メビック発のコラボレーション事例の紹介
印刷とクリエイターの可能性を広げる「チーム貼れる屋」の挑戦
シール印刷会社とクリエイターによるコラボ商品開発

7社9名の大所帯チームで
紙モノ好きが集うイベントに挑戦
2024年2月17・18日に開催され、過去最高の約2300人という動員数を記録した「ペーパーサミット2024」。今回のコラボ事例は、シール印刷会社とクリエイターの9名で一大イベントに挑んだ「チーム貼れる屋」の物語だ。
ペーパーサミットとは、“クリエイターと印刷会社の共作モノづくりフェス”をテーマに、印刷会社とクリエイターとがコラボ商品を開発し、販売・発表するイベント。紙モノ好きにはたまらないイベントとして回を追うごとに人気が高まり、第3回を迎えた今回も大盛況のうちに終幕。メビックもクリエイターとのマッチング役として協力している。
「自社の宣伝はもちろんですが、貼るだけではないシールの可能性を広げたいと思って参加することにしました」と語るのは、シール印刷業を営む谷口シール印刷株式会社の代表取締役・谷口真司さん。印刷業は受注したものを生産するのが基本。いわば受け身の仕事でもあり、そこが弱みでもある。2023年に同社の代表に就任した谷口さんは、シール印刷の未来を探るべく、クリエイターとのモノづくりコラボに挑戦することにしたという。
「クリエイターの方々としっかりお話するのは初めて。どうコミュニケーションを取ればよいか分からなかったので、最初はやっぱり緊張しました」と振り返る谷口さん。クリエイターとの繋がりを求めてメビックへ足を運ぶなか、「チーム貼れる屋」のメンバーとなるクリエイターと次々に出会っていく。
まずは、5月15日に「クリエイティブクラスターミーティング」として開催された自社の工場見学イベントにて、株式会社デザイズミの浦泉裕一さん、May’s Factoryの宇田太一さんと。ペーパーサミットの出展企業として説明会へ登壇するなか、5月29日の「コラボ説明会+交流会」で、monogatari株式会社の廣瀬絵美子さんと。6月26日の「コラボプレゼン+交流会」で、アッシュデザインスタジオの平山健介さん、オーエンカンパニーの生駒達也さんと。7月12日の「公式懇親会」で、SENGOKU DESIGNの福井束彩さんと(後日、同社の仙石吉德さん・大山百恵さんとも)。こうして、さまざまなタイミングで、さまざまなクリエイターとの繋がりが生まれていった。
ここから商品開発に移るが、谷口さんと各クリエイターが1対1の関係で進めるのかと思いきや、7社9名が「チーム貼れる屋」として活動することに。その理由について「イベント当日にたくさんの商品が並んでいる方が、会場でより良く見えるかなと思って」と笑うが、ここからチームリーダーとして求心力を発揮。メンバーが集まる合同ミーティングを開催するほか、食事(飲み会)の席も多く設けるなど、顔の見えるコミュニケーションの場を設けることでチームの一体感を生み出していった。
日々のやり取りはグループLINE。「油断していると、追いつけないほど話が進んでることがしばしば」と語るほどコミュニケーションは活発に。時には他のアイデアに刺激をもらい、時には進捗の差に焦りながらも、ワンチームでの商品開発が進んでいく。

シールに対するそれぞれのアプローチ
試行錯誤の末に生まれたコラボ商品たち
完成したコラボ商品は、クリエイターの人数が多いだけに種類が多く、アイデアも多彩。どのような商品が、どのような考えで生まれたのか? 各クリエイターの声と共に、谷口さんの技術解説も交えながら紹介しよう。
「お守りシール」と「手作り開運お守りシール」
May’s Factory:宇田さん
「未使用だった仏教系のイラストを活用して、お守りタイプのシールを作りました。最初は、剥がすとご神体が現れる『お守りシール』だけだったんですが、試作中に谷口さんから提案された『重ねて貼る』アイデアをもとに生まれたのが『手作り開運お守りシール』。開運成就などの願いを選んでイラストシールの上に貼り、その上から封をするように開運守シールを貼り合わせることで、自分だけのお守りが作れます」

「傘デコシールアート」
オーエンカンパニー:生駒さん
「シールで傘をデコるアイデアは、実は私が考えたものじゃないんです(笑)。工場見学の時に、伸縮性・防水性・透明という特徴を持つ『立体シール』の商品化を参加者みんなで考えた際に出たもので、その制作を担当させてもらいました。ちなみに、私の本業はコピーライター。最近デザインの勉強を始めたこともあり、シール10種のデザインに挑戦。丸や四角、花びらなどのシンプルな形状にして、利用者のセンスが活きるようにしました」

「おさんぽにっき」
SENGOKU DESIGN:仙石さん・福井さん・大山さん
「大学時代から温めていた企画。両親が共働きで、幼い頃にお散歩に行くことが少なかった自身の経験から生まれました。散歩しながら動物や『つくモン(つくも神)』を見つけて、そのシールを日記に貼って遊びます。目的を持ってお散歩に出かけることで、お散歩の時間がより楽しくなるツールです」(福井さん)
「シールのアイデアは谷口さんとお話しした時に生まれました。150種のシールのイラストを全てオリジナルで描き起こしたので、気が遠くなるような作業でした(笑)。チームのみなさんに企画書を見てもらったり、お子さんにテストしてもらったり、時には真剣なアドバイスもいただきながら制作しました」(大山さん)
「学生時代からの想いを叶える機会。企画から売り場まで経験する貴重な体験にもなりますから、会社のプロジェクトとしてやってもらいました。手が足りない部分を私がフォローする体制で動きましたが、結局かなり手伝うことになって少し後悔しました(笑)」(仙石さん)

