ゼロから独立したWebデザイナーの“人とのつながり”の作り方
クリエイティブサロン Vol.92 瀬口理恵氏

92回目となるクリエイティブサロンのゲストスピーカーは、Webデザイナーとして活躍する瀬口理恵氏。高校時代にWebデザイナーを志してから16年。紆余曲折を経て独立し、5年目を迎えた2015年には著書『人を惹きつける美しいウェブサイトの作り方』(SBクリエイティブ)を上梓した。独立したきっかけを「軽い気持ちでした」とざっくばらんに語る瀬口氏。しかしそんな言葉とは裏腹に、彼女の半生はバイタリティに満ちあふれたものだった。独立してからの仕事の取り組みを赤裸々に語る。

瀬口理恵氏

15歳ですでに「Webデザイナーになる」と決めていた

Webの虜になったのは15歳の頃。「検索画面に好きな言葉を入力すると、情報がバッと出てくるのに感動しましたね」。高校合格のお祝いに買ってもらったパソコンでさまざまなホームページを夢中で見て回った。そのうちに刺激を受けて、無料のウェブサイト提供スペースを駆使して自作のホームページを作成。「授業中なのにHTMLのタグ指定を見ていた女子高生でした(笑)」。作り始めたらとことんこだわりたくなる性分。「ペイントで絵を描いてアップしたり、独学でサイトをパワーアップさせて楽しんでいました。このときにはもう『Webデザイナーになる!』と決めていました」

高校卒業後は、迷うことなくコンピューターの専門学校へ進学。卒業後は電気機器メーカーに就職し、プリクラ機に導入されるスタンプやフレームのデザイン製作などにたずさわる。その後、制作会社やゲーム会社、携帯電話会社など企業を転々とし、Webデザインのスキルを積んだ。その数、なんと10社!

10社を転々と渡り歩いて「よし、独立してみよう!」

なかでも印象的だったと話すのは、知人が設立した会社の設立メンバーになったときのこと。「Web部署のリーダーを任されたんですが、『いつか独立したい』という気持ちが芽生えた頃だったので、会社をゼロから作るところをそばで見させてもらえてすごく勉強になりました。でもたった1年で倒産してしまい、会社が簡単になくなるのもそばで見て、『起業って大変』と怖くもなりました」

その後大手メーカーに就職するも、走り続ける毎日にある日ポキッと気持ちが折れた。「ここでは唯一Webではなく、携帯電話のメニュー画面にあるアイコンをひたすら作っていました。パーツやUIのデザイン製作にたずさわったんですが、回りは高いスキルを持つデザイナーばかり。なかなか追いつけない自分に嫌気がさして、もうITの仕事は辞めようと思いました」。擦り切れた心を抱えて退職したものの、気がつけば家でもパソコンを触っている自分がいた。「やっぱり仕事をするならWeb関係だと改めて感じました」

4カ月間のニート生活を脱出し、広告代理店に就職。ディレクターを任されて、自信を取り戻した。そして、この会社が働き始めて10社目でもあった。「キリがいいから独立してみよう! と(笑)。軽い気持ちでした」というが、7年間、10社で得た自信とスキルは十分だった。

ウェブサイトトップページ
5DG ウェブサイト

意識して築き上げた多くの人とのつながり

ほぼゼロからスタートを切った瀬口氏がまず大事にしたのは人とのつながりを作ること。その方法として、さまざまなイベントに運んだ。「とにかくITイベントに行って、まず名刺交換をする。初年度は名刺を600枚ぐらいもらいましたね。誰一人知り合いがいない状態でも、ひとりで突っ込んで行きました」。参加したイベントは、セミナーから勉強会、異業種交流会、IT飲み会までさまざま。

