メビック発のコラボレーション事例の紹介
音から紡ぐ映像でブランドの世界観を表現
ブランドイメージと商品PRの動画制作
機能と性能を兼ね揃えたうえで、美しいものを。
イメージをカタチにするのは難しい。何が求められるのか、何が足りないのかを模索し続ける作業だからこそ、コミュケーションが重要となる。今年デビューしたゴルフブランド「Goldilocks」の動画制作は、まさにそんなお話。堀口朋徳さんと佳徳さん兄弟が、2018年7月に設立したナリーズ株式会社では、ゴルフのパターを中心に据えたブランドを立ち上げようとしていた。兄弟ともに大学からゴルフをはじめ、卒業後は何年かは同じ自動車関連企業の仕事に就く。「3DCADを使って設計を改善する会社だったので、デザインや設計、生産工程まで多岐にわたって経験しました」(朋徳さん)。いっぽう趣味として続けていたゴルフでは、既成のギアにもの足りなさを感じていた。「自分たちならもっと面白いもの、カッコいいものがつくれるんじゃないか」。そんな想いが湧きあがる。さらに既存の製品と差別化できるアイデアもあった。
退職後、本格的にゴルフギア製作の道へ。ふたりが考えたパターは、複雑な形状を削り出したソリッドなもので、バンプサイトという丸い膨らみがつけられた。この丸みはボール半径と同じに設計され、ここに合わせて打つとポールとパターの中心が合致し、狙ったところへ思い通りの距離感でボールを転がすことができる。そんな高い機能性とデザイン性を併せ持つパターができたのは、昨年10月。生産準備に入ると同時に、プロモーションについても進めた。「少量生産のゴルフメーカーはほかにもありますが、どうしても価格が上がってしまいます。うちは大手と正面から戦いたかったので、価格を抑えたかった」。そこで一般的なメディア広告をやめることでコストを削減。また新聞に小さな広告を掲載するより、SNSやYouTubeでインパクトのある動画を載せることで、長く多くの人に見てもらえる効果があると考えた。「文章でも伝えてはいきますが、映像から受けるイメージにはかなわないですから」(朋徳さん)。
音楽ありきの映像制作、という独自性。
プロモーションの方針は固まったものの、クリエイターとのつながりがなかった。ふたりは三重県よろず支援拠点を訪れ、そこからメビックを紹介される。当初発売は翌年1月を予定しており、早速メーリングリストで「ブランドイメージの表現と商品PRを兼ねた動画制作」をするクリエイターを募集。これに反応したのが、株式会社AWの河内優さんだ。同社はさまざまな業種やサービスに合わせた、インターネット領域での発信を手掛けており、ブランド価値向上を目的とした映像制作を得意としている。「新規のゴルフメーカーとなら面白いことができるのでは思い、すぐに連絡をしました」。これも決め手となった。「メールが送信された翌月曜日の朝9時5分くらいに電話をいただいて。もちろん最速のレスポンス(笑)。熱意を感じました」と佳徳さん。河内さんはアーティスト&トラックメーカーとして音源を製作し、ミュージックビデオも自分で制作していた。YouTubeの台頭に、映像が主流になる時代の到来を予感し、会社を立ち上げた。映像制作には多様な表現があるが、えてして音はBGMとして扱われることが多い。それに対して音源からアプローチして映像を制作する河内さんは、異色の存在だ。最初の打ち合わせ前に、自分のカラーを知ってもらうため、粗編集の映像とサンプル音源を送付した。「話の糸口となるものとして音源を用意しました。商品も見ていなかったので、ブランドイメージとしてつくりました」。この時点で動画を出してくることは想定外。それも響いた。音を聞くことで圧倒的な存在感も伝えられた。「素人なので、紙に描かれた台割りを見てもイメージがつかみづらい。これをたたき台にしてどの方向に行くかも決められたので、話もしやすかった」(佳徳さん)。「いちばん欲しいのは、誰も見たことがない映像なので。それを河内さんの得意な手法でどう表現してもらえるのか、というワクワクした気持ちも抱きました」(朋徳さん)
綿密なコミュニケーションを繰り返し、細部までニュアンスを共有。
これまでゴルフの経験はなかった河内さん。この製品を見たときには、隅々まで計算し尽くされた機能性と手に取りたくなるデザインに、未来を感じたという。「まずゴルフを楽しんでもらいたいという愛情があって、革新的な製品をつくられている。このブランドの誕生によってユーザー層を変え、ライフスタイルまで提案できる可能性を感じました」。動画、音楽、そしてストーリーが組み合わさり紡がれる映像は、どう修正して欲しいのか言語化しづらい。そのため河内さんは多くのデモを提出した。「短期間にかなりのパターンを提示していただいて、そのつど音も変わるので、“イメージに近づいた”もしくは“離れた”と答えやすかった」と佳徳さんは振り返る。「映像と音楽がハマったものを次々出されるので、逆に悩ましいほど(笑)」。ためしにつくられた音源を聞かせてもらった。ドライブ感のあるロック、ミニマムなクラブ系、ベースが刻む疾走感。どれも音を聞いているだけで脳内に映像が駆け巡る。
積み重ねた会話のなかで、もやっとしていたことが浮き彫りになることも。音楽は最終的にロックテイストに決まったが、これも用意された音を聞きながら、「ブレないもの」「本当にいいもの」を自分たちが主張したいとき、ふさわしい音楽ってなんだと3人で揉んでいるうちに、ロックにたどり着いたという。「その瞬間、一歩前に進めた手応えがありました」(朋徳さん)。丁寧なディスカッションのなかで、言葉で表現しづらいニュアンスを共有し、伝えたい想いはミニマルに凝縮する。それによりエモーショナルな感情を抱かせる表現が生まれる。「映像という答えのない世界で、一緒に考えて答えを出す。それがプロジェクトの醍醐味だと思っています。その過程が大好きなんです」と河内さん。取材の時点では完成に向けて最後の調整がおこなわれていた。Goldilocksはウェブと実店舗で販売予定で、まもなくこれまでにないブランドの世界観がお披露目される。
株式会社AW
クリエイティブディレクター
河内優氏
ナリーズ株式会社
代表取締役
堀口朋徳氏
代表取締役
堀口佳徳氏
公開:2020年5月11日(月)
取材・文:町田佳子氏
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。