メビック発のコラボレーション事例の紹介

医療現場で働く安全管理者の支援
4コマ漫画作成ハウツー記事

専門誌の記事紹介ページ
photo:東郷憲志(東郷憲志写真事務所)

ことのはじまり
出会いのきっかけはメビック扇町主催の展示会

医療機関内における安全管理の責任を担う医療安全管理者のための専門誌『病院安全教育』を発行している株式会社日総研出版の池辺成人さんと、漫画家・川口雅美さんの出会いは2017年8月にメビック扇町が主催した「伝わる! 広告宣伝・ブランディング展」。異色のコラボレーションは、医療安全管理者が院内で使用する啓発ポスターの制作に苦労しているという声を聞いた池辺さんが、雑誌としてなにかできないかと考え、クリエイターを探し始めたことが発端だった。

展示ブース
メビック扇町主催で開催された「伝わる! 広告宣伝・ブランディング展」には、さまざまなクリエイターが出展した。

潜在していたニーズ
医療現場の意外なクリエイティブ需要

医療安全管理者というとあまり聞きなれない言葉であるが、診療報酬制度における医療安全対策加算に関する施設基準で、配置が要件の一つとなっているポジションである。つまり、私たちが普段利用している医療施設の多くには必ず医療安全管理者が常駐しているということだ。医療安全管理者の業務は、教育・研修の実施、事故対応マニュアルの整備、安全文化の醸成など多岐にわたり、院内の安全管理を担う責任の重い立場でありながら、通常業務だけでも多忙を極める看護師が担当しているケースがほとんどである。
池辺さんは、医療安全管理者に任命された看護師が、院内の啓発ポスターや講習会のプレゼン資料の作成など、専門外の業務に時間を割かなければならず、困っているという現場の声に応えたいと常々考えていた。管理者の中には絵が得意な人もいれば、苦手な人もいる。苦手な人は文章作成ソフトを使ったテキストだけの紙を貼ることもあるが、発信力が弱く、啓発ポスターとしては不十分であった。そこで池辺さんは「雑誌として何かできることはないか」と、数年前、ポスターの作り方におけるノウハウ記事を企画。中島事務所のアートディレクターである中島公次さんに記事の執筆を依頼した。
「中島さんの記事がとても評判がよかったので、また同じような企画をやりたいと思っていたときに、中島さんから展示会のことを教えてもらったんです」

雑誌内の掲載ページ

予想外の気づき
4コマPR漫画の高い訴求力に驚き

一方、作家としていくつもの連載を持ちながら、クリエイターとして広告の仕事も多く手がけている川口さんは、ちょうど4コマPR漫画を事業として本格的に始めようとしていた。
「広告漫画は不動産や医療、保険など専門性の高い業界にとても需要があるのですが、クライアントさんから、二次使用料のことも含め、料金がわかりづらいっていう話を聞いたんです。それで私は二次使用料なしの一律料金でやってみようと思いました」

もともと4コマPR漫画事業は2018年から動き出す予定であったが、出展の打診を受けて、大急ぎで準備をした。しかし、展示会に訪れた池辺さんの頭にはじめから「漫画」という選択肢があったわけではない。
「4コマ漫画というと話の流れがあって、最後にオチが来るということくらいしか知識がなくて、広告手法の一つに取り入れられているということはまったく知りませんでした」

おそらく4コマ漫画といえば池辺さんのようなイメージを持っている人も多いのではないだろうか。しかし、起承転結で簡潔にメッセージを伝えられる4コマ漫画は非常に訴求力のある販促ツールであり、池辺さんも、川口さんのブースでそのことを実感したという。展示会の数日後、川口さんへの依頼が決定したが、池辺さんにはある不安があった。

イラスト作成作業風景
コミカルなイラストが得意な川口さん。雑誌カットや漫画、キャラクターデザイン、似顔絵など多彩な分野で活躍している。

つながりから得たもの
実践性を追求した漫画制作のハウツー記事

「漫画の依頼ではなく漫画の描き方を記事にしてくださいっていうのは手品師にタネを教えてくださいといっているようなもの。そんな厚かましいこと頼んでいいんやろうかって思いました」

ところが、そんな池辺さんの思いとは裏腹に川口さんは快諾。それには理由があった。
「そもそもいただいたお仕事はなんでもやらせていただきます!というスタンスですが、それに加えて、ちょうど自分が今まで積み上げてきたものを人に伝えていきたいなあと思っていた時だったんです。この事業も最終的には人を育てて、実績のない人たちに4コマ漫画で仕事ができるようになってもらいたいなって。だから自分の中のノウハウをまとめるいい機会だったんです」

実際、記事を構成していくことで、無意識に描いていた部分も含め制作過程がロジカルに整理されていった。しかし、今回の記事を読むのは「漫画を描きたい人」ではなくあくまで必要に迫られて描かざるを得ない医療業界の人たち。川口さんはそういったこともしっかりと踏まえ、余計なことは書かずに簡潔にわかりやすく4コマ漫画の基本を語り、実際に誰でも気軽に作れるように導いていった。さらに「絵すら描くのも嫌な人もいるかもしれない」とダウンロードが可能なフリー素材を準備。また、医療系に強いフリーイラスト素材のウェブサイトも紹介するという念の入れようだ。
6ページの記事の構成はほぼすべて川口さんが考えたというが、独りよがりにならず、どこまでも読者に寄り添い、「このくらいならできそうだな」「やってみたいな」と思わせる企画意図に見事にマッチした記事が完成した。「いろいろなアイデアを出していただき、想定以上のものを作ってくださったので、本当にスムーズに進めることができました」。池辺さんもそう振り返る。
目に見えないものを形にするのがクリエイティブの本質だ。だからこそ、的確な手法を選べば届けたい相手へメッセージを伝えるための強い力になる。デザインやクリエイティブとは関係がないと考えている業界でも、実はクリエイターの力が発揮できるフィールドがあることを示した今回のコラボレーション。クリエイターたちの思いもよらない活躍の場が広がっていることを期待させてくれるものとなった。

プロジェクトメンバー

株式会社日総研出版

大阪デスク長
池辺成人氏

http://www.nissoken.com/

andMdesign

漫画家 / イラストレーター
川口雅美氏

公開:2018年6月5日(火)
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。