人とのつながりが、デザインを、仕事を、出会いをつむぐ
クリエイティブサロン Vol.101 カツミ氏

101回目となったクリエイティブサロンのゲストスピーカーは、CA-RIN WORKS代表で、アートディレクターとして活躍するカツミ氏。現在、「わたしのマチオモイ帖」製作委員会メンバーでもあり、「つくりびと -食べる通信 from おおさか」の副編集長兼アートディレクターなど、さまざまな肩書きで精力的に活動中だ。これらすべてが、「18年の活動のなかで生まれた“ご縁”のおかげ」と語るカツミ氏。はたしてその縁はどのように紡がれていったのか、相関図とともに語る。

カツミ氏

独立して間もない自分を支えてくれた人々との出会い

以前は広告制作会社で、グラフィックデザイナー・イラストレーターとして働いていたカツミ氏。環境にはとても恵まれていると思う一方で、「会社の歯車のひとつ」であることに違和感を覚えた。また、個人的にイラストの個展を開催していたこともあり、「イラストの道で生きていきたい」という思いが生まれた。入社1年にして頭をよぎったのが、「このまま歯車のひとつとしてモヤモヤしながら安定した収入を得て生きていくか、苦労してでもやりたいことをやるか」−−−。カツミ氏が選んだのは独立の道。23歳の時に独立し、イラストレーターとしてスタートを切った。

個展を開催するなかで出会ったのがGATE OF DRAGONの三村康仁氏と古谷高治氏。企画展などに参加し交流を深めた。三村氏は、独立して間もないカツミ氏に「まず続けることがいちばん大事。辞めようと思えばいつでも辞められる。そういう奴が多いなかで自分だけでもがんばって続けていたら、周りの人たちも育ち、30代、40代になった頃に一緒におもしろいことができる。だからそれまで続けろ」と語った。「まだ独立して間もない時に、三村さんからその言葉をいただいたのがすごくありがたいことでした。たぶんご本人は覚えてないだろうけど、自分のなかにドーンと入ってくる言葉でした」

三村康仁氏と古谷高治氏の似顔絵イラスト
スライドでは、これまで自分を支えてくれた人々をイラストで紹介

相手のニーズを形にするおもしろさを改めて再確認

2005年、大阪・浮田町にあるJuen delicafe(ジュエン デリカフェ)で個展を開催したのがきっかけで、オーナーに作風を気に入られて「店舗のオリジナルキャラクターを作って欲しい」との依頼が舞い込んだ。「どんなキャラクターにしたいのか、しっかりとしたイメージがあるオーナーさんでした。この仕事をきっかけに、相手がどういう理想やイメージを持っているのかを聞きながら一緒にものづくりをしていく大切さと楽しさを知りましたね」

グラフィックデザインの本当のおもしろさを実感したのも、広告制作会社時代の先輩との出会いから。先輩である片山明氏の事務所に間借りし、自身の仕事をしつつ、合間で不動産の広告デザインの手伝いをしていた頃だ。「独立してから、正直なところグラフィックデザインに関しては深く関わっていなかったこともあり、そこまでおもしろ味を感じることが少なかったんです。それは、下積みも少なくほぼ独学でやっていたからだと思います。でも、片山氏のそばでノウハウを盗みつつ進めているうちに、広告の効果的な見せ方や狙いの定め方、戦略まで学ぶことができました」

ケーキを運ぶキャラクターのイラスト
Juen delicafeのオリジナルキャラクター「ジュエンくん」

順調にも見えるカツミ氏の独立生活だが、実は“氷河期”もあったという。「仕事はもちろんやっていたんですけど、人と会うのがおっくうになる時期がありました」。どうせ気持ちがふさぎ込んでいるなら、自分のやりたかったことをやろう、と以前から興味のあったレザークラフトに本格的にチャレンジ。フェルト作品をつくる奥様と「ca-rin」を立ち上げ、ネットショップや手作り市などでレザークラフトと羊毛フェルト作品の販売をスタートした。そのうちワークショップまで開催するほどの腕前に。この時期からオリジナルのTシャツ制作なども始める。

そのときに見つけたのが小豆島オープンクリエイションプロジェクト「島T計画」。小豆島とロフトワークドットコムの共同プロジェクトで、Tシャツを活用して島を盛り上げるというもの。その企画の仕掛け人であった小豆島の地域おこし協力隊の眞鍋邦大氏と出会う。その後に都市部の若者に対して地域への移住定住促進をサポートする団体のローカルキャリアカフェが主宰する、「丹波のIターン、Uターンのイベント」に眞鍋氏がゲスト出演するということでお誘いを受け参加。その時に丹波の人たちとも交流し、地域創生の話をするうちに『地域の力になれるっておもしろい』と興味を持つように。すっかり地域創生の活動に魅せられたカツミ氏は、その夜、イベントの打ち上げでローカルキャリアカフェ代表の川人ゆかり氏に「スタッフとして、何か力になれることがあるなら参加したい」と持ちかけ、それ以降はアートディレクターとして現在も活動中。川人氏との巡り合わせがきっかけで、熊本県の名産「きなしょうが」のPRツール制作や地域系イベントの広報物、また財団法人 信頼資本財団の熊野英介氏とも出会い、財団の広報ツールを制作する他、福島県復興支援の『喜望のランププロジェクトの総合プロデューサーを務めるなど、一気に人脈が広がった。

