パッケージデザインから見えてくる、現代社会とクリエイターのあり方
クリエイティブサロン Vol.44 三原美奈子氏

三原美奈子氏

様々なジャンルのクリエイターをゲストに招き、その人となりや活動内容をお聞きしながら、ゲストと参加者のコミュニケーションを図る「クリエイティブサロン」。第44回のゲストスピーカーは、パッケージデザイナーの三原美奈子氏。子どもの頃から工作好きだったという三原氏は、精華大学芸術学部デザイン学科での学生時代、パッケージデザインの授業を受けた際に「これだ!」と直感。卒業後、パッケージデザイン事務所で経験を積み、2010年に独立した。多様なジャンルにわたる商品のパッケージデザインに携わりながら、作品の自主制作やワークショップ、イベントなどにも精力的に取り組む。「イベントに関わるようになり、クリエイターとしての社会との関わり方が見えてきた」と語る三原氏。そんな三原氏を迎えてのクリエイテイブサロンは、まずは参加者がパッケージデザインについて、実際に体験しながら考えることから始まった。

まずは「パッケージデザイン」を体感することから

まずは「パッケージデザイン」を体感することから

「始めに、みなさんに『パッケージとは何か』を考えていただくために、こんなものを用意しました」と話し始める三原氏。参加者の前に出されたのは、さまざまなメーカー・銘柄のオレンジドリンク。馴染みのあるものから初めて目にするものまで、全7種類のドリンクを前に「パッケージを見て、どれが一番おいしそうだと思いますか」と問いかける。ボトルをあらためて見比べると、確かにそれぞれのデザインに特徴があることに気づく。果汁の割合や売ろうとするターゲット層の違いが、パッケージデザインに現れているのだという。それぞれを実際に試飲しながら、参加者は「意外とすっきりしている」、「しっかりオレンジの味がする」など、さまざまな感想を口にした。

「これが一番おいしそうという第一印象と、実際に飲んでみて感じたことは人それぞれ違ったと思います。私たちが商品を選ぶとき、いかにパッケージの印象に左右されているかということが分かりますね。パッケージデザインとは、メーカーが一つの商品を企画・開発する際に“どこで差別化を図るか”、“素材の特長は何か”、“どんな点をリニューアルしたか”などを消費者に伝えるもの。開発者の想いが、デザインやコピーとなってパッケージに載せられているのです」

サロン風景

パッケージは現代社会を映す鏡

参加者全員が席に戻ると、「この中にパッケージデザイナーの方はいらっしゃいますか?」とおもむろに問いかける三原氏。参加者からの挙手はない。同じデザイナーでもグラフィックとは異なり、表舞台に出てくることが少ないというパッケージデザイナー。メーカーや代理店への配慮から作品を自己発信することが難しく、また企業内のインハウスデザイナーも多いからだという。「そんな中で、今日は“パッケージデザイナーはここがすごい!”とあえて自画自賛しながら、仕事の実際と私自身の活動についてみなさんにお伝えしに来ました」と、笑いを交えながら話し始める三原氏。ドリンクで喉もうるおった参加者は、歯切れのよいトークにぐいぐいと引き込まれていった。

「一つのパッケージの中には、会社のロゴやキャッチコピーの他に、原材料や栄養表示、使用上の注意など、商品にまつわる情報がぎっしり詰まっています。私たちが手がける商品は日用品、食品、贈答品などさまざま。それぞれの商品について、中身の原料や開発の背景、歴史、原料にまつわる法律などを勉強しないとデザインはできません。包装材の材料も、例えばフィルム袋、紙箱、レトルトパウチ、ボトルのシュリンクフィルム、缶、ビンなど多岐にわたります。それぞれの特性を知ることはもちろん、素材の輸入状況など国際情勢にかかわることもあるので、時事問題にも目を向けていなければなりません。さらに、今どんな商品が売れているのか、それはなぜなのかというマーケティング情報を読み解くには、時代背景や商品流通についての知識も必要。パッケージとは、まさに現代を映す鏡だとも言えるんです」
商品の売り上げに直接関わるような仕事であるにもかかわらず、パッケージデザイナーという職業はあまり知られていないのが現状だという三原氏。確かに、普段私たちは商品パッケージについて意識する機会が少ないということに気づく。

