「伝えること」と「伝わること」。コミュニケーションデザインを考える。
クリエイティブサロン Vol.173 清水保彦氏

「デザイン」という言葉を聞いたときにまず思い浮かべるのは、グラフィック、プロダクト、環境、空間などが一般的だろう。では“コミュニケーションをデザインする”というのはどういうことだろうか。今回のサロンでは、清水保彦さんをゲストに迎え、35年にわたる広告業界でのキャリアで培った経験を基に、「コミュニケーションデザインとは何か」を紐解いていく。

清水保彦氏

企業と生活者をつなぐコミュニケーションデザイン。

5年前に大手広告代理店を定年退職し、現在は経験を生かして日本企業が海外展示会に出展する際のサポートなどを手がける清水さん。新卒で東京の出版社に就職し、教科書の編集に携わっていたが、どうしても仕事にやりがいを見出せず帰阪した後、ひょんなことから広告の道に進むこととなった。
キャリアのスタートはアメリカ村の通称・三角公園横にオープンした関西初の無印良品の店舗紹介。以降、ショッピングセンター「つかしん」や西武宝塚のオープニング、筑波科学万博や大阪花博、関西発のファッションフェスティバル「WFF」、斑尾のジャズフェスティバル、神戸コレクションなどのイベントから、地方都市の行政や建設局のPR、電力の懇談会、番組制作、結婚指輪のコンセプトブックまであらゆる形で企業と生活者のコミュニケーションの橋渡しを行ってきた。
「要するに企業や人が誰かとコミュニケーションをするときに、なんでもしますよということなのですが、わかっているようで僕自身もわかっていないのかもしれない。だけど、モノの考え方のすべてがコミュニケーションデザインにあるという気がするんです」。そう話しながら、清水さんは、1枚のポスターをスライドに映す。ポスターの中央には自動車が縦になった写真が配置されており、「このように写真やテキストの色を決めて配置をする作業自体がデザインと呼ばれることが多いが、それは狭義」と説明。では広義でのデザインとはどういうことなのか。

ポスター制作例

大切なのは「伝えること」と「伝わること」の違いを知ること。

清水さんによると、それは例えば「人参」「じゃがいも」「玉ねぎ」などの材料が目の前に置かれた状況から、何を作るのかを考えることに似ているという。
まずやらなければならないのは、「誰に」「どんな目的」で食べさせるための料理なのかを明確にすること。野菜嫌いの子供なら人参を細かく刻む、おばあちゃんなら辛くなりすぎないように配慮する。また、料理を提供することでその人たちを笑顔にしたいのか、単純にお腹いっぱいにさせたいのか。これを先ほどのポスターに当てはめてみると、車好きの人にアピールしたいのか、小さい車を探している人へのアイキャッチを優先するのかを考えることがデザインの一歩となる。
広告でいうところのコミュニケーションとはつまるところ「商品をターゲットにどう売るか」であるが、清水さんいわくここで重要になるのは「伝えること」と「伝わること」の違いを知っておくことだという。クライアントは本来、言いたいことがたくさんあるもの。商品の魅力や特徴をあれもこれも詰め込んで欲しいといわれた経験のあるクリエイターも多いはず。その一例として清水さんは地域のイベントポスターを挙げる。限られたスペースいっぱいにパフォーマンスや屋台、ワークショップなど30以上にも及ぶ要素が羅列されている告知ポスターは、伝えているつもりが伝わっていないという顕著な例である。
発信側は「書いたものは全部伝わる」と考えてしまうが、そもそも広告とは“聞く耳を持たない人に対する投げかけである”ということを前提に考えなければならない。そもそも見られないポスターに細かな文字をびっしりと並べても、人々の関心を得ることは難しい。「伝わること」と「伝えること」の間には決定的に大きな違いがあるのだ。
「ポスターというのは5メートル先の人の目を止める機能しかない」。それをクライアントに納得してもらった上で、説得力のあるデザインを提示することが大切だと清水さんは考える。

「たとえば、僕が今ここでとても小さな声で話したら、後ろの人は聞こえませんよね。でも大きな声で話すと前の人はうるさくて聞いていられないでしょう。ではスピーカーを入れましょう。スピーカーも音が大きすぎると近くの人がうるさいですよね。そこでスピーカーをいくつか入れて、適切な音量に調整する。それが伝わるということなんです」。伝えることと伝わることの違いを考えること。それがコミュニケーションをどうデザインするかの基本になるという。

参考画像

コミュニケーションとは窓のようなもの。

基本的なコミュニケーションデザインについて話し終えたところで、清水さんは「キリンラガー」「アサヒスーパードライ」「プレミアムモルツ」「サッポロ黒ラベル」の4銘柄のビールを机に並べ、参加者から男性2名、女性1名を指名。それぞれの味の特徴を把握した後、銘柄を当てるブラインドテイスティングが行われた。
25年前にあるビールのプロモーションで行われた同様のテイスティングでは50名中正解したのはソムリエのみだったという。今回も全銘柄の正解者はゼロ。「爽快感」「切れ味」「コク」などいくら言葉で説明されても、「味」という曖昧なものを判別するのは難しい。「辛口でキレがある」と言われれば、スーパードライを飲んでいるような気分になる。言葉で伝え、生活者に思い込ませることが広告のコミュニケーションであることから、コピーワークがいかに重要かを清水さんは語る。
質疑応答を経ていよいよサロンは終盤へ。最後にまだどこか曖昧さの残る「コミュニケーション」というものを清水氏は「窓」に例えて説明した。
「たとえば、部屋の中から窓越しに外を見ると豊かな自然が見えるとします。でも、窓の位置を少しずらせば、自然の中に原発が見えるかもしれない。この人にはここのこの部分を見せようと考えることがコミュニケーションなんじゃないかな」。わかるようでわからない「コミュニケーションデザイン」の手がかりを掴めたサロンとなった。

イベント風景

イベント概要

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クリエイティブサロン Vol.173 清水保彦氏

「デザイン」という言葉ですぐに思い浮かぶのは、グラフィックや空間、環境といった具体的な事物に結びついたものだと思います。では、「コミュニケーションをデザインする」とはどういうことか? それは、「伝えるのではなく伝わる」「伝わるように伝える」にはどうすればよいかということの考え方だと思っています。そんなコミュニケーションデザインについて、ちょっとだけ長い広告制作の経験を踏まえ、軽い実験なども共有しながらお話ししてみたいと思います。

開催日:2019年12月11日(水)

清水保彦氏(しみず やすひこ)

広告制作の仕事に関わって35年。最初の仕事は、アメ村三角公園横にできた関西初の無印良品の店舗紹介でした。その後「つかしん」や西武宝塚のオープニング、筑波科学万博や大阪花博、WFFという関西発のファッションフェスティバル、斑尾のジャズフェスティバル、神戸コレクションといったイベント系から、地方都市の行政PR、建設局のPR、電力の懇談会、番組制作、結婚指輪のコンセプトブックまで、いろいろ経験してきました。今は、日本企業が海外の展示会に出て行くサポートや、海外展示会用のプレゼン映像の制作などを仕事にしながら、「今知っていること、持っているものを、どうやったらこの世に残していけるか」を考えたりしています。

清水保彦氏

公開:2020年1月20日(月)
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。