地域の課題を地域の人と共にー共通の視点×想いに立ち みんなに「プラス」を導き出す独自の手法
クリエイティブサロン Vol.102 檀上祐樹氏

人口急減や超高齢化をはじめとする日本が直面する大きな課題を食い止めるため、政府の肝いりで進行中の「地方創生」。東京一極集中や人口流出に歯止めをかけるためにも、それぞれの特徴を生かした自立的で持続的な社会(ソーシャル)を形づくる(デザイン)ことが各地域・地方に求められるようになってきた。これこそが今回のゲストスピーカー、檀上祐樹氏が率いるORIGAMI Lab.の事業ドメインである。行政によるユニークな観光PRをはじめ、地域色豊かなイベントやセミナー、地域を巻き込んでの市民活動など、さまざまな形でのまちおこし・むらおこしが盛んになっている背景には、そうした政策が決して無関係ではないだろう。「地域活性」「社会貢献」を旗印に、個人や企業と行政が膝を付き合わせてみるものの、「何から始めていいのか分からない」。そんな悩みを抱える人々と一緒になってデザインのチカラによって解決の糸口を探る、それが同社である。

檀上祐樹氏

社会的課題をデザイン技術で解決、それがソーシャルデザイン。

檀上氏の肩書きは「ソーシャルデザイナー」。そのデザインフィールドは実に多様で、氏の言葉を借りれば「公園、森、ダム、離島、職員研修、教育計画」。必ずしも地方・地域に限らず、都市部が抱える「社会的課題」についてもデザインの技術を応用してきた。今回のクリエイティブサロンでは、依頼主である住民や企業、行政の方々が自分たちの能力で社会貢献あるいは地域活性できるようにするために氏が提案した数々のデザインプロセスの中から、代表的な事例を取り上げ、解説いただいた。

ソーシャルに限らずどんなデザインも「情報の整理」から始まる

地域が抱える社会的課題というのはさまざま考えられるが、一例を挙げるなら、津波や地震による災害被害や人口急減、少子化などがこれに当たる。「前例」や「慣習」といった共通の価値観で地域社会が結ばれていた頃なら、そうした昔ながらの手法で解決できていたのが、世代交代・新旧住民の対立などを経て、これまでのロジックでは通用しないケースが近年増えてきた。

「しかもそのロジックは、未来や次世代といった将来のために、“今”を犠牲にしてきた。そうではなく、“今”の時代も人も大事にしながら変えるべきは変える、そんな新たな解決力が求められていた」と檀上氏。そうした数々の“困りごと”の解決にデザイン技術を用いると言うと、何かを創り出すあるいはプレゼンテーションを行うような印象を受けるが、そもそもデザイン力とは「情報を整理する力」だと檀上氏は言う。

「もちろん、場合によってはプロダクツ(製作)も行いますが、伺ってみて思うのは、依頼主(クライアント)の頭の中が混乱しているということです。私たちがまず行うことは、それらに優先順位を付けること。それらをクライアントと共有することで、互いにイメージする将来像を描きやすくなり、こちらが提案するデザインにも理解や共感を得やすくなるのです」

交野市で開催されたイベントの様子
「かたのカンヴァス」

「使い易い」も「使いたい」も利用者「主体」のワークフロー

ORIGAMI Lab.が行うソーシャルデザインの主軸は3つあって、【空間の使い方から新たな空間を創出】【既存の公共空間のマネジメント】【行政運営計画・住民運営計画】。いずれも「“場”の価値観をちょっとだけ変えてあげる」ことにこだわるのが檀上流だ。

例えば、【空間の使い方から新たな空間の創出】のデザインプロセス事例として「久宝寺緑地未来会議」がある。久宝寺緑地とは八尾市にある大阪府が管轄する都市公園であり、大阪府下では服部・鶴見・大泉と並ぶ4大緑地の1つ。甲子園球場の約10倍もの広い園内には「花の広場」「ファミリー広場」といった憩いのスペースや、テニスコート、野球場といった本格的スポーツ施設を揃えているのだが、さらにエリア拡張したいという話が持ち込まれた。檀上氏はこのとき都市公園について次のように思いを巡らせた。

「ただ拡充させても賑わうのは一時期のこと、いずれ都市部でよく見かける『手入れされずに人足が遠のく』あるいは『使われなくなり廃れる』公園に成り下がるのでは意味がない」と。その想いから、「市民に愛される公園を作る」を発想の基軸に、公園の利用者となる住民を巻き込むプロセスを提案した。従来の公園づくりは、地域課題の把握や解決策の検討、その後の方針策定、方針にのっとった設計・施工というのは有識者やコンサルタントが請け負うのだが、「久宝寺未来会議」ではそうした過去のロジックにとらわれず、設計・施工だけプロの手を借りるが、あとは住民や利用者が主体となって行った。

「実は、これは建築では当たり前のプロセス。住宅づくりの場合だと、どんな住まいにしたいか、考えるのは居住者ですよね。それと同様に、公園も利用する人が利用したいように考える。そんな仕組みと試みを行いました」と檀上氏は語る。とはいえ、公園づくりに住民を巻き込むのは容易ではない。

