人がよりよく生きられる社会のために、クリエイティブができること。
クリエイター座談会「プロジェッタツィオーネ大阪 勉強会」

座談会のメンバー

プロジェッタツィオーネ(progettazione)とは、イタリア語で「プロジェクトを実践する行為やプロセス」を表す言葉。メビックは、その創造的思考について学ぶイタリア研修ツアーを、多木陽介氏のコーディネートのもとで、2015年より4回にわたって企画・実施してきた。
2019年12月、そのツアーに参加したクリエイターたちが、多木氏とデザインジャーナリストの田代かおる氏とともに、事後勉強会を行った。
イタリアで、そして勉強会で、彼らが何を学び、考えたのか。参加者4人が語り合った。

研修ツアー参加のきっかけは、迷い、悩み、行き詰まり。

内之倉彰氏
内之倉
まず、僕が研修ツアーに参加した動機は、「正しいクリエイティブって何だろう」っていう迷いがあったことです。たとえ表現に疑問を感じても、クライアントが求めることに応じるのがクリエイティブの正しいあり方なのかと。そんな時、2017年にメビックで行われたシルヴァーナ・スペラーティさん(ブルーノ・ムナーリ協会会長)のワークショップに参加し、プロジェッタツィオーネについてもっと学びたいと思いました。

江口海里氏
江口
僕はこの仕事に長く関わる中で、行き詰まりのようなものを感じていた時期がありました。そんな中、2018年の多木陽介さんの講演会に参加し、「元々ある資源を生かして社会全体をよくするものをつくる」という考えに深く共感したんです。クリエイティブって本来はそうあるべきなのに、いつ僕たちはそれを忘れてしまったんだろう、なぜ“注目させるための斬新なアイデア”ばかりが求められるのだろうと。講演会のその場で、研修ツアーに申し込みました。

南大成氏

僕は元々、自分のデザインが人の役に立っている実感が乏しいという感覚がありました。プロダクトデザインの場合は特に、製品になるまでに多くの人が関わるので、エンドユーザーまでの距離が遠いんですね。そこで企画・デザインから製造・販売まで一貫して行う自社商品をつくってきました。そんな中でプロジェッタツィオーネの考え方を知り、自分が漠然と考えていたことに似ているのかもしれないと思いました。

玉泉京子氏
玉泉
私にとってWEB制作は、マーケティングの考えに沿って行うものでした。でも本当にそれでいいんだろうかというモヤモヤした気持ちもありました。そんな時にプロジェッタツィオーネの「倫理観のあるデザイン」という言葉に惹かれ、研修ツアーの報告会に参加しました。そして“マーケティング思考”とは異なる新しい軸を探したくて、次期研修ツアーに申し込みました。

アキッレ・カスティリオーニスタジオ
アキッレ・カスティリオーニスタジオ(ミラノ)

自らのクリエイティブ活動が世の中にどう作用するのかを考える。

江口海里氏
江口
僕たちが関わっている仕事のほとんどは、市場競争と密接に結びついています。プロジェクトに採算性が見込めないと、クリエイティブが入り込む余地がない。常に事業の採算性が問われ、僕たちはその限られた範囲内で答えを出さなくちゃいけない。多くのクリエイターはその中で苦しんでいると思います。

南大成氏

でもアキッレ・カスティリオーニ(1918〜2002)さんや、エンツォ・マーリ(1932〜)さんなど、イタリアのプロジェッティスタたちの活動をみると、社会に本当に必要なことをやろうという気概が優先されているんですよね。研修ツアーで訪れたシルヴァーナさんの活動拠点「教育農場」や、トリノの「地区の家」なども、同じようなことが言えました。

内之倉彰氏
内之倉
商業ベースのクリエイティブ活動とは違うしくみが、イタリアのプロジェッティスタたちの中にはあるんでしょうね。それはすごく興味深いことです。

玉泉京子氏
玉泉
研修ツアーに参加した人たちは、そこに心をモヤモヤさせて帰ってきたんじゃないでしょうか。でも日本の社会にも合った方法がきっとあるはずで、それを模索しているクリエイターはたくさんいますよね。

「富田林コロッケ」ロゴ
地区の家(アレッサンドリア)

