メビック発のコラボレーション事例の紹介
さまざまなクリエイターと連携した地方創生への取り組み
富田林市の町おこし
メビックとの出会いは東京で開催されたマチオモイ帖。
東京でクリエイティブディレクター / コピーライターとして活動していた赤崎浩樹さんが、地元である大阪・富田林に戻ってきたのは今から7年前のこと。役所に知人がいたことが縁で、帰阪から約1年後に富田林市のシティセールアドバイザーに就任。現在は、フリーランスのクリエイターとしての仕事を継続しながら、「観光交流施設きらめきファクトリー」の館長として、施設運営およびイベントの企画・実施、また富田林市の地方創生事業団体である「おいで! とんだばやし推進連携協議会」の販促および広告戦略のアドバイザーとして活動している。
赤崎さんとメビックの出会いは、2012年に遡る。東京ミッドタウン・デザインハブで開催された「my home town わたしのマチオモイ帖」を見た赤崎さんは「面白いことをやっている団体がある」と大阪に戻った後、すぐにメビックを訪問。その時、ロビーに置かれていたチラシの中にあった小さなパンフレットに目を奪われた。「素敵なデザインだと思いましたし、なによりも文字の組み方がたまらなくうまいなと思ったんです」(赤崎さん)。そのパンフレットのデザインを手がけたのがサトウデザインの佐藤大介さんだった。赤崎さんはすぐに佐藤さんに連絡し、イベントのポスターやパンフレットをはじめとするさまざまな制作物のデザインを依頼。その中の一つである「おいで! とんだばやし推進連携協議会」が企画した「富田林コロッケ」のロゴが日本タイポグラフィ年鑑2019年度に入選した。
多くの人の目に留まり、評価された観光PRポスター。
制作物をつくる上で欠かせないのがフォトグラファーだ。赤崎さんは大阪時代の後輩だったスタジオマルの丸山伸二郎さんに連絡をとった。「久しぶりに会ったとき“俺の食い扶持の30%はお前に任せたからな”って言われたんですよ(笑)」(丸山さん)。冗談交じりの会話ではあるものの、これから大阪で新たな基盤をつくっていくという赤崎さんの決意が伺える。
赤崎さんはその後も、さらなるクリエイターとのつながりを求め、メビックのメーリングリストでデザイナーを公募。そこで出会ったのがマチック・デザインの松村裕史さんだ。
松村さんに依頼したのは観光PRポスター。「まずは富田林を知って欲しい」と赤崎さんが松村さんを案内したのは観光名所でもある寺内町。460年の歴史があり、大阪府で唯一国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている寺内町には現在も200軒以上の町家が残り、メイン通りの城之門筋は「日本の道100選」に選定されている。松村さんが提案したのは、寺内町の特徴の一つである「あてまげの辻」(※)を赤ベタで表現し、大きく「とんだばやし」と描いたデザイン。「町家を立面図で描き起こそう」「暖簾のようにしてもっと和を演出しよう」「いっそ布に刷って、それを撮影しよう」という赤崎さんのアイデアに、「折り皺や汚れを足して、リアル感を出してはどうか」と松村さんも呼応しながら、互いにクリエイティブを高めていった。「赤崎さんは、どこまでこだわるかという加減が僕と似ていてやりやすいですし、こちらを信頼して自由にやらせてもらえるので、期限や予算など制約があってもそこをクリエイティブで解決していくという過程がとても楽しいです」(松村さん)。インパクトだけではなくインプレションを考慮して作り上げたポスターは、「第66回日本観光ポスターコンクール」で、日本観光振興協会会長賞に選ばれた。
※外部からの侵入を防ぐため、交差する辻を半間ほどずらした道
「僕はデザイナーさんにお願いする時、ものすごく雑なんですよ」。一度信頼関係を築いてしまえば、案件ごとのコンセプトとトーン&マナーだけを伝えて、クリエイターに任せるのが赤崎さんのディレクションだ。「一から十まで指示をするのであれば、彼らに頼む必要がないですから」(赤崎さん)。佐藤さんや松村さんに対しても「観光ポスターを作るから、なんかアイデア出して」とざっくりとした依頼から始まることが多い。「赤崎さん自身がクリエイターなので、絵が見えているんだと思います、手書きレベルでアイデアを見せながらつくっていけるのが楽しいですね」(佐藤さん)。丸山さんも撮影の際、赤崎さんと意見を出し合いながら撮影を進めていく。「寺内町のことは全然知らなかったのですが、赤崎さんに案内してもらってすごく興味がそそられました。ロケハンの時点でワクワクしましたし、撮りながら赤崎さんからどんどんアイデアが出てくるのですごく楽しいんです。気持ちが上がれば写真も絶対によくなるので、そういう意味でも赤崎さんのディレクションはすごいと思います」(丸山さん)
富田林の魅力発信を支えるクリエイターたち。
パラボラデザインの吉永幸善さんとの出会いは、きらめきファクトリーで「河内木綿と寺内町展」を開催した2018年。赤崎さんは展示会の設計・設営を依頼できるクリエイターを求め、再びメビックを訪れた。その時に紹介されたのが、フォトグラファー、アートディレクター、コピーライター、インテリアデザイナー、建築家で構成されたユニット「天満販売促進部」の5人。さっそくディスプレイ・インテリアデザイナーの吉永さんに白羽の矢が立った。
展示会を設営するにあたって赤崎さんは「平面ではなく立体の情報を知ってほしい」との思いから、吉永さんと丸山さんを山の中にある古墳に案内した。「僕の職種でこういうことはあまりないのですごくうれしかったです。原寸大の古墳の入り口をタペストリーでつくったのですが、これは実際に見てその大きさに感銘を受けなければ出てこなかった発想です」(吉永さん)
赤崎さんのクリエイティブを支えるブレインは現在この4人がメインだが、さらにネットワークを広げていきたいと考えている。「これからも、大阪のいろんなクリエイターから心地良い刺激を受けながら仕事をしていきたいですし、また、僕が培ってきた地方創生や観光の分野のノウハウを使って活動をしていきたいですね」(赤崎さん)。今後もメビックではクリエイターたちとともに赤崎さんの活動を支援していく。
観光交流施設 きらめきファクトリー / レッドカンパニー
きらめきファクトリー館長 / クリエイティブディレクター / コピーライター
赤崎浩樹氏
http://tonkira.jp/
https://www.mebic.com/cluster/red-company.html/
公開:2020年4月13日(月)
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。