クリエイターがやりたいことをするとこうなりました
クリエイティブビジネスフォーラム - ツムテンカク×メビック扇町

今回のクリエイティブビジネスフォーラムは、ツムテンカク実行委員会によるツムテンカクが生み出してきた効果・事例紹介。ツムテンカクとは、大阪・新世界を舞台に繰り広げられるクリエイターたちの自主イベント。過去4年継続して開催されており、クリエイターの自己発信の場として、さらにクリエイターと企業、団体とのつながりの場として広がりを見せています。そこで、本フォーラムではツムテンカクにかかわったクリエイターの自主的な活動がどのような効果を生んだのか事例を紹介。同日、これまでのツムテンカクの写真やデザインを展示したアーカイブ展も開催されました。

展示風景

これまでの「ツムテンカク」

ツムテンカクが始まったのは2011年のこと。実行委員の藤田剛氏からこれまでの軌跡が紹介されました。「当時の大阪には、クリエイターやデザイナーが作品を発表する場がほとんどありませんでした。『それなら自分たちで作ろう』と企画書を作り、展覧会を無料で開催させてくれる会場を探しました」。そこで名乗りを上げたのが通天閣。この縁がきっかけで、新世界を舞台にイベントを開催することになりました。

ツムテンカク2011(2011年2月5日~13日開催)

最初は手探りの状態だったものの「自分たちのやりたいことを何とかして形にしよう、という思いが根底にありました」。メインイベントとして、コンセプトである“みんなの想いが積み上がる”を形にした紙管のオブジェを通天閣4階の展望フロアに展示。さらに近隣の小学校でワークショップを開催し、シャッター街と化した新世界市場内アーケードを変身させるべく、子供たちと一緒にカラフルなパネルを貼り付けて街を彩る試みも。出展したクリエイターは約60組、9日間かけて16イベントを新世界一帯で開催しました。一方で、運営面では苦労も。「『やりたいこと』を考えてあとから方法や予算を考えるという、やり方としてはめちゃくちゃだったんですが、足りない分は自分たちで動くなり自腹を切るなり、で開催しました」。

ツムテンカク2012(2012年5月25日~27日開催)

2回目は、新世界100周年とリンクしたこともあり、規模を大幅に拡大。出展したクリエイターも400組と大幅に増え、仕掛けたイベントは約30個にも及びました。FM802とコラボした公開収録「新世界音騒動」や、新世界のどこかで蓑虫がぶら下がる「蓑虫なう」といった展示型イベント、タマノイ酢株式会社とコラボした参加型イベント、新世界の穴場でおいしい店を紹介する巡回飲み歩きイベント「ジルバル」など、街と密接にかかわるイベントも。「自分たちの許容範囲を超えてでも風呂敷を広げて盛り上げよう、と。どこで何が起こっているのか分からないほどの状況で」と藤田氏。実行委員会側としては管理に苦戦したといいますが、「回りからの評価を聞くと、『2012年の混沌さがおもしろかった』と言われます」

展示風景

ツムテンカク2013(2013年5月25日~26日)

クオリティの高さにこだわり始めたのが3回目。「2012年に、風呂敷を広げていろんなイベントをやったものの、クオリティとしての部分はどうだったのか。大阪のクリエイティブやデザインの素養を上げたいというのがこのイベントの目的のひとつ。2013年はお金をかけてでも著名なアーティストを呼ぼうと考えました」。明和電機のパフォーマンスライブ「明和電機事業報告ショー」、特殊メイク・造形家の仲谷進氏を招いての「ゾンビ・メイクルーム」など、著名人によるこれまでにないイベントがお目見え。さらに出展作品も公募制にし、クオリティが高くおもしろいものを選定したといいます。出展したクリエイターは約200組、さらに新聞やテレビなど28メディアに紹介されるなど、イベント自体が次第に研ぎ澄まされてきた印象を受けます。

ツムテンカクEX.2014(2014年5月25日~26日)

この頃になり、「基本的に、ツムテンカクの開催は2年に一度にしようと方向性が固まったので『EX』として開催しました」と藤田氏。しかし、その間の年も何もしないわけではありません。「間の年は、僕らが本当にやりたいことを実験の場としてやるタイミング。翌年の本番につなげるための“育てる”年にしようと考えました」と語ります。ツムテンカクEX.2014はコンテスト形式で開催。有名アーティストに審査員になってもらい、受賞作品が「ツムテンカク2015」に出展できるというスタイルに。「先を見据えてやらないといけない。ツムテンカクは、続けていきたいという気持ちと、続けていかなあかんという気持ちが半々ですね。基本ボランティアなので、出展するクリエイターは大阪を盛り上げたいという気持ちと、ここで自己表現がしたい、その中でつながりを作りたいという気持ちでやっています。とくに実行委員としてかかわっている人は何かしら自分たちでメリットを見出しているのかなと思います」

