クリエイターとしての事業展開の方法と協業の進め方
クリエイティブサロン Vol.252 蔵屋憲治氏

写真撮影を主軸に、Web制作や動画制作など複数の事業を展開する株式会社KP Life。代表の蔵屋憲治氏は、Webディレクターやデザイナー、ミュージシャンなど多種多様なスキルを有する人とコラボレーションし、数々の企画・制作を手がけている。武器は、カメラマンとして被写体の強みを引き出してきた蔵屋氏の眼力である。

そんな蔵屋氏の半生と、クリエイターとしての仕事の向き合い方を話してくれた今回のクリエイティブサロンは、一枚の写真から始まった。

蔵屋憲治氏

諦めのような悟りが、人生に大きな影響を与えた

胸を張り、千歳飴を抱えてカメラを見つめる少年の写真。蔵屋氏の父が撮影した七五三の写真だ。「技術研究職でありながら営業もこなすかっこいい人で、休みの日には海や川に遊びに連れていってくれました。大好きな、憧れのお父さんです」。

しかし、探究心と向上心のある優秀な人材だったからこそ社会で背負うものが大きく、ある日父は病に倒れてしまう。蔵屋氏が小学五年生の時だった。一年間の入院を経て無事に退院できたものの、しばらくは職場復帰できず、元気のない父の姿を目の当たりにした。

「完璧だった憧れの存在が、急に変わってしまったことに衝撃を受けました。元に戻ってほしくて意見をぶつけ合いましたが、この時、『他者の心や行動は自分の意思では変えられない』と思い知らされました」と話す蔵屋氏。今ではお父さんも元気になり、元の親子関係を取り戻しているが、この時の諦めのような悟りが、その後の蔵屋氏の人生に大きな影響を与えた。ただ、それは決して悲観的ではなくむしろポジティブなものだった。「他者の弱点を受け入れ、強みに注力し、その強みを最大限に引き上げたい」。この発想は、現在の蔵屋氏の仕事への向き合い方にも通じるところがある。

幼い頃の蔵屋憲治氏
憧れの父と幼い頃の蔵屋氏。休日にはよく川や海へ遊びに連れてもらっていたという

カメラマンとしての目覚め

学生時代の憧れの存在は写真の先生だった。大阪教育大学附属高等学校平野校舎を卒業し、京都工芸繊維大学で建築デザインを専攻した蔵屋氏は、先生の持つアウトローな魅力と写真の世界に惹かれていく。「無精髭で遅刻魔だけど、授業はめちゃくちゃ面白いんです。こういう大人になりたいと思い、直感でカメラマンになることを決意しました」。それが20歳のときとのこと。

「蔵屋氏に撮影してもらうと運気があがる」

卒業後は、関西で最大手の写真スタジオに就職。各地の一流ホテルに常駐してブライダル写真を撮影する仕事で、最初のうちは先輩のアシスタントとして修行の日々だった。

そんな時、社内で一番の腕を持つという写真の師匠が、蔵屋氏の現場に異動してきた。「同じシチュエーションで撮影しても、師匠の写真は色味も濃度も違う。どうすればこんな写真が撮れるのか、これまでどの先輩に聞いても説明してもらえず彷徨っていた疑問に、師匠は初めて答えてくれました」。

この時蔵屋氏は、「写真を撮るのに必要なのは感性ではなく、徹底的にロジックだ」と確信した。ロジックを積み重ねればスキルが高まっていく。だから、誰にでも撮る才能はあるし、志を高く持ち辛抱強く続けていけば必ずスキルは身につくのだと。

それ以来、クライアントやパートナーにもわかりやすくロジカルに伝えることを徹底しているという。

こうして16年半もの間写真スタジオで撮影のスキルを磨いた後、独立を果たした蔵屋氏は、フリーランスのカメラマンとして写真事業をスタートさせた。撮影の対象は、講師業、インストラクター、飲食店オーナー。撮影スタイルは、顧客の業界や業種、ターゲットなどをリサーチし、写真のイメージを明確にしてから撮影するというもの。蔵屋氏の撮影したプロフィール写真を使ったブランディングで大きく成功し、全国規模に事業展開した顧客もいる。その顧客が「蔵屋氏に撮影してもらえば、運気が上がる」と周囲に紹介したことで一気に顧客の幅が広がり、法人設立へと踏み切った。

