「イタリアンデザインの本質、プロジェッタツィオーネを学ぶ旅」参加者募集
イタリアで「デザイン」という言葉が普及する前に代わりに使われていた「プロジェッタツィオーネ」という言葉は、実は現代において言われる「デザイン」よりも遥かに幅が広く、より人間的な創造的思考のメソッドを備えていました。イタリアでも消費文化の中で忘れがちなこの言葉ですが、自然環境、社会環境、精神環境とあらゆる次元で危機に陥っている現代世界において、もう一度本当に社会的で持続性のある創造力を発揮するために、ぜひ今一度学び直すべき創造的思考となっています。
メビックでは、イタリア在住のアーティスト・批評家、多木陽介氏のコーディネートのもと、イタリア北部で今もなお多様な分野で活動しているプロジェッタツィオーネの実践者たちを訪問し、ミーティングやセミナー・ワークショップ等を通して、「プロジェッタツィオーネ」の極意を学ぶツアーを開催します。つきましては、クリエイターを対象に参加者を募集しますので、参加希望の方は、募集要項をご確認の上お申し込みください。
- ツアー名称
イタリアンデザインの本質、プロジェッタツィオーネを学ぶ旅
- ツアー日程
2024年11月24日(日)~ 11月29日(金) ※現地集合・現地解散
- 訪問先
イタリア(ミラノ、トリノ、アレッサンドリア、モンテベッロ・デッラ・バッタリア)
- コーディネーター
多木陽介氏(アーティスト / 批評家)
- 募集人数
10人
定員を超える応募があった場合は、事務局にて選考させていただきます。
※最少催行人数:6人(参加者が6人未満の場合は中止、または延期します)- 参加対象者
原則、大阪で活動するクリエイター(1980年4月1日以降に生まれた方を優先)
※大阪府外で活動するクリエイターでも応募可ですが、応募者多数の場合は大阪で活動するクリエイターを優先します- 参加費
80,000円(不課税) / 大阪府外の方 100,000円(不課税)
-
参加費に含まれるもの:
講師謝礼、受講料、通訳費、会場費等
参加費に含まれないもの:
現地飲食費、現地移動交通費、施設入館料、宿泊費、航空券代金、空港税、燃油代金、渡航手続関係諸費用(旅券印紙代、査証料、予防接種料金、渡航手続取扱料金)、日本国内の空港施設使用料、海外旅行保険料 - 旅費等
宿泊費(ホテル代):
旅行会社で手配します。※参加者全員同じホテルに宿泊いただくため、手配旅行会社で手配します。
参考価格:約120,000円(手配料含む)
航空券:
各自手配をお願いします(手配旅行会社での手配も可能です)。
参考価格:約110,000円~300,000円(諸税込み)
※メビックスタッフおよび添乗スタッフは、キャセイパシフィック航空(約22~23万円)を利用予定です。- 募集締切
2024年9月20日(金)
- 手配旅行会社
株式会社セントラルツアーズ
- 主催
クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック
注意事項
※一旦お支払いいただきました参加費は、参加者の都合によるいかなる理由によっても返金はいたしませんのでご了承ください。
※本ツアーは手配旅行のため、旅行傷害保険には加入していません。必ず各自で旅行傷害保険に加入してください。
申込から出発までの流れ
- 申込締切:2024年9月20日(金)
- 参加者決定・通知:2024年9月24日(火)
- メビックから参加費の請求書送付:2024年10月4日(金)予定
- 手配旅行会社から旅費等の請求書送付:2024年10月中旬
- 参加費・旅費等入金締切:2024年10月15日(火)
※参加費の入金が確認できた時点で正式に申込完了となります。
一旦お支払いいただきました参加費は、参加者の都合によるいかなる理由によっても返金はいたしませんのでご了承ください。 - 参加者説明会(メビックで開催):2024年10月18日(金)
- 旅行会社からチケット類送付:2024年11月上旬
- 出発予定:2024年11月24日(日)
スケジュール
※スケジュールは参加者の属性や、やむを得ない事情により変更になる場合があります。
11月24日(日)
・ミラノの指定ホテルロビーに現地集合
・多木陽介氏(コーディネーター)によるブリーフィング
ミラノ泊
11月25日(月)
ミラノからモンテベッロ・ デッラ・バッタリアへ
