新規で小売り店で扱ってもらうには、クリアしなければならない壁がいくつもあります。そのサポートや販路開拓、卸メーカーのネットワークを使って新商品の紹介など、バイヤーの存在は大きいです」
また展示会には多額の費用がかかるが、それも福嶋氏が個人でブースを借りて、抱えているプロジェクトをまとめて発表し、それぞれの企業に分散して負担してもらうことで費用も抑えながら発表の場に立てるようにもした。こういった体制づくりの背景には、「技術があるのに売れない」という悩みを抱える企業が多いという現実がある。「デザイナーに頼んだけれど売れなかったと、嘆く企業さんもたくさんいると思いますし、自分が独立するなら、そうなりたくないという気持ちがありました」
中小企業には「いいものをつくっているのだから絶対に売れるはず」と思っているケースが多い。しかし、それはものづくりをする側の視点。本当はそこで問題になるべきは売り方、伝え方だ。そこで福嶋氏は「企業の強みを引き出す」というスタンスをとる。企業の良さを抽出して分かりやすく商品に落とし込み、販売先までをサポートする。
「今はものが溢れていて、ユーザーの趣味嗜好も細分化されている。その上で新しいものをつくりたいというのであれば、新しい機能やアプローチを見せないと、一瞬で埋もれて消えてしまう。自分が携わったところで売れないものはつくりたくないんです」

作例
「お札がぴったり入る和紙袋(和紙ブランド「off」)」

目に見える形をデザインするだけではなく、目に見えない仕組み自体のデザイン。

企業が新しいものをつくり、それを世の中に提示したいという時に、コンサルタント的な機能も果たしつつ、最初の段階から関わるのが、福嶋氏の仕事術。
「自分の場合は直接お会いして、その企業の持つ技術がどういうものかを確かめ、さらにそれを自分が引き出すことができると確信してから始まります」。その中でいくつかのアプローチを見せ、先方の漠然とした思いをコミュニケーションを図りながら引き出していく。「いちデザイナーですけど、商品開発をする場合は、その企業のスタッフになったつもりでやっています」。ディテールにこだわる反面、マクロ的な視点も持ち合わせる。「自分がデザインの仕事を受ける場合は、もののデザインを基本にパッケージから販促物、Web関係までトータルでやるので、使われるシーンをシミュレーションしたり、バイヤーの経験値も合わせて、店舗に置いた時にどう見えるかというところまで意識してます」
さらには価格設定まで。「消費者の立場で考えることと、普段遣いの目線は大切にしている。売り場に馴染むような価格帯で、いいものができないかなといつも考えていて。だから加工などのコスト面まで具体的に踏み込んでデザインしています」。予備知識を持たないフラットな状態で、人の目に留まり、気に入って買ってもらえる。それがベストだという。「offであれば、ふと目にした時、思わず誰かに手紙が書きたくなるようなものになればいいなと」。最後に福嶋さんの考えるデザイナー像について語っていただいた。「デザインの領域は時代と共に広がっています。デザイナーの役割も、単に美しい形をデザインすることだけではない気がします。コアとなる本質的なところをどう見つけ、どのようにアウトプットするのか。そのプロセスを考えること自体がデザインだと思います」

イベント風景

イベント概要

ビジネスマッチングから次のステップへ
クリエイティブサロン Vol.61 福嶋賢二氏

福嶋賢二氏
メビック扇町のビジネスマッチングがきっかけでスタートした緑屋紙工様、船木印刷様の事例をもとに、プロジェクトの開始から商品開発、販路開拓に至るまでのプロセスをお話しさせて頂きます。

開催日:2014年10月20日(月)

福嶋賢二氏(ふくしま けんじ)

1982年

滋賀県近江八幡市生まれ。

2005年

大阪芸術大学デザイン学科卒業後、スウェーデン、HDK大学にてデザインを学ぶ。

2008年

株式会社IDKデザイン研究所に勤務。喜多俊之氏に師事。

2011年

KENJI FUKUSHIMA DESIGNを設立。
生活用品、家具など、プロダクトデザインを中心にパッケージデザイン、グラフィックデザイン、インテリアデザイン、展示会の会場構成など総合的なアプローチからデザイン、ディレクションを行う。2013年 大阪にあるインキュベーション・スペース「シゴトバBASE」を活用する。

福嶋賢二氏

公開:
取材・文:町田佳子氏

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