ロボットテクノロジーとデザインの未来
I-LABO - クリエイターのためのイノベーション創出研究会 Vol.6

第6回を迎えた「I-LABO クリエイターのためのイノベーション創出研究会」。各分野の専門家から各領域の現状や課題を聞き、クリエイターが持つ創造力や課題解決力を活かし、イノベーションの可能性を探る本企画。今回のゲストスピーカーは、ロボット技術を用いた工場の自動化で豊富な経験を持ち、介護業界やサービス業界へのロボット導入にも取り組む有限会社パーソナル・テクノロジーの代表取締役・坂本俊雄氏。ロボット技術の現状や課題について話題提供をいただくとともに、クリエイターの果たすべき役割や参入可能性について意見交換を行いました。

なぜ今、ロボット技術にデザインの力が期待されるのか?

AI(人工知能)の進歩をめぐる話題が数多く伝わってくる昨今、ともすればヒト型ロボットやコミュニケーションロボットにばかり関心が集まりがちだ。しかし私たちが考える以上にロボットの裾野は広い。そして同時に、ビジネスとしての課題も多い。研究会では、坂本氏が経験してきた多様な分野でのロボット技術の活用とそこから浮かび上がった課題を紹介。分野を超えて、ロボット技術にデザインの力が期待される理由を紐解いていった。

坂本氏による話題提供

産業用ロボットから人材育成まで

今日の研究会の案内では、私は有限会社パーソナル・テクノロジーの所属として紹介していただきました。実は私は、そのほかにも主に2つの組織に所属しています。これらを紹介することで私の足取りやロボット技術を取り巻く現状をお伝えできると思いますので、まずはそれぞれの組織と仕事をお話させてもらいます。
まず、有限会社パーソナル・テクノロジーです。この会社は工場の自動化(FA化)をお手伝いしている会社で、生産ラインの制御システムなどを開発しています。産業用ロボットを使って車や家電製品を組み立てているシーンを見かけられたことがあると思いますが、あの製造ラインを作っています。ここが私の一番の軸足の分野です。
2つ目の所属組織である株式会社ブリッジソリューションは、FA化のコンサルティングを行う会社です。産業用ロボットやFA化は大企業では進んでいるのですが、中小企業ではまだまだ導入が始まったばかりです。また、中小企業にはFA化やロボットの専門知識・経験を備えた人がいないケースも多い。そこで、私たちのような専門家が企業に寄り添い、仕事の効率化を実現していこうという取り組みを行っています。といってもロボットの導入を提案しているだけではなく、工程の改善や治具の導入など、あくまでも業務の効率化を目標とした提案を行っています。そのための手法の一つとして、ロボットも扱うという会社です。
3つ目は一般社団法人i-RooBO Network Forumです。この組織は、「次世代ロボットを開発しよう」という目標を掲げて2004年に前身となる団体が設立されました。企業コンソーシアムのような組織で、技術やノウハウを持つ人や企業がそれぞれのリソースを持ち寄りながら活動していました。現在の組織になったのは2015年。FA、教育、介護福祉、観光・商業を重点分野として取り組んでいます。拠点はATCに置いており、教育の分野では、インキュベーション施設の運営や体験型ワークショップの開催を通して、ロボット技術者の育成に取り組んでいます。ATCでは開発したロボットやシステムの実証実験も行い、観光・商業分野でのロボット技術の活用に取り組んでいます。
ロボット技術の開発というと、二足歩行ロボットやサッカーをするロボットの開発を思い浮かべることが多いかと思います。これらのロボットの開発は非常に夢があるのですが、ビジネスとしてはなかなか成り立たないという現実があります。実際、ロボット開発会社は生まれては消えを繰り返しています。この課題に対して我々は、「システムを開発し、提供する」というアプローチを行いました。例えば病院で導入された見守りロボットは、徘徊が疑わしい患者さんへの声かけシステムや、病院職員へアラートを送る通信システムや画像処理システムを開発し、それらを既存のロボットへ組み込んだうえで納入しました。ロボットそのものを開発するのではなく、ロボットに組み込むシステムを開発し、それによってソリューションを提供しようという発想に変えたのです。この仕組は、ロボットのインターフェースはユーザーの好みに応じて変更できるという意味にもなります。ここに、デザインの力が発揮される舞台が生まれます。


