矛盾をパワーに、多彩な映像作品で「セカイをビジュアライズ」し続ける
クリエイティブサロン Vol.315 オルコエトー氏

315回目となる2025年最後のクリエイティブサロンは、デジタルアーティストのオルコエトーさんが登壇。プロジェクションマッピングやAR、3DCGといった映像作品を幅広く手掛けてきたオルコエトーさんの「誰もやっていない面白いこと」が満載の足跡に迫ります。また、今回の司会は、オルコエトーさんと親交の深いエモーションデザイナー・北川雄一(ゆうまん)さんに務めていただきました。

オルコエトー氏

冒頭から会場を覆う、突飛でキャッチーな世界観

サロンが始まるものの、本人の姿が見当たらない。司会の北川さんによれば「まずは、オルコエトーさんが自分自身をイメージして作ったPVを流します」とのこと。

映し出されたのは、暗い表情でひとり巨大な宇宙船に乗ってさまよう少女が、宇宙人と出会ったことで新しい世界を見つけ、笑顔で羽ばたいていくというストーリの3DCG映像だ。カラフルでスタイリッシュでありつつ、どこか不穏でミステリアスな空気も纏っている。

「どんな人か分かりましたか? 分かんないですよね」

北川さんのセリフが会場の笑いを誘う。そしてようやくオルコエトーさんが登場するも、頭には手作りの仏壇の模型が。そして、仏壇の扉を開けてもらってひと言「これは、かぶるだけでお参りされる側の気持ちになれる『だれでもおぶつだんセット』です」。

冒頭から、突飛でありながら妙に心掴まれる独特の世界観が会場を覆う中、「ぎゅうぎゅうのオモチャ箱状態」というこれまでの人生が語られていった。

「だれでもおぶつだんセット」は、社会人劇団時代に磨かれた小道具制作の腕を活かした自作のアイテム。本人曰く「ダンボールと新聞紙とティッシュさえあれば、なんでも作る自信がある」とのこと。

青春を謳歌していた高校時代に、人生を左右する舞台劇を思いつく

生まれは島根県松江市。幼い頃から、いつ何を言えば大人が喜ぶのかを計算していた「悪魔のような子だった」と自嘲するオルコエトーさん。この頃からずっと「目立ちたくないけど目立ちたい」という、相反する感情を抱え続けてきたという。

小学2年生の時に作った一編のポエムにも、当時の複雑な機微が見え隠れする。

ピーポーピーポー救急車が走っている。
誰かの命がまた消える。
ピーポーピーポー救急車がまた走っている。
私は何も感じなくなる。

読み手の心もざわつかせるのに十分なクオリティを備えたこの詩は、実際、周囲の大人たちの間で物議を醸したとか。

そんなオルコエトーさんは、奈良への転居を機に「大人しくなった」と話す。押しの強い関西弁が恐ろしかったからだそうだ。
といいつつ、中学では学年委員長を務め、高校ではお笑い要素が強めの演劇部に入部するなど、行動はむしろアグレッシブに。さらに、血液型に関する事実がその背中を押した。

「それまではA型だと思って真面目に生きてましたが、献血でO型と分かってからはキャラ変して楽になりました」

その言葉通り、学校をサボってカラオケに興じたり、テスト期間中にライブを観に東京まで出るなど、まさに青春を謳歌した日々を過ごす。
そうした日々の中で「エンタメに目覚めた」というオルコエトーさんは、あるひとつの舞台劇の構想を思いつく。

「5分しか起きていられない病のロックスターが、1曲だけのワールドツアーを行う設定の音楽と映像を融合させた物語を思いついたんです。当時影響されていた映画やグラムロックを取り入れた舞台で、絶対実現しようと思いました」

この舞台『爆眠★Rock』が、この後の人生を大きく左右することになる。

念願の舞台は好評を博すも、長い葛藤期へ

高校を卒業したオルコエトーさんは、地元の社会人劇団を経て、仲間と一緒に自劇団を旗揚げする。そして、テスト公演の際、借りていたレストランに100インチのモニターがあったことから映像作品も同時に流すことに。
これが、映像制作の第一歩となり、他劇団からも映像の制作を依頼されるようになった。

その後、いくつかの公演を経て念願の『爆眠★Rock』の制作に取りかかる。すでに初期メンバーは脱退してひとりになっていたが、主役を演じてもらうロックバンドは自力で探し、それまで自作だった劇中曲も「初めて人に任せた」。出来上がった楽曲をスタジオで聴いた時は「魂が震えた」と、今も興奮冷めやらぬ表情で語る。

「これが本当に私のやりたかったことや!って、底知れない感動と快感に襲われたんです。もうあんな経験は二度とできないと思います」

多くの観客から「もう一度やってほしい」と請われるほど好評を博した『爆眠★Rock』は、4年後にブラッシュアップした形で再演された。しかし、これが最後の舞台公演となった。

「ひと公演ごとに命がけでしたから。ここまで寿命を縮めてまで作りたいと思える作品はもうないだろうと思い休止しました」

「燃え尽きた」と自身で話すように、目的を失ったオルコエトーさんは、20代後半にして「あとは余生として生きるか」という心境に陥った。ここから10年以上にもおよぶ、長い葛藤期が始まる。

当時、実際に配布された自作の『爆眠★Rock』のチラシ(左)。舞台上では、ロックバンドの演奏と芝居が並行して行われた。(右)

葛藤期に終止符を打った「オルコエトー」への改名

葛藤期のオルコエトーさんは、なぜか多忙だった。東京や大阪のコミュニティFMに出演したり、複数の「変なバンド」に参加したり、さらには、本物のご住職と「居酒屋説法」も始めた。この時作った仏壇が、登場時の模型である。

