大阪市東成区発。クリエイターが地域活動に取組み、見えてきたこと。
クリエイティブサロンVol.67 藤田ツキト氏

一時期、全国各地で推進された市町村合併は、地域のために本当によかったのか。効果があったのだろうか。クリエイティブディレクターの藤田ツキト氏が大阪市東成区で地域活動に奔走して実感したことは、合併しなくても発展できるということ。逆に市町村は独立・解散すべきというユニークな持論を展開する。今回の「クリエイティブサロン」は、藤田氏をゲストに迎え、「めざせ、市町村解散!~まずは大阪市東成区から実践中~」という異色のテーマで話しが進行していった。

藤田ツキト氏

地域活動はボランティアになり過ぎないこと

藤田氏は大学卒業後、デザイン会社勤務やフリーランスを経て、一時期、ニート・主夫を経験。社会復帰のためにリハビリを兼ねて2008年にインスタントカメラマンとしてデビューした。それは使い捨てカメラを片手に大阪市内を自転車で駆け回り、日常の風景を切り取るというユニークな活動だ。自身の写真とアーティストの作品を展示する小さなスペースを中央区の玉造に借り「ツキトギャラリー」をオープン。そこに通うために比較的家賃の安いJR環状線の外側の東成区に住むことになる。それが東成区と関わるきっかけになった。

活動事例紹介の冒頭、まず示したのは「大阪都構想」のこと。藤田氏は構想自体には賛成だが、24区が5区になる合区案には賛成できないという。その理由は最後に話すことになる。
藤田氏が東成区に住居兼事務所を構え、初めて地域活性化の活動に関わったのが『ひがしなり街道玉手箱』というイベントだ。前年まで開催されていた街道フォーラムを発展させ、東成区を東西に貫く暗越奈良街道や商店街を中心に区内のあちこちの会場で小さな催しを開催し、区全体を盛り上げていこうという企画。そのイベントをまとめてほしいと区役所から相談があった。
「それまでも地域のイベントに携わったことがありましたが、運営がボランティアになると長続きしない事例を数多く見てきました。そこで予算の使い方などを、運営体制をある程度、任せてもらえるならとのことで参加させていただきました。区の予算の他に企業から協賛金を募り、その一部でパンフレットも制作しています」
こうして、その年のイベントの企画が始まったが、藤田氏は東成区に引越ししたばかりで、町のことをまだ理解していない状態。前イベントの運営メンバーの思いを十分汲み取れず、協力を得られないというマイナスからのスタートだった。そこで区内外から広く参加者を募り、同時に知り合いにも声をかけるなど試行錯誤しながら準備を進め、無事に開催にこぎつけたが、課題は地元住民を運営に巻き込めなかったこと。その状態では長続きしないと気づき、前身の街道フォーラムの運営者にも徐々に協力を得て、ようやく広がりをみせていった。また、2年目には東成区全域が、ひと目でわかるイベントマップを作成。3年目には区内の11エリアの名称を明記して、開催されているイベントを分かるようにした。
「区内には北中道、中道、東小橋、大成、片江、今里、深江、宝栄、神路、東中本、中本という11のエリアがあります。マップを見るとイベントを開催しているエリアと、開催していないエリアが一目瞭然に分かるので、エリア同士が“競争”そして“共創”する意識が生まれ区全体の盛り上がりにつながると思いました」

「ひがしなり街道玉手箱2014」イベントマップ

孫のような存在だからこそ

ふたつめの活動事例紹介は『町内会活動』。藤田氏が一戸建に引っ越した時、町内会長や副会長が相次いで挨拶に訪れ、ご近所10数軒をとりまとめる班長が町内会費の集金に来られたという。
「町内会費は年間3600円。折角、払ったんだから、もうヨソモノではない。行事に積極的に参加し、地域のことを一緒に考えて発言する権利ができたと思いました。まずは近所の公園で開催されていた、お花見に参加。参加費の1000円では賄えそうもない豪華なお弁当やお菓子、ビールが出され、得した気分になりました。また数年に1回、当番で回ってくる班長になった時、『班長を楽しみにしていました』と言ったところ、『そんなん言う人、初めてやわ』と驚かれました」。
その一方で、若い世代の人たちと『裏町内会』的な発想で、緩やかなコミュニティを形成しつつある。
「僕の住んでいる大成エリアに知り合いが集まれば、自然と楽しい町になると思ったんです。そこで近所に空き物件を見つけてはFacebookに投稿して住みたい人を勝手に募りました。その結果、なぜかイラストレーター、Webデザイナーなど様々なジャンルのクリエイターが集まり、“小さなクリエイタータウン”ができました。そんな仲間たちと一緒に仕事をしたり、今後の町内会活動についても話し合っています」

