メビック発のコラボレーション事例の紹介

活版印刷の魅力を引き出す新たな可能性に挑む
オリジナル商品・紙の額縁「Relieful」の開発

Relieful

始まりは、7年前 モノづくりが結んだ「縁」

大阪・東京・京都を拠点に幅広い分野でクリエイティブワークを展開すると同時に、全国各地の町工場や職人との協業プロジェクト「みんなの地域​産業協業活動」として年間70社以上の商品開発を支援する有限会社セメントプロデュースデザインと、1968年にたった一台の活版印刷機から創業し、約半世紀にわたりさまざまな印刷ニーズに応えてきた有限会社山添。両者が出会ったのは2014年。セメントプロデュースデザインの代表でありクリエイティブディレクターの金谷勉さんが、オリジナルのビンゴカードゲームの開発に取り組んだことがきっかけだ。「せっかくモノづくりをするなら、新しいパートナーと協業したほうが面白い。そこでメビックに相談し、紹介していただいた印刷会社が山添さんでした」

一方、先代から山添を引き継ぎ20代で代表に就任した野村いずみさんは、「これまでのように単なる受発注ではなく、クリエイターと共にモノづくりを行うパートナーでありたい」と、会社の未来を模索していたという。「金谷さんとの出会いは当社にとって絶好のチャンス。次の時代に向かうためのひとつの突破口になると思いましたね」

あくまでもビンゴゲーム開発というテーマありきのコラボだったため、「山添さんが得意とする活版印刷を活かし切れなかった」と金谷さん。とはいえ、偶然にも同郷で同い年の二人は意気投合。この縁をきっかけに、互いの信頼関係を育んでいった。

活版印刷
紙の凹凸が醸し出す独特の世界観を活かすために、「活版文字」から「活版意匠」へ活版の技術を再定義。

活版の魅力を引き出す紙の額縁の誕生

両者が再びタッグを組んだのが、新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言によって、多くの企業が停滞を余儀なくされていた2020年の春のこと。金谷さん自身、講演やセミナーが中止になりリモートでの仕事が増えるなか、人と会う機会が激減。毎年山添に依頼していた名刺が、半分も減っていないことにふと気づいたという。

「野村さんにお話を伺うと、やはり休業状態とのこと。そこで、これではダメだ、世の中が止まっても動きを止めたらアカンと。スタッフ全員でアイデアを出し合い、今困っている会社とコラボして活気を取り戻す開発プロジェクトをスタートさせたのです」

そのひとつが、前回のコラボから金谷さんの念願だった、山添の活版印刷の技術を活かした新たな商品づくりだった。

野村さんもまた、自社発信のオリジナル商品で現状を打開したいと思案していた。そこに、金谷さんからのコラボの提案。「なかなか良い案が生まれず、行き詰まり立ち止まっていた背中を、力強く押してくれましたね」と、当時を振り返る。

そして、セメントプロデュースデザインから出されたいくつかのアイデアのなかで、野村さんの心を捉えたのが、紙のフレームだ。“活版=文字”という固定観念を打ち破り、活版特有の凹凸を活かして美しく繊細なレリーフ(浮き彫り)加工を表現する。

「これならば活版印刷の魅力を引き出せるし、おうち時間を大事にしたいという人々の気持ちに響くはず」と、期待を膨らませた野村さん。両者による新たなモノづくりが始まった。

Relieful
繊細ながらどこか温かみのあるデザインの違いを愉しめる3種のフレーム。贈り物を入れる封筒としても活躍。

BtoB市場をターゲットに商品価値の創造へ

セメントプロデュースデザインのアイデア&デザイン力と、山添が創業より半世紀をかけて受け継いできた活版印刷の技術、ふたつの出会いによって誕生した紙の額縁「Relieful(レリーフル)」。通常の額縁に比べて軽やかなので、フックやピンなどを使わずともマスキングテープで壁に取り付けることができる。フレームのデザインは「ボタニカル」「モールディング」「ジオメトリック」の3種類。さらに、中に入れるものがなくてもすぐに飾れるようにいろいろな柄のグラフィックも用意して、商品としての付加価値もプラスした。

「7月に商品の方向性が決まり、まず目標にしたのが10月初旬開催の東京インターナショナル・ギフト・ショーへの出展です。タイトなスケジュールが大きな課題でしたが、コロナ禍で厳しい状況が続くなかスピードが不可欠でした」と金谷さん。BtoCよりもBtoB市場をターゲットに自社のネットワークをフル活用。12月にはロフト5店舗での試験販売を実現した。

「価格設定についても、ペーパークラフトである『Relieful』は文具として捉えがちですが、金谷さんの考えはインテリアとしての価値で考えるべきということ。アイデアやデザインだけでなく、販売戦略や手法など、幅広いノウハウを学ばせてもらいました」と野村さん。

展示会ではコロナの影響で例年よりも出展者が少なかったことが幸いし、バイヤーにじっくりと商品をPRする良い機会となり、ロフトやそれぞれの店舗でも確かな手応えを獲得。順調な滑り出しを見せた。

Relieful
額縁にアートコンテンツを入れることで単価アップを実現。消費者には選ぶ楽しさ、飾る楽しさを提案する。

「今できることをやる」という激動する時代への挑戦

今回、「Relieful」の販売において、金谷さんが仕掛けたもうひとつの戦略がSNSの活用だ。多くのバイヤーに認められ販路拡大を狙うものの、度重なる緊急事態宣言のなか、ロフトをはじめ大型の商業施設が休店。リアル店舗での販売がなかなか進まないなか、金谷さんが取り組んだのが、noteやTwitterでの情報発信だ。

「特にTwitterでの反応が良く、約千人だったフォロワーが一気に一万人以上に増加。予想以上にバズりましたね」と笑顔を見せる。なかでも金谷さんが面白いと感じたのは、普段では到底接点のないようなエンドユーザーからの商品に対する意見や要望が聞けること。「何より、記事を投稿したことでコラボ先のWebサイトや動画サイトへのアクセスにつながったことが嬉しい」と話す。「通常のやり方が通じない時代だからこそ、今できる方法を模索する。それが、新しいビジネスモデルの在り方を構築するチャンスになっているのかも知れないですね」と金谷さん。野村さんもまた、「単独の力では実現できなかったし、出会って1~2年の関係では、このスピード感のあるコラボは実現できなかった」と笑顔を見せる。

紙石鹸
大阪商品計画で出会った事業者と山添を繋いだ紙の石鹸プロジェクトでも、パッケージに活版印刷の技術が活かされた。

「Relieful」のアイデアが誕生してから約1年。今後はマンスリーアートとして毎月新しいデザインを提案し、季節ごとに中身を変えて四季の移ろいを感じられる商品としてさらなる商品価値を追求する金谷さんと野村さん。「Relieful」の進化はもちろん、「コラボ第3弾、第4弾が楽しみ」と、両者のクリエイティブはまだまだ拡大していきそうだ。

金谷勉氏と野村いずみ氏
セメントプロデュースデザインのショップ「コトモノミチ」にて。野村いずみ氏(左)、金谷勉氏(右)

有限会社セメントプロデュースデザイン

代表取締役社長 / クリエイティブディレクター

金谷勉氏

https://www.cementdesign.com/

有限会社山添

代表取締役社長 / プリンティングディレクター
野村いずみ氏

https://www.yamazoe-p.jp/

公開:2021年7月26日(月)
取材・文:山下満子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。