0→1を生み、繋がる。未来を変えるCREATORS NEXT
クリエイティブサロン Vol.158 藤原聖仁氏

158回目を迎えたクリエイティブサロンは、株式会社KASIKA(旧コポキャラ株式会社)の藤原聖仁氏がゲスト。コポキャラ時代には、コーポレートキャラクターの制作に特化した企業として、メディアにも多く取り上げられたクリエイターだ。トークテーマは「CREATORS NEXT ―これからのクリエイターとは―」と題し、昨今の時代背景から立ち上がる次世代型クリエイターについて。「こんな選択肢もあるんだ、程度で聞いてもらえれば(笑)」と控えめな前置きのあと、最前線を走り続けてきたクリエイターが描く未来像を語っていただいた。

藤原聖仁氏

トップランナーが可能性を見出した
人の繋がりとアナログな世界観

「株式会社KASIKA」の代表を務める傍ら、クリエイター教育機関「CREA/Me」の運営メンバー、地方の伝統産業を応援する「ジュエラ株式会社」に参画するなど、多彩な活躍を見せる藤原氏。その経歴は、2007年、個人のブログや名刺などのデザインをメインに独立し、2010年、コーポレートキャラクターを制作する専門会社「コポキャラ株式会社」を立ち上げて話題に。2013年には事業の幅を広げ、ブランディング中心のデザイン会社として、大手企業のクリエイティブワークを多数担当してきた。

2017年、現在の「株式会社KASIKA」に社名変更。「受託仕事だけではなく、自分からアクションを起こそうと思い、“イベントを創るクリエイティブ集団”として会社の形態を変えました」と言い、書家たちが書の腕前を競い合う「書家バトル 鴉」、CREA/Meで主催した地元密着型イベント「テキナ」、職人の技を間近で見てワークショップでも体験できる「KRAFKA」などを開催している。「“人の繋がりを中心とした、THEアナログな世界観”を大切にしたい。これこそがこれからの時代、最強じゃないかと思うんです」。なぜ、デザインからイベントへ? なぜ、これからの時代に人の繋がりなのか? そこには藤原氏が考える、次世代型クリエイターの理想像が関係している。

技術進歩による淘汰を生き抜く
次世代型クリエイターの理想像

次世代型クリエイターの説明の前に、まずは時代背景について。「AIの到来・シンギュラリティ」「情報化社会」「仲介なくダイレクトに人が繋がる」「シェアリングエコノミー」「IoT」のキーワードを挙げ、仲介業をはじめとした、さまざまな職業が無くなっていく未来を予測。「これから残る職業の特徴は大きく分けて三つ。人の感情を扱う仕事、創造性が必要な仕事、教育分野。言い換えれば、クリエイターの時代だということです」。昨今話題のAIについては、AIが苦手とする二つのポイントを解説する。「一つめは、“0から1を生み出すこと”。1を1000にすることは得意ですが、『いいアイデアを思い付いたんでやりましょう!』なんてことは、計算では弾き出せない。二つめは、“ヒューマンエラー”。人間だからこそ起こりうるミスや、同一ではないゆらぎや筆致は再現できないんです」。技術進歩により社会は劇的に変化していくが、クリエイターには大きなチャンスが眠っているという。

そんな未来を前に現在の社会を俯瞰したとき、藤原氏はこれまでのクリエイターの働き方を、“静的で受動的”と表現する。「どこかから仕事を受託して、一人で仕事をして、一人で完結する。しかし、代理店が無くなっていくであろう今後、どこから仕事を取るのか? 気が付けば全く繋がりが無くなっているクリエイターもいるんじゃないでしょうか」。そして、これから時代に求められる次世代型クリエイターを、“動的で主体的”と表現する。「最初に声を上げ、世界観を打ち出す人が大切になるし、価値も上がっていきます。そして人を巻き込みながら、0を1にするマイクロサービスやプロダクト、イベントなどを立ち上げる。さらに、そこで生まれたコミュニティを別のコミュニティと掛け合わせて、新たな展開を図る……。このように活動していけば、デザインなどの仕事も発生してくるでしょうし、世界も広がります」。藤原氏が手掛けた「書家バトル 鴉」「KRAFKA」などのイベントもその一例だ。「僕も実験中なんで、上手くいくかは分からないんですが」と笑うが、0→1へのアクションにイベントを据え、新しい世界を切り拓こうとしている。

