メビック発のコラボレーション事例の紹介
クリエイターが集結。バイオプラスチックの「問い」を社会へ
万博展示のクリエイティブ

万博出展、どうすれば……。成功に導くディレクターを探して
石油由来のプラスチックの代替として注目されるバイオプラスチック。環境意識の向上に伴い需要は高まりつつあるように見える。しかし、西日本プラスチック製品工業協会(以下、西プラ)の平田園子さんは、「これまで何度かムーブメントが起きましたが、価格の高さから定着しませんでした。今、流れは来ているけど本格的な普及は難しい」と、厳しい現実を語る。
そんな折、2025大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオン内にある「リボーンチャレンジ」エリアへの出展が持ちかけられた。これは、大阪の中小・スタートアップ企業の技術や魅力を週替わりで発信する、1週間限定の出展エリアだ。平田さんは、バイオプラスチックを広める絶好の機会と見て出展を申請し、2022年10月中旬、万博出展が決まった。
翌2023年1月、協会の会員企業に向けて参加を募集。26社が決定し、うち8社は共同でバイオプラスチック製パイプオルガンを制作し、残る18社は各社が独自開発するバイオプラスチック製品を展示することになった。ここで課題となったのが後者だ。各社がバラバラに開発するうえ、製品や展示イメージについても意見が噴出。「どう一つにまとめたらいいのか……。それに、万博のような展示は初めてだし、このままでは無理だなと」。そこで、メビックへ相談。同年4月17日の「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に登壇して、展示ディレクターを探していることを訴えた。

そのプレゼンを聞いていたのが、空間デザインを専門とするパラボラデザインの吉永幸善さんだ。「以前から『プラスチック=悪』という認識に疑問があったんです。使う側の旗振りで状況が良くなるのでは? 万博なら、より広く知ってもらえると思いました」。
もう一人、現地にいたのが、PRODUCT158のプロダクトデザイナー・和田圭亮さん。「西プラで18社のプロダクトをまとめるのは、さすがに難しいだろうなと。私一人では手が回らないけど、メビックを通じて知り合ったプロダクトデザイナーと協力すればサポートできるんじゃないかと」
空間・プロダクト・広報など、クリエイターがワンチームに
クリエイター募集プレゼンの後、吉永さんと和田さんは別々にプランを提案。吉永さんは、「来場者に良い面も悪い面も見せて、バイオプラスチックについて考えてもらいたい。『知る・触れる・感じる』の3つを柱にして、『考える』につなげるストーリーを考えました」と言い、単純な素材紹介におさまらないプランを提案。和田さんは、「プロダクトデザイナー5名でチームを組み、私がまとめ役に。18社へのヒアリングから始め、プロダクトのトーンを合わせてアウトプットしていく体制を伝えました」と、プロダクト面での全面バックアップを申し出た。

数社から提案が持ち掛けられたが、平田さんは吉永さんにディレクターを依頼。「話題性やカッコよさに重点を置いた提案もあった中、展示物に愛を持ってくれそうな吉永さんに決めました。そして、プロダクトは和田さんにお願いしたいなと」。吉永さんが展示全体をプランニングし、統括する役割に。プロダクトのサポートを、和田さん率いるプロダクトデザイナーチームが担当することに決定した。
また、集客を左右する広報には、吉永さんがメビックを通じて知り合ったPRリンクへ依頼。同社代表の神崎英徳さんは、「西プラは、メディアに取り上げてもらうための対外広報の経験がない。そこは、私たちの得意分野です」と快諾。さらに、バイオプラスチックと社会課題をつなげて発信する必要性から、担当スタッフとして工業新聞記者の経験を持つ福井弓子さんをアサインした。「環境対応型の素材は、技術だけではなく、『価格は高くても環境に良いから買う』という市場認識も必要。万博は一般の人に伝えられるチャンス! やりがいを感じました」と、福井さんは振り返る。
その他にも、グラフィック、映像、写真など、吉永さんがメビックを通じて知り合った多数のクリエイターが参加。クリエイターの力を結集した万博プロジェクトが動き出す。
展示会と万博の違い。伝えるためのアイデア
この時、2023年8月。万博まで2年近くあり、パビリオンの仕様が不確定なため詳細な設計はまだできない。そこで、吉永さんが取り掛かったのが、参加企業の「目線合わせ」だった。「展示会は技術や製品を見てもらう場で、万博は文化・技術的な進歩を紹介する場。しかも、来場者は一般人。全く別物なんです」。BtoBの展示会しか経験のない参加企業にとって万博は未知。企業を訪問してコミュニケーションを重ねながら、認識をすり合わせ、考えを解きほぐすなど、足場を固める作業に時間をかけたという。
その間に、徐々に展示プランが練り上げられていく。吉永さんが考えたキーワードが「バイオプラスチックを、問いからはじめる」だ。問いかけを起点に、見て、感じて、考えてもらう。当初のプランに「問い」を加えることで、さらにコンセプトを磨いた。
プロダクトの動きについて和田さんは、「エコを推すだけではプロダクトとして弱い。高級感などの付加価値を加えることで魅力を高めました。その他にも、コンセプトや製造プロセスを伝えたい場合、モノより言葉や写真の方が伝わるケースもある。そんな企業はグラフィックチームに動いてもらいました」と語る。プロダクトとしてのクオリティと届けたいメッセージのバランスを見極めながら、最適な着地点を探っていった。
広報の福井さんは、会期に合わせてリリース配信を加速。「展示が8月に決まったため、7月末にプロダクトを紹介するストーリー記事を集中投下。技術と開発エピソードをバランスよく盛り込み、一般の人にも伝わるよう分かりやすく、かつ読み応えのある内容に仕上げました」。さらに、プレスリリースの郵送、PR TIMES(ニュースリリース配信サイト)での発信、ストーリー記事の3つを同時展開し、全方位でメディアへアプローチした。

