メビック発のコラボレーション事例の紹介

商品訴求力アップによるブランド価値向上
自衛隊用ソックスのカタログ

カタログ
photo:東郷憲志(東郷憲志写真事務所)

出会い
PRに悩む中小企業とセルフプロデュースを模索するクリエイターと

ときに100kmにもおよぶ長距離行軍訓練を敢行する自衛隊。想像を絶するタフな訓練の足元を支えるギアとして隊員に愛用されているのが、有限会社巽繊維工業所が製造・販売するソックス「ガッツマン」だ。
国内有数の靴下の生産地として知られる奈良県橿原市に拠点を構える巽繊維工業所は、確かな品質を誇りながらも、PR力やブランディングに課題を感じていた。そこで企画営業を担当する巽美奈子さんは、メビック扇町で開催された「クライアントから『選ばれる!』プロデュース力アップ講座」(講師:エサキヨシノリさん)に参加。クリエイターと出会い、効果的なPRのノウハウを学ぼうという思いがあった。
同講座に参加していたのが、後にガッツマンのカタログ制作において写真撮影を担当する、フォトリエやるくの北浦栄さん。カメラマンをはじめとしたクリエイターは、クライアントからの仕事に対して「待ち」の姿勢になりがちだ。そこに問題意識を感じ、「仕事を自分から生み出したい。そのヒントがほしい」という思いから、同講座に参加した。そしてもう1人、後にカタログのデザインを担当することになるベリーロールフィルムの谷口慈彦さんも同講座に参加。谷口さんはちょうどこの頃、デザイン会社を退職して独立に向けた準備中だった。フリーランスクリエイターとしての今後を考えるために、エサキさんからセルフプロデュースを学ぼうという思いがあった。
講座中やその後の懇親会では、参加者がお互いの仕事や得意領域、悩み、目標を語り合う場が豊富に設けられた。そのなかでまず、巽さんが北浦さんにカタログ制作に向けた商品撮影を依頼。さらにグラフィックデザインを谷口さんに依頼することになり、三者によるカタログ制作プロジェクトがスタートした。2017年秋のことだった。

セミナー風景
三者が出会ったエサキさんの講座は、継続的に開催されているメビック扇町でも指折りの人気セミナー。多くのクリエイターの活躍を支えている。

制作のプロセス
商品の特性を最大限に引き出すクリエイティブワーク

「クリエイターとのお仕事は初めて」という巽さんにとって、撮影までの流れや費用、写真の良し悪しといった領域は未知の世界。そこで北浦さんは、「どの費用で、どこまで対応できるか」などの料金体系や契約の仕組みを丁寧に説明。それはすなわち、「仕事を自ら生み出す」スタイルへの移行を目指していた北浦さんにとって、セルフプロデュースといえる取り組みでもあった。
「金額に納得がいき、安心して任せることができました」(巽さん)
「予算が限られた中小企業の期待に応えるために、自分が何をすべきか、何ができるかを考えることができました」(北浦さん)
撮影時に巽さんがこだわったのは、「1本1本の繊維の強さを表現したい」というポイント。これは、商品の特性であるタフさを示すためだ。そこで北浦さんは、さまざまなライティングを駆使して撮影を実施。光の当て方による商品の見え方の違いを示しながら、ベストなものを選んでいった。北浦さんはこのプロセスも、「クライアントのために自分ができること」のひとつだと考えていた。
写真の仕上がり後は、谷口さんの出番。谷口さんは、「写真の力を活かし切り、なおかつしっかりと文字による情報を伝えること」に心を配ってデザインを行った。三者がしっかりとコミュニケーションを図りながら制作を進めたことが印象的だったと谷口さんは振り返る。そうして迎えた2017年12月末、ガッツマンの新たなカタログは完成した。

工場内の様子
巽繊維工業所の創業は昭和3年。近年は産官学連携による製品開発など、新たな取り組みを積極的に進めている。

こだわりが生んだ成果
カタログが一人で営業を始めた

巽さんは完成したカタログを、さっそく、既存のすべての取引先に配布した。「お客様からは、『糸の強さがひと目でわかる。実物を見ながら詳しい話が聞きたい』というお声をたくさんいただきました。カタログが一人で営業してくれているんです」(巽さん)
また、ガッツマンの取扱店舗である自衛隊駐屯地内の売店では、カタログを店頭に設置してくれるケースが大幅に増えた。これは、思わず手に取りたくなるスタイリッシュな表紙がもたらした効果と言えるだろう。「靴下のカタログでありながら、靴下を表紙に出さない」というクリエイターの発想力が生み出した効果だ。
巽繊維工業所の社内でも効果が生まれている。「当初はカタログ制作に予算を割くことに、懐疑的な声がありました。ところが、完成品の出来栄えやお客様からの反響を見て、『値打ちがあるものだ』という声に変わってきたんです。PR力強化に取り組むことに、社内が前向きになってくれました」(巽さん)

ランニングソックス
マラソン市場への参入を目指して開発中のランニングソックス。市民ランナーの意見が開発に取り入れられている。

これからのこと
「タフな靴下」市場の開拓に挑む

この声を受けて、「じゃあ次は、僕の主業務である動画を作りましょう」と言って笑うのは谷口さん。実は三者のあいだでは、動画によるプロモーションも既に視野に入っているとのことだ。巽さんも、「動画は敷居が高いと思っていました。でも、きちんとした作り方をすれば、費用に見合う成果物を生み出せることがわかった今となっては、チャレンジする価値が十分にあると思っています」と語る。
北浦さんは今回のプロジェクトを通して、「クライアントのために自分ができること」を深く考えるようになったという。
撮影にプラスアルファした部分で、自分らしさを出さないとお客様に選んでもらえない。そのヒントを得ることができました」(北浦さん)
巽さんは、ガッツマンを足がかりに、「タフな靴下」市場を開拓しようと考えている。具体的には、ハードワークやサバイバルゲーム、そしてランニングといった市場だ。「そのためにも、さらなるPRは不可欠です。今回のメンバーをはじめ、クリエイターの皆さんの力を今以上に貸していただきたいと考えています」(巽さん)

プロジェクトメンバー

有限会社巽繊維工業所

巽美奈子氏

http://choku.co.jp/

Fotolie Yalk

フォトグラファー(写進化)
北浦栄氏

http://www.yalk.jp/

belly roll film

デザイナー
谷口慈彦氏

http://bellyrollfilm.com/

公開:2018年5月22日(火)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。