BtoCビジネスに向けたクリエイターの新たな可能性
クリエイティブビジネスフォーラム「クリエイターと ものづくり。と、」

昨今、クリエイティブに関わる様々なジャンルの人々が、自ら商品をプロデュースして発売し、話題になる事例が増え、この傾向は、受託業務が中心であったクリエイター自身の新たな展開として、今後ますます注目度を増してくることが予想されます。今回のクリエイティブビジネスフォーラムは、販路も見据えたものづくりに取り組んでいるパネラーをゲストに招き、ものづくりに対する姿勢やこだわり、経験やノウハウをお伺いし、クリエイターとものづくりに大切な「何か」を探る会となりました。
最初にデザインマルシェ委員会の清水柾行氏が、クリエイターによるものづくりの実践例としてデザインマルシェの取り組みを紹介、あわせてものづくりの大切なポイントを解説し、その後、パネラーによる活動紹介、意見交換を行いました。

問題提起:清水柾行氏(青空株式会社)

デザインマルシェを実験的な試みとして昨年に初めて開催した。マルシェの価値とは何かを考えると、2003年にJAGDAで名古屋の高島屋で開催した「デザインデパート」に遡る。デパートにないものがココにあるというコンセプトで、ハンカチ、雑貨、着物や間取りを描いたシート、想像妊娠キット、ティッシュが引き出せるスーツなど、遊び心も満載の商品を展示した。そこに東京の「ドラフト」というデザインプロダクションが初期に立ち上げた雑貨のブランド「ディーブロス」を置いてみると連日の追加注文。この状況を見たときにグラフィックベースでも、ものづくりの世界へシフトできる感触があった。なぜなら、その頃からモノの意味が変わってきたからである。20世紀は車やブランド品など高級なモノをお金で買って幸せだった時代。旺盛な消費で経済を支えてきた。2000年ぐらいを境にして地球環境への問題意識や理解でロハスやスローフード、サスティナビリティなどが日本でも認知されるようになって、消費意識そのものが少し変わってきたように思う。
市場も今までは一つの塊と見ていたのが、個別化、パーソナル化、趣味化している気がする。送り手と受け手の一方通行から喜びを分かち合う関係へと、送り手と受け手の境界が曖昧になっている。そういうことを昨年のデザインマルシェで実感できた。モノの意識が変化し、モノそのものの価値が作り手の想いや周辺の人の関係を取り込み、コミュニティも大切な価値としてモノに付随してきている。つまり、ただ売れるためのモノを考えるのではなく、自分が人にこれを届けたい、それをたくさんの人に届けたいから作りたいという欲求をどれだけ確信として持っているかが重要だ。そしてそれを実際にどううまく多くの人に届けられるか、売っていくのかを、スピーカーのみなさんからヒントをいただければと思う。

イベント風景

事例紹介

クリエイターとして実際にものづくりに関わっている6人のスピーカーのみなさんから、具体的な事例を交えて、ものづくりに対する考え方を伺いました。

かねこしんぞう氏(一般社団法人福岡デザインアクション 実行委員長)

福岡でも、いろんなものづくりが領域を超えて活動している。私自身はグラフィックデザイナーだが、スペースデザインに興味をもってテクニカルな人達と一緒にやっている。ジャンルを越えて一つのものを作っていく。例えば、西鉄バスの路線バスを安全・安心に運行するための車両デザインとか、博多織物を使ったホテルのロビーや部屋のインテリアなど、これは地域に住んで地域がわかる人にしかできない。ものづくりには地域性も大きなファクターになる。新しいデザインには土地の技法をどう活かすかも大切。また、地域の特色として福岡は大陸に近いので韓国とも接触が多い。福岡と釜山のクリエイター40名ずつが一緒になってデザインした「SKINIKS」(スキニクス)という商品はiPhone、Galaxyの両面に貼るシールで、画面のところはシンクロナイズされていてそのまま見える。この商品を世界に売っていこうと、開発プログラムは現在も進行中だ。
当初は自分たちだけの自主活動だったが、2012年に「一般社団法人福岡デザインアクション」(Fuda)を私たちデザイナーが立ち上げ、2014年「福岡デザインアワード」で受賞した企業の商品を消費者と結びつける福岡発のプロモーション事業を、福岡県からの委託事業として助成金をもらって運営している。その事業の名称が「福岡デザインステージD12」だ。賞をもらった作品が紹介はされても販売チャンネルがない。その問題を解決するために受託したのだが、コンセプトはデザインによる「創生」「活用」「発信」だ。そこは商いの場であり、学びの場であり、交わりの場でもある。社会とデザインをどう組み立てるかという試みでやっている。現在、87社の企業さんから約400の商品アイテムを受け付けて、参加料はもらうが基本的には委託販売で、売上は企業さんにお渡しする仕組みになっている。次年度も継続していこうと、企業だけでなくユーザーも巻き込んだ事業としてがんばっている。