「ツムテンカク」が生み出してきた効果・事例紹介

過去4回開催されたツムテンカクにかかわったクリエイター、企業、6組8名が、ツムテンカクに参加したことでどのようなつながりが生まれたか、どんな効果が生まれたのかをそれぞれが実体験を元に事例を紹介しました。

パネリスト(五十音順)

  • 山田敬宏氏(株式会社リプル・エフェクト / プロダクトデザイナー)
  • 高橋輝明氏(オーバーデザイン / ファッションデザイナー)
  • 花岡洋一氏(株式会社人間 / ボケるディレクター)
  • 仲谷進氏(特殊メイク / 造形家)×和田ちさと氏(ギア / ダンサー)
  • 佐々木航大氏(大阪芸術大学)
  • 森山正信氏(森山写真事務所 / フォトグラファー)×山下智恵氏(株式会社エンツギウム)
イベント風景

ツムテンカクは「現状から抜け出す斬新な手法」
【クリエイター×企業】山田敬宏氏(株式会社リプル・エフェクト / プロダクトデザイナー)

工業デザイナー・製品デザインプロデューサーである山田氏は現在、錦城護謨株式会社の製品デザインを担当。そのはじまりとなったのが、ツムテンカク2013で出展された「ホドウクンマチアート」。「ホドウクンマチアート」とは、視覚障がい者歩行誘導路として開発されたソフトマット「歩導くん」と、ツムテンカクがコラボしたアート作品のこと。展示会で「歩導くん」を見た実行委員と、デザイン賞を見据えた製品づくりやメディアに取り上げられる可能性、使用した人の意見を実際に聞ける場所を求めていた錦城護謨株式会社との間で考えや希望が合致。「ただ単に並べるだけでなく、アートなドット文字を書いたらおもしろいのでは」というアイデアから「ホドウクンマチアート」に繋がりました。企業とツムテンカクのコラボレーションはこうして始動。その後もかかわりは続いています。「企業さん単独ではできなかった新しい側面、チャレンジを一緒にやらせていただいています」と山田氏。「ツムテンカクは、現状から抜け出す斬新な手法。このイベントには達成感だけじゃなく、企業やクリエイターすべての方が、自分とは違う業界の方と知り合うとても大きなチャンスがあります。名刺交換会といった顔合わせより、もっと濃厚で深いかかわりが生まれる場所。そのぶん、相当アグレッシブでギラギラとした人ばかり集まっています。これほどのイベントはほかにないですね」

山田敬宏氏のプレゼンテーション

街全体の盛り上がりを見て、開催する意義を肌で感じる
【クリエイター×地域】高橋輝明氏(オーバーデザイン / ファッションデザイナー)

衣装やスタイリングをメインに活動しつつ、新世界の豹柄専門婦人服店『なにわ小町』、ふんどしブランド『御褌』を展開する高橋氏からは「地域に密着した活動」について語られました。「初回は9日間という長いスパンでしたが、もっと年間を通して密着した街づくりをするには拠点が必要だと感じました」。ちなみに高橋氏のお母様の仕事は、浴衣の着付け。「母親がツムテンカクに興味を持ち、新世界市場でやっていたアート&フードマーケットに遊びに来たんですが、『私もこういう場所で浴衣の着付けをやりたい』と。新世界のレトロな雰囲気が気に入ったようでした」。高橋氏とお母様の要望が一致し、新世界市場に『なにわ小町』をオープン。1階が服飾を扱う店舗、2・3階をツムテンカク事務局にし、より新世界に密着した活動が実現しました。「デザインの楽しさを年齢やジャンルという壁を超えて多くの人と共有できたらと思っていたので、年齢が離れている母親に共感してもらえたのがすごくうれしかった」と話します。今や『なにわ小町』は、お母様が仕入れる豹柄婦人服や浴衣、高橋氏が手がけるふんどしなどを販売する、地域の特色を生かした“THE大阪”の店に進化。「僕は通年、新世界で活動していて『いいな』と思うのが、ツムテンカクにたずさわった人たちが街を気に入り、シャッター街だった場所に店をオープンしたり継続的に企画、発信するようになったこと。4年間、街を見続けてきましたが、すごく盛り上がってきている。ツムテンカクをやる意味、意義があると肌で感じています」