来場者数23万人!プロジェクトが残した「何か」
2025年8月19日。いよいよ迎えた万博初日。「Nature Positive from bio plastics.(ネイチャーポジティブ—バイオプラスチックから始まる自然と共生する社会—)」と題された展示がスタートした。製品や素材に触れる体験からはじまり、最後にMR(複合現実)によるバーチャル体験へとつながる展示構成に。18社のプロダクトは会場全体に配置され、パネルやタペストリーも用いながら丁寧に紹介された。完成した会場を見た平田さんは、「優しくて、おもしろくて、分かりやすい展示。本当によくやってくれたなって。実は初日を迎えるのが怖かったんですが、ゴールを迎えたような気持ちでした」と、晴れやかに笑う。

気になる来場者数は、7日間で23万人! 広報の効果もあって、多くのメディアに取り上げられたほか、初日に入ったTV取材も追い風となった。接客していた参加企業のスタッフからは、「一般の人から、こんなにバイオプラスチックのことを聞いてもらえるとは思わなかったし、自分が上手く説明できるとも思っていなかった」と言う声も。BtoBの展示会経験しかなかった企業にとって貴重な経験となった。

大成功に終わった万博プロジェクト。振り返ってどんなことを思うのだろうか? 福井さんは、「会場を訪れた時、子連れの家族がいたので、印象に残った製品は何か?と聞いてみたんです。お母さんは注射器、父親はビールコップ、子どもは『バイオプラスチックの言葉を覚えた』と答えてくれました。それぞれに何かを持ち帰ってもらえたし、社会に対して何か残せたのでは」と、確かな手応えを感じたという。
神崎さんは、「ストーリー記事の反響がよかったですし、TV取材も入りましたから、広報の役割は果たせたなと。一方、一過性の話題で終わらせず、後にどう繋げていくか課題も見えました」と、これからを見据える。
和田さんは、「消費者に届くまでには、いろんな人が関わっているんだなと。プロダクトデザインが影響を及ぼす範囲が一部だと感じたし、もっと広い視野を持つ必要性も痛感しました」と、新たな学びを得ることができた。
吉永さんは、「僕は人に恵まれている。私の仕事は一人ではできないし、いろんな人のバックアップがあったからこそ完成できました。そして、接客していた参加企業の人たちの満足気で、充実した顔が何より大きな収穫かも知れません」と、西プラの今後につがる経験を残すことができたと語る。
最後に平田さんは、「私たちはプラスチックのプロだけど、広報も、デザインも、空間も飾れない。最初に自分たちが、それらのプロじゃないことに気づいて本当によかった。今後、相談する仲間がたくさんできて心強いです」と締めくくる。クリエイターへのリスペクトと共に、未来への広がりも感じているようだ。
それぞれに何か感じ、得ることができた万博への挑戦。この種がこれからどう育つのだろうか。
きっとどんな課題にも、万博が示す未来のように、輝くアイデアを咲かせてくれるに違いない。

一般社団法人西日本プラスチック製品工業協会
専務理事
平田園子氏
株式会社パラボラデザイン
吉永幸善氏
株式会社PRODUCT158
和田圭亮氏
株式会社PRリンク
神崎英徳氏
福井弓子氏
公開:2025年12月15日(月)
取材・文:眞田健吾氏(Studio amu)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。