こうした活動を通じて町内会活動の課題が見えてきたという藤田氏。たとえばマンションの入会率が極端に低いこと。町内会役員の高齢化も大きな課題となっている。
「現在の80代・70代の役員は、若い世代にどんどん意見を言ってほしいと思っておられるはずです。しかし、60代・50代の方々は遠慮があるのか意見を言いにくい雰囲気を感じておられるかもしれません。そこに僕ら30代の新参者が参加したわけです。80代・70代の役員さんから見て孫のような世代の僕たちが少しぐらい辛らつな意見を言っても、耳を貸してくれるんですよ。採用されるかどうかは別ですけどね(笑)」

その他の活動事例では、知人ら3名と企画運営している『スーパー町内会活動を思いつく』も面白い。今年3月には『活動を聞いて、思わずスーパー町内会だなあと言ってしまう活動とは』というお題で大喜利大会を実施。参加者からは「姉妹町内会がある」「参加するとスーパーのポイントがたまる」「役員になると家賃がタダになる」「宇宙に行こうとしている」というユニークな回答が飛び出した。さらに、角川グループが運営する『Walker47』の東成区地域編集長に選ばれ、スマホサイトを通じて東成区の情報を発信していた。

「ひがしなり街道玉手箱2014」開催風景
「ひがしなり街道玉手箱2014」今里新橋通商店街での阿波おどり

町づくりは、人づくりから

こうした東成区の地域活動を通じて藤田氏が見えてきたもの。それは今回のサロンのテーマでもある市町村解散につながる考え方だ。
「僕は日本全国の町を活性化させたいなんてことは考えていません。自分が住んでいる東成区の大成エリアがどんどん盛り上がればいいと思っているだけです。そして大成エリアが発展し、東成区から独立して大成区になれば面白いですよね。合区が前提の○○都構想とは真逆の発想です」

市町村合併は小さな自治体がうまく運営できないから合併するという動きだが、そういう状況に陥る前にやらなければいけないことがあるはずだ。たとえば藤田氏が『ひがしなり街道玉手箱』のマップで示したように、各自治体が“競争”そして“共創”して地域を盛り上げていくのも、ひとつの方法だろう。
「町を育てることは、人を育てることから始まります。僕は『ひがしなり街道玉手箱』の代表を3年目の2014年に辞退して一運営メンバーになりました。僕が代表を10年続けるよりも代表経験者が複数いた方が、いろんな方向に広がりをみせて長続きすると考えたからです。もしイベントが終了しても、地域を盛り上げる人材が増えるはずですよね」
そう語る藤田氏の今後の活動と、東成区に目が離せなくなりそうだ。

イベント風景

イベント概要

めざせ、市町村解散!~まずは大阪市東成区から実践中~
クリエイティブサロン Vol.67 藤田ツキト氏

大阪では◯◯都構想が物議をかもし、日本各地で過疎化が進み市町村合併を繰り返す……。本来個性とアイデアが豊富な大阪人、そして日本人。でも行政や大手企業はそのことを忘れ、いつも個性を失うような事業や施策ばかりを展開します。その結果、大阪や日本には、外から見て魅力的なスポット・個性的な建物・刺激的な人材がどんどん失われています。
市町村合併はもう古い!これからの時代は市町村解放!
もっと小さな単位で、小さな活動から世界に羽ばたける。そんなきっかけになる仕組みづくりの実験を、地域イベントや事業の中で展開している事例をお話します。

開催日:2014年12月3日(水)

藤田ツキト氏(ふじた つきと)

株式会社シカトキノコ代表取締役
クリエイティブディレクター

大阪市平野区生まれ / 兵庫県西宮市育ち / 大阪市東成区在住。
宝塚造形芸術大学を卒業後、大阪のデザイン事務所とフリーランスを経験。
デザインの職を離れ、2008年「インスタントカメラマン」デビュー。
2009~10年 大阪・玉造で「ツキトギャラリー」主宰。2011年「物々交換デザイン シカトキノコ」を立ち上げ 2014年7月28日(なにわの日)に法人化。ご当地から、大阪を、日本を、地球を、変えていきます!

藤田ツキト氏

公開:
取材・文:大橋一心氏(一心事務所)

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。