イベント風景

金谷勉氏(有限会社セメントプロデュースデザイン 代表取締役)

最近の仕事としては通販サイトの制作やリアルショップを手がけている。金沢の老舗料亭の胡麻豆腐のパッケージを担当したり、東急百貨店とコラボした八段重ねのおせちをプロデュースしたり、一方でレストランとケータリングの店を京町堀に出店している。また、場を作り出す活動にも力を入れている。東京インターナショナルギフトショー内のコンセプトゾーン「ACTIVE CREATORS」では若手のクリエイターのプロデュースをして低料金で出店できるようにした。これはほとんどボランティア的な活動だが、とにかくバイヤーが多く集まらないと商売も大きくならない。
さらに、人とのつながりをデザインするために、10年ほど前から異業種交流会を大阪と東京で開催してきた。各地方からも依頼があり、滋賀、和歌山、新潟、福井、京都でも開き、ナナメの人間関係を構築している。もともとは自分たちの経営の安定、能力の向上、営業力の向上という3つの柱を考えてやってきたが、職人さん達と出会うことでデザインを通して新しいものづくり事業の関係を一緒につくれないかと思うようになり、5年前から流通を見据えた協業活動を始めている。

イベント風景

玉井恵里子氏(株式会社タピエ 代表取締役 / デザイナー)

私はインテリアデザイナーとして、どうすればみんなが集って楽しくなれるかを考えてきた。作品を通して場を作る、これは編集作業と同じだと思っている。そもそものきっかけは、たこ焼きと通天閣とくいだおれと阪神タイガースがキャッチフレーズの大阪を疑問に思い、それ以外の楽しい大阪を発信したいと2008年に「ZAKKAな大阪」というガイドブックを作ったことだ。作家に絵を描いてもらい、ずぼらやのフグや、かに道楽をかわいく表現して、自転車で回れる大阪を発信した。かわいい大阪を探すこのガイドブックは、今もベストセラーとして売れ続けている。
そして、この「かわいい」という言葉を新たな文化のカテゴリーとしてどこかに発信できないかと思ったときに大阪市とパリ市との交流事業があり、かわいい文化を発信するプロデューサーとしてコンペに応募し、女性クリエイターを集めてパリで展覧会を開くことができた。作品から「かわいい」が国境を超えて伝わったと実感できたイベントだ。1度目の展覧会でパリ在住のファッションジャーナリストの目にとまり、記事にしていただいた。これを見たイデアインターナショナルから、プロダクトにしたいが人形作家「IRIIRI」にデザインしてもらえるだろうかという打診があり、私たちがプロデュースして作家と一緒にものづくりをしていった。
オフィスでの作家さんとの交流がタピエでの日常風景だ。現在、タピエで発表された作家さんは600人いる。取り引きさせていただいているのは100人ぐらい。現在、百貨店でポップアップショップを出しているが、それが経験になって作家さんはどんどん自信をつけている。先日は東京有楽町のマルイの1階で60人の作家を集めて作品を展示し、なんと2週間で4000点の作品が売れた。デザイナーはデザインをするだけじゃなくて、デザイナーがもっている才能という資源を発掘し、それを編集していくことが大切な仕事だ。デザイナーが介入して消費者にハートを届ける。そうすれば必ず売れる。

イベント風景

ツタイミカ氏

中小メーカーで企画デザイン職を2年間やってきた。現在、京都工芸繊維大学の大学院に通いながらフリーランスでデザイナーをしている。大学の卒業制作で食べ物を乗せるお皿に漫画の一コマを描いた「マンガ皿」という作品を作ったところ、ちょうどコミカルという漫画商品を扱うブランドと契約を結ぶことになり、現在販売している。最近の活動を2つほど紹介したい。
1つは、「flex-vase(フレックスベース)」という商品だ。ヒノデワシというメーカーさんの「おゆまる」という半透明プラスチック粘土を使った商品を提案した。安価な商品なのでもう少し高価格帯が狙えるように、なおかつ素材のおもしろさを生かし、シート状にしてお湯をかけて世界にひとつだけの器が作れるようにした。
もう1つは「チャイムが鳴る森」というイベントだ。奈良に里山を所有している林業の会社さんのイベントで、デザインとディレクションを担当した。森を舞台にした会場で、森は素晴らしい居場所だと気づいてもらうために、飲食店、雑貨販売、作品展、図書館を用意したり、森で音楽を奏でたり、さらに現役の木こりさんに木を切ってもらう実演ショーなどを企画した。看板やパンフレット、参加者が自分で木を描き足していくポスターやポストカードも用意した。アクセスの不便さはあったが、2日間で3000人の参加があった。