そこで氏が仕掛けたのは、ワークショップという手法。まちの魅力や課題を知り、整理することから始まり、新エリアでどんなことをやってみたいか、そのために必要な設備や空間は何か、参加者から出たアイデアをまとめる作業まで、すべてセミナー形式で進んでいく。出されたアイデアの数は68にも及んだ。それを5つの視点にまで絞り込み、最終的には1つの利用方法のテーマ「学び」を設定した。さらに具体的な利用方法を導き出し、利用方法どおりに展開するための空間イメージを形成。それに基づき、専門家が基本計画図を作って行ったのだ。

ミーティング風景
「久宝寺緑地未来会議」

住民たちの「恊働」に「楽しさ」を加えて「笑働」に

もう1つ、【既存の公共空間のマネジメント】を射程に、既存の公共空間における新たな空間の使い方を提案した好事例として、大阪府和泉市槇尾山エリアの「笑働の森プロジェクト」がある。ダム建設のため大阪府がエリア一帯の用地買収を行ったにも関わらず、建設中止となり、住民が関わらない森ができてしまった。森の利用価値の低下も引き金となって生じている課題は「人口減少」「高齢化」「林業の衰退」だった。

「人不足」がいずれの“困りごと”の根っこになっていると分かったものの、居住人口を増やすことは困難。そもそも「森の未来を考え、盛り上げていく人は地域住民じゃないといけないのだろうか?」。そこで発想を転換し「活動人口(森の将来を考え実行する人口)を増やそう」をテーマに、檀上氏と住民による楽しんで恊働する(笑働)プロジェクトが始まった。

「例えば、幸福度をモノサシにした場合。物質的な充足を図り、地方が都市と同様に幸福をめざすのは無理がある。でも精神的な幸福度を上げることによって、都市でも地方でもない、新しい都市のカタチを追求することはできます」と檀上氏は語る。地元住民だけではなく市街地住民や市外住民にも訴求して、「森を作る」「森を使う」「森を見直す」この3つのプロセスについて、みんなで繰り返し循環して行えるコミュニティを築くことで、「槇尾の森を楽しむ」という目的を達成させることに成功した。ここでも「課題を見つけ、整理する」というデザインのチカラが生かされた。

木を切る参加者たち
「笑働の森プロジェクト」

ファストではなくスローに生きる。今を大切にしたい人、時代にマッチ。

上記のプロジェクトはほんの一例に過ぎず、檀上氏はデザインのチカラでこれまで数々の社会的課題を解決へと導いてきた。氏が展開するプロセスは実にシンプルで分かりやすく、その場を利用する人や住民の想いに直結している。「場所やモノ、コトの価値をちょっと変えてあげればいい」「アクションを起こし続ければ誰かが必ずリアクションしてくれる」。氏の人柄をも彷彿とさせる、優しいまなざしながら確かに現実を直視する視点が生かされた結果でもある。

「デザインにある公共性とは、万人が納得することと捉われがちだが、万人が納得するために考え議論することも重要だと、私たちは思います」。檀上氏率いるORIGAMI Lab.は2015年に設立されたばかりの新しい組織だが、そのルーツは2001年にまでさかのぼり、再生実績は実に多数。今後も彼らの動向に期待が集まっている。

イベント概要

ORIGAMI Lab.のデザインプロセス
クリエイティブサロン Vol.102 檀上祐樹氏

最近では様々な分野のデザイナーの方が行政、企業、住民の方と一緒に地域の課題に取り組まれているのを拝見させて頂けています。一方で「何から始めていいかわからない」という声もお伺いすることもあります。
ORIGAMI Lab.ではどのデザインも社会に貢献できると考え、設立して間もないですが、ORIGAMI Lab.のデザインプロセスを事例に住民、企業、行政が社会貢献するためのデザインプロセスを、皆さんと一緒にお話しできればと思っています。

開催日:2016年7月11日(月)

檀上祐樹氏(だんじょう ゆうき)

ORIGAMI Lab.合同会社

1977年高知県生まれ。自分のデザイン活動の存在意義に悩んでいた大学院生時代にstudio-Lの前身studio:Lに参画し、兵庫県家島町(現:姫路市家島)の「探られる島プロジェクト」等を展開し、生活を見つめ直し再定義を試みるデザイン活動を体験する。この頃からデザイナーだけでなく、デザインを活用する生活者も一緒にデザイン行為に参画できる視点を意識し始める。以後様々な地域のコミュニティデザイン、ソーシャルデザインの活動を展開し、生活者自らが生活づくり、地域づくりに関ることができるデザインを目指し、2015年にORIGAMI Lab.設立。
2014年 土木学会 市民普請大賞入賞、2015年 ウッドデザイン賞2015受賞。
現在、大阪産業大学建築・環境デザイン学科特任講師、公益法人いえしまふるさと基金審査員。

http://origamilab.org/

檀上祐樹氏

公開:2016年8月12日(金)
取材・文:西村ゆきこ氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。