作例
蔵屋氏の作品

ものごとの本質を捉えて、人の魅力を引き出す

蔵屋氏が事業を営む上で行動指針にしているものがある。会社員時代に常駐していたリッツ・カールトンで学んだ、最高峰とも言えるおもてなし精神である。リッツのクレドカードには、こんな一文が記載されている。「お客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしておこたえするサービスの心です」

蔵屋氏は話す。「お客様は、抱えている課題やニーズを自分自身では言語化できずに悩んでいます。しかし、こちらから質問して深掘りして真ん中にある課題が明確になれば、ほぼ解決です。だから僕はいつも、この人はどんな考え方をしているんだろう、と常に相手の心を見て考えます」

この精神は、一緒に仕事をする仲間に対しても変わらない。相手とコミュニケーションを深め、個々の持ち味が活きるようにサポートをしながら案件を進めているという。友人からも「人の魅力を引き出す天才」「ものごとの本質を見抜く力が半端ない」と評価されており、いかに相手に対して丁寧に向き合っているかが分かる。

写真は外面を写すもののようだが、蔵屋氏は、写真は「被写体の本質や人物の内面が写る』と言い切る。常に、マーケティングに基づいた本質的なアプローチをしてきたため、写真撮影を受注した顧客から、写真を使用したウェブ制作などの相談を受ける機会も多くなっていく。顧客の要望をくみ取り、その分野のクリエイターと手を組んで依頼を引き受けるうち、今ではウェブ制作や音楽事業、IT業務改善サポートなど幅広い事業を手がけるようになった。

作例
ディレクターやデザイナーなどとタッグを組んで制作したWebの事例

事業の本質

蔵屋氏は今後のビジョンをこう語る。「事業とは、顧客の悩みを解決すること。まずは、その本質を捉えることが極めて重要です。そのためにもクリエイター同志でお互いの強みを引き出して弱みをカバーしあいたい。そうすれば両者にとって良い仕事ができ、クライアントが満足するものを提供できます。クリエイターに関わらず、業界や業種を超えてスキルのある人と出会い、仕事の幅を広げていきたいですね」。

自分の意思では他者を変えることはできない。そんな痛切な言葉から始まったクリエイティブサロン。しかし終わってみれば、人は他者との交わりの中で影響を与え合いながら成長し、相乗効果を生み出していけるのだと実感できた回だった。

イベント風景

イベント概要

「カメラマンからWebサイト制作、IT事業まで」クリエイターとしての事業展開の方法と協業の進め方
クリエイティブサロン Vol.252 蔵屋憲治氏

我々クリエイティブ関連企業の活性化のために、我々には、ナニが必要なのか!? この機会に改めて一緒に考えていきたいと思います! 私自身のクリエイターキャリアのスタートはカメラマンです。独立後は、カメラマンとしてのキャリアを重ねながら、他業種の起業家とのコラボ企画、商品を提供し続け、現在は、Webデザイナー、プログラマー、ライターなどが集まり、Webプロモーション事業を展開しています。そこに至る経緯と、クリエイターとして、これから大阪でやっていきたいことをお話しさせていただきます。

開催日:

蔵屋憲治氏(くらや けんじ)

株式会社KP Life 代表取締役

1973年4月1日奈良県生まれ、49歳。大阪教育大学教育学部附属平野高等学校、京都工芸繊維大学造形工学科卒。大手の営業写真館にカメラマンとして就職。ザ・リッツ・カールトン大阪のスタジオ専属カメラマンとして活躍。2015年、K.K.PhotoLifeとして写真事業で創業。2018年、株式会社KP Life設立。現在スタッフは8名。Webプロモーション事業を展開し、Webサイト制作、写真・映像制作、BGM・オリジナルソング作曲、IT業務コンサルティング事業、支援金・会計コンサル紹介などを手がけている。趣味は、ゴルフ、ツーリング。

https://kp-life-official.skr.jp/wp/

蔵屋憲治氏

公開:
取材・文:山本佳弥氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。