メビック発のコラボレーション事例の紹介

クリエイターの“伝える力”で危機を乗り越えろ
新型コロナウイルスに関するベンチャー向け経済支援策ガイド

新型コロナウイルス感染症 経済支援策ガイド(PDF)の1ページ目と3ページ目
完成した「経済支援策ガイド(PDF)」。トップにはセレクトした支援策がリスト的に掲載され、その中から4つの施策が次ページ以降で詳しく紹介されている。

官公庁×クリエイターでめざす情報ミスマッチの解決

コロナ禍においてクリエイターができることは何か? 不安と焦燥のなかで、この自問自答を繰り返したクリエイターは少なくないだろう。ここで紹介するコラボは、その答えの一つになりうる事例だ。

経済産業省の出先機関である近畿経済産業局。「創業・経営支援課では、ベンチャー企業の支援を行っています」と説明するのは、同課課長の黒木啓良さん。新型コロナウイルスに関する経済産業省の支援策を、創業間もない企業へ発信することも役割だった。「2月に支援策をまとめた『支援策パンフレット』を経産省が公開したのですが、支援策が増えるにつれてページ数も増えていきました」。未曽有の事態だけに、数ページだった情報が、数十ページに膨れ上がるのに時間はかからなかったという。

そんな最中、「ベンチャー企業に必要な情報を厳選したデジタルパンフレットを作りたい」と黒木さんに提案したのが、4月に同課へ異動してきた増井浩行さんだ。異動直前まで、東京のデロイト トーマツベンチャーサポート株式会社へ出向しており、そこでの経験が提案のきっかけだった。「100社以上のベンチャー企業に会いましたが、経産省の施策を知らない企業がほとんどだったんです」と、ベンチャー企業と官公庁との距離を痛感した。また、コロナ対策の相談に来た企業に「支援策パンフレット」を見せても、上手く伝わらないことが多かったという。「施策が網羅されているので辞書としては便利なんですが、情報が膨大なため読み解くのに労力が必要なようで」と、届けたい人に情報が届かないミスマッチも提案の理由だった。

以前、クリエイティブ産業の支援を担当した経験がある黒木さんは、「同様の課題を感じていました。このパンフレットは内製化せず、クリエイターにお願いするべきだと思ったんです」と語り、クリエイターの“伝える力”が必要だと感じたという。この話の直前、たまたま挨拶に訪れたメビックで手にしていたのが「コラボレーション事例集2020」。それを眺めて「この冊子のテイストなら分かりやすいのでは」と直感。すぐに同冊子のディレクションを務めたコピーライター兼デザイナーの林弘真さんへ連絡を取った。「その時は支援策の情報が錯綜していて、自身が知りたい内容も分かりにくかったんです。当事者の一人として力になりたいと思って」と、林さんは依頼を快諾。コロナ禍におけるコラボが動き出した。

打ち合わせ風景
左より林さん、黒木さん、増井さん。林さんとの窓口役は増井さんが担当した。

猶予は2週間。広告のロジックで情報を構築する

タッグ結成は緊急事態宣言下の4月21日。持続化給付金の申請が始まる直前であり、ミスマッチはより深刻化。事態は急を要していた。「早く情報を出さなければいけない。スピードが重要でした」と増井さん。公開日はGW明けに決定。連休を考慮すると、残された時間は約2週間しかなかった。

まず、増井さんが必要な情報の取捨選択を開始。「当時、支援策パンフレットは約60ページあり、95%の情報を削る作業。外部の支援者にもヒアリングを行いながら進めました」と情報を厳選。4月23日、原案となる構成案が林さんへ渡された。