そして、次世代型クリエイターが増えた未来についても、藤原氏は明確なビジョンを描いている。「仕事が増えることで、クリエイターがクリエイターを呼ぶ。クリエイターのコミュニティが生まれ、そこから新しく便利なサービスが立ち上がってくるはずです。また、そこに身を置くことで挑戦することが当たり前になり、クリエイティブが活性化していくでしょう。すると、日本全体のクリエイティブレベルが高まり、最終的には国のセンスが良くなっていく」。そのモデルとして、オーストリア・リンツの「Ars Electronica」、アメリカ・ロサンゼルスの「Arts District」などの事例を挙げ、クリエイティブが街を変える未来像を教えてくれた。

KANSAI ART DESSE
理想の未来を実現するために、株式会社KASIKAとCREA/Meで発刊したフリーペーパー『KANSAI ART DESSE』。第1号では、行政とクリエイターの距離を近づけるため、浪速区長・榊氏とCREA/Meの代表・コバヤシ氏の対談が掲載された。

冷静に分析・発信を行いながらも
大切になるのは愛される力

次世代型クリエイターの輪郭は見えた。では、具体的にどんな手段や能力が必要なのだろうか?「ツールはもう手にしています。それはSNSやライブ配信、オンラインサロンなど。小さなコミュニティを生み出すことが、無料でできる時代なんです」。また、ツールを扱う心得として、「ツールをツールとして使いこなすことや、ツールに使われないために、自分軸を確立することも大切だと思います」と、自分の軸を持ったうえで、能動的にメディアを利用していくことの重要性を語る。これは、多くのメディアで取り上げられてきた、藤原氏ならではの考え方だろう。

続いて、必要とされる能力について、“セルフプロデュース能力”と“編集能力”を挙げ、二人の人物の考え方を例に解説する。まず、島田紳助氏の「X+Yの公式」。X=自分の長所、Y=時流のことで、長所を知らずに時流とかみ合ったのが一発屋であり、長所を知ったうえで時流を読めれば、長く売れ続けられるというもの。もう一つは、藤原和博氏の「100万人に1人のレアカード」。100人に1人の能力を3つ掛け合わせると、100万人に1人の存在になれるという考え方だ。一つを極めるよりも、自身のさまざまな長所や能力を把握し、それを掛け合わせて一つの自分と捉えること。さらに、時代を読んで的確に表現していくことが、これから有用になると語る。

そしてもう一つ、藤原氏が大切だと力説するのが“人に愛される力”。「僕がここまで生き残ってこれたのも、人が集まって、愛されてきたからなんです」と自身を客観視する藤原氏から、人に愛され、人が集う人間になるための9個の秘訣が披露された。まず「ストーリーを語る」。これは、たとえ間違っていようと自分の言葉で物語を表現すること。その後に、どんなビジョンを持っているか「世界観を語る」。これは、先述の次世代型クリエイター像が世界観の例だ。そして、一つでいいから「挑戦し実現させる」ことで実績と信頼を得て、外へ向けて「発信」していく。このような一連の流れのほか、「弱みをさらけ出して助けてもらう」「変を出す」「圧倒的に時間を使う」「アナログな出会いを演出する場を持つ」「人を主役にする場を作る」など、自らが実践している秘訣を伝授してくれた。

イベントフライヤー
2018年12月、大阪府堺市で開催したイベント「KRAFKA」。鉄工・金属・彫金・木工・仏具、表具・着付け・友禅染・靴・ギタ-・文字・うどんなど、さまざまな職人の技が2日間に渡って披露された。

めざすのは“人と繋がり国を動かす”こと
壮大なミッションは日本を越えて

藤原氏のトーク終了後に質疑応答の時間が設けられた。やりとりの中から、印象的ないくつかのQ&Aを紹介しよう。

Q

愛される秘訣を教えていただきましたが、具体的にどんなことをしてこられたんですか?

