メビック発のコラボレーション事例の紹介

「余白」が物語る、多様で寛容な空間
地域の交流拠点のネーミング・ロゴ制作

パートナー選びの決め手とは

緑豊かな大阪城公園に隣接し、JR、大阪メトロが交差する大阪城東部地区。自然と都市が共生するこのエリアは、近年大阪のキタ、ミナミ、臨海部(ニシ)に続く主要都市拠点「ヒガシ」として再開発が進んでいる。2025年9月には公立大学法人大阪(以下、大阪公立大学)のキャンパスが開設され、「地域に開かれた大学」として周辺エリアの発展を牽引している。また2028年春には大阪メトロ中央線の新駅開設が控えている。

こうした機運が高まる中、2025年10月にオープンしたのが交流拠点「ほとりで」だ。「暮らしと学びの実験フィールド」を掲げ、都市再生や賃貸住宅の運営を担う独立行政法人都市再生機構(以下、UR都市機構)が大阪公立大学と共同で運営。地域住民の「やってみたい!」という新たな一歩をサポートし、周囲との関係性の中でシビックプライドを醸成しようと活動している。

写真右は「ほとりで」のアクティブゾーン。リニューアル前のUR森之宮ビル(UR都市機構旧西日本支社・写真左)に比べると、開放的な空間へ大きく様変わりしている。

メビックに企画の相談が寄せられたのは2024年2月のこと。その経緯について、UR都市機構の柏井一成さんは次のように語る。

「関係機関とともにヒガシのまちづくりを進める中、当社でも西日本支社の移転に伴い、UR森之宮ビル1階をまちづくりに活用しようという企画が生まれました。そこでクリエイティブなアイデアや大阪らしい感性を求めメビックを訪れました」

これを受け、同年4月にクリエイティブクラスターミーティング(クリエイターとの意見交換会)が開かれ、約30名のクリエイターが開設予定地を訪問。「大阪城を走るランナー向けにサウナを作りましょう!」など具体的なアイデアが飛び出し、白熱した議論が展開された。

その中、マウントグラフィックスの溝手真一郎さんは「僕は、慌てて答えを出す必要はないと思いました。柏井さんにも『いろんな可能性を持った空間なので、じっくり話し合いましょう』と伝えました」とあくまで共創する意志を示した。

この姿勢に、柏井さんは信頼を寄せたそう。「溝手さんなら我々の思いに寄り添い、施設の魅力を一緒に具現化してくれると感じました」と、企画の軸となるネーミングとロゴの制作を依頼することとなった。

2024年4月、リニューアル前の空間でクリエイティブクラスターミーティングを開催。クリエイターたちから斬新な意見が次々と寄せられた。

曖昧模糊なイメージを簡潔明瞭な言葉に

制作にあたって、まず溝手さんとパートナーの高木知佳さんは、親交のある coban.labの上田寛人さん、aroundの黒田淳一さん、IMAGINATIONの坂口拓さんの3名とともに「施設の具体的なイメージを言語化し共有しましょう」とワークショップを提案。UR都市機構の柏井さん、壽賀野乃花さんら社員約10名と、意見交換を行った。

ワークショップの第1回は、「つながり」「行動」などキーワードが書かれたカードを使い、施設の特徴やめざす姿について、個々のイメージを付箋に書き出した。また都市再生エリアであり、かつURが運営する賃貸住宅がある「森之宮」に開設する意義についても深く掘り下げた。

続く第2回は、過去のまちづくりの事例から魅力を感じるものをピックアップして発表。「成果と課題」の両面からアプローチすることで、まちづくりを多角的な視点で捉える時間となった。

最後となる第3回は、これまで出たキーワードをジャンルごとに分類し、それを元に新施設の役割について議論を深めた。

さらに、その後も両者は対話を重ねたそう。妥協なく向き合うことで、企画の解像度が上がり、それに比例するように信頼関係も育まれていった。

ワークショップでは、UR都市機構の社員とクリエイターが、それぞれの視点で新施設の活用イメージを語り合い理解を深めた。

土地が紡いだ歴史を紐解き未来を探る

こうしてワークショップで共有したイメージに、溝手さんと高木さんのアイデアを重ね、UR社内でも検討を重ねた結果、新施設は「暮らしと学びの実験フィールド」という言葉で表されることとなった。

大阪城東部地区「ヒガシ」は、キタやミナミと違い「暮らし」のエリア。オフィスワーカーではなく、生活者の日常が紡がれる場所だ。近年は大阪公立大学が「学び」という新たな息吹を吹き込み、多様な要素が共存し始めている。この環境同様、新施設も「暮らしと学びに新たな変化を生む場所になってほしい」との思いが込められている。

