得意技を身につけ、柔軟な行動力で成長し続けること。
クリエイティブサロン Vol.107 齊藤桃子氏

「kakandesign」として二度目の独立を経験した経歴を持つ齊藤桃子さん。彼女が得意とするのは、女性市場のデザインと呼ばれる美容・健康などのジャンル。DM・パッケージや広告のデザイン制作、店舗のロゴや販促ツールなど幅広く手がけている。最初の起業は2004年頃。当時インキュベーション施設があったメビック扇町で最年少起業家として創業した。その後、一度解散し、デザイン会社やメーカーでデザイナーとして経験を積んだ後、満を持しての独立となった。そんな彼女が仕事をする上で大切にしているのは、「専門性」「独自性」を追求することだという。

齊藤桃子氏

デザインで人を幸せにしたい! 学びながら、走り続けた学生時代。

齋藤さんがデザイナーを志したのは10代の頃。幼い頃から絵を描く事や本を読むことが好きで、得意なことを仕事にしたいと考えていた。雑誌や本に触れる機会も多く、自分もデザインで人を楽しい気持ちにさせたいという想いから、デザイナーへの道を選んだ。京都の専門学校に通い始めてからは、グラフィックやイラストレーションを学びながら、展覧会を企画したり運営リーダーを務めたりと積極的に活動した。その後、進んだ研究科では、「ここは学校ではない、デザインオフィスである」というコンセプトを掲げ、当時ではまだ珍しかった産学協同プロジェクトを行っていた。「千客万来プロジェクト」と名付けられた学校の課題は、新規開拓営業から始まり、打合せ、デザイン、印刷会社との折衝、印刷、ポスティングから効果測定、そしてクライアントに反応を聞くという一連の流れを経験するというものだった。

「デザイン技術のみを学ぶのではなく、デザインにまつわる全ての流れを体験することで、営業や経理についても一通り経験することができました。また、クライアントと直接折衝するので、デザインに対する反応も見えやすく、デザイナーとしてお客さんに喜んでもらえる実感があって素直に嬉しかったですね」

トータルデザインをてがけたヘアサロン
ロゴ、ショップカード、ウェブサイトなどを手がけたヘアサロン「Blanc Couleur」

メビック扇町に入所! 仕事に追われる日々……。徹夜、ストレス、アトピー……。

デザインへのやりがいと熱意を持ち、学生時代組んでいたチームメイトとそのまま起業を志した齊藤さんは、当時クリエイターの創業支援施設であった「メビック扇町」に入所することになる。研究科のメンバー4人で仕事を始めたが、当初は給料もほぼない状態からスタート。安定した収入を得ることと、同じくメビック扇町に入所していた尊敬する先輩達たちに追いつけるよう成長するという目標を掲げ、無我夢中だった。日中は外に打ち合わせ、帰ってきてから夜に作業をするという、休みなく働く日々が続いた。家に帰ることもままならず、仕事スペースの隅で寝るといったこともあった。ストレスの自覚はなかったが、アトピー、膀胱炎、虫歯など、いつしか身体にも症状が出るように。深夜まで続く打合せの後、代理店から浴びせられる冷たい言葉に傷つく事もあった。若かった事もあり、根性や精神論で乗り切っていたが、これで良いのか、いつしか悩むようになっていた。

「当時、何が得意なのか聞かれると、何でもやります!と言っていました。けれど、なんでもやらせてくださいといって受けた仕事は、プラン、企画、制作など、時間が足りなくてクオリティが下がってしまったり、夜中まで働いて身体を壊したり……負のスパイラルに陥ってしまうことに気がつきました。あるとき、デザイナーの先輩に、『何でもできるというのは、何にもできないってことだよ』と言われたことがあり、衝撃を受けたことを覚えています。改めて自分の得意は何だろうと考え始めるきっかけになりました。専門分野を高めていくことで、自分の考えや経験を必要としてくれる人にきちんと応えるようにしていく。そうすることで結果的に、単価やクオリティを高めることに繋がるのではないかと、今は感じています」

