メビック発のコラボレーション事例の紹介

特産品で共鳴する、生産者とデザイナー
特産品のパッケージデザイン

まるごとみかんラスク

和歌山産にも負けない味と伝統
地元特産「和泉みかん」への想い

関西で「みかんの産地は」と聞かれれば、「和歌山・有田」と答える人が大多数のはず。実は、大阪にもみかんを栽培する地域があることは、現在あまり知られていない。和歌山に程近い、和泉で採れる「和泉みかん」がそれだ。戦前には大阪・和泉は全国でも有数のみかんの産地として知られ、当時の生産額はなんと和歌山に次いで2位だったという。そんな地元の特産品に募らせる市民の愛情は強く、みかんの生産者等で組織された農業法人「いずみの里」代表・岡田雅子さんもその1人。「甘いみかんが好きな方には糖度の高い『有田みかん』が人気でしょうが、私たちが好んで食べるのはやっぱり『和泉みかん』なんですね。『有田』に比べるとちょっと酸っぱいですが、甘味と酸味のバランスが良く、味がはっきりとしていて美味しい」と顔をほころばせた。

「和泉みかん」の美味しさを1日でも長く
1人でも多くの人に味わってもらうために

ただ、どれほど美味しくて、どんなに好きであろうとも、温州みかんには旬が付き物。「和泉みかん」の収穫最盛期は12月。完熟状態で収穫してから貯蔵し、酸味を押さえて甘みが増す2月~3月頃に出荷するのが一般的だ。「『和泉みかん』を一年中味わえるようにしたいなぁと、先代社長は常々口にしていました。生産額が低迷し、廃棄が出るのも勿体ない。『和泉みかん』をもっとアピールしたいと感じていたところ、みかんを皮ごとペースト状に加工するお話をいただいて。それまでにもみかんジャムは手仕事で作っていましたが、今度はみかん餡で和菓子を作って食べようかなんて話になり、ひとまずみかんペーストを作っていただくことにしたんです。みかんペーストからまずドレッシングが誕生し、その後も加工品が少しずつ増えていきました」。いわゆる“六次産業化”に当たるこうした試みによって、「いずみの里」と地元和泉市や大阪府泉州農と緑の総合事務所、地元の加工業者等とがネットワーク*1を育むに至った。「加工品に用いるみかんペーストは冷凍保存できて便利ですが、かさばるのが難点。そこで提案されたのが、フリーズドライでした。ペーストに比べて量は半減。今度はみかんパウダーを作る予定が、試作段階のフリーズドライされた輪切りみかんを見た関係者一同『これ、おもしろいじゃない!』。こうして生まれたのが、新商品の『みかんラスク』です」

新商品の売れ行きを左右するパッケージ
満を持してプロの力を借りる決断!

いずみの里ではこれまでにもいくつかの加工品の製造・販売を行ってきたが、常々感じていたのが「私たちはみかんや加工品を作るプロではあっても、パッケージなどのデザイン面はどうも苦手」だということ。しかし、パッケージは商品の“顔”。分かりつつもこれまではデザインに予算を割くことができずにいたが、今回の「みかんラスク」に関しては、大阪府6次産業化ネットワーク活動交付金を活用して商品化を目指していたこともあり、ネットワークメンバーで話し合い、プロのパッケージデザイナーに依頼することを決意した。メビック扇町のイベント等を通じてさまざまなクリエイターと面識のある大阪府中部農と緑の総合事務所 所長の諸岡充さんに「どなたか良いデザイナーを」と相談を持ちかけたのが、大阪府の6次産業化担当の尾上律子さん。諸岡さんは以前に参加したメビック扇町の周年イベントで出会ったパッケージデザイナーの三原美奈子さんを紹介し、今回のコラボレーションへと繋がった。

いずみの里の商品

生産者の想いと商品特長が上手にマッチ
魅力的な“顔”をした新商品に高まる期待

「何度も打ち合わせを重ねた」という岡田さんと三原さん。「岡田さんの要望を引き出し、商品の特長などを考慮した上で、パッケージの素材や形状を絞っていきました」。複数案が提案された中で採用されたのは、みかんラスクが2枚入るオレンジ色のギフトボックスを、商品ロゴや和泉みかんのキャラクターなどがデザインされた掛け紙で包むパッケージだ。ちょこんとリボンもあしらうことで、さらに付加価値を高めた。手の込んだ見た目とは裏腹に、コストは驚くほど控えめだ。「限られた予算内でロットも抑えてのご提案でした。無駄を極力省くため、いずみの里がこれまで自分たちの手でパッケージを作っていた頃の資源などは有効に再利用。通販印刷を選択し、包装材料は卸の商店へ直接足を運んで買い付ける、切る・貼るなどの手作業にご協力いただくなど、パッケージデザイナーとしてデザイン面はもちろんのこと製造工程も理解した上でコストを抑える工夫を凝らし、満足いただけるように尽力しました」とは三原さん。「私たちのわがままな要求にいつも丁寧に対応いただいて、三原さんには本当に感謝しています。自分用にはフィルム個装が、親しい方へのお土産用にはボックス入りが選ばれていますね。おかげさまで『みかんラスク』の売れ行きは上々ですよ」と岡田さん。三原さんも「いずみの里のみなさんの想いをカタチにしたい。その一心でしたね。予算やロットが限られる中、難しさと同時に楽しさも味わえました。市の特産品を加工した新商品ということもあり、和泉市も『みかんラスク』のPRに積極的で、コミュニティ新聞に取り上げていただくなど、自分がパッケージデザインを手がけた商品の知名度が徐々に上がっていくのも嬉しいですね。今回のお仕事を機に、六次産業プランナー向け勉強会の講師を依頼されるなど、私自身の“幅”も広がりました」と語った。生産者とデザイナー。立場は違えども、商品の持つ魅力を1人でも多くのお客様に届けたいという想いは同じ。彼らが共鳴したとき、商品力はより一層強く、高まるということを、今回、あらためて実証する好事例となった。

尾上律子氏、岡田雅子氏、三原美奈子氏
左から 尾上律子氏(大阪府環境農林水産部流通対策室)、岡田雅子氏(農業法人いずみの里)、三原美奈子氏(三原美奈子デザイン)

大阪府環境農林水産部流通対策室

尾上律子氏

http://www.pref.osaka.lg.jp/ryutai/

農業法人いずみの里

岡田雅子氏

http://izuminosato.fem.jp/

三原美奈子デザイン

三原美奈子氏

http://miharadesign.com/

公開:2016年5月26日(木)
取材・文:西村ゆきこ氏
取材班:野村いずみ氏(有限会社山添

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。