メビック発のコラボレーション事例の紹介
モノづくりの原動力は互いを理解する対話力
イラストを使ったWebサイトリニューアル
“会えない時代”だからこそ伝える力のあるWebサイトに
ケガや病気によって身体の機能が損なわれ、日常生活を送ることが困難な障がいを持つ子どもたち。なかでも自力で座ることが難しい子どもたちのために、福祉先進国・デンマークの「座位保持装置Panda」を輸入・卸販売しているのが、テクノグリーン販売株式会社だ。
「座位保持装置」とは、適切な姿勢で座り、その姿勢を保持する機能が付いた椅子のこと。座面の高さを自由に調整でき、姿勢保持のベルトやキャスター付きのフレームなど、さまざまな機能によって毎日の食事や学習、遊びのシーンをしっかりとサポートしQOLを高める福祉用具だ。ユーザーは病院などの医療機関で医師や理学療法士の立ち会いのもと「Panda」に試乗し、子どもの身体や生活環境に合う一台を安心して購入することができる。ところが、そこに大きな問題が発生。新型コロナウイルス感染症拡大によって、ユーザーや医療従事者と直接対面が難しくなり、実物に触れてもらう機会が大幅に減ってしまったのだ。
対策に向けて動いたのは、営業担当であり自社サイトやカタログなど販促ツールの制作を手がけている古座谷隆史さん。「対面がダメなら、販促ツールをもっと充実させる必要がある」と、まずは大阪産業創造館「コンサル出前一丁」に相談。そこで、「商品の特徴や魅力を分かりやすく伝えるために、イラストを活用したほうが良い」というアドバイスとともにメビックを紹介され、古座谷さんはクリエイターとの出会いを求めてその扉を叩くことになった。
対話を重ね一緒につくりあげる頼れるパートナーを求めて
そんな古座谷さんに、メビックが提案した出会いの場が「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」だ。
まずは「Panda」購買層のなかでもメインターゲットを明確に設定し、“訴求対象にしっかりと届くイラストデザインを追求する”というコンセプトを打ち立た。その上で、「イラストをメインとする魅力あるデザインを募集!」と銘打ったプレゼンテーションを実施。参加したクリエイターの中に、デザイナー・井門直美さんの姿があった。
実は、古座谷さんは一度、外部にイラストを依頼して失敗した経験がある。制作にあたり、何を伝え、どういう段取りで進めて良いのかが分からず、上手くコミュニケーションできないまま不満足な結果になってしまったという。だからこそ今回のプレゼンテーションでは、単にイラスト制作だけに止まらず、課題解決に向けて一緒に考え創り上げてくれるパートナーを求めていた。一方、井門さんは、イラストはもちろんグラフィックデザイン全般、Webデザインやオリジナルグッズも手がけるオールマイティなデザイナー。何よりも“対話” を重視し、クライアントとともに課題を解決するためのベストな方法を見つけ出していくという仕事のスタンスだ。「以前から医療分野というか、困っている方に何かを伝える仕事、チカラになれる仕事に関わりたいという想いがあったので、メビックからの今回のプレゼンテーションを知らせるメールを見た瞬間、ここに参加しよう!って決めました」と井門さん。両者の出会いは、それぞれの想いと求める方向性がまさに一致した瞬間でもあった。
イラスト制作を入り口に二人三脚でめざす問題解決
プレゼンテーションの後、個別アプローチがあった6組のイラストレーターなどに対し、「まずは商品をしっかり理解していただくことが大事」と、実際に「Panda」を見せながら商品説明を行った古座谷さん。第一段階として自社サイトをリニューアルすべく、最終アップ日と予算に絞って具体的条件を提示し、あとは自分たちの想いをぶつけて提案を待った。それに対し、井門さんは「問題解決に向けたより良い方向性を一緒に考えていければ」と、イラスト展開をベースにしたWebページの見せ方はもちろん、事業全体を見ながら今後の販促展開という大きな流れを提案した。
先を見据えたトータルな提案内容であったこと、メインターゲットの評価が一番高かったことなど、総合的な判断によって古座谷さんは正式に井門さんへの発注を決定。「何より一番の決め手は、良好なコミュニケーションができること。当社にとって自社サイトのリニューアルは入り口で、その後の販促物の制作も視野に入れています。だからこそ、幅広い提案力と対応力を持ち、じっくりと対話を重ねていける井門さんが、まさに求めていたパートナーだと判断しました」
2021年10月末の公開をめざし、本格的に動き出した自社サイトのリニューアル。古座谷さんと井門さんの対話をベースとした二人三脚は、スムーズかつ的確なものづくりを実現させていく。とくに商品説明のイラストでは、ユーザーに印象づけるアピールポイントを何度も話し合い、カット数や内容を決定。さらに、スマートフォンでの閲覧を考慮し、商品の特徴が一目で分かるよう、どこまで簡略化しデフォルメするかなど、両者で納得いくまで話し合い、ブラッシュアップを重ねた。
ターゲットからの手応えを得てさらに広がるコラボの可能性
予定通りリニューアルオープンした自社サイトは「見やすくなったし、見栄えも良くなった」と大好評。Webサイトへのアクセスを訴求する販促ツールも完成し、リニューアル前に比べてアクセス数が増えたほか、実際の問い合わせ件数も増加したと古座谷さんは笑顔を見せる。さらに、11月からは総合カタログの制作がスタートし、現在、デザインラフをもとにページ構成を詰めているところだと話す。
分からないことがあれば徹底的に聞く、アイデアをもとに互いの意見を交換し合う……そんなやりとりのなかで一つずつモノをつくり、成果につなげ、信頼関係を築いている古座谷さんと井門さん。そのためにも、どんなに忙しくても対話の時間を惜しまない。
「デザイナーには、ある種“聞かない格好良さ”があると思うんです。クリエイターとしての感性でつくる作品に価値がある、みたいな。でも、どんなにキレイでお洒落でも、本質から外れていては意味がない。クライアントとしっかりと話し、理解すること。クライアントにとって本当に必要なものをつくる姿勢を、私は大事にしたいですね」と井門さん。そんな言葉を受けて、「営業としても刺激になります」と笑う古座谷さん。
より良いものづくりをめざす二人三脚は、この先もずっと続いていくようだ。
デザイナー
井門直美氏
公開:2022年5月23日(月)
取材・文:山下満子氏
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。