・ブルーノ・ムナーリ協会 教育農場
ワークショップ「ブルーノ・ムナーリの方法」(1日目)
講師:シルヴァーナ・スペラーティ氏(ブルーノ・ムナーリ協会会長)
モンテベッロ・ デッラ・バッタリア泊
11月26日(火)
モンテベッロ・ デッラ・バッタリアからミラノへ
・ブルーノ・ムナーリ協会 教育農場
ワークショップ「ブルーノ・ムナーリの方法」(2日目)
講師:シルヴァーナ・スペラーティ氏(ブルーノ・ムナーリ協会会長)
ミラノ泊
11月27日(水)
ミラノからトリノへ
・午前:ラボラトリオ・ザンザーラ訪問
・午後:ジャンフランコ・カヴァリア・スタジオ訪問
ジャンフランコ・カヴァリア氏(建築家 / トリノ工科大学教授)とのディスカッション
トリノ泊
11月28日(木)
トリノからアレッサンドリアへ
・アレッサンドリア「地区の家」訪問
・ファビオ・スカルトリッティ氏(地区の家プロデューサー)による市内関係施設訪問、及び関係者とのディスカッション
アレッサンドリア泊
11月29日(金)
アレッサンドリアからミラノへ
・カルトゥージア出版訪問
講師:パトリツィア・ゼルビ氏(児童書出版社 カルトゥージア出版社長)
・打上げパーティ後、現地解散
ミラノ泊
コーディネーター
多木陽介氏 (たき ようすけ)
アーティスト / 批評家
1962年生まれ。1988年に渡伊、現在ローマ在住。演劇活動や写真を中心とした展覧会を各地で催す経験を経て、現在は多様な次元の環境(自然環境、社会環境、精神環境)においてエコロジーを進める人々を扱った研究を展開。芸術活動、講演、そして執筆と、多様な方法で、生命をすべての中心においた人間の活動の哲学を探究する。著書に『アキッレ・カスティリオーニ – 自由の探求としてのデザイン』(AXIS)、『(不)可視の監獄 – サミュエル・ベケットの芸術と歴史』(水声社)などがある。2014年度よりメビックエリアサポーターに就任。
今回の研修ツアーでは、訪問先の選定及びアポイントメントを実施いただくとともに、現地滞在期間中全日程ツアーに同行頂き、訪問先についての解説、通訳、基礎セミナー講師などを担当いただきます。
訪問先・研修概要
(1)ブルーノ・ムナーリ協会 教育農場(11/25、26)
ワークショップ「ブルーノ・ムナーリの方法」
「ブルーノ・ムナーリ・メソッド」とは、イタリアの美術家で、グラフィック・デザイナー、プロダクト・デザイナーであり、また、美術教育者であり絵本作家であるブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari、1907-1998)が、1970年代に考案した美術教育、創造的思考の育成を促すための教育法です。カスティリオーニ氏とも親友で付き合いも長かった同時代の人だけに、プロジェッタツィオーネという創造の方法についての共通の意識、認識があったと思われます。ムナーリが如何に合理的、分析的に創造力を発揮するメソッドを探っていたのか、そしてそれが、カヴァリア氏やカスティリオーニ氏の「プロジェッタツィオーネ」の話とどうつながるか、実践も含めて学ぶワークショップを行います。
講師:シルヴァーナ・スペラーティ(Silvana Sperati)氏(ブルーノ・ムナーリ協会会長)
講師のシルヴァーナ・スペラーティ氏は、デザイナーでありアーティストであり、絵本作家であり教育者であるという、二十世紀イタリアでも最も優秀な万能の創造者であったムナーリの下で直接教えを受けた愛弟子。現在はブルーノ・ムナーリ協会の会長として、各地でワークショップ、セミナーと多忙に活動しています。2017年にはメビックに来所し、3日間にわたり「ムナーリ・メソッドワークショップ」を実施。今回もムナーリ・メソッドによる、固定観念を捨て、まず実験的な探求に始まる非常に自由な創造性を鍛えるためのワークショップを二日間体験します。
(2)ラボラトリオ・ザンザーラ(11/27)
1998年に設立されたラボラトリオ・ザンザーラ(Laboratorio zabzara)は、トリノに拠点を置くNPO福祉法人です。彼らのアトリエは街の中心街にあり、街の人たちに見守られながら、自由にアトリエと街を行き来し、紙のはりこやシルクスクリーンのオリジナル商品を製作しています。また、企業や自治体のグラフィックデザインも多数手がけ、質の高いデザインとプロダクトの制作を通して社会に関わり、クリエイティブの可能性を創造しながら、社会のあるべき姿を提示しています。