高橋輝明氏のプレゼンテーション

発表の場が減りつつある関西で数少ない実験できる発表の場
【クリエイター×実験場】花岡洋一氏(株式会社人間 / ボケるディレクター)

株式会社人間とは、ウェブサイト制作をはじめ、鼻毛通告代理サービス「チョロリ」、“ス”の形をした椅子「スイス」など、“面白くて変なこと”を展開するクリエイティブ制作会社。「うちは実験的なことをやりたい会社でもあるし、個人的にも作品を発表したいと考えていました」と2012年から実行委員として参加。アーティストブッキングや公式ウェブ制作など運営に力を注いだといいます。「当時はブランディングとして色がそんなにありませんでした。どうすれば集客できるのかをビジュアル面で考えた時に、にぎやかさや、多少の大阪っぽさなのかな、と。コンテンツ自体『オバチャーン』もありましたし、新世界という土地柄もあり、カラフルなビジュアルを心がけました」。2013年はクリエイターと運営を両立させたいという思いから、運営面に力を注ぐ一方でアーティストとして『フラレタリウム』を開催。実験の場をさらに広げるべく2014年は『まちなかハプニング謎解きゲーム 博士の異常なモテモテ人体実験』を実施。「街なかでしかできないことをやった結果、次の仕事につながりました」。花岡氏が手がけた謎ときゲームは2014年8月に道頓堀一体で開催されたイベントへとつながります。「実験的な作品を形にし、それが次の仕事につながったのはクリエイターとして一番の喜び。ツムテンカクでおもしろいこと、やりたいなら、意外と自由にできます」

花岡洋一氏のプレゼンテーション

ツムテンカクでのパフォーマンスが次につながる
【クリエイター×クリエイター】仲谷進氏(特殊メイク / 造形家)×和田ちさと氏(ギア / ダンサー)

エンターテインメントショー「ギア」のダンサー・和田氏と、特殊メイクで造形家の仲谷氏が2013年にコラボした「ゾンビアワー」。100人のゾンビがどこからともなく集まり、一斉にスリラーを踊り出すというインパクトは、ヤフーのトップニュースになるなど大きな話題になりました。このパフォーマンスは和田氏のアイデアがきっかけで生まれたといいます。「ニューヨークで演劇留学をしたときに感じたのが、西洋の演劇は社会や作家の経験から生まれる作品が多いということ。私もそんなプロデュースをやりたいと考えていました」と和田氏。一方、仲谷氏は2012年の開催後にツムテンカクを知り、「参加したかった」と思っていたところに2013年にお誘いが。和田氏のイメージするパフォーマンスと仲谷氏の特殊メイクが見事にマッチし、コラボにこぎつけました。
仲谷氏は「100人のゾンビを作るのはひとりではできないので、学生さんを手配してもらって短時間で100人仕上げることができました」とふり返ります。和田氏も「ダンスの練習時間がほぼなかったので、ぶっつけ本番。仲谷さんにゾンビのメイクをしていただけたおかげでビジュアルにインパクトがあり、多少踊れていなくても大丈夫でした(笑)」と感想を話しました。「数が多ければ多いほど迫力があるし、ゾンビが新世界の空気に溶け込んだのもよかった(仲谷氏)」
ツムテンカクがきっかけで、今年の10月25日にくずはモールなど3カ所、10月31日にはグランフロント大阪のウメキタフロアでも開催決定。「ツムテンカクから仕事に発展したいい例なのではないかと思います。私たちは普段、劇場の中でパフォーマンスをしているので、こうして街の中でやることで、普段劇場に足を運ばない方にも見ていただけたのはすごくよかった」と和田氏はふり返ります。 これをきっかけに、次回はゾンビと衣装、音楽をコラボさせた新しい作品を考案中だそうです。

仲谷進氏と和田ちさと氏のトークセッション

『ここにしがみつくしかない』という思いだった
【クリエイター×学生】佐々木航大氏(大阪芸術大学)

