メビック発のコラボレーション事例の紹介

シャクヤク園に、灯りと憩いを。
公園に新たな魅力を

移動式茶室ライトアップ

初夏のシャクヤク園に、ひと休みできる東屋を
防災用テントに不織布の屋根をつけてアレンジ

全国でも有数という久宝寺緑地の「シャクヤク園」。毎年4月下旬~5月にかけて、2300m²の敷地内に45種類、およそ1500株以上のシャクヤクが美しい花を咲かせる。始まりは、1990年に開催された「花の万博」にて、門外不出といわれた熊本の「肥後六花」のうちのシャクヤクが初めて県外に寄付され、博覧会閉幕後に久宝寺緑地が譲り受けたこと。2010年より、公園全体の管理を行っているのが、株式会社美交工業だ。同社の福田久美子さんは2015年よりクリエイターと積極的にコラボすることで、シャクヤク園に「灯り」と「憩い」をもたらし、その魅力と存在感をアップさせた。

憩いの場

日差しが強い時期に公開されるシャクヤク園。ところが、来園者が休憩できるような東屋は設置されていなかった。そこで、福田さんが専門家のアイデアを募ろうと、メビック扇町のクリエイター募集プレゼンに参加。そこで出会ったのが、PARK Lab.の井上真彦さんだったという。
ヒントになったのは、久宝寺緑地が防災公園であること。井上さんと話し合い、防災用のテント3張を活用することに決定。屋根部分に日除けシェードとして、カラフルな不織布のロールを巻き付けることに。白をベースに、オレンジ、ブルー、グリーンの3色をそれぞれアクセントカラーとした。それぞれに巻き方も変え、カラフルな東屋は花を愛でる人たちの憩いの場に。不織布のすき間から、空や木々の緑が見える様子も好評を博した。

「テントのフレームを使うことで、予算の削減にもなりますし、防災公園であるという発信にもなる。耐久性のある素材をあれこれ探したところ、屋外で使える不織布というのを見つけたので、事前に1カ月持つかどうかをテストしたうえで採用しました。Park Lab.の4人のメンバーで話し合い、10色のなかからどの色を選ぶかや、巻き付け方もあれこれ工夫して。設営と開園期間終了後の撤去も、4人が交代で現地に赴き、公園のスタッフの方にも協力いただきながら行いました」(井上さん)

憩いの場

シャクヤクの夜の表情を灯りで美しく照らし、ユニークな移動式茶室で文化の香りを運んで

また、メビック扇町のイベントに酒井コウジさんが登場したことがきっかけとなり、酒井さんが設計した「移動式茶室」に福田さんが関心を持ち、シャクヤク園で1日限定の茶会を開催することに。さらに、酒井さんの提案で、長町志穂さんプロデュースによる「ナイトウイーク」と銘打った夜間のライトアップも決定。予算を抑えるため、植樹用の支柱をライトアップに活用するなどの工夫も。通常、花壇の場合は上からライトを照らすのが一般的だが、長町さんが現場で調整を進めていたところ、ふと、シャクヤクを下から照らしたときの立体的な効果に気付いたという。
「当初は、シャクヤクを上から照らそうと思っていました。バラなど葉が透けない花は一般的にそういったライティングです。でも、シャクヤクはすごく花も葉も薄いんです。地面に置いたライトからの光で1m以上もある花や葉が群となって透けるダイナミックな様子に驚きました。今回の仕事で、私自身も“花や葉の透過性”という新たな視点を得ることができました。高さのある花を、コロボックルの視点で下から狙っていく、というのでしょうか。非常におもしろかったし、花の特性に応じたライティングという、今後の仕事にも生かせると思いましたね」(長町さん)
「移動式茶室」を使ったイベント当日は、お天気にも恵まれ、絶好の野点日和となった。酒井さんも朝から園に詰め、夕方の撤収まで現場で過ごしたという。青空に映える真っ赤な茶室が2時間足らずで組み立てられ、シャクヤク園に出現。咲き誇る満開のシャクヤクとともに、来場者の注目を集めた。

移動式茶室

クリエイターが持ち場で力を発揮するためには、依頼者との深い信頼関係がモチベーションに

コラボレーションがスムーズに進んだ背景には、関わったスタッフ全員の労力や手間を惜しまない姿勢、そして福田さんがシャクヤクの管理を充実させて品種を増やし、畑を増やすなど園そのものを改革していたことも大きかったという。
「照明、東屋、茶室が映える状況というのが、あらかじめできあがっていた。単に『どうにかしてください』というのではなくて、福田さんの熱意とプロデュース力があったからこそ、限られた予算と条件のなかでも、我々がそれぞれの力を発揮できたし、スムーズに仕事ができたのではないでしょうか」(酒井さん)
「今回、メビック扇町を通して多彩なジャンルのクリエイターさんとつながることができ、私たち美交のスタッフも大いに刺激を受けました。身近なものや、もともとあるものを活用することで、こんなに変わるんだっていう。もともと、シャクヤクは“園芸”というよりは、“文化”という視点で語られることが多い花。そういった背景も意識しつつ、今後もクリエイターさんと一緒にさまざまな趣向で魅力を発信していきたいですね」(福田さん)
今後は有機野菜やこだわりの加工品を販売するマルシェなど、久宝寺緑地全体を盛り上げていく、さまざまな試みを考えているという福田さん。公園という万人にとって開かれた場には、まだまだ無限の可能性が秘められている。シャクヤク園を彩る灯りや憩いの場もよりよく進化し続け、私たちの美や安らぎを求める気持ちに応えてくれることだろう。

酒井コウジ氏、福田久美子氏、長町志穂氏、井上真彦氏
左から 酒井コウジ氏(siesta-international-associates一級建築士事務所)、福田久美子氏(株式会社美交工業)、長町志穂氏(株式会社 LEM空間工房)、井上真彦氏(PARK Lab.)

siesta-international-associates一級建築士事務所

所長
酒井コウジ氏

http://www.sia-furniture.com/

株式会社美交工業

専務取締役
福田久美子氏

http://www.bikoh.biz/

株式会社 LEM空間工房

代表取締役
長町志穂氏

http://www.lem-design.com/

PARK Lab.

井上真彦氏

http://park-lab.com/

公開:2016年05月30日(月)
取材・文:野崎泉氏(underson
取材班:鷺本晴香氏(株式会社Meta-Design-Development

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。