予想を超えた展開が起こる、だからおもしろい
クリエイティブサロン Vol.85 和田武大氏

「デザインヒーロー」なる屋号で、1年前に独立した和田武大氏。デザイン都市・神戸の拠点である「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)」に関わったことが転機となり、まちづくりや教育、福祉といった社会が抱えるさまざまな課題を、デザインの力でサポートする機会が増えたという。いわゆる商業デザインではなく、自分が暮らす地域社会と街の人々をも巻き込みながら、そこで起こる「こと」そのものに関わること――そのなかで得た気付きについてお話しいただいた。

和田武大氏

デザイナーとしての転機となった、「ちびっこうべ」

独立後に手掛けた仕事を改めて振り返ったところ、半数近くが何らかの社会的な課題に対し、デザインの力で働きかけるという仕事だったという和田氏。しかし、以前からコミュニティデザインやソーシャルデザインに関心があったわけではなく、そういった言葉を意識することすらなかったそう。

転機となったのは、「KIITO*1」主催の「ちびっこうべ*2」というイベントに関わったことだった。過去2回の開催では、デザイナーチームのリーダーとして、多岐にわたって活躍した。

「子どもたちに『デザイン』を伝えていく中で、大人が思っている以上に、子どもたちっていろんなことを吸収するんだなあ、と感銘を受けて。ちょっとしたヒントをひとつ出してみたら、みんながどんどんアイデアを出して、広げていく。絵の上手な子がキャラクターを描いて、習字を習っている子が字を書いて……最終的にキャラクターの顔ハメ看板なんかもつくったんですよ。イベント当日には、子どもたち自身がタイムセールを考えたり、ご試食どうですか?って会場をまわったりとか……こちらが考えていたこと以上の展開が自然に生まれていくことに、ものすごい刺激を受けましたね」

ちびっこうべワークショップの様子
ワークショップの様子

「ちびっこうべをはじめ、KIITOの様々なプロジェクトに関わりだしたことで、デザインによって社会にある何らかの課題を解決するという方向へ目が向くようになりました」

ちびっこうべイベント会場の様子
「ちびっこうべ」

“色”で街を元気にする、「美かえるカラフルプロジェクト」

「ちびっこうべ」は子どもたちの創造力を育む“教育”にまつわるプロジェクトだったが、その他にも“まちづくり”や“地域活性化”、“高齢者福祉”など和田氏のフィールドは次第に広がっていく。忙しい合間を縫って、KIITOの「+クリエイティブゼミ*3」にも参加。班のメンバーとともに考え、実現したプランに「美かえるカラフルプロジェクト」がある。

神戸市灘区・中央区にある王子公園から兵庫県立美術館までを結ぶ道は、“ミュージアムロード”と名付けられており、さらなる活性化に対してどのような提案ができるかという“まちづくり”に関わるテーマのゼミに参加。

多くのアイデアが出たなかから、和田氏の班は、兵庫県立美術館の屋上に設置されたオブジェ、「美かえる」に着目。「美かえる」の特徴的なカラーリングを使って街を彩るという提案だった。

その後、事業化された提案は、「美かえるカラフルプロジェクト」として、フラッグ、駅舎ラッピング、ストリートアートなどに発展。6色の色彩が、阪神岩屋駅を拠点に人々の目を楽しませることに。駅舎ラッピングには、子どもたちに「美かえるの友達」を描いてもらい、約60体をデザインしたものをあしらった。このプロジェクトでも、仕掛ける側の思惑をはるかに越える展開が起こったという。

「画家の遠山敦さんと一緒に子どもたちに色を塗ってもらうストリートアートを実施したところ、阪神電鉄の駅員さんもストリートアートに参加したり。そのほか、周辺の飲食店さんが、“美かえるカラー”を使った特別メニューやスイーツを提供するなどの展開も生まれ、街の人を巻き込んだプロジェクトとなりつつあります」

阪神岩屋駅の駅舎ラッピング
「美かえるカラフルプロジェクト」
カッティングシートを貼る子どもたち
“まちづくり”の仕事のひとつ、神戸空港の館内装飾。カッティングシートを貼る作業は、和田氏自らが学生やクリエイターとともに行う。シートを貼るのにルールはなく、用意した素材をその場で考えて貼っていく仕組みに。現場で変化していく余白を残すようにしている。作業もあえて利用客の多い週末などに。季節ごとに愛らしい装飾が施される様子を実際に見てもらうことで、神戸空港が利用客はもちろん、スタッフにも親しみや愛着を持ってもらえる場所になれば……という願いが込められている。

デザインで“きっかけ”をつくる人になれたら

ポスターやフラッグといった「もの」をデザインするのではなく、いま世の中で起こっている「こと」から、全体を見通しながらデザインでできることを考える。「ちびっこうべ」を経験して、「自分の向かう方向」に気付き、歩き出したという和田氏。自分なりの方向性が定まると、不思議にそういう依頼や相談を持ちかけられることが増え、これまで未経験の分野にも手探りで取り組む日々だという。

「お話してきたプロジェクトは、僕ひとりで完結したものは、ひとつもないんです。さまざまな仕事をチームで活動することで、それぞれに役割があっていいんだ、と気付くことができました。ひとつの課題についてもいろんな角度からの視点が得られますし、やはりチームで取り組む魅力というか、強みがあると思うんです」

「以前は、自身で“こと”を起こしていないということにすごくコンプレックスがあったんですが、今はことを起こそうとしている人を手助けすること、加速させる役割っていうのもあるんじゃないかと思っています。 “きっかけの人”でありたい、っていうふうに思うようになりました。今後も、社会のあちこちにデザインの力で“きっかけ”をつくっていけたらいいな……いまは、そう思ってますね」

イベント概要

デザイナーとして、地域や未来のために僕ができること
クリエイティブサロン Vol.85 和田武大氏

1年前に独立して以来、ふと気がつくと、仕事の半数以上が行政関係や福祉、教育にまつわることなど…商業広告ではなく、社会的に意義のある取り組みをよりよく伝える使命を持ったものでした。今も、案件が舞い込むたびに手探りしながら走り続けているところなので、定型の取り組み方や理論は確立しておらず、お話しできることがあるとすれば、「僕はこう思う」「僕は(実際に)こうしている」という事実。
独立までの経緯や環境の変化、仕事を通じて気づいたこと、これから挑戦したい領域やプライベートな活動を通して感じたことなどを、ありのままにお話しようと思います。
また、今回のサロンをきっかけに自身を見つめ直し、今後の活動やビジョンが明らかになるような発見も、あればいいなと思います。

開催日:2015年09月04日(金)

和田武大氏(わだ たけひろ)

DESIGN HERO

グラフィックデザイナー
1982年、神戸生まれ。専門学校卒業後、デザイン制作会社を経て、2014年7月に独立。グラフィックデザインを中心に、市民参加型イベントや教育現場などに活動の場を拡大しつつ、数々の社会的なプロジェクトに関わる。デザインが持つ意味や目的を広く見つめ直して、活動中。2009年からは、大阪デザイナー専門学校の非常勤講師を兼務。

https://www.designhero.jp/

和田武大氏

公開:
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。