江口海里氏
江口
例えば労働の対価をお金以外のものと交換するというのも未来的なのかもしれないと思うんです。電気工事ができる人に工事をしてもらった対価として、農園の野菜を差し上げるというように、お金を介さずにお互いのスキルの持ち出し合うみたいなことです。

南大成氏

なるほど。人と人との豊かなつながりがベースにあればこそ、できることかもしれません。逆に言うと、収益や生産効率でしかつながっていない社会では難しいということ。自分の仕事や活動が、社会にどう役立つのかを考えることから始まるんじゃないでしょうか。

内之倉彰氏
内之倉
そのために、ものごとをしっかり観察し、掘り下げることが大切だということを学びました。結果、それがサスティナブルな社会のあり方につながるのかもしれません。

玉泉京子氏
玉泉
私は、自分のクリエイティブ活動が社会にどう作用するのか、とらえ直そうと思いました。多木さんの「自分の役割という枝先から、一度根の部分まで下りて、活動そのものを根本から問い直そう」という言葉が印象的でした。目の前の“もの”をよく観察して、素材の可能性を引き出すシルヴァーナさんのワークショップでは、プロジェッタツィオーネの本質に触れられた気がします。

江口海里氏
江口
目の前にあるものの強さやダイナミズムを、どう生かすかということですよね。僕はそれを学んだことで、制作や思考のプロセスに具体的な変化がありました。今、東京都大田区の町工場と取り組んでいるプロジェクトでは、その工場が元々持っている機械や技術を、表現にできるだけ生かすように心がけています。

ブルーノ・ムナーリ協会 教育農場
ブルーノ・ムナーリ協会 教育農場(モンテベッロ・デッラ・バッタリア)

学んだ思考を定着させるのは難しいからこそ勉強会が必要。

南大成氏

勉強会では、イタリアで学び考えたことを共有して、研鑽し合えましたよね。自分の中の迷いも含め、みんなが心の内を正直に話し合えました。

江口海里氏
江口
日本では、例えば大きな災害があると、連帯感や共感という感情が急に盛り上がり、同時に「社会に本当に必要なことは何か」というプロジェッタツィオーネに似た思考も生まれますね。でも時間が経つと、それさえもストーリーとして消費されてしまう。その思考を社会に、そして自分自身に定着させるのは難しいんです。だからこそ小さな場からスタートして、少しずつ伝播し、研鑽することが必要なんだと思います。

内之倉彰氏
内之倉
僕と南さんは、他3名とのチームで、アジア4ヶ国のクリエイターたちと、社会問題の解決に向けてアイデアを出し合うプロジェクトに参加しています。この活動を軸に、自分ができることは何かを考え続けたいと思います。個々が模索を続けることが大切ですね。

玉泉京子氏
玉泉
私は2019年6月に、障害がある方を含む有志5人で「車いす運動会」を企画運営しました。研修ツアーで得た手法や、講師の方々の私たちへの接し方から学んだことを活かして実施できました。できたつながりを、保ち続けたいと思っています。

江口海里氏
江口
僕たちは幸いにも、現地でプロジェッタツィオーネを学ぶことができました。その次に問われることは「それで何をやったの?」ということです。実践がないと説得力がないし、そもそも興味を持ってもらえません。僕たちクリエイターは、ものごとについて思考し、創造するプロです。だからこそ、そのスキルを消費社会のためだけに使うのではなく、「全ての人がよりよく生きるため」という思考を持ち、社会に対してポジティブなものをつくり出していきたいですね。今後もこの勉強会を続けながら、お互いに学びを深めていきたいと思います。

集合写真
写真左より 玉泉京子さん、南大成さん、江口海里さん、内之倉彰さん

グラフィック・モーショングラフィックスデザイナー
内之倉彰氏(4期生)

AKIRA UCHINOKURA

プロダクトデザイナー
江口海里氏(3期生)

Kairi Eguchi Design
http://kairi-eguchi.com/

プロダクトデザイナー
南大成氏(1期生)

HIROMINAMI.DESIGN / 合同会社アルルカンプロダクト
http://arlequin-product.com/

WEBデザイナー
玉泉京子氏(2期生)

http://tamaizumi.jp/

公開日:2020年05月15日(金)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン