分譲マンションのセールスプロモーションに新機軸を開拓
佐渡 陽一氏:(株)ウェンズ

佐渡氏

分譲マンション販売の広告宣伝企画・制作を行う株式会社ウェンズ。2007年に法人化し、2008年メビック扇町のインキュベーションオフィスへ入所。2010年に同施設を卒業後は、西区のクリエイター集積ビルACDCに事務所を構える。「今ふり返ると激動の5年間」という創業からの道のりを、代表取締役の佐渡陽一氏にうかがった。

サラリーマン時代の経験と人脈を活かし独立創業

独立以前、在阪大手家電メーカーの新規事業開発子会社に勤務し、さまざまな業種の新規事業に接したという佐渡氏。“分譲マンションのセールスプロモーション”という現在の事業に関わるきっかけもこのころにあったという。
「当時、飲食店やマンション販売、新車・中古車販売などさまざまな事業に関わり、互いに連携することができないかチャンスを探っていました。カフェ事業を担当した際に、近所に大手マンションデベロッパーがあって、あるアイデアを思いついたんです。それは、“カフェのトレイシートにマンション広告を無料掲載する替わりに、トレイシートの費用を負担してもらう”というもの。これが大成功で、掲載依頼企業が増加。経費削減と売上増大が一石二鳥でできて好成績を収めたんです。この時培った経験をもとに、広告業として独立を果たしました」
独立創業後は、交流のあったマンションデベロッパーに新規分譲マンションの広告制作を提案。“媒体に付加価値を付ける”というノウハウを応用し、マンション購入層の関心がありそうな周辺地域の企業からアライアンス広告を募集し、無料で広告を掲載する替わりに店舗などで配布する仕組みを構築していったそうだ。

リーマンショックの危機を乗り越え“メビック扇町”に感謝

順調に業績を伸ばしていく最中、創業から約1年半後の2008年9月、世界をリーマンショックが襲う。その影響は不動産業界を直撃した。
「それ以前って、今思えばまだ景気が良かったんですよね。広告宣伝費もバブルのころのようにジャブジャブというわけではないけれど、まだしっかりもらえていた時代。でも、リーマンショック以降の2009年から昨年までの3年間は、正直大変でした」
中堅デベロッパーが多数倒産していく厳しい状況の中、危機を乗り越えられた秘訣は?
「一つは、うちは企画の根幹となるコンセプトのみを社内で作成し、そこから伸びる枝葉部分であるデザインやライティングなどの制作はすべて外部ブレーンへのアウトソーシングにしていたから。社員が少ない分、過大な設備投資や人件費が経営を圧迫することがなかったんです。それと、不良債権をかぶらずにすんだこと。両方とも、メビック扇町でのインキュベーション時代に、入所企業面談でうちの経営状態を包み隠さず報告し、マネージャーから“身の丈に合った事業計画の立て方”を教えてもらっていたからだと、とても感謝しています」

大手百貨店の外商顧客向けハイグレードマンションブックを発行

事務所風景

厳しい時期を乗り越え2011年末ごろから経営は再び上向いて来た。不動産業界の景気動向に呼応している側面もあるが、長年暖めていた企画が軌道に乗ったことも大きいという。それが、大手百貨店の外商顧客(お得意様)向け超高級マンションブックの発行である。マンション広告NGのクライアントへの長年の交渉が実り企画制作から広告営業までの全てを担うこととなったのだ。壁を突破して新たな道を切り開いた秘訣はどこにあるのだろうか。
「この冊子を発行することで、百貨店側に広告収入以外にもメリットが生まれるのがミソ。お得意様が冊子掲載のマンションを購入すると、百貨店の担当営業マンに情報がいち早く確実に届く仕組みをつくった点にあります。それによって、マンション購入に付随するインテリア等の物販提案をタイミング良く行うことができる。もう一つは、これまでの提携企業との実績を認めていただいたことですね。“クレームゼロ”のマンションデベロッパー選定に対する確かな目への信頼です。百貨店さんにとってお得意様への信用を失う事態は最も避けなければならないことですので、長年この業界で培って来た情報を元に会社規模や販売手法など様々な条件を考慮し優良デベロッパーのみを厳選して掲載しています」
詳細は控えるが、百貨店側には上記の利点があり、お得意様には安心感の提供と購入価格の優待、マンションデベロッパー側には優良富裕層にリーチできるというメリットが生まれる。まさに“三方よし”の関係が成り立つ実にうまい仕組みだと感嘆した。

“メディアの確立”が強みとなる

2012年には、同じ百貨店の一般会員向けに発行される会報誌に同梱する、新たなマンションブックの制作を任された。対象ターゲット層や発行部数、配布エリアが拡大。京都、大阪、神戸と掲載物件のエリアセグメントもでき、営業範囲も広がった。業界内での認知度も高まっており、大手広告代理店と販売の一本化について交渉中とのこと。
その他の提携企業には、ゴルフ場運営会社、高級外車ディーラーなどがある。いずれも、特定顧客や会員向けに発行する情報誌やパンフレットなどクローズドなメディアをウェンズが企画制作し、マンション広告を営業販売するという方式を確立している。
最後に今後の展望をうかがった。
「展望というか目下の課題は、株式会社ウェンズとしてのホームページをどうするか。自社の情報をどのようなかたちで発信していくかを模索中です。そして今後の事業計画としては、会社の規模は追求せず、永続的にビジネスモデルをブラッシュアップしていくことだけを追求していきたいと思っています」

公開日:2012年07月17日(火)
取材・文:C.W.S 清家 麻衣子氏