「情報はかなり絞られていたんですが、直面する問題がどうすれば解決するのか? 当事者として分かりにくい部分もありました」と林さん。広告に長年携わってきた経験から、もうひと工夫が必要だと感じたという。読み手目線で情報をとらえ、余分なものを省き、ポイントを絞って伝えること。広告視点で構成を練り始めた。「誰のためのツールなのか? 何のために作るのか? 大前提を忘れてはいけません。急いでいると忘れてしまうことがあるんです」。とはいえ、時間は限られており、簡単なラフ提出では間に合わない。4月30日、ほぼ完成形のデザインにまで落とし込んだ構成案を提出した。それを見た増井さんは「デザインも、コピーもすごくいい。コレでいけると思いました」と大筋は決定。以降、ファクトチェックや細かな調整などの詰めが行われた。

そして5月8日、全5ページの「経済支援策ガイド」が完成した。表紙には大きなタイトルとともに、ピックアップした支援策を一覧で掲載。各ページには「ベンチャー企業の皆さまへ。いま、できることがあります」「売上急減…ウチは給付金もらえる?」などのコピーを配置し、読み手に当事者意識を感じさせつつ、目を通してもらうための入口が設けられた。また、各施策はポイントを絞ってメリットを紹介し、申請方法などの詳細は掲載したURLで確認してもらう、リンク集のような構成を採用。これは増井さんのアイデアで「ページが限られているので全情報は掲載できない。Webには分かりやすい解説ページがあったので、そこで見てもらおうと思って」と、デジタルパンフレットならではの工夫も盛り込まれた。

パワーポイント資料
増井さんが制作した構成案。この段階のトップページでは、フローチャートで支援策を紹介する案が考えられていた。

“伝える”ことは互いの距離を近づけること

5月11日。完成した「経済支援策ガイド」は、創業・経営支援課が運営するFacebookページ「関西ベンチャーサポーターズ会議」で公開された。「報告書を外部と連携して作ることはあったが、施策をまとめるのは初めての試み」と黒木さん。増井さんも「役所が出すものとして認められるか不安でした」と語るが、その心配は杞憂に終わった。投稿を見たベンチャー企業関係者からは、「とてもスッキリしていて見やすい」「分かりやすくて助かりました」と声が寄せられるほか、シェアも相次ぐなど反響は上々。局内でも高い評価を得たという。

クリエイターと協業した情報発信について黒木さんは、「役所には広報という概念はあっても、広告という発想は乏しい。広告の考え方を取り入れてくれたことが新鮮で、クリエイティブの重要性を再認識しました」と手応えを語る。続いて増井さんは「私たちは、ベンチャー企業に対して情報を伝えることが得意でないため、お互いの距離が開いている。距離が縮まれば、どんな施策が必要か見えてくるし、施策の改善点も分かる。これからは発信するだけでなく、“伝える”ことに注力していきたいです」と可能性を見出す。林さんは「みなさん本当に頑張っているのに、伝わっていないのがもったいない。クリエイターが手伝えることはたくさんあるはず」と、短期決戦を走り切った三人の中には、それぞれの思いがあった。

最後に黒木さんはこう語る。「伝えるためには、受け手の意見も反映しなければいけない。そのために、もっとクリエイターの起用が広まって欲しいし、我々も発注スキルを高めなければいけない。なにが目的で、どんな効果をめざすのか。クリエイティブへのリテラシーを高めていければ」。同課と林さんのコラボは、8月に新施策を反映した改訂版の制作も行われ、これからの取り組みに期待が高まる。コロナ禍によって、スクランブル発進したコラボは、確かな成果を上げ、次なる目的地を発見した。官公庁×クリエイターが創る新たなビジョンをめざして、チャレンジはこれからも続いていく。

集合写真

経済産業省 近畿経済産業局 産業部 創業・経営支援課

課長
黒木啓良氏

総括係長兼ベンチャー支援担当官
増井浩行氏

https://www.kansai.meti.go.jp/

関西ベンチャーサポーターズ会議

https://www.facebook.com/KansaiVentureSupporters

ハヤシヒロマサ コピー&デザイン

コピーライター / デザイナー
林弘真氏

https://gamo4gamo4.exblog.jp/

公開:2020年08月28日(金)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。