メビック発のコラボレーション事例の紹介

クリエイターとともに唯一無二の出会いへ
百貨店でのクリエイターイベント開催

メルメリィマーケット アンテナShop!

百貨店の2階にクリエイターとのコミュニティを

今、阪神梅田本店が大きく変わろうとしている。そのひとつが10月8日の先行建て替えで、2階にオープンした「クリエイターズヴィレッジ」だ。これからの百貨店のあり方のひとつとして、新しい顧客との接点を増やすべく、次世代クリエイターによる独創的な雑貨イベントや、つくり手の思いに触れる体験会などを通して、唯一無二の出会いやクリエイターとの直接コミュニケーションがとれる場として誕生した。

計画が立ち上がったのは2020年の初夏、コロナ禍で展示会などクリエイターとの接点が絶たれてしまった頃。「まずは新しい関係づくりの方法から模索する必要がありました。こんな状況下でもオンラインで活躍するDtoCや個人やスモールチームで頑張っている方々との出会いを大切にして、関係性を築いていけたら。それが出発点となっています」。そう振り返るのは株式会社阪急阪神百貨店 阪神梅田本店でクリエイターズヴィレッジを担当する中山陽介さん。

以前は婦人靴の担当で、クリエイターとの関わりがほとんどなかった中山さん。今後、新しい才能やジャンルを発掘するにはどうすべきか。そんなときメビックとの出会いがあった。オープン前にメビックのメンバーが視察に訪れたり、その後何度か会うなかで中山さんが「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に登壇することとなった。このとき出会った多くの人の中に、デザイナー・アーティストの岬ましろさんがいた。

「メルメリィマーケット」開催風景
メルメリィマーケットは作家が「絵が好きなだけで活動できる場所」として存在したいという想いから2015年に誕生。

「自分の好き」を追求する人というターゲットの一致

「クリエイターズヴィレッジの試みが自分たちの活動に親しいと感じ、何か一緒に面白いことができたらいいな」と、プレゼンに参加した岬さん。自身が主催するイベントがコロナ禍で新しい形態を模索中だったこととも合致した。岬さんが作家活動と並行して運営する「メルメリィマーケット」とは、オリジナルのイラスト作品に限定した同人即売会イベント。2015年、母校である大阪総合デザイン専門学校でコミックアート学科の教員をしていた頃、生徒の出口対策として学校と共同開催したのがはじまりだ。

コミックアート分野はマンガでも商業イラストでもない中間層にあたり作家志望の人が多い。当時はすでにコミケが有名となっていたが、関西ではそうした層が出展できるイベントは少なかった。教員を辞めてからは岬さんが運営し、コロナ禍の昨年はオンラインで開催、アンテナショップでの販売を定期的におこなっていた。中山さんは岬さんの話を聞き、クリエイターの活動はもちろん、その後ろに多くのファンを抱えるマーケットにも魅力を感じた。

今度の売り場はブランドやトレンドとは関係なく、“自分の好き”を追求する人がターゲット。メルメリィマーケットのファンはそれにとても近いと感じてイベントを依頼することに。「私自身がコミックアートに対してまったくの素人だったので、先生と生徒くらいの感じでいろいろ教えてもらった」と中山さん。対して岬さんも「私も大手企業と組んで開催するのははじめてなので、学ぶことは多く新鮮でした」と語る。

展示風景
参加した作家は固定ファンを持ち、活動実績のある人ばかり。百貨店での開催ということでほかの作家の目標になる人を選んだという。

はじめて百貨店に来た10代や早朝から並ぶファンの熱気

今年1月に開催された「メルメリィアンテナShop!」。それに向けての商談がはじまったのが11月中旬。短い時間でもスムーズに進んだのは、岬さんにアンテナショップ開催の実績があったから。「このフォーマットをもとに阪神梅田本店だからできること、やったほうがいいことの選択に時間を割いたくらい」。百貨店側が求めたのは「クリエイターが売り場にいて、お客さんとコミュニケーションをとってほしい」ということ。「今回は売り場でドローイングを実施。作家からすれば日常的なパフォーマンスでも、百貨店に来られるお客様にとってはなかなか見られない光景。おおいに盛り上がり、作家とコミュニケーションも図れました」(中山さん)

