変化によって磨かれた、想いをカタチにするデザインの力
クリエイティブサロン Vol.159 山中広幸氏

第159回目を迎えたクリエイティブサロン。今回のゲストは、アッシュデザインオフィス代表・インテリアデザイナーの山中広幸氏。店舗などの内装デザインをはじめ、ブランディング提案や企業とチームを組んだ新商品の開発など、幅広い活躍を見せている。トークのテーマは「お客様の頭の中の想像(想い)を創造する」。インテリアデザイナーとしてのポリシーをはじめ、独立までのことや独立後の仕事、そしてメビックとの出会いで起こった変化など、これまでの歩みを語っていただいた。

山中広幸氏

クライアントが描く理想の姿を
インテリアデザインの力でおもしろく

「曽祖父が大工で、家には大工道具が残っていました。そんな環境で育ったので、モノ作りに興味があったのかも知れません」と、幼少期を語る山中氏。インテリアデザイナーを志したのは、高校卒業時の進路決定のときだった。「友人からインテリアデザインの仕事を教えてもらって、おもしろそう!とピンときたんです」と言い、高校卒業後に大阪モード学園インテリア科に進学。インテリアデザイナーへの一歩を踏み出した。

インテリアデザインとは、建物の構造を設計する建築家ではなく、内装をデザインする仕事。その仕事の領域は、メインとなる「内外装設計」のほか、店のコンセプトなどを企画する「ブランディングデザイン」、オリジナル家具などを考える「プロダクト」、ショップカードやウェブサイトなどの「グラフィック・ウェブデザイン」など多岐に渡る。「クライアントの悩みは、独立開業したいが、何から手を付けていいか分からないということから、値下げ競争から脱却したいというものまで多種多様。クライアントごとに最適なチームを編成して、ブランディングがずれないように調整しながら進めていきます」と山中氏。

今回のトークテーマ「お客様の頭の中の想像(想い)を創造する」は、大切にしている仕事のモットーであり、それに関連した5つのポイントがあるという。ずっとここにいたい“心地よさ”を大切にする「COMFORTABLE」、豊かな“創造力”でオーナーの想いの実現をサポートする「CREATIVE MIND」、プロジェクトに“真摯”に向き合い全力を尽くす「WORK GENTRY」、“細部”にまで思いを宿してこだわりを実現する「TO DETAILS」、“豊かな経験”を活かしてどんな案件にも柔軟に対応する「EXPERIENCES」。「いつもこれらを考えながら、仕事に向かい合っています」と、プロとしてのこだわりを明かしてくれた。

図
一言で「インテリアデザイン」といっても、カバーする領域は広い。案件ごとにグラフィックデザイナーやカメラマンなどとタッグを組み、お店全体をトータルでプロデュースしていく。(当日のスライドより)

業界を離れることさえ考えた
若き日の修行時代と独立への想い

2007年にアッシュデザインオフィスを設立。今年で独立13年目に入る山中氏だが、独立までには3社のインテリアデザイン会社で実力を磨いた。1社目は、専門学校卒業後にアルバイトとして勤めた会社。商業施設や大規模施設の案件が多く、「業界のことや仕事の流れを教えてもらいました」と振り返る。続いての2社目には、アシスタントデザイナーとして入社。当時は抱える仕事が多く、2・3日家に帰れないことも多かったという。そんな厳しい環境のなかで約2年ほど勤めた頃、遂に心が悲鳴を上げてしまった。「この業界でやっていく自信をなくしてしまって……。大工にでもなろうと思って退職しました」。憧れの業界の理想と現実。そのギャップは想像よりも大きかった。退職後、職を探しながら過ごす山中氏だったが、偶然の出会いが次の道を開くことになる。「専門学校時代の友人にばったり出会い、その友人が勤めるインテリアデザイン会社の仕事を手伝うことになったんです。1週間の約束だったんですが、何ヶ月かお手伝いしているうちに、社員にならないかと声を掛けていただきました」。しばしの休息を経て、3社目で業界に戻ることになった。

この頃のことを思い返し、「3社目の社長には救ってもらったと思っています。今、この場で喋っているのもこの方のおかげです」と感謝。また、2社目については、「この会社の社長に憧れて入社しました。この方は28歳のときに独立していて、自分も同じ年齢で独立しないと、この方のようになれないと当時から考えていたんです」と言い、憧れた大きな背中を追うように、28歳のときに独立を果たす。

THE HANY 内観
「THE HANY」の実例。細かなディテールにまで山中氏のこだわりが詰まっている。この大阪・南船場の店舗を皮切りに、東京や仙台の店舗デザインも担当した。

さまざまな“転機”によって変化し続ける
デザインスタイルと仕事の可能性

現在は、数々のプロジェクトに携わりながら忙しく過ごす山中氏だが、独立後の歩みは順風満帆だったわけではなく、数々の“転機”によって今があるという。最初の転機は独立当初のこと。「独立してすぐは本当に仕事が無くて……。しかし、神様は見てくれているもので、助けてくれる人が現れたんです」。親交のあった施工会社が、工場の事務所の改装案件を紹介してくれたのだ。その他、イタリアンレストランの内装などにも携わり、インテリアデザイナーとしての実績を残すことができた。しかし、これらの仕事が、山中氏を悩ませることになるとは皮肉なもの。「これらの事例を持って営業していると、多くの人から『君のデザインは男っぽい』と言われたんです。自分ではそんなつもりはなく、どうしたらいいのか悩みました……」。思いもよらぬ反応に苦しむ日々が続く。

