自分ですべきこと、業者にまかせること、その境界線を知り、Webサイトの有効活用を図る。
Web最新事情 ~戦略的サイトの構築と運用のすすめ~

今回のクリエイティブビジネスフォーラムは、Webの最新トレンド、技術動向などを探ろうと、大阪府ビジネスマッチングブログ(BMB)とメビック扇町との協働で開催された。Web制作・運営管理のプロフェッショナル4名が、Web業界の“いま”を語った。

おもてなしの心、サイト設計の指針。

トップを飾るのは、有限会社流楽 代表の松崎匡浩氏。タイトルは「業者任せのホームページ制作にしないためのサイト設計と考え方!」。Web制作者からみた効果的な集客および検索エンジンの最適化(SEO)について、発注者が注意すべきポイントを述べた。

松崎匡浩氏

まずは、企業側がホームページに求める役割の確認から。企業の紹介、知名度のアップ、商品・サービスのPR、などだが「うちはこういうことができますよ!」といったアピールだけに終始することも。これでは顧客との接点を持つことができても、継続したつながりは期待できない。このようなホームページ本来の目的が達成できない状況を避けるためには、一連の検索行為を振り返ってみることが重要だという。チェックポイントは、検索の動機、検索キーワードを知ること。検索の目的はなにか、どんなキーワードを入力するのか、それいかんで「検索結果ページ」や「表示されるページ」が大きく変わってくる。

例えばレストランの場合、「イタリアン、安い、大阪」という複数のキーワードを組み合わせて検索されるケースが多く、その結果として詳細な情報にたどり着くことができる。検索結果のページは、代表的な検索エンジンGoogle、Yahooともに青い文字でアンダーラインされた「タイトル」とそのサイト説明文の「メタディスクリプション」で構成されている。このタイトルとメタディスクリプションにどのようなキーワードが散りばめられているかで、表示されるページ(目的のサイト)は決定される。最近の傾向としては、複合キーワードで検索するためトップページよりも下層ページ、ブログなどCMSの記事ページが表示されやすいという。コンテンツがより詳細に書かれているページが検索結果として表示されることが多くなってきているということだ。

イベント風景

そこでSEO対策である。SEOというと、「騙したり裏をかいたりして検索順位をあげるための操作」といった悪しきイメージがあるが、本来は「検索エンジンに対して、ホームページを最適化させる技術・手法のこと」。要するに検索の結果として自社のサイトが表示されるためには、どのようなキーワードを含んだコンテンツが必要で、それらをいかに効果的にデザインするか、ということが最適化の意味。そこで重要になってくるのが、先ほどの「検索行為」。検索の動機、入力されるキーワード、検索の結果ページ、結果ページからタイトルをクリックして表示されるページ、表示されたページのコンテンツ、アクセスされるデバイスの多様化などをどれだけ熟知しているかがSEOのチェックポイントだ。これらのポイントを踏まえ、適切なサイト構成を考えるのが次のステップ。ユーザーのニーズに応えられるページを用意し、満足してもらえるコンテンツを掲載。カテゴリーはわかりやすく、直感的なデザインで、さまざまなデバイスに対応。「お客様が求める情報がきちんと整理されていることが大切です。実績、サービス内容、価格、等々をわかりやすく見せることで、顧客満足につながるアプローチを」と松崎さんは情報デザインの重要性を強調。1ページ1テーマ、また専門用語も排除すべきではないとも。なぜなら、検索キーワードに専門用語を選択する場合も多いからである。他にもタイトルは20文字まで、メタディスクリプションは訴求力のある文章で120文字まで、スピード感のある情報発信、SNSとの連動、モバイルユーザビリティへの適切な対応など細かいテクニックもあるが、ホームページは、ユーザーを一番最初にもてなす場であるという認識と姿勢が何よりも大切。おもてなしの心で、脳みそに汗をかき、ホームページに魂を込める、制作に関わるすべての人にとって必要不可欠な態度である。そんな松崎氏のWebサイト制作者としての矜持が「業者任せのホームページ制作にしない」というタイトルに込められているのではないだろか。

