メビック発のコラボレーション事例の紹介
“だけじゃない”のがクリエイティブ
バリアフリーサービスのコピー&デザイン
コラボが始まる決め手は「トータルに見てもらえる」こと
誰もが抱える弱点や短所。それらを「バリア」ではなく、強みや価値といった「バリュー」と捉え、社会を変える力にしていこうという「バリアバリュー」を理念に掲げる株式会社ミライロ。車いすユーザーの視点に立った公共スペースの設計や、より多くの人にとって使いやすいサインやWebサイトの提案など、コンサルティングやさまざまなサービス開発などに取り組んでいる。同社でデザイナーを務めていた村田菜生さんが、商品のネーミングやコピーライティングを手伝ってくれるクリエイターを求めてメビックを訪問したのは、2019年2月のことだった。
「当社は社内にクリエイターが在籍しているのですが、同じメンバーと仕事を続けていると、どうしてもアイデアに偏りが出てしまいます。新しい発想をもたらしてくれるクリエイターさんと出会いたいのですが、そのあてはない。なんとかならないものかと思い、メビックに飛び込みました。メビックを起点にして、社外クリエイターとのつながりを拡充していきたいと考えていました」
村田さんの相談を整理し、メビックではクリエイティブクラスターのメーリングリストで依頼内容を配信。このときは「コピーライターを募集」と銘打ってのメールだった。その後、応募者の中から面談を経てコラボのパートナーとなったのは、コピーライター兼デザイナーの林弘真さんだった。村田さんとともに同社でデザイン業務に携わり、人選にも関わった藤田隆永さんは、当時をこう振り返る。
「Webサイトのデザインをされていたり、コンセプト作りの段階から携わったりされていることが印象的でした。コピーをお願いしたいのはもちろんなのですが、『全体を見てもらえる』という安心感や期待感が、林さんに依頼する決め手になりました」
藤田さんが期待を寄せた林さんの二刀流のスキル。それが後に、ミライロと林さんのコラボをより実りのあるものにしていった。
外部クリエイターとのやり取りが社員の成長を加速させる
コラボが始まると林さんはさっそく、デザインも含めた提案を積極的に行っていく。村田さんの言葉を借りるなら、それは「かゆいところに手が届く意見」の連続だった。
「画像の配置の仕方や言葉の選び方など、社内スタッフだけでは出てこないような意見をどんどん出していただけました。私自身のアイデアも広がりましたし、社内に新しい風が吹いたような感覚でした」
村田さんは、自身の仕事スタイルについて「ものを作るときは躊躇したくない。作る以上は、相手が誰であれ、ためらわずにぶつかっていく」と語る。その姿勢に、林さんも大いに触発された。
「蓄えた経験と知識、技術だけを使って、小さくまとまるようなコピーやデザインじゃだめだって思いました。もう一歩、さらに一歩、奥まで踏み込んで考えて、可能性を追求しようと思いながら仕事をしました」
このようなやり取りを重ねながら、当初の依頼案件は、パンフレットやWebサイトというアウトプットになって完結。時を前後して、ミライロにとっては初のリアル拠点を構えたうえでのサービス展開となる「ミライロハウスTOKYO」の立ち上げが決まる。そこに林さんは、クリエイティブ全体をサポートするポジションで参画。再び、村田さんが思いをぶつけ、林さんが持てる知識と技術のすべてを投げ返して応えるという関係性での協業がスタートした。さらに2021年5月には、障がい者手帳とそれに付帯する各種のサービスなどをスマートフォンで簡単に利用できるアプリ「ミライロID」のPR強化プロジェクトが立ち上がる。林さんも広告制作メンバーに加わったが、このとき、大きな驚きがあった。
「コンセプトやビジュアルは既にミライロさんが作っておられ、僕はアドバイスを求められました。でも、何も言うことがないぐらい完成されていたんです。ひたむきにデザインや自社サービスのことを考え、若いエネルギーで突き進んだら、ここまで成長するんだとびっくりしました」
それはすなわち、村田さんをはじめとしたミライロのメンバーたちのひたむきさに応え続けた林さんの“相談役”としての成果とも言える。コピーライターとしてスタートしたコラボは、デザインへの期待を経て、社員の成長を支える間柄にまで発展したのだ。
「かかりつけクリエイター」として社内全体の底上げに貢献を
「ミライロID」のPRプロジェクトは、関西の鉄道会社での車内広告というアウトプットになり、現在も掲出されている。実は車内広告制作完了後に、村田さんはミライロを「卒業」してロフトワークに活躍の場を移した。
「現在携わっているのは、クリエイティブの力を活かした観光プロジェクトなど。クリエイティブディレクターとして、プロジェクト全体のマネジメントを勉強中です。インクルーシブやユニバーサルデザインにはいまも強い興味を持っていて、アンテナを張り続けています。それらを現在の仕事と融合させて、障がいのある人たちも一緒になって何か新しいことにチャレンジできたらと考えています」
村田さんの成長や担当するクリエイティブの質の向上を目の当たりにしてきた藤田さんは、ここで得た経験をさらに社内全体に展開したいと考えている。ミライロは多種多様なサービスを展開しており、それぞれにWebサイトが存在し、PR活動が行われている。しかし現在、それらは担当部門ごとに独自運用している。「全社を横断して眺め、全体の底上げをしたいです。そのお手伝いを林さんにお願いできればと思っています」と藤田さんは言う。そしてもう1つ、藤田さんにはクリエイティブに関係した思いがある。
「私たちは障がい者の視点からサインやWebサイトなどのクリエイティブを見つめ、改善を提案しています。そこで得た知見やノウハウを、クリエイターのみなさんに発信し、理解を深めてもらう活動にもチャレンジしたいと考えています」
コピーライター兼デザイナーという林さんの二刀流が大きな成果のカギとなった今回のコラボ。会社全体のクリエイティブ支援までを期待されるようになった今、林さんは「困ったときは林さん」と言われる存在なのかもしれない。すなわち、クリエイティブ分野での「かかりつけ医」だ。コピーライターやデザイナーをはじめ、クリエイターとは専門領域のプロフェッショナルであることが多い。しかし同時に、領域を越え、「伝わる表現」「課題を解決する伝え方」のプロフェッショナルであることも少なくない。名刺に書かれた職業名“だけじゃない”クリエイティブの力を発揮してきた林さんと、そこに全幅の信頼を寄せるミライロ。両者のタッグはこれからも、「バリアバリュー」を力強く前進させていくだろう。
株式会社ロフトワーク
京都オフィス クリエイティブディレクター
村田菜生氏
※コラボ時:株式会社ミライロ ビジネスソリューション部 クリエイティブチーム デザイナー
公開:2022年6月13日(月)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。