メビック発のコラボレーション事例の紹介

作り手のこだわりと仕掛け人の戦略 ふたつの情熱が生んだ唯一無二の価値
老舗茶舗の新ブランド推進プロジェクト

「TSUBOICHI TEA PLACE」ウェブサイトキャプチャ

創業170余年の老舗茶舗として挑む
新たなお茶文化を提案する新ブランド

ハリウッド女優など海外のセレブが愛飲し、欧米を中心にスーパーフードとして人気を博す「コンブチャ」。お茶を発酵させた植物性の発酵ドリンクが、日本でも美や健康に敏感な人々の間で話題となっている。この注目の分野に挑戦し、オリジナルのコンブチャ開発に挑むのが、幕末の嘉永三年(1850年)創業の堺の老舗企業・つぼ市製茶本舗だ。会社の新たな可能性を切り拓きたいという想いのもと谷本美花さんがリーダーとなり、新カフェブランド「TSUBOICHI TEA PLACE」を立ち上げたのが2020年。泉南にオープンした第一号店では“新たなお茶文化の提案”をテーマに新商品を展開し、若者層へのアプローチを開始した。しかし、さまざまなトライアル&エラーを繰り返すものの確かな成果はなかなか現れず、店舗経営は次第に厳しい状況に。そこで、打開策として事業再構築補助金を申請。ユーザー担当の辻冴織さん、プロダクト担当の田村健さんと共に、「Beau“TEA”」をキーワードに“美と健康”をコンセプトに掲げ、コンブチャ開発で起死回生を図ることになった。

とはいえ、未知なる新事業の立ち上げに挑戦する谷本さんたちチームは、社内のなかで孤軍奮闘状態。厳しい戦いを少しでも有利にできるようにと、プロとして力を貸してくれる心強いパートナーを求め、21年10月1日、メビックの「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に登壇。【創業170年老舗茶舗の新ブランドの推進と通販事業立ち上げに関わるクリエイターを募集】と銘打って、事業にかける熱い想いをぶつけた。その会場でひときわ存在感を放っていたのが、マーケティングからブランディング、プロモーションまでトータルに企画・ディレクションを手掛ける株式会社エンジンの東優さんだ。「たくさんの参加者のなかで、前のめりに聞く姿が印象的だった」と田村さん。実際に面談したときも、食の分野における豊富な実績と経験もさることながら、「何よりこのプロジェクトへの熱意が伝わってきた」と谷本さんも当時を振り返る。自ら「新しい価値を生み出す“ゼロイチ”が大好物」と語る彼にとっても、まさに本領発揮のチャンス。双方の想いと意欲が合致し正式に東さんへの依頼が決定した11月、新ブランドプロジェクト本格始動に向け体制が整った。

「TEA PLACE」ロゴ
急須のフォルム、炉開きの花をモチーフにした「TEA PLACE」のロゴデザイン。どちらも“お茶×新たな価値創造”を表現する。

真剣だからこそ納得のいくまで議論
そこから世界は広がっていく

補助金の採択が下りる22年4月までを準備期間とし、定期的に対話を重ねたメンバーと東さん。ところが、泉南店の閉店という不測の事態が勃発。補助金のための計画見直しを余儀なくされ、本プロジェクトはまさにブランド存続をかけた戦いとなった。「早期の収益が見込めるBtoBを主軸とし、営業と商品づくりを社内メンバーが主導。東さんには消費者向けECサイトの構築とプロモーションをお任せするという両輪で進めました」と谷本さん。道筋をつけ、晴れて補助金交付も決定。いよいよ本格始動したプロジェクトだが、次に浮上したのが、プロジェクトの根底に関わるコンセプトの問題だった。というのも、ブランド構造を整理しながら具体的なプランを進めていた東さんには、チームがめざす方向性に対し「美と健康」という言葉では弱いのではという疑念が生じていた。「このプロジェクトがつくるのは単にコンブチャだけではなく、つぼ市製茶本舗という企業の新しい価値。コンセプトにはもっと包括的で、柔軟に可能性を広げられる言葉が必要だと考えたのです」