講師:ジャンルカ・カンニッツォ(Gianluca Cannizzo)氏(イラストレーター / グラフィックデザイナー)
ラボラトリオ・ザンザーラの創設者の一人。
(3)ジャンフランコ・カヴァリア・スタジオ(11/27)
ここでは、いわゆる物のデザインから展示空間の構成、建築、都市計画的プロジェクトと実に幅広い活動をして来た建築家ジャンフランコ・カヴァリア氏から、これら多様な活動に潜む「プロジェッタツィオーネ」の基本についてお話を伺います。また、カヴァリア氏の案内で、トリノ市内の店舗や展示会場等、カヴァリア氏が手がけた建築物等を実際に見学しながら、「プロジェッタツィオーネ」の本質について学びます。
講師:ジャンフランコ・カヴァリア(Gianfranco Cavaglia)氏(建築家 / トリノ工科大学教授)
トリノ工科大学名誉教授であり、同時に30年間カスティリオーニと数々のコラボレーションを実施してきた建築家。
(4)アレッサンドリア「地区の家」(11/28)
アフリカ等からの移民の大量流入による貧困や生活改善を図るため、行政から独立した市民団体「Associazione San Benedetto al Porto(サン・ベネデット・アル・ポルト協会)」で活動している同代表のファビオ・スカルトリッティ氏の案内で、廃工場を利用して開設した「地区の家(Casa del Quartiere)」をはじめ、ファブラボ、コーワーキングオフィス、低所得者用の住宅(Casa Popolare)、市民農園・農園レストランなど、市内の関係各施設を訪問し、施設見学及び活動紹介、各専門家や担当者との意見交換・交流を行います。現場で「プロジェッタツィオーネ」を実践する人々から直接課題解決の方法や課題について学ぶ機会となります。
講師:ファビオ・スカルトリッティ(Fabio Scaltritti)氏
トリノ大学卒業(社会学)。貧しい人々や麻薬中毒患者など社会的に困難な状況にある人々を救うことに生涯を捧げ、イタリアでは著名だったドン・ガッロ神父の創設したサン・ベネデット・アル・ポルト協会の現会長で、アレッサンドリア市のボルゴ・ヌオーヴォ地区の「地区の家」の創設者。
(5)カルトゥージア出版(11/29)
児童書出版社。社長のパトリツィア・ゼルビ氏から、彼らの、多様な専門家の参加による特殊な絵本作りのメソッドについて、 絵本作りが、これほど多角的に重層的に考えられ実践されうるものか、という事例を準備段階での貴重な資料等も用意してもらいながらお話をお聞きします。
講師:パトリツィア・ゼルビ(Patrizia Zerbi)氏(カルトゥージア出版 社長)
児童書の出版を手がけるベテラン。ミラノのカルトゥージア出版(Carthusia Edizioni)社長。他社にはない、実に自由で多様な内容とフォーマットで成功しています。今回は、特に、子供たちの精神に関わるデリケートな問題(親の離婚、差別、肉親との死別、その他)を扱う叢書の、彼女達独自の創造のし方について講義していただきます。
コーディネーター 多木陽介氏からのメッセージ
プロジェッタツィオーネ
第二次世界大戦後のイタリアに登場するイタリアンデザインは、まだdesignという英語が人々に知れ渡っていなかった当時、特に当事者たちの間でプロジェッタツィオーネ(progettazione=プロジェクトを考えて実践することという意味)と呼ばれ、その当事者たちは、自らをプロジェッティスタ(progettista=プロジェッタツィオーネの実践者)と呼んでいた。ブルーノ・ムナーリ(1907-1998)、アキッレ・カスティリオーニ(1918-2002)、エンツォ・マーリ(1932-2020)といった人々が当時の代表的なプロジェッティスタであった。彼らの仕事は、倫理性と社会性に富み、企業の利益よりも社会性のある創造と市民全般への教育を使命とし、その後の消費主義社会のためのデザインとまったく相容れない性格を持っていた。だが、この素晴らしいデザイン思想とその方法論は、資本主義と消費主義社会の急激な発展のなかで、彼らのうちの数人が「巨匠」として持ち上げられる一方で、ほぼ完全に消費主義社会の床下に葬られてしまった。