そんなとき、山中氏のデザインを変えるきっかけになる仕事が舞い込む。ウェディングドレスデザイナー・伊藤羽仁衣氏のブランド「THE HANY」の店舗デザイン。扱う商品がウェディングドレスなだけに、女性に好まれるデザインが求められ、ドレス店に足を運んでリサーチを重ねながら、デザインを考え抜いた。その末に生み出されたのは、ピンクやゴールドなどの色を取り入れ、曲線を多く用いたやわらかな空間。「女性らしさとは何か?と悩んだ仕事です。ドレスを着た女性がいかにかわいく見えるか、お客様に向けドレスをいかにキレイに見せるかを大切にしました」と言い、照明の位置や照らし方、ドレスを吊るハンガーの高さなど、細部にまで工夫。伊藤氏にも好評で、「男っぽいデザイン」からの脱却が叶った。もう一つの転機として、ハワイのコーヒーブランド「BLUE HAWAII LIFE STYLE」のカフェデザインを紹介。「ハワイの店をそのまま日本に持って来ても違和感がある。日本向けにローカライズすることが必要だと、コンセプトの部分から提案しました」。見た目だけでなく、それを支えるコンセプトもデザインすること。ブランディングに携わるきっかけになった仕事だという。

最後に紹介された転機は、メビック扇町を通じて生まれた変化。「コーディネーターとして活動するなかで、多くの人と出会い、そこから新たな動きが始まりました」。立体物に柄を転写する「水圧転写技術」を持つ株式会社オークマ工塗と、クリエイター4人で「+728」というチームを結成。デザインを公募し、それを転写したスマートフォンカバーの展示販売を実施。また、伝統の染色技法・注染の技術を持つ、堺市の染物屋と組んだチーム「左海壺人」では、同じく公募したデザインを染めたステテコを商品化し、展示ブースのデザインも担当した。誰かと協業しながらプロジェクトを進める仕事のカタチ。インテリアデザイナーとして、ひとりのクリエイターとして、活動の領域を広げながら、今も新しい可能性に挑戦し続けている。

展示会場
梅田・E-maで開催された「左海壺人」の展示販売の様子。他の場所へ巡回する予定だったため、移動や設置がしやすい折り畳み式の什器を考案した。

ひとりでできる仕事とその限界
仲間とともに新たなステップへ

トーク終了後の質疑応答の時間にも、たくさんの参加者から声が上がった。ここでは印象的なQ&Aをピックアップして紹介したい。

Q

インテリアデザインのコンセプトは、どうやって立てているんでしょうか?

A

まずは、物件の立地をもとにお客様のペルソナを設定。扱う商品と照らして、ターゲットの求めているものは?どんなお店が最適か?と分析します。その結果から、レイアウトやカラーなどを決めることが多いです。なので、想定しているペルソナが関係者に伝わるかがプロジェクトの肝。コンセプトを共有するためにも、資料はかなり作り込みます。

Q

デザインするときに、「デザインの耐久年数」についてはどう思っていますか?

A

「BLUE HAWAII LIFE STYLE」の例では、今のテイストも加えながら、“変わらないハワイのディテール”も落とし込んでいます。耐久年数という意味では、長く愛されるのではないかと。ベーカリーショップの仕事では、機能面からデザインを考えました。ベーカリーショップというものは地元に根付くお店。流行を追わず、奇抜なこともせず、機能的な内装を目指しました。

Q

実例を拝見して、さまざまなデザインを使い分けていると感じました。逆に、山中さんらしさはどこにあるんでしょうか?

A

「これが自分っぽいデザイン」だと思ったことがないんです。「絶対にコレは使う!」といった考え方も、あえて排除しています。私のデザインは、オーナーへのヒアリングやリサーチから導き出したもの。だから、案件によってテイストがバラバラ。自分らしさは……どこなんでしょうか?(笑)。あえて、変幻自在でありたいとは思っています。

「自分だけで仕事をしていた時は“Only one”。自分ひとりでいいと思っていました。しかし、メビックを通じた出会いによって、ひとりでできる範疇はたかが知れていると感じました。これからは“One for all, All for one”。助け合いながらやっていきたいと思っています」と、これからの展望でトークは締めくくられた。この言葉は、仕事や出会いによって、「変化」し続けてきた山中氏ならでは。「変化」という言葉は、「進化」と置き換えてもいいだろう。仲間とともに進むこれからの未来、さらなるステップを駆け上がる山中氏の姿に期待したい。

イベント風景

イベント概要

お客様の頭の中の想像を創造する。
クリエイティブサロン Vol.159 山中広幸氏

弊社は、インテリアデザインを通してお客様の事業のお手伝いをさせて頂いております。
クライアント様が起業される際の不安や悩み、既存店の問題点などを解決するために、クライアント様に寄り添い、頭の中をヒアリングにてお聞きし、おまとめし、再構築する。
そういったことをふまえながらも、その想像を超える内装の創造を心がけております。
さらには、その場所を訪れるお客様の満足度も充たしたい!
クライアント様の事業の加速をお手伝いする為に、オモシロク・ワクワクして頂けるような内装を!

開催日:2019年3月26日(火)

山中広幸氏(やまなか ひろゆき)

アッシュデザインオフィス 代表

インテリアデザインの専門学校を卒業後、数社のデザイン設計事務所にて多くの店舗案件に携わる。そこで得た経験や技術を武器として、2007年にアッシュデザインオフィスとして独立。商業店舗・住宅関係のデザインを中心に幅広く活動中。

http://achedesign.com/

山中広幸氏

公開:
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。