ほかにも、アクセサリー作りにハマったり、企業の海外支社のコンセプトムービーを共同制作するなど、足取りだけを追えば充実しているように見える。しかし、本人の内面は違った。

「ずっともがき続けていて、ここは私の居場所じゃないって、いつも思っていました」

とはいえ、現在の本業であるプロジェクションマッピング(PM)と出合ったのもこの頃。京都市主催のPMのコンペとセミナーに参加し、本格的にPMの手法を学んだ。
1年目のコンペは台風で中止となったが、翌年の出展で「企業賞」を受賞。その際、なぜか複数の新聞に、最優秀賞作品ではなくオルコエトーさんの作品が掲載された。

「出世欲とかあまり無いんですが、新聞に載ったことに刺激を受けて、翌年は優勝を狙いにいきました」

そして、本当に優勝してしまったオルコエトーさん。「最優秀賞」と「ロームシアター京都賞」のダブル受賞という快挙だった。しかし、これほどの実績を残しながらも「ずっと焦っていたし、楽しくはなかった」と述懐する。
長年の心のズレがようやく落ち着いたのは、劇団の休団から10年以上を経た2023年11月のこと。きっかけは改名だった。

「占い師に、前のビジネスネームは『仕事運が悪い』と言われたため、現在の名前に改名しました。名前って大事やなって思いました。改名した瞬間から、周囲の環境がガラッと変わりましたから」

最優秀賞を獲得したオルコエトーさんの作品。

一度きりの人生、やりたいことは絞らない

晴れて「オルコエトー」となってまず注力したのが、ARの制作である。それまでもARの制作経験はあったが、本格的にビジネスとして始めたのだ。

「世界観を複合現実として表現するという意味では、ARとPMは似てるんです。ただ、PMはコストがかさむ上に天候にも左右されますが、ARなら天候は関係なくスマホで見られるし、コストも下げられるため始めました」

そして「この街のクリエイター博覧会2025」に、司会の北川さんとコラボして出展。このブースに展示したAR作品が某ホテルの目に留まり、案件獲得につながった。

サロンの最後には、この日のためにつくられたARの実験も実施。冒頭のPV映像にスマホをかざすと、リアルタイムで連動したARが楽しめた。

次に取り組んだのが、Nintendo Switch™︎を使ったPMである。熊本県山鹿市で進めているNintendo Switch™︎を使ったプログラミング学習を視察した際、「これを学校の校舎にPMしたら面白いのでは」と思いついたのだという。

「ゲーム画面をPMで写す試みは、おそらく世界初です。廃校を利用したイベントには200人ものギャラリーやマスコミの方が集まり、地域活性化につながる未来が見えました」

これまで3DCGやAR、PMなど、幅広く手がけてきたため「やることを絞ったら?」とよく言われてきたが、今はもう「絞らなくていいや」という思いに至ったと語る。

「3DCGもARもPMも演劇も、手段が違うだけで目的は『セカイをビジュアライズする』ことなんです。人生は一度きり。やりたいことはどんどんやって、その後で後悔すればいいと思っています」

もちろん、依頼案件は確実に仕上げる。しかし、自ら挑戦することは「無謀であればあるほど興奮する」のだという。「自分を追い詰めるSな面と、それを楽しむMな部分が同居してるんです」。

最後にオルコエトーさんは、メビックへの感謝の言葉を口にした。

「葛藤期は孤独だったので、仲間がほしくてほしくて。それがメビックに来たら、出会いたかったクリエイターさんにたくさん出会えました。今はもう孤独じゃないです」

そのひとりが司会の北川さんだ。ふたりは 2026年から「唯一無二のエモーショナル体験ができるAR」の制作をめざし、「エモリアル」という名前で協働する予定だ。

常に相反する感情を内に抱えながら、多彩な作品や企画を生み出してきたオルコエトーさん。
今後もその矛盾を原動力に、笑顔で苦しみながら「セカイをビジュアライズ」し続けるのだろう。

イベント風景

イベント概要

劇団・プロジェクションマッピング・AR「ただ面白そうだからやる」オモチャ箱人生
クリエイティブサロン Vol.315 オルコエトー氏

劇団主催、MV制作、3DCGアニメーション、プロジェクションマッピング、AR。「面白そう」と思ったらやらずにはいられない厄介な性格。気づけば人生がぎゅうぎゅうのオモチャ箱状態に……。ただ一貫しているのは、自分の脳内の世界をビジュアライズすること。そしてそれはいつしか仕事になっていました。「誰もやっていない面白いことをしたい」という野望は、現在も進行中。自分自身あまり振り返ったことのない、とっ散らかった私の経歴を聞いていただくことで、思いついたらなんでも気軽にやってみていいんだ!と心が軽くなっていただけたら幸いです。
そして、“今回のクリエイティブサロンでは、とある実験をしたいと思います”

開催日:

オルコエトー氏

デジタルアーティスト

2010年から映像制作に本格参入。マペットアニメ、企業PV、MVなどを手がける。2014年よりプロジェクションマッピング開始。2015年「岡崎ときあかりアワード」で最優秀賞&ロームシアター京都賞を受賞。京都国際漫画ミュージアムで招待作家として発表。2022年、ダイキン中東アフリカ向けのフル 3DCGや各支社向け映像をプロデュース。2025年4月に名古屋鉄道のARスタンプラリーを企画・制作。9月、奈良ホテルリニューアル工事カウントダウン記念AR制作。11月、熊本県山鹿市役所主催で小学生がNintendo Switch™で制作し動かす、世界初のプロジェクションマッピングを実施。

http://olco.official.jp/

オルコエトー氏

公開:
取材・文:シガマサヒコ氏(eパンフLab

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。