人生をデザインすることが私の夢。といえば、ちょっとカッコよすぎるでしょうか……
クリエイティブサロン Vol.64 大倉清教氏

今回のゲストは、ケプラデザインスタジオを立ち上げ、オフィスプランニングとデザインを手がける傍ら、「協業工房」を主宰する大倉清教氏。
実際に大倉氏が携わった実例をもとに「はたらき方の変化とこれからのオフィスデザイン」について語っていただいた。時に熱く、時にやさしく温かい言葉で語る大倉氏から、これまでの“オフィス=無機質な空間”というイメージを払拭する興味深いお話を伺うことができた。

大倉清教氏

ケプラデザインスタジオの立ち上げを振り返る

1977年金沢美術工芸大学産業美術学科を卒業後、大手家具メーカーの設計部に入社。以降23年間、オフィスデザイナーからマネージャーとして手腕をふるった大倉氏であった。しかし…。
「家具メーカー時代は多忙を極めて、納得のいくデザインをできることが少なく、メーカーの商品を提案するのが主な仕事でした」
そんな毎日の中、大倉氏は自身の仕事のあり方を考え始める。
「週に数十件の与えられた仕事をこなす日々。心身共に疲労が嵩み、仕事がイヤになりそうでした。お客様の要望には応えられていてもそれは自分が納得できる仕事とは違う。このまま仕事を嫌いになるような人生は送りたくない……」と。
そもそも金沢美大に入ったのは、好きなデザインの仕事で人の役に立ちたいという志があったから。それさえ崩れそうになった時、大倉氏は独立を決心し、退職。
「これからは自分が納得できる仕事を、信頼する人たちと一緒にやりたい」
そんな思いで2001年に立ち上げたのが、ケプラデザインスタジオだ。
「社名の由来は、地球が自らの力で動くという地動説を大成させたドイツの天文学者ケプラーによるもの。地に足をつけ、自分で仕事を追求したいという思いを込め、社名をケプラとしました」

これまで手がけた事例 ―― 要望とその対応 ――

アロン化成株式会社

「研究センター移転の際に依頼を受け、土地選びの段階からプロジェクトに参加しました。場所は埋立地に決まったのですが、ボーリングができなくて、フローティング工法と呼ばれる基礎工法を取り入れました。また、内部の床や壁は三角形のモジュール(交換が容易な構成部分)にしました。これは、増設しやすい点や、私の推奨する120°プラン(人がやさしく相対できる角度)にも適応できるからでした」

株式会社日本政策投資銀行関西支社

「平成20年、日本政策投資銀行が民営化されることになった時、これからはお客様をおもてなしできる銀行にしたいとのご要望を受け、オフィスをプロデュースしました。特にお客様をお迎えする空間に“嘘”があってはいけない、偽物は使いたくないと提言をし、内装は全て天然素材の本物にこだわりました。応接室に人間国宝の作られた博多人形と並んで、私が作った陶器の大皿を飾ってもらっています」

メガソフト株式会社本社

「セクショナリズムとは無縁の会社で、全社員のコミュニケーションを大切にされています。それをふまえ、フリーアドレスという個人の席を固定しないシステムを取り入れています。1ヶ月に1度、社員全員でくじ引きをして席を決めるんですが、部署に関係なく、営業職の方と企画や制作の方が隣同士だったりするんです。しきりもガラス張りで、訪問者にもオープンな環境です。セキュリティは大丈夫ですか?と尋ねたら“盗られるものはないですから”とのお返事に、メガソフトの自信を感じました」

JR西日本・九州

「JR西日本の約1200駅に設置されているホームの待合室を設計した事例です。設置時間の短縮と低コストを実現させるための工法を考えました。効率よく組み立てられるよう、使用する工具は1つ、職人も建具方1人というシンプルな工法です。建材も軽いアルミを使うなど、それまで1基の工期に約1週間かけていた時間を一気に2時間半で施工することで間接経費を圧縮し、それまでかかっていたコストが約3分の1程度になりました。そのほか鉄道関係では、ホームのベンチや車内サービス用のワゴンもデザインしました。これらは、どちらかといえばプロダクトの仕事になりますが、今度JR西日本・九州をご利用の時は、ちょっと思い出してくださいね」

同志社大学工学部 オフィス環境創造システム

「照明環境とはたらき方の関係を研究されています。被験者はヘッドギアを被り、どういう照明の時にどんな脳波が出ているかなどを調べることのできる実験室です。研究者の好きな色に照明を変えられるコードレスのタスクライトを開発し、瞬時に天井や壁の色を変更できるように、天井と壁にフルカラーのLED照明器具を設置しました。また空調環境も個人に合わせて適応できるように、吹き出し口のファンにはアクチュエーターを使った床下空調設備が設置されています。工期が短く、2週間で設計図を描かなければなりませんでした。空調もダイキンさんに頼み、突貫で仕上げてもらいました。この研究にマスコミをはじめ、電力会社や大手家電メーカーなどの企業が注目し、さらに研究が進められています。色々厳しい条件でしたが、快適環境と省エネに貢献できるやりがいのある仕事でした」

Kepla Design Studioウェブサイトの実績ページ
Kepla Design Studioの実績ページ

ケプラデザインスタジオが提唱する3つのデザインコンセプトと協業工房

四次元デザイン

「三次元(ものや空間)のデザインに加え、10年単位の時間軸を組み合わせ、竣工時の設計だけでなく、運用や活用もデザイン分野の一環に統合。まず、取り扱い説明書有りきでそれに沿ってデザインを行っています」