開催時はオミクロン株の流行で入店が厳しい時期にもかかわらず、多くの人が駆けつけた。「特に原画は人気が高く、初日の朝7時から並ばれた方もいました」(岬さん)。しかしそのように熱烈なファンを持つ作家も、一般には知られていない。だからこそ幅広い人が訪れる百貨店での開催は、自分たちにも意味があると感じた。またふだん取り込めない客層にリーチできるという点では、双方にメリットがあった。メルメリィマーケットのファンは私たちが想像する同人即売会、コミケやコミティアの来場客とは違う。作家の多くは10代後半から20代前半の女性で、ファンも女性が多い。こうした新しい世代や層の来店も中山さんが着眼したポイントだ。その狙い通り「イベントのためにはじめて百貨店にきた」という若いファンもみられた。

作家が目の前で作品を描くドローイング。百貨店の 顧客ははじめて見るという人も多く、注目を集めた。

ここにいけば“好き”がみつかるそんな場所へと育てていきたい。

岬さん以外にも、メビックゆかりのクリエイターとのコラボは展開されている。今年の新年には、「福笑い年賀動画」と似顔絵ARTで笑顔を届ける「Happy SMILE New Year 2022 Movie&Art」、1月下旬には台湾のトップクリエイターがデザインしたアイテムなどを日本で紹介、販売する「Hao! Ta!wan 好!台湾~わたしの好きな台湾~」が2階と3階のイベントスペースで開催された。

彼らの多くが関西在住で、売り場に来てお客さんと接してメッセージを発信できる。特に中山さんが嬉しかったのが、イベントに参加したイラストレーターのこの言葉。「数年前までは阪神梅田本店の前の陸橋で絵を描いていた。自分の夢はこの路上から館の中に入って作品を発表することでしたが、それが叶いました」。クリエイターの登竜門として、今後はそんな人たちが続くかもしれない。

「Happy SMILE New Year 2022 Movie&Art」2022年1月2日~1月11日 (企画:石橋智香氏 イシバシイラストファッションワークス / 吉村昌哉氏 合同会社Cinergia)
「Hao! Ta!wan 好!台湾~わたしの好きな台湾~」2022年1月29日~2月8日 (企画:南大成氏 合同会社アルルカンプロダクト / 和谷尚美氏 N.Plus / 王怡琴氏 株式会社真之助デザイン / 白波瀬博文氏 メイクイットプロジェクト)

「メルメリィアンテナShop!」開催中は、クリエイターズヴィレッジのSNSのフォロワーが毎日増えたという。フォローするのは情報を見逃したくないから。それは次回開催への期待でもある。百貨店のイベントは単発で終わることが多いが、中山さんは今回の課題を修正して2回目、3回目へとつなげていきたいと考えている。「将来的にはクリエイターズヴィレッジに行けば、自分の好きが必ずみつかると思っていただける場所にしたい。それが“阪神梅田本店って面白い、楽しい”につながれば。そのためにクリエイターさんたちと一緒に成長していきたいですね」

「CREATOR’S VILLAGE」での集合写真
左より、岬ましろ氏と中山陽介氏

株式会社阪急阪神百貨店

阪神梅田本店 婦人服飾品営業統括部 アクセサリー・シーズン雑貨商品部 クリエイターズヴィレッジ
中山陽介氏

https://www.instagram.com/creators_village_hanshin_/

デザイナー・アーティスト メルメリィマーケット実行委員会
岬ましろ氏

https://www.monokuroism.com/

公開:2022年6月6日(月)
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。