「プロダクトステッカーミュージアム」
アッシュ デザイン スタジオ:平山さん
「参加するきっかけになったプレゼンイベントで、人一倍熱心にシール愛を語られていた谷口さんに感動しました。やりとりを重ねながら作ったコラボ商品は、私が描いたデザインスケッチをシールにしたもの。耐久性が高いUV印刷の特長を活かして、身の回りのさまざまな物に貼って使うことができます。制作したのは計21種。シールのサイズ感や印刷の特性を踏まえて、配色にもこだわりました」

「MOJIMAP」
株式会社デザイズミ:浦泉さん
「2025大阪・関西万博に向けて、ご当地土産を作れないかと企画。都道府県を構成する市区町村を“名称の文字”だけで表現した地図イラストシールです。市区町村の形や大きさの比率、位置関係は本物の地図と同じ。今回は関西2府4県と、大阪市、神戸市、京都市のシールを各数色ずつ作りました。書き込みが細かいので印刷で再現できるか心配でしたが、細部まできれいに再現してくれたうえ、質感良く仕上げていただきました」

「キラキラクリアなポストカード」
monogatari株式会社:廣瀬さん
「ホログラム箔を散らしてラメ印刷のように見せたシールと、単色&グラデーションシールの2タイプを制作。以前から使用していたラメを印刷で再現することが難しかったのですが、谷口さんから『箔押しであれば実現できるかもしれない』とご提案いただき挑戦しました。単色&グラデーションシールも、想定していた発色に近づくようにCMYKの割合を細かく調整するなど、試作を重ねました」

「楽しかった」が共通の想い
顔の見える関係が未来を拓く
いよいよ迎えたイベント当日、オープン直後から多くの来場者であふれ、会場は熱気の渦! 入場口からすぐの場所に設置された「チーム貼れる屋」のブースにも多くの人が訪れ、中には完売する商品も。特に浦泉さんの「MOJIMAP」は、人気投票で総合1位を獲得するなど評判も上々だったという。
チーム一丸となって挑んだペーパーサミット。振り返ってみての感想は?「楽しかったの一言! 最終日の夕方なんか、終わってしまうのが寂しかったぐらい(笑)。自社の宣伝はもちろん、技術に挑戦する機会にもなりましたし、シールの可能性を広げられた実感があります」と、谷口さんは充実した表情を見せる。
続いてはクリエイター側、May’s Factoryの宇田さん。「私もとにかく楽しかった! 商品開発の経験ができたし、開運グッズのニーズも知ることができました。今後は商品パターンを増やしたり、実際に寺社仏閣で扱ってもらえるようアプローチしていきたいです」
オーエンカンパニーの生駒さん。「自分がデザインした商品を買ってくれる人がいる。それが素直に嬉しかったですね。コピーライターという職業は、誰かが作って売るものを、アドバイスするような仕事。自分で作って自分で売る貴重な経験ができました」
SENGOKU DESIGNの三人。「みなさんのご協力のおかげで学生時代からの想いが叶いました! イベント当日は始まってすぐに購入してくれる人がいたり、お子さんが『欲しい』ってお母さんにせがんでいたり、喜んでくれる人がいて嬉しかったです」(福井さん)。「やり遂げたことが自信につながりましたし、いろんな人が意見をくれたり、成長の機会をいただけて感謝しています」(大山さん)。「売上としては少ないけど、僕も含めていろんな人の心が儲かる貴重な体験になったと思います」(仙石さん)

アッシュ デザイン スタジオの平山さん。「谷口さんの求心力で、次々にメンバーが増えていったのが印象的でした。接点が無かった方々と交流できたことで、知らず知らず固まっていたモノの見方がほぐせたかも知れません」
デザイズミの浦泉さん。「同じシールというアウトプットでも、自分では思いつかないアイデアが生まれて勉強になったし、楽しませてもらいました。全国のMOJIMAPは現在製作中ですが、多くの人に笑顔や発見を届けられるように頑張ります」
monogatariの廣瀬さん。「よく飲み会が行なわれることが印象に残っています(笑)。ぺーパーサミットでは他社ともコラボしていましたが、そんなことは一切気にせず、全面協力していただいた谷口さんの懐の深さに感謝」
九者九様の想いと商品を胸にイベントを迎え、感じたことも九人十色。しかし、全員が共通して口にしていたのは「楽しかった」の一言だった。それだけ、顔の見える距離感がチームにあり、互いに刺激し合える関係を心地よく感じていたからだろう。
「大盛況の会場を見た社員も喜んでました。次回は自社でアイデアを練り、クリエイターの力を借りて形にしたい。自社商品があると社員のモチベーションも高まりますから。新たなクリエイターを加えて、『チーム貼れる屋2』にするのもいいな!」と、谷口さんは早くも未来のチームを構想している。
ルーキーの追加で新しい風が吹くか? その挑戦はシールの可能性をさらに切り拓くか!?「チーム貼れる屋」の行く末に幸あれ、ハレルヤ!

公開:2024年3月29日(金)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。