A

“挑戦し実現させる”と言いましたが、僕自身、実現できなかったことも多いんです……。そんなときに素直にゴメンナサイと言えるか。クリエイターって弱みを出すことが苦手で、“上手くいってる感”しか出せないですよね。それは逆で、“上手くいってない感”を出す方が絶対に好かれるんです。だから、あるときからデザインは辞めました。自分よりもっと優秀なデザイナーがいるから。苦手だから手伝って!と意識してお願いするようにしています。

Q

個人でイベント会社を経営していますが、やりたい仕事とお金を稼ぐための仕事があります。現在は後者の比重が大きくモヤモヤしていて……。藤原さんにもそんな時期はありましたか?

A

もちろんあります。やりたいことに振り切ることで、スタッフの給与が払えなくなったら……と。けれど、やりたくない仕事はやりたくない。それはスタッフも同じでした。2、3年悩みましたが、イベントに力を入れると決断したとき、やりたくない仕事を一気に辞めました。その労力をイベントに使おうと。踏み込んだことで景色が変わるし、正直に、真剣にやっていると助けてくれる人が現れる。意外と上手くいくものです。

「クリエイターが躊躇なく表現できる世界を作りたいんです。これからのクリエイターのミッションは、さまざまな人と繋がり国を動かすこと」と、藤原氏が描く夢は大きい。クリエイターの活動に行政を巻き込むことができれば、国公認の形で、日本だけでなく海外へクリエイターが進出できるとも話してくれた。未来に光を当てるかのようなこの言葉は、まさに、これからを生きるクリエイターへの熱いメッセージ。2020年の東京オリンピック、2025年の大阪万博など、ポジティブな未来が待っている時代に、私たちはこれまでと同じでいいのだろうか。トークの最後は、藤原氏からのこんな問いかけで幕を閉じた。「あなたはクリエイターとして、どこで、何をして、どんな仲間と、人生を歩んでますか?」

イベント風景

イベント概要

クリエイターにとって本当に必要なことは…… ~僕らはどんな未来を創れるのか~
クリエイティブサロン Vol.158 藤原聖仁氏

人工知能(AI)の台頭で、これからますます仕事が減少する中、クリエイターやデザイナーという職種は増えている。また外的要因としては自然災害などを含めたエモーショナルな問題もひっきりなしにおこっている。
そんな中、我々が本当にめざすべき、活躍するべきフィールドはどこにあるのか、クリエイター達が握手することで見える世界はあるのか、そもそも我々はそんな問題を前に何ができるのか、それをディスカッションをしながら紐解いてみたい。
従来の静的なクリエイターではなく、未来型の動的なクリエイターのカタチとは。

開催日:2018年12月12日(水)

藤原聖仁氏(ふじはら せいじ)

株式会社KASIKA 代表取締役

2010年「コポキャラ株式会社」(現KASIKA)を創業。日本のみならず、海外からも依頼が相次ぐ独自の活動スタイルはNHKドキュメンタリーとして取り上げられ民放や日経新聞などからも取材をうける。伝統と革新の企画プロデュース会社「ジュエラ株式会社」取締役、クリエイターのgrowthspace「CREA / Me」にも参画するなどクリエイターの可能性を体現し続けている。2017年社名を「株式会社KASIKA」としてTHE ART of WORK&LIFE techをコンセプトに掲げ活動中。

https://www.kasika.co.jp/

藤原聖仁氏

公開:
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

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