佐々木氏は、2012年に展示されたデザインやアートを学ぶ学生による展示型イベント「ロッカーショールーム」に参加したことがきっかけで実行委員に。作品制作のため事務局に通うなか、「実行委員の方々を見ていたら、明らかに手が足りていない。自分の作業が終わってからも手伝うようになり、当日も設営から撤収まで手伝いました」。その楽しさに次第にのめり込むようになったといいます。「故郷の長崎から大阪に出てきてまだ2年だった僕には、アーティストが集まって面白いことをやろうとしている場所が他に思い当たらなかった。『ここにしがみつくしかない』という心境でした」
ここで得た経験は大きな糧に。「実行委員会で僕に何ができるかを自分で考えるようになりました。毎週木曜日に定例会議に、欠席したメンバーとも情報を共有するうえで議事録が必要で、僕は学生なのでほぼ毎回会議に出られる。それを作れるのは僕だな、と」と自ら進んでやっているそう。また「大人と話せるようになった」とも。「年齢が10歳ぐらい上の社会人の方と喋るのがすごく怖かったんですが、怖気づかなくなりました。慣れたんでしょうね(笑)」と学生ならではの感想も。
多くの刺激を受けた佐々木氏は、デザインの勉強に力を入れるように。今では複数の学内企画の運営や統括も経験。2014年春からギャラリー「PASTIS」も開業するまでに。「ツムテンカクでの経験や出会いが完全に生きています。それがとてもありがたいです」

佐々木航大氏のプレゼンテーション

企業側にメリットをアプローチできる人材を
【クリエイター×社会】森山正信氏(森山写真事務所 / フォトグラファー)×山下智恵氏(k部指揮会社エンツギウム)

ツムテンカクの軌跡を残すべく、ファインダー越しに活動を見守ってきた森山氏と、予算管理という立場でかかわってきた山下氏。お互い「少し引いた立場からツムテンカクとかかわってきた」と話します。
森山氏はツムテンカクの様子を撮影する一方で、物資調達などのサポートも行ってきました。「モノがない、お金がないなか、実行委員のメンバーがフィニッシュを迎えるために、体も時間も使って必死で形にしていく。そういう部分も楽しいけど、来年はついに5年目。スポンサーや企業と組織的にかかわっていけば、もう少し楽になるのではないかと感じています」と建設的な考えが。「それで協賛金をいただけるようになれば、山下さんがこれまで一生懸命やってきたことも少し楽になるのではないかと思います」とも。これには山下氏も思わず「お願いします(笑)」とうなずきます。
これまで予算管理に奔走してきた山下氏からは、より具体的な提案が語られました。「クリエイターがやりたいことをやるためには、手弁当ではできないほどのお金がかかります。そのため、クリエイター、企業双方にどういうメリットが出るかを考えながらアプローチできる人材が欲しいですね。それが社会にどう役に立つのかを考えるだけで企業側にもメリットが生まれて資金も集まります」。森山氏も「アーティストはひとりでコツコツとモノづくりしている人が多い。その部分を企業側に自社製品など何らかの形で反映してもらえたら。ツムテンカクは単なるイベントではなく、そこから生まれたものが形を変え、企業と結び付くところがたくさんあるし、チャンスがどんどん舞い込んでくる。モノづくりもイベントも楽しみながら、企業とのコラボを具体的に進めていけたら」と訴えます。
ツムテンカクの魅力も。「ツムテンカクに関わる人たちは、年齢の差はあるけど関係がすごくフラットで、同じ土俵でモノづくりができる。参加した人から聞くのは、『ツムテンカクは大人が真剣に遊ぶ場所』ということ。今日ご参加いただいた皆さんも、ぜひ何かかかわっていただけたらと思うし、会期中はぜひ足を運んでいただきたいです」

森山正信氏と山下智恵氏のトークセッション

イベント概要

クリエイターがやりたいことをするとこうなりました ー自己表現の場からつながりの場へー
クリエイティブビジネスフォーラム – ツムテンカク×メビック扇町

大阪で過去4年継続して開催されてきたクリエイターたちの自主イベント「ツムテンカク」。大阪で活動する数多くのクリエイターの自己発信の場として機能するだけではなく、その活動を通して、様々なクリエイターや企業等とのネットワークの広がりも顕著になってきており、新たな事業や共同プロジェクトなどを多数生み出しています。

本フォーラムは、「ツムテンカク」の活動を通して、クリエイターの主体的な活動が生み出してきた効果や事例を紹介し、今後の活動展開に向けた課題や対応の方向性を明らかにすることによって、自主的な活動を推進するクリエイターにとってのヒントになればと考えています。

開催日:2014年10月11日(土)

公開:
取材・文:中野純子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。