イベント風景

山極博史氏(うたたね 代表)

もともとメーカーでインハウスデザイナーをしていたが、15年ぐらい前に独立した。自分たちでデザインして、自分たちで製造にも携わって販売もする。スタンス的には小さな個人メーカーという感じでやっている。ものづくりをするうえで考えていることは、コミュニケーションしていくこと。ユーザーさんの意見や要望をしっかりと聞き取って、「長く使ってもらえるもの」をキーワードにしている。当初から作って販売している椅子も、ユーザーさんの意見を反映させて少しずつデザインを変えて対応しており、15年ぐらいずっとコンスタントに売れ続けている。
一方で、メーカーさんの力を借りて量産している商品もある。東京の「papacoプロジェクト」というブランドにデザインを提供して商品開発した木のおもちゃや、大阪の玩具メーカーさんと開発した商品もある。やはり自分たちだけでは少量生産なので、メーカーさんと組んで大量生産したり、販路を海外にまで広げたりできるメリットは大きい。
僕らは木を使った商品がメインのプロダクトだが、最近、八尾市のランプメーカーさんや布を扱う人と出会い、これから力を合わせて商品開発をスタートさせ、商品化を目指してやっていく。販売に関しても様々な分野の人の力を利用しながらやっていかないと、自分で作って自分で販売していくのは難しい。

イベント風景

南大成氏(HIROMINAMI.DESIGN 代表)

イギリスでデザインを勉強したのち、大阪のデザイン事務所でインハウスデザイナーとして勤め、今はフリーランスで3足のわらじを履いてデザイン活動をしている。1足目のわらじは「ヒロミナミデザイン」として、おもに大手メーカーさんのヒーターや扇風機など、家電製品の外観デザインを手がけている。かがまずリモコンを取れる扇風機の背面デザイン、操作しやすいコントロールパネル、若い女性ユーザーを意識したデザインなど、ターゲットや価格、素材や製造方法などに配慮しつつカタチとして企業に提案する。
2足目のわらじが、「Iroyori」(イロヨリ)として5人のメンバーで活動しながら、目玉商品として「フジヤマブローチ」を販売している。ここでの活動のおもしろさは生産から販路まで、ものづくりの川上から川下までマネージメントすることを前面に出してやっていることだ。デザイナーとの助成金事業で良く聞く失敗例として、デザインが終わった後、販路が無く売れないという事例が多いが、Iroyoriは企画の前に販路を見つけてきて、そこへ向けた商品企画、デザイン、製造補助、プロモーションまでしてしまう。
3足目のわらじが、「ARLEQUIN」(アルルカン)という合同会社をアートディレクターと組んで立ち上げ、ハイブリッドレザーという独特の質感を持った素材を使い、無縫製の接着構造で、名刺入れや長財布、コインケースなどを作って販売している。デザインの「売る・売れない」という責任を全て負いたいので、デザインだけでなく、企画から素材・工場探し、生産管理、販売やプロモーションまでトータルに行っている。

イベント風景

トークセッション

イベント風景

ものづくりの事例をそれぞれに紹介していただいた6人のクリエイターのみなさんに、ファシリテーターの浅野由裕氏が加わり、ものづくりのリアルな現場が垣間見える多面的なトークが繰り広げられました。

スピーカー

金谷勉氏

金谷勉氏

有限会社セメントプロデュースデザイン 代表取締役

かねこしんぞう氏

かねこしんぞう氏

一般社団法人福岡デザインアクション

玉井恵里子氏

玉井恵里子氏

株式会社タピエ 代表取締役 / デザイナー

ツタイミカ氏

ツタイミカ氏

南大成氏

南大成氏

HIROMINAMI.DESIGN 代表

山極博史氏

山極博史氏

うたたね 代表

ファシリテーター

浅野由裕氏

株式会社ファイコム

浅野氏

かねこさん、まず言っておきたいことはありますでしょうか?