ところが、20世紀の終盤から現在にかけて、歴史が一度忘れたこの価値観と創造力が、かつてない新しい職能を持った人々の登場とともに、多様な分野でよみがえり始めている。彼らの多くは、必ずしもかつてのプロジェッティスタたちから直接系譜を引くわけではなく(もちろんそういう人たちもいる)、分野も異なるのに、プロジェッティスタたちの創造力(価値観と方法論)にそっくりなものを持って活躍する人々が、(まだまだマイノリティだが)デザイン、建築に限らず、教育、芸術、医療、農業、食、経済、国際支援、街づくり、庭づくり、植林、その他、非常に多様で一見互いに関係なさそうに見える分野、職能において多数登場し始めている。
控えめな創造力
その大きな特徴は、「控えめな(humble)創造力」と言えるもので、作り手が勝手に自分のアイデアやイメージを素材や世界、あるいは人間に押し付けるのではなく、対象(素材、物、人間、社会、環境など)と深い対話を交わし、その成果として、それらの中にある特性が花開くべく、そこにあるものの潜在的な可能性を育てていく。「作る」というよりは、「育てる」という動詞が相応しい創造力で、(ムナーリやカスティリオーニの時代にはそういう社会的要請がなかったので、創造力に環境への配慮が求められていなかったが)環境問題が騒がれる現代において、人間が自然に対しても、一方的に自分の意志を押し付けない「控えめさ」をもち、自然そのものを創造力の主体として受け入れるとき、初めて自然と人間の間に本格的な共生関係が見えてくる。つまりこの「控えめな創造力」には、真にエコロジカルな創造力の可能性が潜在していたのである。
訪問先
今回のプロジェッタツィオーネを学ぶ旅で伺う訪問先には、大きく分けて二つのカテゴリーがある。
一つは、戦後イタリアに花開いたイタリアンデザインの基礎(プロジェッタツィオーネ)を作ったプロジェッティスタたちの思想や活動の形跡に生で触れるための場所。今回のプログラムで言うと、ムナーリ・メソッドを教えてくれるシルヴァーナ・スペラーティさんの教育農場(モンテベッロ・デッラ・バッタリア)の他、1972年からカスティリオーニが他界するまで、三十年にわたって、展覧会の会場構成など、多様な形で協働を続けた建築家ジャンフランコ・カヴァリアのスタジオ(トリノ)も、当時のプロジェッタツィオーネの教えが現代まで忠実に受け継がれた場所であり、彼の実験、作品、そしてスタジオのディテールの一つひとつがそれを極めて純粋な形で体現している。
もう一つのカテゴリーは、上述のように、現代社会においてプロジェッタツィオーネとそっくりな価値観と方法論を携えて多様な分野で活動している人たち(優しき生の耕人たち)とその仕事場がある。今回の旅で訪れる先としては、現代イタリア社会に生きる子どもたちの現実に根ざしたオリジナルの児童書の製作で注目されるカルトゥージア出版(ミラノ)、行政ではなく、民間が運営するコミュニティ・ハブとして地域の住(特に社会的弱者)の生活に極めて重要な意義を持っている「地区の家」(アレッサンドリア)、そして、グラフィックデザイナーとソーシャルワーカーが利用者である障害者とも対等な関係を持ち、障害者が単なる単純作業をする作業所ではなく、障害者自身の生み出すものがしばしば創造の種となるような形で、かなり見事なグラフィックの作品やオブジェ、文具やポスターを制作、販売するラボラトリオ・ザンザーラ(トリノ)がある。
参考文献・記事
- 『石造りのように柔軟な:北イタリア山村地帯の建築技術と生活の戦略』
アンドレア・ボッコ、ジャンフランコ・カヴァリア著 / 多木陽介編訳 / 鹿島出版会 / 2015年 - 『モノからモノが生まれる』ブルーノ・ムナーリ著 / 萱野有美訳 / みすず書房 / 2007年
- 『芸術としてのデザイン』ブルーノ・ムナーリ著 / 小山清男訳 / ダヴィッド社 / 1973年
- 人がよりよく生きられる社会のために、クリエイティブができること。クリエイター座談会「プロジェッタツィオーネ大阪 勉強会」
- “生きる”を耕す〜城谷耕生氏とプロジェッタツィオーネ〜フォーラム「耕す-プロジェッタツィオーネの実践者に学ぶ」
- プロジェッタツィオーネの木 根っこに戻って考える創造力 クリエイティブビジネスフォーラム海外編
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