モバイルファーストでシンプルに、まずはできるところから。

2番手は株式会社TAMのスマートフォンプロジェクトリーダー・プロデューサーの角谷仁氏。いま話題のレスポンシブWebデザイン(以下:RWD)について。タイトルは「レスポンシブWebデザインのメリット・デメリット」

角谷仁氏

まず初めにスライドで映し出された人物がだれなのかについての質問が。会場では知る人はなかったが、業界では有名な「モバイルファースト」提唱者のルーク・ウロブルスキー氏だ。スライドの写真は、2年前の夏に開催された「Web Directions East 2012」にスピーカーとして来日していたときのもの。そもそも「モバイルファースト」とはどのような考え方なのかというと、設計や開発に際し、モバイル環境への対応を常に最優先するということ。まずモバイル向けの設計を、それに合わせてパソコン版を開発するといった順番だ。

モバイルファーストやRWDが普及するようになった背景には、スマホの保有率が大きく関わっていることは当然だろう。2014年4月、MMD研究所の調査では、携帯電話端末保有者全体の56.5%がスマホを所有しており、15歳以上のティーンエイジャーでは84.5%、20代でも74.2%にのぼる。売上に関しても、ECサイトでスマホからの購入が40%を超えるところもでてきているとか。また、2012年全世界で12,000台もの端末が存在し、画面サイズも無数にある。以前は、PC、スマホ、タブレット、それぞれにHTMLを用意し対応していたが、これだけの端末数と画面サイズになるとすべてに対応することは、運用・コストも現実的なレベルを超えてしまっている。そこでRWDが脚光をあびることとなった。RWDとは、簡単にいうと、「単一のHTMLで、画面幅に合わせて見た目が変化することでマルチデバイス対応できるデザイン」となる。

RWDが日本で普及しはじめたのが2012年。この現象は一時的な流行ではないといわれている。首相官邸、中央省庁や大手商社なども採用し、グーグルも推奨していることからうかがい知ることができるだろう。

イベント風景

ここで、RWDのメリットとデメリットが紹介された。メリットは、ワンソースでマルチデバイスに対応可能、SEO面で強い、ソーシャルメディア対応、運用が低コストなど。一方、デメリットになりえることとしては、スマホで見たときに重い、フィーチャーフォンには対応不可、完全なデバイス専用デザインにできない、HTML/CSSが複雑になり運用が困難に。しかし、角谷氏は、デメリットの多くは対応次第で解決できるという。TAM社が提案するポイントは、(1)モバイルファーストでシンプルに、(2)スタイルガイド(パーツリスト)・ドキュメント・レクチャーのパッケージだ。モバイルファーストでシンプルにするということは、無駄が削ぎ落とされ、ユーザーに本当に必要な情報だけをわかりやすく提供するという意味で、情報に欠落があるわけではない。サイト構成、テンプレート設計(ナビゲーション)、レイアウト、すべてをシンプルにすることで、コアバリューを的確に表現することができるのだ。シンプルであればあるほど、コンテンツは充実したものにする必要がある。写真や動画はもちろん原稿もシンプルで魅力的なものが求められる。(2)のスタイルガイドとは、「パーツセット」のようなもので、あらかじめレイアウトパターンを用意し、運用時に切り貼りするイメージだという。制作会社などがスタイルガイドを使用するときの説明書がドキュメントで、必要に応じてレクチャーも実施する。

角谷氏のプレゼンは、この後、ケーススタディに移り、さまざまなサイトが紹介され、RWDとの相性に言及。現状の事例の多さから考慮すると、レスポンシブが向いているケースは、コーポレート、ブランド、製品サイトなど。一方、予約、申し込み、メディア系、SNS系、EC系など、投資対効果が見込めるスマホサイトを繰り返し使って欲しい場合は、専用サイトが多いという。まずは、小規模なサイトからテスト導入することもオススメだ。新しい技術を導入することは勇気のいること。まずは、できるところからスタートするのがいいだろう。

CMS導入は、自社でサイト改善ができる環境を整える。

続いて3番目のプレゼンテーションは、「CMS導入で企業のWebサイト運営はこう変わる!~CMSサイトの構築と自己メンテナンス~」と題し、コンクリートファイブジャパン株式会社 代表取締役社長の菱川拓郎氏が、近年多くの企業サイトでも活用されているCMSを解説。