レザークラフト作品

趣味が高じて作ったフリーマガジンがスキルアップの場に

グラフィックデザイナー、イラストレーターとして活躍するかたわら、サッカー好きが高じて2013年から、「one」に参加。学生リーグからJリーグまで、関西のサッカー情報を紹介するフリーマガジンだ。「僕は当時編集のノウハウはあまり無かったので勉強しながら取り組むことに。現在はアートディレクターとして携わっています」。その経験が生きて、知人だったD&DEPPARTMENT OSAKAの安達秀人氏から2016年5月に創刊した「つくりびと 〜食べる通信 fromおおさか〜」の編集長 山口沙弥佳氏を紹介された。「安達氏が食に対して本物を追求する方で、この雑誌自体も食べもの付きの情報誌。生産者を知り食べる大切さを知ろうというもの。“つくり手が側にいる暮らし”をコンセプトに動き出したサービスです。『one』で培った編集ノウハウが今まさに生きてます」と笑顔で語る。現在、副編集長兼アートディレクターとして企画・デザイン・イラストを担当している。

冊子表紙と中面
「つくりびと 〜食べる通信 fromおおさか〜」

メビック扇町での出会いでクリエイティブユニットを結成

「メビック扇町」で生まれた縁も多い。メビック扇町で開催されていたエサキヨシノリ氏による「プロデュース力アップ講座」を受講し、そこで自分自身をブランディング。その際に企画として手掛けたのが「笑顔のしずくプロジェクト」。しずく型の顔ハメに顔をはめてもらい、写真を撮るという極々単純なもの。「でもこれ、意外と顔にはめるだけでみんな笑顔になってくれるんですよね。笑顔のしずくを集めて世界を平和に! という想いが込められたプロジェクトなんです」と笑顔で語る。

またメビック扇町のクリエイティブコーディネーターを担当して1年目で出会った仲間とクリエイティブユニット「天満販売促進部」を結成し、今年7月から始動。「ひとりでやるには限界があるけれど、みんなのスキルを合わせてひとつにすれば、めっちゃおもしろいことができるんちゃう? という思いから走り出しました」。その言葉通り、メンバーは建築家、インテリアデザイナー、写真家、コピーライターなど経歴はさまざまだ。

また、大阪デザイナー専門学校の石川武志氏とも「メビック扇町」が縁で出会い、お誘いを受け現在は大阪デザイナー専門学校非常勤講師としても働く。「これまで人と少し違う動きをしてきたので、教えることはできないかもしれないけど“伝える”ことなら自分にもできると考え、試行錯誤しながら生徒たちと相対しています」

こうしてさまざまな活動をしているうちに、使い分ける名刺は実に7枚!「本当に、これまでのご縁に感謝しながら、クリエイターとしてこれからも興味のあることにはどんどんチャレンジしつつ活動していきたいですね」

会場風景

イベント概要

つながりをつむぐ わたしの相関図
クリエイティブサロン Vol.101 カツミ氏

これまでと、これから。
人との出会い、つながりが今の自分を形成しています。
例えば、この人からこの言葉をもらった事で決意できたことや、この人と一緒に仕事ができたから気付けたこと、この人と出会えたから更に広がりを持てたことなどなど。思い返すとキリが無いほどです。
今回はそんなわたし自身のつながりを「相関図」に落とし込み、視覚的なアプローチを用いて自分にも皆さまにも分かり易くお話しできればなと思っています。

開催日:2016年7月4日(月)

カツミ氏

CA-RIN WORKS

アートディレクター[イラストレーションとデザイン]
兵庫県生まれ。専門学校卒業後、広告デザイン会社を経て、1998年独立。
イラストレーションとデザインを用いた表現方法を得意とし、「つながる笑顔を生み出すものづくり」をコンセプトに、「その先に”人”が居る」を常に心に持ち、日々活動中。
最近の興味事は、燻製・カメラ・自然農・自家製シロップ・レザークラフトなど。
my home town わたしのマチオモイ帖 製作委員会メンバー、メビック扇町 クリエイティブコーディネーター、つくりびと -食べる通信 from おおさか- 副編集長兼アートディレクターとして、福島復興支援「喜望のランプ」プロジェクト総合プロデューサー、大阪デザイナー専門学校非常勤講師。

http://ca-rin.com/

カツミ氏

公開:
取材・文:中野純子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。