メビック発のコラボレーション事例の紹介

“ユニファイド”の理念を広めるために福祉の現場にもデザインを
NPO法人のロゴマークなどをデザイン

集合写真
福井宏昌氏(左)と佐原和行氏(右)

いろいろな子どもたちがごちゃまぜで育ちあう場

“ユニファイドスポーツ”という言葉をご存じだろうか。障がいのある人とない人がチームメイトとなって共にスポーツをする世界的なとりくみのことだ。NPO法人MUKU代表・福井宏昌さんは、これまで大阪市内で児童発達支援・放課後等デイサービスを運営し、主に発達障がいの診断を受けた子どもたちの運動療育に携わってきた。中でも、自身の競技経験からサッカーに特化した療育にとりくみ、地域の子どもたちと療育を受ける子どもたちが、障がいの有無を超えて共に楽しむユニファイドサッカー大会も運営する。

今回のコラボレーションは、福井さんが立ち上げたユニファイドサッカー協会(2022年5月商標登録)のロゴマーク制作を依頼するために、2022年2月の「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に登壇したことが始まりだった。「いいデザインを求めてという以上に、この事業に共感してくださる方と出会いたいという気持ちが強かったんです。だからプレゼンでは、主に活動をする中での自分の想いを語りました」と福井さん。柔道整復師・鍼灸師から転身し、福祉の世界に飛び込んだ福井さんは、その時まで障がいのある子どもたちと接する機会がほとんどなかったと語る。

「事業を始める前は、福祉について初心者の自分に何ができるんだろうと心配ばかりしていたんです。でも実際に子どもたちと出会ってみると、みんな体を動かすことを本当にピュアに楽しんでくれました。子どもたちの中には、たとえば勝ち負けにとても執着する、気持ちの切りかえがむずかしいなど、こまやかな配慮が必要なことがあります。でも先の見通しを伝えてあげる、聞き方や伝え方に工夫をするなど、周りの人たちの理解がきちんとあれば、その子たちにとって、その場所は過ごしやすい環境となることが分かったのです」

いろいろな子どもたちがごちゃまぜで一緒に過ごしながら互いに育ちあう場。それは障がいという垣根を越えて一人ひとりが大切にされるということ、と語る福井さん。「人の多様なあり方を受け入れない社会の側に“障がい”があるのではないか。子どもたちと接するうちにそう考えるようになりました。プレゼンではそんな自分の考えを含めて話しました」

「MUKU」ロゴ
NPO法人MUKUのロゴ。二つの橋でつながっている島の山々のつらなり、生命の躍動、集う人々の鼓動などを表現している。

そもそも“ふつう”ってなんだろう?
その言葉に共感し、意気投合

そのプレゼンに参加したのが、バイカイデザイン株式会社代表のクリエイティブディレクター・佐原和行さんだ。これまでメビックのイベントに参加することはあったものの、クリエイター募集プレゼンに参加したのは初めてだったという。「私の息子が発達障がいの診断を受けていて、当事者の親として一度話を聞いてみたいと思いました。今後この子たちが生きていく社会はどうなっていくんだろう、クリエイティブの力で子どもたちや福祉の現場の力になれないだろうかという気持ちがずっとあったんです」

プレゼンの中では、福井さんが語る言葉に終始うなずいていたという佐原さん。その中でも特に心に響いた言葉があった。「一般的に発達障がいについて語るとき、成長の中で見られる子どもたちの姿を、“特性”や“個性”という言葉で表現されることが多くあります。でも私自身はそこにずっと違和感があって。福井さんはその言葉を使わずに“ちがい”という言葉で表現されていました。それが福井さんの子どものとらえかたなんだと、すごく共感したんです。プレゼン後、その気持ちを伝えたくて、福井さんと話をしました」