インクルーシブデザイン

「デザインされた空間やものを実際に使うユーザーがそのプロセスに参加していただくのがインクルーシブデザインです。デザイナーは、ユーザーの顔をどれだけ知っているか、気持ちをどれだけ理解しているかが重要。多様なユーザーが自らのライフスタイルに誇りを持ち、周囲や環境と調和した豊かな生活デザインを作り出す社会を目指しています」

クロスオーバーデザイン

「インテリア、プロダクト、グラフィック、情報を含め、あらゆるデザインを融合させたクロスオーバーデザインでトータルなデザインを提唱しています」

そして、このクロスオーバーデザインの延長線上に位置するのが『協業工房』である。
「クリエイターの多くは、自分の分野の仕事はこなすけれど、専門外には目を背けがち。クライアントが欲していること以上のサービスを可能にするには、クリエイターもどんどん外に出て、異業種のクリエイターとコミュニケーションをとり、お互いに協力してネットワークを広げていくことが重要だと思います。これからはそういうはたらき方が主流になる時代です。そのための場として『協業工房』を誕生させました。今では色んなジャンルの人が集まってくれるようになりました。仕事の話だけじゃなく、わいわいと飲みながら雑談していることもありますけど(笑)。でも、そんな雑談こそがアイデアの宝庫。協業する価値があると思います。“人と人とのつながりを感じながら人生をデザインしていきたい”カッコよく言えば、それが私の夢であり、生きている証しでもあるのです」

イベント風景

仕事へのこだわり

今、取り組んでいるのは、青森県と佐賀県の庁舎の設計要件書(プログラミング)である。戦後建てられた庁舎が各地で立替え時期を迎えている。
「新庁舎に立替えるには、職員の方から細かな調査をすることが重要です。どれくらいの人が、どんな部屋を、どんな目的と頻度で使っているのか?それは将来的にも不変なのか、変動なのか?それらの打ち合わせを入念にし、さらにインテリアデザインの視点からスペースの設計要件書を作成するのが私の仕事です。それをもとに設計事務所が建築計画を立てるのです。私のようなスタンスの人間はあまりいないらしく、全国から同じような案件の問い合わせが多く寄せられています」
大倉氏の仕事へのこだわりは、クライアントとの徹底したヒアリングと実態調査。仕事に費やす時間の7割以上をそこにかけるという。
「人と人とのコミュニケーションを何よりも大切にし、納得いくまで話し合います。そのための時間を惜しむことはありません。それがどんなに遠方でもです。飛行機が苦手で陸路を利用しているため、滞在時間より移動に時間がかかってしまうことも度々。移動時間が私の書斎代わりになっています。仕事中毒に罹っているかな?と思うこともありますけど、本当はありがたいことです。通信環境の発達で私の仕事はパソコンがあればどこにいてもできるので、腰を下ろした処が仕事場になります。大阪にいる時も私のホームオフィス以外に、メビック扇町の中の協業工房やグランフロント大阪のナレッジサロンなどを活用しています」
このこだわりと行動力こそが、大倉氏の強みなのだ。

プライベート

東奔西走、実に多忙な日々を送る大倉氏ではあるが、毎週土曜日だけは完全にオフの日と決めている。
「コクヨ時代の仕事は“口”ばかり動かしていたので何か“手”を使う趣味をしたくて15年前から陶芸を始めました。土曜日の午前中は自宅のガーデニング、午後は陶芸と、一日中“土”と戯れています」
陶芸作品は各食器から花器、置物など多岐に亘り、前述の日本政策投資銀行のほか、プロジェクトが完成した際、その依頼先の方々に作品をプレゼントされるとのこと。かなりの腕前と見た。
「土から捏ねてろくろを回し、作品になるまで何工程もあるんですが、最初から最後まで神経を集中させないと、ろくろはうまく回ってくれない。ただね、最近は土が私に語りかけてくれるんです。“今、土を立ち上げるタイミングですよ”とか“今はやさしい力加減で”とか……。なんとなく土の気持ちがわかるようになりました」

物言わぬ土とでさえコミュニケーションを大切にする大倉氏がデザインする空間は、やさしさと温もりに包まれた、居心地の良い空間であることにまちがいないと感じた今回のクリエイティブサロンだった。

大倉清教氏の磁器紹介ページ
ケプラデザインスタジオのウェブサイトで大倉氏の作品を閲覧することが可能。また、仕事を通じて様々な思いが綴られた『ひとりごと』では仕事に立ち止りそうになった時にその求める答えが見つかるかも……

イベント概要

はたらき方の変化とこれからのオフィスデザイン
クリエイティブサロン Vol.64 大倉清教氏

自律した人たちがゆるやかなネットワークで結びつき、必要に応じてチーム編成する仕事のしかたが、注目を集めています。このような「協業」のワークスタイルは、様々な業態のあらゆる場面で認知されており、そこで働く人々の意識と組織の構造に変革を与え、従来にない空間デザインが求められています。
今回は私の仕事を通じて提案する「場」のデザインと、自分自身が試行錯誤しながら実践している協業工房の活動を紹介したいと思います。

開催日:2014年11月10日(月)

大倉清教氏(おおくら きよのり)

大倉清教氏

1977年金沢市立美術工芸大学卒業 同年コクヨ㈱に入社。以来、主に顧客対応の空間デザインに従事するとともに情報武装化推進や戦略的事業企画を兼務するなど、社内外の先進プロジェクトを担当する。2001年にケプラデザインスタジオを設立し、全国からの依頼で空間計画、商品開発や情報活用等を網羅した幅広いデザイン活動を展開し、関西中心の自治体によるデザイン開発の委託事業、大学でデザインの講師等を務める。2011年に協業工房を組織して代表を務め、様々なデザイン分野を統括することで、デザインの活用とネットワークづくりを推進している。

大倉清教氏

公開:2014年12月10日(水)
取材・文:片岡睦子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。