菱川拓郎氏

「CMSって思っていたよりすごい!」「CMSでサイト改善が自社でもできる!」と感じてもらうことが本日の菱川氏のゴールだ。CMSとは、Webサイトのコンテンツを管理するためのシステムのこと。Webのなかにある様々なページを効率的に管理することをはじめ、コンテンツの素材(画像、動画、PDF等)の管理やWebサイトを『管理する人』の管理もするという優れもの。しかし、CMS導入はしたけれど……という企業も多いという。「サイトの改善点をアクセス解析から分析し、ページのレイアウトの変更や既存コンテンツの改善が社内で行える体制になっている方はいらっしゃいますか?」という質問に会場からは一人だけが挙手。サイトに問題があるのは分かっているが、リニューアルする予算がないから放置あるいはサイト改善は業者まかせというもったいない状態の企業も多い。また、これからCMS導入を検討している企業でも、ライセンス料が高額でコスト高、ブログをカスタマイズする程度の機能しかないのでは、といった偏った思い込みがあるかもしれない。

そんなもったいない状態や偏った思い込みを払拭して「CMSサイトでできること」を的確に認識する必要がありそうだ。多くのことができるCMSサイトだが、菱川氏は、(1)お知らせの更新、(2)SEO解析によるサイト改善、(3)運用フローの構築、をピックアップ&解説。お知らせの更新は、「CMSを入れて、お知らせだけ追加できればいいから」という企業の声をよく聞くそうだが、本当にそれだけでいいのか、というのが菱川氏の主張だ。さしたる目的もなくなんとなく機能だけ付加しているという姿勢では、そのうちお知らせの更新も滞りがちになり、いつしか放置されてしまうだろう。それではなんのためにCMSを導入したのかといったボヤキも聞こえてきそうだ。

Webは、紙・電波媒体とは異なり、中小企業が費用を抑え効果検証ができる数少ないメディアである。アクセス解析やABテストなどのツールからサイト改善につながるデータを収集することがポイントで、キーワード順位、PVの推移だけではWebサイトが抱える問題点とその原因が見えてこない。そこで改善のフローとしては、検証したデータから『仮説』を立て、改善案を立案・『実行』、効果を定量的に『検証』といった一連の作業がある。Webサイトの問題点は、ユーザーがサイトに求めている『要望』と『提供される情報』との間のズレに隠れている場合が多い。たとえば、サイト流入からコンバージョン(問い合わせ等)に至る経路でなにかの不都合があり、ユーザーが離脱するケース、流入ワードや広告の表現とランディングページに表現されている情報が合致していないためにすぐにページを離れてしまうケースなど。また逆に、アクセス数は少ないけれど、実は自社に対する潜在的なニーズを表しているような貴重な情報を見落とすことも。これらを避けるために『仮説』『実行』『検証』が有効で不可欠なのだ。

イベント風景

さまざまなケースを想定した改善プラン例A~Dの説明後、「プランは仮説、いくらでも出せます。確実な仮説などなく、実行し、検証することが大切です。その積み重ねから得た知見が自社の財産となる。必要なのは費用をかけずにすぐ実行できる環境です」と菱川氏。つまりCMS導入は、Webサイトの仮説から得た改善策を実行できる環境づくりだということだ。

ではそれを実際どうやってやるのかということで、操作デモへ。ページの編集やメタ情報の更新、デザインの変更などのデモを通じて、CMSの利便性、有用性を感じてもらえたのではないだろうか。運用フローの構築、その他CMSサイトでできることの解説のあと、最後にデモで使用した『concrete5』の紹介があった。

オープンソースでだれでもライセンス費用を支払わずに利用できる。「オープンソースCMSは安くて低機能なフリーソフトではなく、ビジネスの現場で使われている高機能なソフトウェア」だから、開発・運用コストをトータルで節約できるということである。保証・サポートがないなど、注意点もいくつかあるが、お知らせ更新だけではなくWebサイト改善を自社で即実践できる環境が得られるというCMS導入のメリットは特に中小企業にとって「希望」かもしれない。

