メビック発のコラボレーション事例の紹介

猫好きライターとプロダクトデザイナーのタッグで “すべての猫にHappyを!”
猫と飼い主のためのブランド立ち上げ

フリーランスのライターとして、取材・ライティングから広告プランニング、PRを手がける和谷尚美さん(N.Plus)とプロダクトデザイナーの南大成さん(HIROMINAMI.DESIGN)は7年前、メビックのクリエイター紹介記事で、和谷さんが南さんのインタビューを担当して以来の付き合いだ。アメリカとイギリスと国は違うものの海外生活の経験があったことや、仕事観やクリエイティブにおける考えが似ていたことから二人はすぐに意気投合。他のクリエイターを交えながら飲みや食事など交流を重ね親しくなっていった。

「愛猫を楽しませたい」きっかけは酒の席での何気ない一言

2017年、互いの事務所付近でいつものように飲んでいた南さんと和谷さん。話題は和谷さんが最近飼い始めた子猫の「メイちゃん」のこと。遊び盛りのメイちゃんの要求に応えるべく、Amazonの空き箱で自作のおもちゃを工作しはじめたという和谷さんは、気がつけば「おしゃれな空間」をめざしていたリビングが段ボールだらけになってしまったと嘆いていた。和谷さんが、おもちゃで遊んでいるメイちゃんの動画を南さんに見せながら、「こういうおもちゃをもっとおしゃれな感じでつくれないかな〜」と何気なく話したところ、南さんは「できるんじゃない?」と即答。その場でノートにさらさらとラフを描いていく。話は盛り上がったが、この時点では商品化などまったく考えておらず、メイちゃん用に作ってみたい、程度の話だったという。

帰宅した和谷さんは、南さんが描いたラフを見ながら頭にある思いを浮かべていた。取材ライターとしてだけではなく、これまで多くの企業のブランディングに携わってきた経験を生かして、自分の商品のブランディングやプロモーションができれば面白いかもしれない……。そんなことを考えだすと、いてもたってもいられなくなり、まだ商品すらできていないにも関わらず、一晩でブランドの企画書を書き上げた。

「Me & May」ウェブサイト
Me & May」公式サイトのトップページではメイちゃんがユーザーをお出迎え

ブランド名は「Me & May」。ターゲットを自分と同じ一人暮らしの女性に設定し、飼い主と愛猫を繋ぐ存在でありたいという想いからコンセプトは「Between You and Me」とした。普段、商品名やコンセプトを考えるときは、リサーチ、分析を行い、クライアントを納得させるためのロジックを綿密に組み立てるが、自身のブランドとなるとすべて直感。ブランド名もコンセプトも5分足らずで決まったという。さっそく企画書を南さんに見せ、正式にデザインを依頼し、「Me & Mayプロジェクト」が始動。コラボレーションの第一歩を踏み出した。

想像以上の高い壁にあきらめかけるも、粘り強くチャレンジ

「和谷さんは、インタビューのときにしっかりと下調べをして濃い記事を書いてくれましたし、別件でリサーチをしているときにいい記事だなと思って読んでいたら和谷さんの署名があったりして、仕事に関しては信頼していたので、デザインを依頼されたときも、まったく不安はありませんでした」(南さん)

「南さんのデザインに対する考え方に共感していましたし、何より素人のよくわからない説明にも関わらず、私の頭の中にあるイメージをラフに描き出したときは感動しました。お互い普段はくだらない話ばかりしているので、“あ、ほんとにプロのデザイナーなのね”って(笑)。クオリティを担保しながらも、相手の意図を正確に汲んでデザインに落とし込める方だと思ったので、ぜったいに南さんにお願いしたいと思いました」(和谷さん)

Me & Mayの商品第一弾は、木製の猫専用もぐらたたき「にゃんころBOON!」。和谷さんから南さんへの要望は「高級感があってインテリアを邪魔しないデザイン」「2つ以上の機能」「ころんとかわいい形」「猫が興味を持つ動き」など。もともと好みのテイストが似ていることや、お互いクライアントの要望を聞き、形にしていくことに慣れているため、円滑な意思疎通でデザインはすんなりと決まったが、問題は製造だった。南さんはそれまで金属やプラスチック製品のデザインが中心で、木製品の経験はあまりなかったため、まずは人脈を駆使してサンプルをつくってくれる製造元探しがスタート。ベトナムの工場や個人のおもちゃ職人、子供用品の工房などに相談を持ちかけるも、ロットや予算が合わずなかなか進まない。和谷さんはついに「できないなら、もうやめようよ」と口にした。

にゃんころBOON!