かねこしんぞう氏

かねこ氏

仲間づくりがいちばん大切だと思います。一人の努力とか知識はたかが知れています。ある程度の規模のプロジェクトを長期間しっかりとやっていこうとするなら一人では持たない。ジャンルを越えた人達が集まって仲間づくりが必要になってくる。従来の仕事は企業が発注してわれわれが受注する関係ですが、仲間づくりがしっかりすれば少し変わってくるんですね。ある程度の仲間がいれば情報を集約して提供できる。そうしたことを企業も求めていると思いますね。そんな関係づくりが大切ですよ。

浅野氏

福岡ではいろんな分野の人たちが、仲がいいとおっしゃいましたが。

かねこしんぞう氏

かねこ氏

仲がいいというのはビジネスにトゲトゲしさがない。そんな関係の方が良いアイデアが生まれる。酒を飲みながらディスカッションしたり、会議室ではない場で会話したり、これが大事だと思いますね。

浅野氏

いちばん若手のツタイさん、マンガ皿が売れた瞬間ってどんな感じだったんですか?

ツタイミカ氏

ツタイ氏

正直、あまり実感がなくて。あまり社会を知らない頃でしたし、無我夢中で卒業するために作ったものですから。それをいろんなところで取り上げてもらって、気がついたら商品化していたみたいな。

浅野氏

金谷さんは商品価格をどうやって決めているのか、そのあたりを知りたいですね。

金谷勉氏

金谷氏

他のメーカーさんも同じだと思うのですが、3分の1とか4分の1の原価で作らないと商業ベースに乗って行かないように思います。また、家具のように受発注で作る場合と、雑貨のようにある程度量産しないといけない場合とは違いますし、海外に輸出したいとなれば関税の関係もあります。そういうことを考えていくと、この商品がいくらかというよりも、自分の技術料を含めて価格はこれぐらいにしてしまわないと原価率はこうならないとか、計算して作らないと難しいと思います。

浅野氏

南さんはものづくりの会社と組んで「アルルカン」で商品を販売されていますが、やりとりでご苦労されていますか?

南大成氏

南氏

売る前は販路に苦労するかなと思っていたのですが、販路以前に生産管理の方が大変で、ある商品では半分以上使えないものが出てしまいました。それまでに3、4回試作してOKを出した後だったのですが、サンプルで少量作るのと大量に作るのとでは違うんですね。工場の人に指示を出しても言葉では伝わらない。写真を見せて指示して3回目にやっとOKでした。なので、販路の引き合いは色々あるのですが、注文頂いたときに対応できないのでちょっと止めている状態です。

金谷勉氏

金谷氏

それはね。意匠設計しかしない、と現場の人は思っているからですよ。現場ができることもある程度理解したうえで設計していくデザイナーは非常に少なかったと思います。イケアとかだと成形のことがわかっている人がデザインしている。たぶん、現場のポテンシャルを見つつやらないと、現場で歩留まりが60しかなかったら商品として利益はあがりません。

浅野氏

タピエスタイルの場合はご自身でデザインするというよりは、作家さんに任せているスタイルですよね?

玉井恵里子氏

玉井氏

そうではありません。作家さんたちは1点ものをアートとして作ってらっしゃるのですけども、じゃあそれを3000体作れるかといえば、そこがすごく難しい。まず生産者がこれの「かわいらしさ」がわからないと。どこがかわいいのかわからない、こんな気持ちの悪いものを作っていいのかというクレームが最初にきまして、そんなリスクがすごくあります。そのかわいらしさを私達デザイナーが理解し、通訳する仕事が必要なんですね。例えば、まつ毛の1本1本を糸の太さから全部計算して伝えたことがあります。本当に細かいところまで設計しないと、かわいらしさを伝えることはできないんですね。

浅野氏

みなさんは海外に出て行かれることに興味があると思うのですが、タピエスタイルとしてもっと海外で売れる物をと思っておられますか?

玉井恵里子氏

玉井氏

はい。私は年間60日ぐらい海外に出張して新しいものを見つけたり、ライフスタイルを考えたりしています。フランスでもかわいらしいものを探したのですが見つからず、それが日本の若い女性の中から生まれてきた。フランスの人達が失いかけているものが、かわいいプロダクトの中にあったわけなんです。最近、アトリエ・ド・パリの所長から厳しく言われていることは、タピエの雑貨はエルメスでも無印でもない。安くもなく、高級で売れるものでもない。市場的にいちばん難しいことを突きつけられています。

浅野氏

山極さんは、量産されている商品の工房に行って、なるほどこうやって作っているのかと、現場を目の当たりにしたんですよね。ご自身で製造までされている立場から見られて生産者とデザイナーの関係とはどのようなものですか?