しかしこれに反発したのが、これまで新ブランドを牽引してきた谷本さんだ。「なぜダメなのか納得できない」と、何度も議論し意見をぶつけあう日々が続く。膠着状態だった両者の関係だが、営業活動を通して東さんの言葉が少しずつ腑に落ちていったという。「話をしていて気づいたのは、美の定義にズレがあること。ある商談ではコンブチャを美容サプリメントのように捉えられて、ものすごく違和感を感じました」と谷本さん。自身のこだわりにだんだんとを自信をなくし、不安に陥ったとき、コミュニケーション不足を痛感した田村さんが「東さんと飲みに行こう!」と発案。腹を割り、飾らない本音を語り合うことで、互いの想いを改めて理解していった4人。そのなかで生まれた新コンセプトが「IPPUKU makes this world more beau“TEA”ful.」。古来から暮らしのなかに息づいてきた“一服”というお茶文化を原点に、現代に生きる人々へ日々を豊かに輝かせる新たなライフスタイルを提案したいという想いを表現。それは、美と健康という概念をも取り込んで、暮らしや生き方、人生への提案と、さらなる広がりが生まれた瞬間だった。

「TSUBOICHI TEA PLACE」の商品
多様なライフスタイルや価値観をもとに楽しめる、新しい一服〈IPPUKU〉の提案をめざす新ブランドTSUBOICHI TEA PLACE。

“本物のお茶”を強みに世界へ
新ブランドにかける尽きせぬ情熱

こうした葛藤を繰り広げながらも、着々と歩みを進めていったプロジェクトメンバーたち。7月には阪神百貨店でポップアップショップを開催し、古くからのつぼ市ファンを中心にコンブチャの魅力をアピール。ショップではユーザー担当の辻さんが来店客にアンケートを取り、好きなフレーバーや意見や要望を集め、プロダクト担当の田村さんにフィードバックすることで美味しさと品質のさらなるブラッシュアップにつなげた。つぼ市製茶本舗ならではの強みといえば、170余年の歴史を誇る老舗茶舗だからこその“本物のお茶”を使うこと。他とは一線を画す魅力的なコンブチャは、美意識や健康志向の高い客層を中心に次第に認められていった。その歩みに伴奏するように、東さんのほうではBtoCの通販に向けたECサイトの構築のほか、ロゴやパッケージデザイン、商品に同梱するリーフレットの作成、ブランドイメージを訴求する動画コンテンツ、料理研究家によるコンブチャに合うスイーツのレシピ展開など、プロモーション全般を担当。その間も何度も対話を重ねながら、二人三脚でプロジェクトを進めていった。

阪神百貨店のポップアップショップ
梅田阪神百貨店でポップアップショップを開催。つぼ市ファンはもちろん美と健康に敏感なお客様が来店され、大好評を博した。

当初の予定通り22年10月にECサイトがオープンし、一般消費者への情報発信もスタート。「TSUBOICHI TEA PLACE」のコンブチャの知名度は徐々に高まっていき、レストランやホテルでの採用も拡大している。聞けば、コンブチャを飲んだ社長から「美味しい」という言葉も飛び出したそうで、これにはメンバーも思わず笑顔に。「とはいえ、事業として結果を出していくという意味ではまだまだで、本当の勝負はこれから」と意気込みを見せる谷本さん。世界で流行中のコンブチャだからこそ、インバウンドを含めグローバルマーケットを視野にアプローチを展開していく構えだ。「ECサイトを立ち上げて満足してしまうケースが多いなか、歩みを止めず前進し続ける姿勢が頼もしいですね」と東さん。「バチバチと意見を戦わせていても相手の真剣さや熱意が伝わってきて、高次元のやり取りができることが却って楽しかった」と笑顔を見せる。新ブランドチームと東さんのタッグで放つ第2、第3の矢が、老舗企業のどんな未来を切り拓いていくのか――この先も目が離せない。

集合写真
左より、谷本美花氏、辻冴織氏、東優氏、田村健氏

株式会社つぼ市製茶本舗

ブランドオーナー
谷本美花氏

プロダクトマネージャー
田村健氏

ユーザー担当
辻冴織氏

https://tsuboichi.co.jp/
https://www.tsuboichiteaplace.com/

株式会社Engine

マーケティング・プランナー
東優氏

https://www.engine-corp.biz/

公開:2023年4月24日(月)
取材・文:山下満子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。