結婚、出産、育児も仕事のバックグラウンド
澤田 和佳氏:Think Pink

どことなくふんわり、のんびりした印象を受けるコピーライターの澤田和佳さん。フリーのクリエイターとして活躍される一方、二児の母として主婦の顔も持ちます。そんな、一般生活者としての日々の出来事や経験が仕事にも生かされるのだという澤田さんに、日常と仕事の関わりなどについて話しをうかがいました。

コピーライターは灰皿洗いから

澤田氏

「漠然と、文章が書けるような仕事がしたかった」という澤田さん。とくにコピーライターを目指していたわけではなく、お父様の知り合いを通じてコピーライターの事務所を紹介されたのが、この道に入るキッカケでした。
当時は「灰皿を洗えないとコピーライターにはなれない」と教えられ、下働きをしながら仕事を覚えていきました。

その事務所では忙しく仕事に追われ、「毎日12時間以上、べったり机の前にいました」という日々を過ごします。やがて3年半ほど経って、その事務所が移転することに。すると澤田さんの中で何かの糸が切れたのか、「しばらくボーッとしたくなって」と、それを機会に事務所を辞めてしまいます。
ところが、仕事先から「暇があるならやってくれ」と仕事の依頼が。「それなら」と請けているうち、今のフリーのコピーライターとしての道を歩むようになったそうです。

バブルで沸き、仕事も湧く

企画書

フリーの当初は堺の実家で仕事をしていましたが、お世話になっている仕事先の方からオフィスに机を置かせていただくという親切を得て独立。その後、同じフロアの物件を格安で借りることができ、1986年に独自に事務所を構えました。しかし、気負っ
ての起業というのではなく「ゆるーく流れてきた感じです」と言います。

当時はバブルの全盛期。広告業界も活気にあふれていました。「とくに営業はしていません」というフリーの澤田さんのところにも、次々と仕事が舞い込んできます。「分野をコレと絞っていなかったので、いろんな仕事がやってきました」と、絶頂期にはコピーの仕事だけで、低い単価に関わらず驚く売上になったと言います。

自分の目線が「生活者の目線」

澤田氏

その後、結婚、出産、育児と、環境が大きく変化します。「それこそ子供を膝に乗せながら仕事をしていました」という働く主婦に。幸い、会社勤めではないので子供の面倒をみながらでも仕事ができる立場。「こういう時はフリーで良かったと思います」と、仕事と家庭を上手に両立させます。

また、子育てや一家を預かる主婦としての経験が、澤田さんの仕事に厚みを持たせます。「こういう時期には、絶対にコレが要るだろうと言うようなことが分かるようになりました」と、自身の生活がモノサシとなり生きた情報源になっていきます。
「結婚する前や子供ができる前とは、ぜんぜん違う視点で見ることができるようになりました」と、これまで以上に生活者の目線に立った仕事ができるようになり、次第に一般消費者の「衣・食・住」を得意分野とするようになりました。

カギとなる「生活者カレンダー」

はぁとにやさしい本

自身の生活と世間一般の消費活動を照らし合わせる澤田さんですが、以前、量販店でセールを組む時に使う「生活者カレンダー」というものを作った経験が今も役立っているといいます。これは、季節や年中行事に則した消費パターンを載せたカレンダーで、これをもとに生活者の消費動向を予測し、さらに、季節感や流行、必要なニーズなどを勘案して販売計画を立案するというもの。
「世の中で『今、これがトレンドだ』っていうのを、いち早く自分のものにするにも、そのカレンダーを作ったことで身に付いたと思います」と、その仕事が澤田さんのエポックになったといいます。

もちろん、じっと部屋に閉じこもっているのでは世間の情報は拾えません。「販売の現場が知りたくて」と、コピーの仕事のしながら家具量販店のIKEAへパートに出かけたほど。残念ながら「こういう経験はもっと若いうちにしておくべきでした」と、ハ
ードな掛け持ち仕事は続けることができませんでしたが、このバイタリティーには感服です。

街を出歩いてナンボです

澤田氏

「基本的に、街を見たりお店に入ったりするのが好きなんです」という澤田さん。会社勤めではないので、納期さえ守れば空いている時間にどこへ行こうと自由。むしろ、一日中部屋でカンヅメではトレンドが分からなくなることを危惧されます。「コピーライターは街を出歩いてナンボだと思います」と、好奇心を持ってアンテナを広げる必要性を説きます。

逆に、「データを見て販売計画を立てる場合もありますが、データを取っている時点ですでに遅れているんです」と指摘します。「例えば、子供に人気のある音楽やファッション、お笑いでも、実際に子供から聞く意見と新聞やネットから得る情報とはズレてる場合があります」。澤田さんは、リアルな生の情報にどれだけ触れるかが、自身の仕事のうえで最も大切なことだといいます。

将来は本の出版や企画の提案も

一生ヨガします。

衣食住のほか、今、澤田さんの気になるキーワードは「ヨガ」「癒し系、リラックス系」「スピリチュアル」「エコ」「食育」。なかでもヨガが大好きで「一生ヨガします」というのをテーマに本を書きたいのだとか。また、辛かったり寂しかったりしたときに、「温かい気持ちになれるような本」も。
さらに、販促に携わる仕事の経験から、コンビニの新業態を考えた独自のプランも温めているなど、コピーライターという枠に納まらない活動も見すえています。

身の回りの生活のあれこれに関心が強く、一般生活者の代弁者でもある澤田さん。「主婦」という、一見クリエイティブな世界から遠そうな存在を、上手に仕事にも生かしています。「流れるままやってきました」という生き方は、きっと、気取らず、構えず、自然体でやってきたという意味なのでしょう。

公開日:2009年08月18日(火)
取材・文:福 信行氏
取材班:真柴 マキ氏