その後、これを元にいよいよネーミング制作がスタートした。

溝手さんと高木さんは、UR都市機構だけでなく施設運営を担当する企業にもヒアリングを実施。また歴史的背景にも目を向け、この土地が紡いできたストーリーを丁寧に紐解いた。

もともと当エリアは上町台地の東端で、河内湾と面していたそう。陸と海の「ほとり(水際)」として多様な動植物が共生し、豊かな生態系を育んでいた。現在も「歴史」を物語る難波宮跡と「未来」を象徴する「空飛ぶクルマ」の離着陸場予定地が近接するなど、相反する要素が共生し人々の暮らしを彩っている。

また、「ほとる」という動詞は「熱を帯びる」という意味があり、新施設で芽吹いた挑戦心が人の縁を介して熱を帯びていく姿とリンクする。「ほとり」ではなく、あえて「で」という格助詞をつけることで、この場所で行う意義を強調した。

「このエリアは、大阪公立大学や医療施設が集まり知的なイメージです。その雰囲気を残しつつ、利用者が親しみを感じる言葉にするのに苦心しました」と高木さん。それに対し壽賀さんも「読みやすく親しみやすいという理由で、この名前に決めました」としっかり思いを共有している様子。クリエイターとクライアントが同じ視点を持ち、理想の形に辿りついたというわけだ。

ロゴは「ほとりで」の文字で四角形の上部に抜け感を作り、森之宮のまちとつながっている様子を表現している。

「余白」が表す施設全体の寛容さ

今回、UR都市機構が一貫して求めたのが、この「親しみやすさ」だ。新施設はあえてターゲットを絞らず、誰もが気軽に立ち寄れる場所をめざしている。そのため、空間設計も中央大通りに面してガラス張りの開放的な構造に仕上げており、ネーミング同様ロゴ制作も、世代を問わず愛されるものが求められる。

ただ、クリエイティブな仕事は、ターゲットを絞りその趣向を意識して制作することが多い。今回のように、幅広い世代に向けたデザイン制作は、決して簡単なことではない。どう進めたのだろうか。

この疑問に対し「できるだけフラットな目線で施設を捉えるよう意識しました」と高木さん。溝手さんと共に、さまざまな視点で施設の価値を見つめ直し、何度も再考を重ねながらアイデアをブラッシュアップしていった。

こうして生まれたのが、余白を強調したデザインだ。間仕切りがなく臨機応変に姿を変える空間設計にヒントを得て、誰でも受け入れ、何にでも対応できる寛容さを余白で表現した。また、中央部に余白を作ることで「ほとりでで○○してみた!」と利用者が活用することもできる。

ガラス張りの窓からイベント開催中のわきあいあいとした様子がよく見え、道を歩く人たちの関心を引いている。(写真提供:カリグラシマガジン うちまちだんち)

実際オープンから3カ月で、すでに利用者に定着している様子。

「子育て中のママさん達でキッズスペースを作る取組みが生まれ、『ほとりで』にちなんで『ことりで』という名前に決まりました。ロゴの余白部分に絵をかいて『ことりで』のマークを作るアイデアも出ており積極的に活用してくれています。最初のワークショップから積み重ねてきたものが、うまく利用者にもつながっています」と壽賀さんは喜びを語る。

コラボを振り返り柏井さんと壽賀さんは「一緒に制作した感覚がある」と口を揃える。

「それは納品物を評価するという立場ではなく、私たち一人ひとりが自分ごととして考えてきたから。ワークショップを通して、その過程を作ってくださったおかげです」

同じく溝手さん、高木さんも「ワークショップから始まり、ネーミング、ロゴと、一つひとつ全員が納得して進めていった実感があります」と一体感を語る。

課題解決力を持つ“良いクリエイティブ”の根底には、クライアントとクリエイターの確かな信頼関係がある。それは、ビジョンを共有し共に熱量を注いでこそ生まれるもの。「どう作るか」が、結果的に「何を作るか」の精度を上げていく。「共創」という言葉の意味を改めて実感させてくれる一例である。

左より溝手さん、高木さん、壽賀さん、柏井さん

独立行政法人都市再生機構 西日本支社 都市再生業務部事業推進課

主幹
柏井一成氏

壽賀野乃花氏

https://www.instagram.com/hotoride.morinomiya/

マウントグラフィックス

グラフィックデザイナー
溝手真一郎氏

グラフィックデザイナー
高木知佳氏

https://www.instagram.com/mt.graphics_/

公開:2026年2月25日(水)
取材・文:竹田亮子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。