福井さんはその言葉にうなずきながら、「“特性”や“個性”という言葉にはフィルタがかかっている」と語る。「同じ顔、同じ性格の人が一人としていないように、人はそれぞれちがってあたりまえ。そもそも“ふつう”ってなんだろうって私は思うんです。だからあえて“ちがい”という言葉を使ったのですが、そこに佐原さんが共感してくださったことがとてもうれしかった。この人と一緒に仕事がしたいなとその時に直感しました」

実はその時に、2021年に設立したNPO法人MUKUが運営する就労継続支援B型事業所の立ち上げが決まっていたという福井さん。淡路島に農園をつくり、就労継続支援の場として、また障がいの有無や経歴、国籍、性別などを越えて多様な人が交わる場として活用していきたいと考えていた。プレゼンではユニファイドサッカー協会のロゴだけでなく、MUKUのロゴデザインについても話をしたという。「福井さんの話を聞いて、とにかく現場を見てみたいと思った」と語る佐原さんは、数日後に作業着姿で淡路島の農園を訪問。淡路島の空の下で、共に語り合い、農作業で汗を流した。

「ユニファイドサッカー協会」ロゴ
ユニファイドサッカー協会のロゴ。Soccer(サッカー)、Smile(笑顔)、Society(社会)、SDGsを表わす”S”が、輪になってつながる。

コラボで実現したおしゃれでかっこいい福祉の現場

その後、福井さんは正式にロゴデザインを発注。佐原さんは、自分が感じた淡路島をそのままデザインに落とし込んだ。「デザイン制作をする中では情報を整理して理路整然と考えることが多いのですが、今回は自分の感情や想いのようなものを軸に制作したというのでしょうか。MUKUのロゴには、淡路島の澄んだ風、農園の土の感触やにおい、山々の稜線の美しさなど、島と農園がもつ豊かな可能性をそのまま表現しました」

同時に制作したユニファイドサッカー協会のロゴは、福井さんの信念、そして未来のユニファイドスポーツの姿に想いを馳せながらデザインした。五角形と六角形から構成されるロゴマークはサッカーボールの幾何学模様のようでもあり、多様な人が手を取りあい、輪になって咲かせる花のようにも見える。「プレゼン案を見たとき、どちらのロゴも私の中でとてもしっくりきました。デザイン性はもちろん、そこに込めてくださったストーリーにも感動したんです」と福井さん。2022年5月にはユニファイドサッカー大会を開催。約150人の子どもたちがロゴマークの入ったカラフルなTシャツを着てプレイした。その様子に感無量だったという佐原さん。「参加者みんなが心から楽しまれていて、会場が笑顔であふれていました。そこにお力添えできたことを心からうれしく思いました」

同時に農園でつくった野菜や加工品、淡路島の特産品などを販売する店舗の開店準備をしていた福井さん。ロゴを活かした店舗ファサードや商品ラベル、淡路島産の蜜蝋クリームのパッケージデザインも佐原さんに依頼した。「福祉の現場で生まれた商品も一般の商品と同じように、おしゃれでかっこいいモノでありたい。佐原さんのデザインがそれを実現してくださいました」と福井さん。さらに挑戦したいことはたくさんあると語る。「就労継続支援事業の課題の一つとして、工賃の低さがあります。少しでも待遇をよくするためには、売上をしっかり立てていかなければなりません。そのために商品のデザイン性はとても大事。これからも佐原さんに力になっていただきたい」

子どもから大人まで、多様な人がごちゃまぜになって楽しみながら過ごせる遊びの場。そして得意なことを活かせる仕事の場。ユニファイドの理念が実現する場は、ますます広がりそうだ。

蜜蝋クリーム
MUKU オリジナル商品、淡路島産の蜜蝋でつくった蜜蝋クリーム。ブランドカラーのエメラルドグリーンを使ったパッケージが人気。

特定非営利活動法人MUKU

代表
福井宏昌氏

https://muku.or.jp/

バイカイデザイン株式会社

クリエイティブディレクター
佐原和行氏

https://baikai-design.jp/

公開:2023年5月1日(月)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

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