メビック発のコラボレーション事例の紹介

素晴らしきコラボ初体験 出会いは一通のメールから
「和」テイストのインテリアブランドの立ち上げ

「waccara」使用例

新ブランドwaccaraで和室を輝かせたい

谷元フスマ工飾の谷元亨社長は悩んでいた。祖父が表具店として70年前に創業した頃は掛け軸や屏風などを扱っていたが、和室の需要減少で、現在は建具の製造・施工などの多くは洋室向け。特に若い世代にとって和室は“おしゃれ”から遠いイメージで敬遠されている。「和室は会社の原点。好きな和室をどうにか輝かせたい」と考え続け、洋の中に和を感じさせる新しいインテリアブランドの立ち上げを思いついた。そして、ターゲットである女性の感性でつくるのが一番と、営業の西口静香さんと広報の徳田絢子さんに任せることにする。突然社長から選ばれた二人は「名前もテイストも二人で決めていいから動いてほしいと、社長の無茶ぶりから始まったんですよ」と笑い合った。

3人でミーティングを重ね、6月にはブランド名を“waccara(ワッカラ)”と決める。「和のテイストのインテリアを切り口として、数珠つなぎ(輪っか)に素敵なアイテムを生活に取り入れてほしい」と考え、「和から」「輪っか」の意味を込めた。

初のクリエイター選びデザインより大切なこと

夏を迎える頃には3人の中にwaccaraのイメージが固まり始め、パターンデザイン作成の段階となった。谷元社長は「waccaraといえばコレ!という代表柄になるようなデザインがほしい」と考えた。しかし、そんなハードルの高いデザインができる人はどこにいる? デザイナーと商品開発した経験はなく見つけ方も分からない。そこでメビック主催「デザイン・クリエイティブ活用展」に訪れたことのある徳田さんがメビックに相談する。急ぐ案件で内容が具体的なことから、クリエイティブクラスターに情報を掲載しているクリエイターに情報が届くメーリングリストでの募集をすすめられる。新ブランド立ち上げへの思いをメール文に託し、「ふすま紙・壁紙などに使用するパターンのデザインをお願いできる方」という件名で募集した。

創作意欲をかきたてる募集メールだったようで、予想を上回る12件の応募があり、制作実績などを参考に8件に絞って面談した。「良い方ばかりで悩みました」(西口さん)。
デザインひろばの鈴木暁久さんが選ばれた理由は?「具体的な提案をして、話をしっかり聞いてくださり、私たちの想いを汲んでデザイン力を最大限に発揮できる方だと思ったからです」(徳田さん)。
鈴木さんはどのように面談に臨んだのだろう?「相手の立場になって何を提案すべきか考えました。初めてのデザイナーとの仕事は不安があると思ったので、仕事の疑似体験を味わってもらおうと、募集メールを自分なりに解釈してパターンデザイン、ロゴ、ネーミングの案をつくり、参考資料も付けて提案しました」
ロゴとネーミングは依頼になかったが、ブランド立ち上げには必要なのでつくったという。

打ち合わせ風景
最初の打ち合わせでは鈴木さんに新ブランドのイメージを語りつくした。左より鈴木さん、徳田さん、西口さん。

結果的にこのマッチングはうまくいく。デザイン制作がスムーズにいった大きな要因ともいえるだろう。谷元社長は「デザインがきれい、カッコイイだけで選ぶとうまくいかなかったでしょう。まず信頼できそうな方というのがあって、そのうえでデザインを考えないと。二人には話しやすい人を選びなさいとだけ言ったんですが、人と人が進めるものだから、相性が良いのが一番ですね」と語った。

提案資料の一部
鈴木さんの提案資料。「面談からたくさんの具体的な提案をもらえ、安心して進められました」(西口さん)

3人とデザイナーがひとつのチームになる時

最初の打ち合わせの前に鈴木さんは考えた。「谷元フスマ工飾の3人は何度も話し合ってイメージを固め、Twitterにも取り組んでいる。このブランクを埋め、イメージを共有したい」。そこで今回は聞くことに徹した。また質問シートも用意し、商品展開や価格帯などの問いにそれぞれ答えてもらった。「言葉にすると方向性の違う点が見つかり、社内で話し合えました」(西口さん)

社長と社員という立場の3人だが、意見を言い合える良好な関係を築いていた。出会って間もない鈴木さんは親睦を深めたいとふたつのことを行う。ひとつはファッションブランド「ミナ ペルホネン」の展覧会をすすめること。共通の話題をもちたいと思った。もうひとつは次の打ち合わせ場所としてインテリアショップ併設のカフェを提案すること。2階に壁紙の展示販売があり、好きな壁紙とwaccaraテイストの壁紙を選ぶ体験をして楽しんでもらい、イメージの共有もしようと考えた。当日3人はまったく違う柄を選んだが、谷元社長は「好き嫌いで考えてしまいがちですが、意見が分かれたらコンセプトに戻れば答えが出ると、考えを整理してもらいました」と振り返る。

この時点では最初に商品化するのは、ふすま紙か壁紙か決まっていなかった。鈴木さんは見本のデザイン案を提示し、どちらにするかで提案の仕方が変わることを説明。ふすま紙で進めることに決まる。「考えがまとまっていないところに気づき、具体的に提示してもらえるので分かりやすかった」(西口さん)。「鈴木さんには軸があって、話し合いを重ねてもブレない。信頼できる方です」(徳田さん)

シンボルマークは和から数珠つなぎに良い空間が生まれるイメージ。ロゴタイプは筆文字に近い柔らかな印象。

全員一致で引手案に決定
waccaraふすま紙販売へ

少しずつ秋めいてきた頃、鈴木さんからパターンデザイン6案が提出された。3人の意見は一致。3案が選ばれ、中でも引手の形を水玉模様のように散りばめた案は絶賛された。「『華引手』というオリジナル商品をつくるなど引手に着目している会社なので、代表柄にふさわしいデザインだと思いました」(谷元社長)。今回は飛び抜けて良かった引手案で商品展開することになった。鈴木さんは続いてロゴ制作に取り組み、シンボルマークとロゴタイプも決まる。

色校正中のふすま紙
ふすま紙製造の最終段階、色校正中。原寸大のふすま紙に出力して行われる。

この取材の2月時点では、ふすま紙製造の最終段階、色校正が行われていた。原寸大のふすま紙に出力すると、思っている色より薄かったりきつかったりするので、原寸でないと判断できないそうで、鈴木さんも工場でチェックする。「ベストの色はこれぐらい? もう少し落としますか? と鈴木さんを中心にわいわいやっています」(谷元社長)。色が決まれば印刷されて製品となる。4月には自社ECサイト「和室リフォーム本舗」で新ブランドwaccaraのふすま紙として販売予定だ。その次の動きは、販促ツールか、アイテム追加か、新たなパターン投入か……、どこに向かうかはお楽しみ。和室を輝かせようという新ブランド立ち上げストーリーは始まったばかり。本編はこれからだ。

集合写真
左から 谷元亨氏、鈴木暁久氏、西口静香氏、徳田絢子氏(中央下)

谷元フスマ工飾株式会社

代表取締役社長
谷元亨氏

営業部
西口静香氏

広報
徳田絢子氏

https://t-f-kosyoku.com/

デザインひろば

グラフィックデザイナー / イラストレーター
鈴木暁久氏

https://designhiroba.com/

公開:2021年6月7日(月)
取材・文:河本樹美氏(オフィスカワモト

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。