もう一度勉強し直そうと考え、事務所を廃業し、メビック扇町を出ることに決めた。25歳の頃だった。

いぐさ野菜のパッケージ
「いぐさ野菜」パッケージデザイン

第2のスタート、「得意技」を探す旅。

これまでの経歴を活かし、企業にてデザイナーとして就職することに。大手企業の100ページに渡る冊子の編集・デザインを行ったり、著名なアートディレクターに師事して、装丁やWebデザイン制作にも携わった。その後、内装・空間デザインの会社に入社。”どうすればクライアントの想いを引き出しつつ、美しく見せられるか”という課題に取り組み、美容院やネイルサロンなどのグラフィック、Webデザイン全般の制作、ディレクションを経験。数年後、地元の京都へ戻り、美容・健康商品のプロモーションに関わる。媒体に合わせたデザインレイアウトやセオリーなども学んだ。

いつの間にか増えていた、美容・健康業界での100以上の実績。目の前のミッションに真摯に取り組むことで、自信を持つことができる得意分野が築かれていった。

「サロンや美容院のデザインにまつわる仕事に関わることで、つくったもので人に喜んでもらえる感覚がありました。自分がずっと探していた感覚とマッチしたんです。もしかすると、この分野を突き詰めていくと誰にも負けないものが作れるかもしれないと確信があり、その頃から、もう一度自分で独立してやりたいと強く思うようになりました」

生け花の作品
趣味の生け花は師範の免状を取得している

2015年に、「kakan design」として独立。屋号のkakanは、花冠の意味。子どもの頃の記憶に残っていた、花冠をつくったあとの達成感と、それを誰かにプレゼントした時に喜んでもらえた感動をいつまでも大切にしたいという想いから名付けた。デザイン業務に携わりつつ、趣味で書き溜めている植物のイラストや生け花の展覧会なども開催予定だ。

「長年続けている生け花を通して、デザインについて学ぶ事もあります。以前、師事しているお花の先生に『コンセプトのない花は、目と鼻と口のないのっぺらぼうだ』と言われて、ハッとしました。これは仕事でも同じだと思ったからです。生け花は、素材と器全てがトータルで完成する空間造形。コンセプトをしっかり固めてからつくらないと、漠然とした伝わらないものしか完成しません。これはデザインにも通じていて、一つ一つコンセプトを定めて、意識してつくらなければ、お客さんには意味が伝わらず、誰にも感動してもらえないのだと感じています」

kakan designとして独立して、まだ1年半。これからどんな風に変化していきたいのか、目を輝かせながら彼女は語った。

「デザインや生け花、イラストなど、まだそれぞれが点ですが、5年10年先にはこの点が繋がり線になって、もっと強い作品創りができるようになることが目標です。見ていただく方に楽しんでいただくことがデザイナーとしての私の原点。そのための専門性を高め続けたいです」

会場風景

イベント概要

「得意技」をどれだけ高めていけるか、挑戦し続けたい
クリエイティブサロン Vol.107 齊藤桃子氏

みなさんは得意なことや好きなことがありますか?
「絵をかくこと」「話すこと」などそれぞれだと思いますが、それを生業とされている方は幸せなことで、時間と経験を重ね続けていくことが付加価値を高めていくと思います。私は、デザインを通してサロンやクリニックなどの店舗から化粧品、雑貨など女性市場の案件に数多く携わってきました。自身が専門性を高めることにこだわった理由は、十年ほど前の出来事にありました。
当時在学中より、インキュベーション施設のあったメビック扇町に入居。21歳で小さいながら組織の代表になり無我夢中の日々を過ごしていましたが、多くの課題に直面し組織を解散させ1からのスタートとなりました。そこから制作会社やメーカーに勤め、2015年に独立。独立にあたり、大切にしていて良かったこと、自身の経験や知識を重ね続ける重要性、失敗から学んだこと、そして社会にできる役割を考えていきたいと思います。

開催日:2016年8月16日(火)

齊藤桃子氏(さいとう ももこ)

kakandesign

2002年京都芸術デザイン専門学校 ビジュアルデザイン研究科在学中より産学協同プロジェクトに参画。解散後、制作会社、メーカーを経て2015年にkakandesign(カカンデザイン)として独立。
女性をマーケットとしたデザインを中心に手がけ、商品のプロモーションをはじめ、サロンやクリニックなどの店舗グラフィックの実績多数。生け花を趣味に持ち日々ものづくりを通して表現力を鍛錬中。メビック扇町エリアサポーター、「わたしのマチオモイ帖 2015 京都展」に実行委員として参加。

http://www.kakan-d.com/

齊藤桃子氏

公開:
取材・文:小倉千明氏(オフィスコモコモ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。