メビック発のコラボレーション事例の紹介

コラボレーションはネットとリアルの壁を越える
イラスト業界の赤裸々トークイベント開催

イベント風景

イラスト業界の風雲児!?「柿間久留乃プロダクション」

柿間久留乃プロダクション、通称“柿プロ”。制作会社かと思いきや、その正体はイラストレーターによるユニット。メンバーは、漫画系イラストレーターのかわぐちまさみさん、アニメ系イラストレーターのさらえみさん、ファッション系イラストレーターのtica ishibashiさん。全く違うジャンルのイラストを描く3人は、メビック扇町のイベントやSNSを通じて親交を深めた。実際に会って話すようになったのは2017年夏のこと。ジャンルは違えど同じ業界、おしゃべりするのは仕事の話、そして超リアルなお金の話! 「おもしろかったのが、それぞれ全く違う仕事ぶりだったことです」とticaさん。さらえみさんはウェブから仕事を受注し、かわぐちさんはクライアントへ直営業。ticaさんは知り合いなど横のつながりから仕事を受けることがほとんど。三者三様のスタイルは、それぞれの好奇心を大いに刺激した。「こんなに役立つ話をこの場だけで終わらせるなんて、もったいない!」。かわぐちさんの発案で、3人はこの本音トークを発信するためのユニットを結成。「柿間久留乃プロダクション」と命名し、イラスト業界の赤裸々かつ有益な会話を、イラストを“描きまくる”3人で発信するチームとして動き出した。

SNSの告知
かわぐちまさみさんがSNSで配信したイベント告知。定期的に配信している漫画同様、親しみやすく、おもしろおかしいタッチがフォロワーの心をつかんだ。

赤裸々トークで初回から大盛況!
“神ゲスト”を呼ぶシリーズも

初のトークイベント「イラストレーター三者三様~お仕事GET術を包み隠さずトークでセッション~」を開催したのは2018年4月。事前にかわぐちさんがSNSを使って漫画でイベント告知したことが功を奏し、フォロワーのイラストレーターを中心に100件以上拡散された。開催場所はメビック扇町で、初回にもかかわらず定員50名のところに70名が集まり満席に。「SNSだけで活動し、生で話を聞く機会がないイラストレーターが反応したのだと思います」とかわぐちさん。内容はタイトルの通り、3人がこれまで経験してきた話ばかり。しかも三者三様で答えが何通りもあることから、参加者はその中から自分に合う方法が見つけられるのでは、という意図も的中した。
並行して、次回イベント実現にも動いた。初回以降は、「〜柿プロ神まつり2018AW〜」として「柿プロが尊敬する“神クリエイター”をゲストに招いて聞きたいことを聞く」をコンセプトにクリエイターに出演を打診。同年10月、グラフィックデザイナー・トミナガハルキさん×さらえみさんによる「WEBで逢えたら」、11月はイラストレーター・吉本ユータヌキさん×かわぐちさんによる「SNS戦国時代を生き残る漫画戦術!」、12月はイラストレーター・上田バロンさん×ticaさんによる「セルフブランディングの宴」と、3カ月連続開催。どの回もSNSやサイトでの申込開始から1〜2日で定員70名が埋まり、当日も大盛り上がり。参加者は同業者の他、会社員や教師、さらに東京や他府県から駆けつける人も。柿プロの魅力にハマり、全4回参加している人もいる。

イベント風景
「柿プロ」3人がリスペクトするゲストのクリエイターに気持ちよくしゃべってもらうための準備は怠らない。

三者三様だけど三位一体
絶妙なバランスのユニット

柿プロがこれほどまでに人を引き付けるイベントを運営できるのには理由がある。一つ目は、「私たちが聞きたいことを聞くので、皆さんも聞きますか?」というスタンス。登壇したトミナガさんは「柿プロさんは、打ち合わせの段階でトークのテーマが具体的に決まっていたので心が開きやすかったです」と話す。

トミナガハルキ氏
ウェブが主な活動場所で、普段は滅多にトークイベントに参加しないトミナガハルキさんを引っ張り出した。

二つ目は、3人のチームワークが絶妙なバランスで成り立っていること。イベント告知をワクワクするような漫画にしてSNS上で発信し、集客するのがかわぐちさんの担当。講師でもあり、人前で話すことに慣れているticaさんはゲストへの出演交渉とイベント当日の司会を。交流会やイベント運営の経験豊富なさらえみさんは、全体のプロデュースや参加受付メールの管理などウェブ全般の運営を担当。「この3人じゃなければ、こんなにたくさんの集客はできない」と声を揃えるように、三者三様である一方で、三位一体なのだ。
三つ目は、満足度が高いこと。参加者の感想をみると、「本やネットで調べても出てこない現場の声が聞けた」というものや「絶対に聞けない話に斬り込んでくれるイベントは稀有」など、クリエイターの血の通った言葉に心動かされた人が多い。登壇者も満足度が高く、ユータヌキさんは柿プロのイベントに登壇したことが自分自身の転機に。ユータヌキさん自身、SNS上で漫画を発信して人気を集めたもののリアルなつながりが少なかったが、柿プロがきっかけで同業者との交流が広がり「僕的にもラッキーでした」とにっこり。

石橋氏、吉本ユータヌキ氏
吉本ユータヌキさんの回では、フォロワー数を増やすことばかりを考えるSNSに一石を投じる内容に。

バロンさんは「僕自身も伝えたいことはあるけど自分ひとりでは難しいので、こうしたステージを作ってくれるのはありがたい」と話す。「実績のある方は、『この経験を次世代に伝えたい』という方が多いので、柿プロのイベントがその場になれば」とticaさん。クリエイターの世界もSNS上でのつながりは重要度が高く、励みになる一方で、SNSでの発言で伝えたいことが文章に紡ぎ切れず、誤解を生んで“炎上”してしまうこともしばしば。実際に顔を合わせられる場だからこそ、話し手の感情や人柄が見え、参加者の心をとらえるのだろう。

上田バロン氏、石橋氏
上田バロンさんの「セルフブランディングの宴」では、「一生絵で食べていきたいか」という本質を突くメッセージが。

トークイベントを今後も続行予定

「正直、ここまでうまく回るとは思っていなかった」と3人。とくにイベント主催・運営の経験が豊富なさらえみさんは、「これだけ規模の大きいイベントを3人だけで運営するのはすごいこと」と語る。様々な要素が噛み合い、多くの人の心をつかむまでに育った。

イベント集合写真
毎回大盛況の「柿プロ」イベント。日頃SNSで活動することが多いクリエイターたちの、生の声を聞ける貴重な機会になっている。

ファンはすでに次のイベントを待ちかねているかもしれないが、3人の本業はあくまでもイラストレーター。「それぞれのペースで、無理なく良質なイベントを届けたい。おしゃべりなふたり(ticaさん・かわぐちさん)と私たちの暴走をうまくまとめてくれるさらえみさんが揃えば、ネタは尽きることがありません(笑)」とticaさん。ちょうどいま、春に向けてのイベントの準備を進めているところ。またきっと、柿プロでしか聞けない赤裸々トークを仕込んでいるにちがいない。

プロジェクトメンバー

sara character creation

イラストレーター / アニメーター
さらえみ氏

https://saraemi.com/

アンドエムデザイン

イラストレーター / 漫画家
かわぐち まさみ氏

http://sukiara.com/

イシバシイラストファッションワークス

イラストレーター / デザイナー
tica ishibashi(石橋智香)氏

http://tica.cc/

公開:2019年5月7日(火)
取材・文:中野純子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。