山極博史氏

山極氏

基本的にはデザイナーというスタンスでやってきましたから、こんなものが世の中にあったらいいかなと、今もデザインでものを考えています。プロセスとしては自分で作ることも、メーカーさんの力をお借りすることも、メーカーさんにデザイン提供したりすることもあります。最終的に市場にどうやって送り込むかという手段の一つとして製作ラインもあるわけです。実際に発注を頼むものとか、製作していただくものに関しては図面を持って行ってやり取りしたりしています。やはり、デザインの細かいニュアンスとかを伝えるのが難しくて。みなさんから海外の話も出ましたが、家具に関して日本は遅れています。椅子は日本で一般人が使い始めて50年ぐらいしか歴史がないので、ヨーロッパにはまだまだ勝てません。例えば靴を買うときなら24センチのサイズがほしいとか、足の甲が高いからナイキよりアディダスがいいとか言いますよね。椅子を買いに行くときに、39.5センチがいいとか聞いたことがないでしょ。毎日使っている椅子なのに、自分に合う高さやサイズを知っている人は作り手でもデザインしている人でもほとんどいません。で、店員さんに進められて買って使って腰が痛くなるんです。日本はそれほど遅れているので、まだまだすべきことはあると思っています。

浅野氏

かねこさんは、生産者とデザイナーがどのように関わって良いものを作るかに挑戦されていますが、先程からおっしゃっている「仲がいい」人と人との関係性がものづくりに与える影響についてお聞かせください。

かねこしんぞう氏

かねこ氏

仲がいいというのは、仕組みづくりに繋がると思います。そんな仕組みづくりがなぜ必要になったかというと、日本では30年ほど前に工業化社会の空洞化が始まります。大量生産の時代、マスの時代で、ニーズをどう商品づくりに生かせるかというところにちょっとブレがあった。現在、そのブレを解消するために地域のメリットを産業として引っ張ってくることが重要になった。そのときに引っ張り上げる力となるのがクリエイターの知識や技術、感性の集合体です。私は「地場磁場作戦」と呼んでいますが、地元の地場とマグネットの磁場が重なって力になるような人とを組み合わせて、出会いの場で知恵を出し合う。行く先は決して東京ではありません。東京から広がるのではなく、福岡から新潟へとか、岡山とかでもいいじゃないですか。ネットワークを作って、それを補完する体制を置く。当然、自分のポジションをしっかりとしておくことも大切ですね。

浅野氏

金谷さんは全国に出かけて、たぶん、かねこさんが今おっしゃっておられたことを地でされているような気がするのですが。

金谷勉氏

金谷氏

そうですね。僕は京都職人工房で教えています。京都にある伝統工芸は74品目ぐらいありますが、ここで学んでいる若い職人たちに横の連携があるかというと、実はなかったりします。たとえば、竹かご職人の子どもがアクセサリーを作ったときに、それを入れる袋はどこに売っているのか知らない。竹かごのことは知っていても、竹かご以外の技術だったりスキルだったりはほとんど横に情報がない。同じ職人同士では連携があっても、縦割なんです。京都みたいな小さな街でも横断する情報が少なく、職人の親同士の交流も少ない。今日は山口県へ行ってきたのですが、現在、新潟で進めている育成事業で作る商品をさらに良くするための技術が山口県にあったりする。それを繋ぐ。これを僕は「技術の交配」と呼んでいますが、技術が交配していけば「日本製造株式会社」に必要な要素はまだまだ生まれてくると思っています。ただ、次世代の職人は情報がないこととも戦わなければいけない。非常に辛いですけどね。

浅野氏

最後に、みなさんのこれからの抱負を一言だけお願いします。

金谷勉氏

金谷氏

企業を成功させるサービスをデザインでやっていきたいですね。日本で従業員20人以下の会社は340万社ぐらいあります。まだまだ困っている企業も多い。そこへデザインといい関係を築いていくことで、売上が10%伸びる企業が1万社生まれたら状況は変わってくるのではないだろうかと思ってます。その340万社のためにデザインを通した「成功するための表現」というものを本当に考えてやっていけば、まだまだ日本経済は捨てたものじゃないと思います。

