メビック発のコラボレーション事例の紹介

グランピングをブランディング ゼロから紡ぎ、終わらない物語
オーナー手作りのグランピング施設のブランディング

立杭テラス
自然の中にいる開放感と、篠山ならではの楽しみを融合させたグランピング施設。

壮大な挑戦を支える! 立ち上がるクリエイター

中井基治さんは大手企業から電磁波測定を専門に請け負う会社を経営していた。測定施設の跡地を何かに利用できないかと「篠山イノベーターズスクール」を受講。ローカルビジネスのノウハウを学び、卒業制作として企画したグランピング施設のビジネスプランが優秀賞を受賞した。プランを実現するべく動き出し、Web制作と撮影を同じスクールを受講していたフォトグラファーの竹内進さんに依頼したのが今回の事例の始まりだ。

中井さんは広報に関しては何も分からなかったため、ひとまず写真撮影を竹内さんに打診。その時点では一部の施設はでき上がりつつあったが、名称すら決まっていない状態。そんな状況を見た竹内さんは、メビックのコーディネーター活動で出会ったメンバーとともに結成し活動しているクリエイティブユニット「天満販売促進部」に話を持ち込んだ。Web制作だけではダメだ。ブランディングから構築していこうとメンバー全員で決め、中井さんへ提案。そしてプロジェクトが始まった。

「立杭テラス」ロゴ
“キャンプ地”をベースとして楽しみが広がる、柔軟なイメージを可視化したデザイン。

アイデアの源泉となったそこに立ち、感じる体験

最初のミーティングは施設予定地に集まり、コンセプト、ターゲット、名称などを詰めることとなった。全体のディレクションを担当したカツミさんは「実際に現地を散策して、時間を過ごしたうえでメンバーそれぞれが感じたことを出し合う形でブレストしたので、コンセプトが固まるまでは、かなりスピード感がありましたね」と話す。

ゆったりした時間の流れる篠山には、日本の原風景とも言える自然に親しむハイキングや山菜採り、日本六大窯のひとつに数えられる丹波焼の窯元、地元の新鮮な食材を使用した料理を楽しめるレストランなど、人を呼び込む要素はある。現地に立ち、見渡すことで、十分なポテンシャルを秘めていることにみんなで気づけた。

ミーティングの後は、すでに完成していたドームテントで宿泊することになったそう。「現地で自然や空気感に触れたことで、本質の一部が理解できたように思います」と話すのは、コピーライティングを担当した大西崇督さん。自らグランピングを体験し、篠山の可能性を感じたことで、メンバーそれぞれからアイデアがあふれてきた。結果、施設の中だけで完結するのではなく、取り巻く環境すべてを組み合わせ自分なりの楽しみ方を見つけるというコンセプトが提案された。キャッチコピーは「ワタシグランピング」、そして名称は「立杭(たちくい)てらす」と決まり、それをベースに大西さんが明文化したことで全体の輪郭が定まった。

ドームテント内部
女性客をターゲットに据え、マリメッコを中心に北欧テキスタイルを採り入れた宿泊設備のドームテント。

篠山の空気感と調和する異質テイストを提案

Webサイトのコーディングについては、現在、大西さんとともにメビックのコーディネーターとして活動している縁からロックオン柳田さんに依頼した。後日、柳田さんも中井さんと顔合わせし、自身もキャンプ好きだったことから意気投合。「参考のためグランピング施設やキャンプ場のサイトを調べていくうちに、情報が足りないサイトが多いことに気づきました。設備があるのかないのか分からなかったり、全体像が見えにくかったり。そこを埋めていきたいなと。他のメンバーもキャンプ好きな人が多いですし、ブレストしている時の目線は完全にキャンパーでしたね」と柳田さん。中井さんも「よそのキャンプ場にはこんな設備や備品があるよってリストが送られてきて、ずいぶん参考になりました」と話す。自分がここで過ごすなら、という視点から意見が出され、中井さんも柔軟に取り入れていった。

Webデザインはカツミさんが進めた。「ターゲット層を考え、立杭周辺にある施設とは異なるテイストをあえて織り込もうと思いました」。インテリアコーディネートを担当した宮窪翔一さんも「お客さんが篠山の街並みを見ながらここまで来て、一歩中に入ったら『素敵!』となるような一瞬の体験が必要だなと思って、対照的な印象のインテリアを選びました。異質なものを調和させるという意味で、カツミさんと同じ考え方ですね」とのこと。自然をモチーフにした図柄で色合いが優しい北欧デザインの調度品を、ドームごとにキーカラーを変えて提案した。

コロナ禍を逆手に準備 手探りから形に

2020年3月のプレオープンをめざし、施設の設営とホームページ制作が進められたが、新型コロナ・パンデミックの影響を被った。プレオープンは中止、本オープンも見通しが立たなくなった。しかし手をこまねいていたわけではない。「兵庫県にはいくつかグランピング施設があって、それぞれ個性的。それらに埋もれたくなかった」と柳田さん。オープン時から検索エンジンの上位に上がるよう、SEO対策を施したティザーサイトを制作した。また当初予定にはなかったフライヤーをカツミさんが制作し、停滞期間を準備期間と捉え周知の足がかりにした。これらの動きはSNSのグループスレッドで共有。個別に中井さんと連絡する際もグループスレッドを通していたので、今どんな動きがあって、次に何が必要か、メンバーそれぞれが認識できたという。「天満販売促進部は、何でも言える人間関係の下地をつくってきたグループ。それぞれの職能を持った人たちが集まることで、より良い形をつくり出していく。そこに楽しみや充実感があります」と竹内さん。9月にようやく施設の体裁が整い、竹内さんが立杭てらすの魅力を存分に伝える写真を撮影。そして12月にサイトが本公開となった。

「立杭テラス」トップページ
立杭テラスのWebサイト。「すっきり抜け感がありつつも必要情報への導線が整っているWebサイト」を基本コンセプトにデザイン。

「立杭てらす」は外から人を呼び込む一方、周辺住民の集まりの場としても利用されているそう。薄れつつある地域コミュニティを再構築する起点という側面も見出され、そのあり方は今後も変化していくようだ。また新たにテントサイトを設けるなど、中井さんのTo doリストは消化しきれておらず、さらに項目が増える可能性は高い。天満販売促進部のメンバーも「この案件は終わったとは思っていなくて、これからもつくり込めるもの。未来につながっていくワクワク感は今でもあります」と話し、「立杭てらす」から生まれた物語はまだまだ完結しそうにない。

集合写真
左より 宮窪翔一氏、カツミ氏、竹内進氏、中井基治氏、ロックオン柳田氏、大西崇督氏

立杭てらす

オーナー
中井基治氏

https://tachikui-terrace.com/

株式会社Sharp Focus(天満販売促進部)

フォトグラファー / ムービークリエイター
竹内進氏

https://sharp-focus.net/

CA-RIN WORKS(天満販売促進部)

クリエイティブディレクター
カツミ氏

https://ca-rin.com/

37+c(天満販売促進部)

コピーライター / 文章家
大西崇督氏

http://37plus-c.com/

design rubato(天満販売促進部)

インテリアデザイナー
宮窪翔一氏

https://design-rubato-archi.com/

合同会社ホームランオフィス

Webクリエイター
ロックオン柳田氏

https://homerun-office.jp/

公開:2021年6月28日(月)
取材・文:東原雄亮氏(CHUYAN

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。