もともと人見知りしない性格。好奇心旺盛なのも手伝って、たとえ仕事に直結しない場でも人とのつながりは一気に広がった。「いろんな方が来るので、普通に『どんな仕事してるんやろう?』と話を聞きたくなるんです。中には異業種の方もいるので、そこでマッチングすることもあります」。イベントが終われば必ずSNSやメールを通じてお礼のメッセージを送るのも忘れなかった。「仕事に発展しそうな予感がしたときは『会社に遊びに行かせてください』と一文添えて、実際に訪問させてもらうこともありました。私としてはイベント自体を楽しんでいるだけなんですが、それがおのずと営業につながっていたのかも」

著書の表紙
『人を惹きつける美しいウェブサイトの作り方』(SBクリエイティブ)

WordPressユーザーのコミュニティに参加したことが転機に

転機は、WordPressユーザーのための地域ソーシャルコミュニティに参加し始めた2011年。「WordPressは地域ごとにコミュニティがあり、定期的に趣向を凝らした勉強会が開かれているんです。その会で知り合った方々と交流を持てたのは大きかったですね」。きっかけは、WordPressの公式イベント、「WordCamp Fukuoka 2011」に参加したこと。その後に誘いを受けて、「WordCamp KOBE 2011」の実行委員を任された。2012年には実行委員長として「WordCamp Osaka 2012」を手がけ、900人を動員。2014年からは関西が統合して「WordCamp Kansai」と名を変え、規模も大きくなった。「WordPressはオープンソースなので、普及に貢献するというコンセプトのため、売り上げに直結するというものではないですが、友だちや知人がぐっと増えたり、その繋がりからお仕事の相談があったり、おまけがたくさんついてきます」

楽しみながら顔を突っ込むと何かが生まれる

2015年に著書『人を惹きつける美しいウェブサイトの作り方』を出版したのも、WordPressのイベントで『WordPressの教科書』を出版している会社の方たちと出会えたからこそ。このたび中国でも本の発売が決定し「ついに世界デビューや!と喜んでいます」と笑顔がこぼれる。

昨年は執筆活動に追われたが、Webデザイナーとしても順調に歩みを進めている。仕事の窓口として活躍する自社Webサイトは、瀬口氏の大好きなピンクをふんだんに使った女性らしいキュートなデザイン。ビューティーサロンや女性向けアパレルブランドはもちろんのこと、企業系、教育系、工業系の企業サイトなどマルチにデザインする。

多忙な今でも人とのつながりを作ることは欠かさない。そのひとつが、Ustreamで隔週火曜に放送中の「rie’s Cafébar」。パーソナリティーとして、毎回数珠つなぎでさまざまな職業のゲストを招いてトークしている。「6年弱は放送しているので、放送回数は90回を超えました。お会いしたゲストも100人以上。定期的に新しい出会いがあるので刺激になりますね。初対面の方でも『パソコンの中で会ったことがあります』と言ってもらえることもあります(笑)」
「何にでも顔を突っ込んでいたらおもしろいですよ」。ユニークでなんでもオープンに話す瀬口氏の弾ける笑顔と気取らない性格に、人は惹きつけられる。

会場風景

イベント概要

Webと共に歩んだ半生
クリエイティブサロン Vol.92 瀬口理恵氏

高校生の頃にWebデザイナーを志し、プロになり、合わせて16年ほど経ちました。ほぼ私の半生はWebについて考えていたことになります。今までどのように仕事をしてきたのか、成功談や失敗談を交えオープンに話していければと思っています。独立してからの取り組み方、デザインへの考え方、最近では本の出版にまつわるあれこれなども語ります。

開催日:2015年12月15日(火)

瀬口理恵氏(せぐち りえ)

5DG-Five Dimension Graphics

1983年大阪生まれ。5DG-Five Dimension Graphics-代表。デジタルハリウッド大阪校講師。約7年間制作会社などでウェブデザイナー、ディレクターとして過ごし、2010年に独立。ウェブサイト制作、アプリUIデザインなどを手がける。女性向けデザインが得意。
隔週火曜のUstream番組「rie’sCafebar」パーソナリティーとして放送中。著書『人を惹きつける美しいウェブサイトの作り方』(SBクリエイティブ)。

https://5dg.biz/

瀬口理恵氏

公開:
取材・文:中野純子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。