玉井恵里子氏

玉井氏

私はインテリアにも20年以上かかわってきましたが、当時よりはるかにインテリアに興味を持っている人が多く、その意味で成熟の時代を迎えているなと思いますね。この時代にデザイナーは何を考えるのが大切かといいますと、あざとかったらだめだなぁと。人々の生活の中に沿っていける気持ちがすごく大事かなと。伝統工芸っていうのは100年続けば伝統工芸になりますが、民芸という言葉は民族の芸術から生まれた言葉だそうなんですね。だから、これから私たちが民芸の精神を受け継いでいけばと、そう思っています。

ツタイミカ氏

ツタイ氏

大学の卒業制作の作品が商品化できたというのは、今でこそメーカーさんとの提携があるからできますけど、当時はどう考えたってできるような状況ではなかったんですね。いろんな方に支えてもらって、やはり人の力ってすごいなぁと実感しています。自分が持っていない力をもらえる。ですから一人で抱え込まずに、あえて人にお願いするっていうか、やってもらう能力はものづくりをするうえでこの先すごく必要なんじゃないかなと。よりフレキシブルなチーム編成で、私はここをやるから、あなたはこっちをやってというようなものづくりができるようになっていけば、もっと大きな力が発揮できるんじゃないかなと思っています。

山極博史氏

山極氏

僕らも草の根活動ですけどデザイン家具の良さ、木の文化の良さを生活に取り入れてもらえるようなものづくりをしていきます。あと、デザイナー自身としてモノを大切にして、自分が生み出したものに最後まで責任を持つ。そうすればモノも自分自身も成熟していくと思います。これからもメッセージを込めてデザインした商品、捨てられずに残っていく商品を作っていきたいですね。

南大成氏

南氏

私自信が大切にしていることですが、最終的には自分のフィルターを通して判断して作っていくことが大切だなと。価格もそうですし、自身が最終的にはこういうものを買いたいなとか、こういうものを売ってたらいいなという視点を大切にしたい。普段の生活からものづくりに向き合っていきたいですね。

かねこしんぞう氏

かねこ氏

日本のものづくりの将来を考えたときには、地方と地方がシナプスのように結びつき合うというネットワークづくりが火急の問題だと思います。というのは、ヨーロッパでも日本の商品が売れなくなってきていますね。じゃ中国へ行こうかと、そうなってくると日本の産業自体が空洞化すると思うんです。日本のユーザーは世界で最も厳しいニーズを持っていますので、ユーザーニーズをしっかり受け止めるクリエイターと企業との関係をまず作って、日本のユーザーが納得できるモノを作っていく。そのためには技術者のレベルとか、仕組みとかを保たないといけない。伝統産業になればなるほど、産業が空洞化していくと技術者がいなくってしまいます。一度失ったものは取り戻せない。だから、今はそこをまず固めていく時代。大きな企業は世界戦略でやっていけますが、中小企業となると世界に打って出るようなレベルの商品を作る製作スキルも生産体制も持っていないんですね。ある程度の量でいくとすれば、高品質なハイエンドユーザーを定めて、そこに的を絞ってやっていかないとだめです。場所によっていろんな差はあっても、大きく言うと日本全国が同じ問題を抱えていて、その問題を解決するためには地域の中でうまく連携しあうようなシナプスを構築できればと思います。

浅野氏

それぞれのお立場からものづくりに対する有益なご意見がいただけました。みなさん、本日はどうもありがとうございました。

イベント概要

BtoCビジネスに向けたクリエイターの新たな可能性
クリエイティブビジネスフォーラム「クリエイターと ものづくり。と、」

昨今、クリエイティブに関わるいろんなジャンルの人々が、自ら商品をプロデュースして発売し、話題になる事例が増えてきています。この傾向は、受託業務が中心であったクリエイター自身の新たな展開として、今後ますます注目度を増してくるはずです。しかし、商品をプロデュースし販売するといったBtoCビジネスへの展開には、多方面での経験も必要で、課題も多いことも事実です。
本フォーラムでは、現在、実際に現場でものづくり(企画・製造だけでなく、販売も含む)に取り組んでいる方々にご登壇いただき、ものづくりに対する姿勢やこだわり、経験やノウハウなどを通じて、参加者と共に、クリエイターとものづくりに大切な「何か」を見つけていきます。

開催日:2014年10月28日(火)

公開:
取材・文:福川粛氏(プレス・サリサリコーポレーション)

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。