放置サイトが脆弱性を生む、定期的なメンテナスを。

最後は「オビタスター株式会社 サブマネージャー前田学氏による「サーバー構築とハッキング対策」。オビタスター社は、創業250年の呉服店としてネット販売に挑戦し、2003年1月に楽天市場で新人賞を獲得した。

前田学氏

事例紹介の前に、前田氏よりハッキングの現状についての報告・注意喚起があった。作りっぱなしで放置されているサイト、まだ始めたばかりの小規模なサイトは、特にターゲットになりやすいのだということを認識する必要があるのだそうだ。なぜハッキングをするのか?その目的のほとんどは、「このサイトを利用して〇〇ができますよ」という情報を販売するためだ。

では、最初の事例、「CMSの脆弱性をついた攻撃」から。CMSの画像・ファイルアップロード機能や自動バージョンアップ機能などのWeb画面からファイルをアップロードできる機能の脆弱性をついた攻撃が多いという。その対策法は? 一番有効なのは、利用しているCMSはいつも最新版にアップデートしておくこと。便利だという理由でファイルやフォルダにWebからのアップロード権限、変更権限を与えないことも大切。ベーシック認証、IP制限などを利用し管理画面のアドレスには直接アクセスできないようにするなど。

次は「FTPを盗んでの攻撃」。ハッキングの方法は、主にFTPのIDとパスワードを盗み、プログラムのファイルをアップロードする。プログラムを使用しランダムに総当たりでログインを試みる。対策としては、FTPを利用しないという方法がベスト。サーバーが提供している場合は、必要のないFTPアカウントは削除しておく。FTPのIDやパスワードを盗まれにくい複雑な組み合わせにする。それらIDやパスワードを定期的に変更することも。.ftpaccessというファイルが設置できるサーバーでは、IP制限をかけて自分以外のIPではアクセスができないようにする。また、パソコン自体を乗っ取られないようファイヤーウォールやウィルスソフトを導入し、それらを常に最新版にしておくことも重要だ。

3番目に「サーバーデフォルト導入ソフトの脆弱性をついたハッキング」。サーバーにデフォルトで導入されているMySQLの管理ソフトphpMyAdminや、Web経由でできるFTPソフト、Webメールソフトなどは、放置しておくとバージョンアップがされず、脆弱性がでる。対策は、自分たちで変更等できない場合は、常にアップデートしてくれるサーバーを選択すること。自分の公開領域に該当するソフトが置かれている場合は、自分たちで常に最新版を。利用しないソフト、たとえばインストーラーなどは削除。ベーシック認証やIP制限をかけて、自分たちのみが利用できるようにする。

最後4番目は「サーバー本体の脆弱性をついた攻撃」。このアタックに関しては、基本ユーザーサイドでできることはない。信頼できる業者のサーバーを選択することが最良の対処法となるだろう。「Webサイトは作って終わりではなく、そこがスタート。きちんとメンテナンスを行うことがサイトを公開している人の義務です。自分のサイトやサーバーが踏み台となり、他の多くの人に迷惑をかけないようにしていくことが重要です」と前田氏は熱い語りで締めくくった。

めまぐるしいテクノロジーの進歩に追い立てられるようなWebの制作・運用管理。その進歩の本質を見極められれば、Webは、真にビジネスをアクセラレートするにちがいない。「業者任せにしないおもてなしの心」「RWDできるところから」「CMS導入はサイト改善のための環境づくり」「メンテナンスはサイト公開者の義務」、Webのプロからのメッセージは案外アナログチックでヒューマンなものだった。

イベント風景

イベント概要

Web最新事情 ~戦略的サイトの構築と運用のすすめ~
クリエイティブビジネスフォーラム – BMB×メビック扇町

メビック扇町では、クリエイティブに関する先端的・専門的な話題や海外情報等を提供するため、クリエイティブビジネスフォーラムを開催しています。

今回は、大阪府のビジネス・マッチングブログ(BMB)と協働して、中小企業の戦略的経営に欠かせないWebサイトの構築・運用について、各分野の専門家の方々をお招きし、自社サイトの構築手段から活用・管理術まで、最新のトレンドや技術動向、また、今さら聞けないWeb活用の常識までをお伝えしたいと考えています。

開催日:2014年11月5日(水)

公開:
取材・文:赤瀬章氏(Lua Pono Communications)

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。