「パッケージデザインの魅力と価値を伝えたい」。それがイベント参加の原動力

「毎日見ているものなのに、それをデザインする人がいることが世の中にあまり知られていない。そのことにパッケージの世界から飛び出してイベントに参加することで、やっと気がついたんです」と語る三原氏。初めて参加したのは2008年の第一回守山野外美術展(現「おてらハプン!」・滋賀県守山市)。家庭から出る食品パッケージの箱を集め、それを子どもたちとともに積み上げて、家や建物を作る『パッケージイグルーを作ろう』というワークショップを開催し、衝撃を受けたという。「みんなが毎日のように見ているお菓子、カレールーなど食品の紙箱は、全部誰かがデザインしているものなんだよ、と子どもたちに伝えても、みんなキョトンとしている感じだったんです。大人のみなさんに“パッケージデザイナー”と言っても、『それってラッピング(包装)みたいなことですか?』と。その時まで自分が関わってきた人たちには、パッケージデザイン関連の人が多かったので、そんなことを考えたことがなかったのですが、外の世界に出てみて、パッケージデザイナーという職業への認知度の低さに驚いたんです」。もっとみんなにパッケージデザインのことを知ってほしい。そんな気持ちから、守山市での活動の他に、大阪市東成区での『みどりばしぶんかさい』、大阪市内の小学校などでのワークショップ開催など、精力的に活動をしてきた。

ワークショップ風景
小学校でのパッケージイグルー・ワークショップ(2011年10月)
NPOcobon タチョナプログラム 撮影:辻村耕司

「例えばイグルーを作ろうとするときに、各家庭で一定期間、食品パッケージの紙箱を集めていただくんです。そうすると“あれ?この商品、こんなに買ってたんだっけ?”とか、“甘いもの食べ過ぎているかも”など、自分たちの生活が見えてくる。パッケージとは中身を取り出すとゴミになるものですが、それをあらためて見つめ直すという時点からこのワークショップはスタートしている。そこがおもしろかったという声もあります。さらにパッケージに記されている原材料表示などを見ると、一つの商品が家庭に届くまでに、どれだけ多くの人が関わっているかということが見えてくる。社会のしくみの勉強にもなるわけです。そんな中から、例えば“この商品ってこっちの方がおいしそうに見えるな”など、デザインにも目を向けてもらえるのではないかという想いがあるんです」。

クリエイターは社会とどう向き合っていくか

パッケージ、デザイン、アートの垣根を越え、自由な発想でイベント作りに関わってきた三原氏。子どもたちや地域の人々との交流の中から、新たな視点が得られ、それがまた仕事に活かされていると語る。
「“パッケージデザイナーという職業の存在を知ってほしい”。初めはそんな想いでイベントを作ってきたのですが、それ以上に得られるものがありました。自分の職業について俯瞰的に見ることができ、パッケージデザインが社会に対してどうはたらきかけているか、どんなことが求められているのか、私たちはそれにどう応えていけばいいのかなどについて考えることができました。クリエイターのみなさんも、それぞれの得意分野を活かして、ぜひイベントなどに参加してほしいと思います。草の根的な活動ですが、それがクリエイター全体の社会的地位向上につながると思うのです」

三原氏の熱い語り口とともに、次第に一体感に包まれる会場。終盤には参加者から質問や意見が飛び出した。
私たちクリエイターは、社会とどう向き合い、その存在をどう示せばいいのか。目に見えない価値を扱う仕事であるからこそ常に問いかけなければならないと思う。

サロン風景

イベント概要

デザイナーがイベントをつくる理由
クリエイティブサロン Vol.44 三原美奈子氏

パッケージデザインの仕事の傍ら、イベント企画や運営を始めて7年が過ぎました。デザイナーがイベントに関わることで変わること、メリット、また運営しつづけると見えてくるものなどをお話したいと思います。本業だけでは物足りない、自分で何かしてみたい!と思っている方とお話できれば嬉しいです。

開催日:2014年6月9日(月)

三原美奈子氏(みはら みなこ)

パッケージデザイナー

奈良市出身。京都精華大学美術学部デザイン学科VCD専攻卒業後、デザイン事務所を経て2010年三原美奈子デザインを設立。
各種食品・ギフトなどのパッケージデザインを数多く手掛ける。08年に第一回守山野外美術展に参加。その後事務局員となり、同メンバーでアーティストグループ「モファ」を立ち上げる。また同年より始まった緑橋文化祭では実行委員事務局を運営するなどイベントプロデュースも行う。ワークショップ等でパッケージデザインを一般に広める活動も積極的に行っている。社団法人日本パッケージデザイン協会会員。パケクション主宰。

公開:
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。