「ものづくりの知識も経験も一切なかったので、プロ(南さん)に頼めば、すぐにできると思っていたんです。でも想像以上に時間がかかって、出口も見えなくて、できないならもういいよ、となってしまって」(和谷さん)

それでも南さんは、和谷さんを説得しながら粘り強くリサーチを続け、ついに条件の合う職人にたどり着いた。福井県の家具職人、ファニチャーホリックの山口祐弘さんだ。さっそく二人は福井に向かい、工房で図面を見せながら打ち合わせをしたところ、人柄も技術も素晴らしく、予算やロットも希望が通り、すぐにサンプルの制作を依頼。数週間後に送られてきたサンプルのクオリティの高さに南さんと和谷さんは感激し、本格的にパートナーとして製造を任せることにした。そこから二人は何度も福井に通い、形状やペダルの動き、穴の大きさなど細かい仕様を調整していった。

南さんと山口さんが一番苦労したのは、ペダルの構造だという。ペダルは猫が楽しく遊ぶために一番重要な部分であることから一切妥協はできない。押すたびに軸がずれ、もぐら部分が穴に引っかかったり、手を離しても戻らなかったりと動きが安定せず、二人でアイデアを出し合ってトライアンドエラーを繰り返しながら、理想の動きに近づけていった。

打ち合わせ風景
「電話やメールで伝わらなかったことも会えばすぐに解決する。対面の大切さを再認識しました」(南さん)

ブランドキャラクター「ハニコロ」の誕生

一方、和谷さんはブランドサイトやカタログの作成、SNSの立ち上げなどプロモーションの準備を進め、ブランドアンバサダー的な役割を担うキャラクターも作成した。キャラクターデザインはメビックのクリエイティブクラスターで見つけたイラストレーターのyoridonoさんに依頼。初回打ち合わせは谷町六丁目の保護猫カフェで、猫を膝に乗せながらブランドや猫に対する思い、ブランドのテイストなどについて熱く語った。その想いに応えるようにyoridonoさんは2回目の打ち合わせでほぼ完璧な初稿を提示。あっというまにMe & Mayのキャラクター「ハニコロ」が誕生した。「初稿を見せてもらったとき、すごくかわいいけどなにかが足りないね、って二人でイラストを見ながら話していたんです。ふと“口をつけたらどうかな?”と言ってみたら、yoridonoさんが一本線を足してくれて、すぐに2人で“きゃ〜!かわい〜”って(笑)。めちゃくちゃ早かったです。yoridonoさんに頼んで本当によかった」(和谷さん)

ブランドキャラクター「ハニコロ」の初稿と完成形
左:初稿のイラスト 右:口をつけた「ハニコロ」完成形

「愛猫のため」から「すべての猫の幸せのため」のプロジェクトに

キャラクターやブランドサイトなど販売準備は整ったものの、製造は行き詰まっていた。大阪・福井という物理的な距離からかミスコミュニケーションが頻発。またそれぞれの本業が多忙なためプロジェクトが何度も停滞し、そのたびに互いの認識がずれていく。打ち合わせで伝えたはずの修正が反映されずに商品が送られてくるなどトラブルが幾度となく起こった。結局、最終サンプルが届いたのは、2020年の4月。プロジェクトをスタートさせてから3年が経っていた。

一方、製造の進行が停滞している間、和谷さんの中で変化が起こる。いつからか「商品をつくるだけではなく、自分を幸せにしてくれる猫のために何かがしたい」と考えるようになっていた。和谷さんが猫好きとしてなによりも心を痛めていたのが、猫の殺処分問題。不幸な猫を少しでも救うために、保護猫の存在や雑種の魅力をもっと多くの人に知ってもらえればと保護猫施設の猫やカフェなどの看板猫をMe & Mayのモデルに起用。フォトグラファーを連れて“会いに行けるねこ”をテーマに撮影し、SNSにアップした。「Me & May」は単なるおもちゃの製造販売だけでなく、“すべての猫にHappyを!”をテーマに掲げたプロジェクトに変化していった。

「Me & My」ギャラリーページ

今回のコラボレーションを通して二人の信頼関係はさらに深まり、現在は南さんが台湾のクリエイターと立ち上げた新プロジェクト「Hao!Ta!wan」のPRを和谷さんが務める。

「3年にわたり紆余曲折あった密度の濃い時間でしたが、お互いの得手不得手を補いあい、結果として良いコラボ商品ができたと思います。友人として、ライターとして、心から信頼でき、お付き合いを続けて下さる和谷さんに感謝です!」(南さん)

「デザイナーやものづくりの視点から生まれるアイデアや考え方は非常に勉強になりました。友人・ビジネス仲間として築いた信頼関係があるからこそ、忌憚のない意見を言い合える南さんはベストパートナーです。南さんなしではMe & Mayは生まれなかったと思います。新しいプロジェクトでも異業種ならではのケミストリーを期待しています」(和谷さん)

南大成氏と和谷尚美氏

N.Plus

プランナー / ライター
和谷尚美氏

http://nplus-w.com/

HIROMINAMI.DESIGN

プロダクトデザイナー
南大成氏

http://arlequin-product.com/

公開:2021年9月10日(金)

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。