ATCロボットストリート:「明日と出会える街」をコンセプトに、ロボットやVRなどの先端テクノロジーにふれられる体験型展示イベント。

人との親和性が期待される介護ロボット

人手不足の解消が重要なテーマであり、ロボットの活用分野として大きな注目を集めているのが介護分野です。すでに、介護職員の力仕事をアシストする機能を備えたロボットスーツなどが開発されています。ただ、なかなか普及は進んでいません。装着に時間がかかってしまうことなど、まだまだ解決すべき課題が多いのも現実です。
私がこの分野で期待しているのは、先ほども紹介したような見守りロボットです。福祉施設などでは、徘徊などを防ぐための目配りや声掛けは欠かせません。これをロボットに置き換えるのです。このとき、見守ってくれて声を掛けてくれるロボットが、親しみやすい姿や声をしていたらどうでしょう?立ち止まってロボットの話に耳を傾ける確率が高まるはずです。福祉分野は日頃から人と人とが顔を合わせて声を掛け合っている分野なので、ロボットであっても人との親和性は大切です。となると、「どんな見た目のロボットにするか」を考えることは非常に重要になります。
福祉分野は、用具や設備がデザインとかけ離れていることも問題だと私は思っています。入浴などに使うリフトなんて、まさに機械そのものと言える見た目ですよね。これでは利用者も気が滅入ってしまう。ここにデザインの力を活用できないかと考えています。実は私は大阪芸術大学や大阪工業大学などの学生を集めて、「デザインの目線で福祉用具を考えてみよう」というテーマのワークショップを実施したことがあります。

「協働型ロボット」に求められるデザイン性

今、人間と一緒に働く「協働型」ロボットの普及が進められています。これまでの産業ロボットは、人とは安全柵で隔離された状態でしか使用できませんでした。自動車工場などで無人化して見えるのは、「人は近づいてはいけない」からでもあるのです。
これに対して協働型ロボットでは、モーターの出力など、一定の基準を満たしていれば安全柵なしで人とロボットが隣り合って仕事をすることができます。大規模な設備投資などが難しい中小企業における業務改善の有効策として期待が集まっています。
ここで、人とロボットが肩を並べて仕事をする場面を想像してみてください。角ばっていてオシャレさのかけらもないようなロボットが隣にいるのと、丸みがあってかわいらしいロボットが隣にいるのでは、どちらがいいですか?威圧感ではなく安心感を与えるデザインになっていることは、人間の業務効率を上げることにもつながるはずです。協働型ロボットが普及する過程では、デザインの重要性も並行して高まっていくはずです。

提案時にもデザインの重要性が高まる

今後、ロボットが普及すると考えられている中小企業には、ロボットを専門とする社員さんはいないことが大半です。これまでにFA化を進めてきた大企業であっても、世代交代や若手の減少などにより、限られた専門知識や経験しか持たない人が担当になりつつあります。
このような状況では、以前のように、図面だけで提案や打ち合わせをするということが難しくなります。ロボットを導入後の工場の様子などを3DCGなどを使って詳細に描き出し、具体的に想像してもらいながら話をする必要があるのです。ここにも、デザインの力が活かされると私は感じています。わかりやすい資料を作って的確な説明やイメージの共有を図るために、デザインが必要なのです。


有限会社パーソナル・テクノロジーが開発した、イージーオーダーロボット「pul」。駆動部、音声合成、音声認識、各種センサ、その他の外部機器など様々なものを組み合わせて最適なロボットシステムを構築することができる。

坂本氏との質疑応答

A氏(イラストレーター):
介護現場でのロボットの導入はまだまだ限られているのでしょうか。

坂本氏:
ペッパーをはじめとした癒やし効果を目的としたロボットがいくらか導入されているぐらいで、残念ながら期待されたほどは進んでいません。現場の真のニーズを捉えて解決を図るロボットを開発することは、やはり簡単ではないのです。私が可能性を感じていることの一つに、ロボット単体でUXデザインの向上を考えるのではなく、ロボットを用いた施設全体のUXデザイン向上があります。見守りロボットはその一例です。ロボットを用いてソリューション提供をするのです。

B氏(イラストレーター):
人が行っている作業がロボットに置き換わっていくことは、第4次産業革命と呼ばれることもありますが、いかがお考えですか?

坂本氏:
現在の動きが第4次産業革命かどうかはわかりませんが、「人からロボットへ」という置き換えは日本ではもともと行っていたことでした。私が長年携わってきたFA化のことです。ただ、今の動きがこれまでのものと違うのは、中小企業にロボット導入の流れが広がっていることです。国も力を入れるべき政策と位置づけており、ロボット開発やロボットのインテグレートを行えるエンジニア育成の支援に乗り出しています。ちなみにロボット化を進められた大企業の仕事と、これから取り組む中小企業の仕事の違いは、「同じ作業を何度も繰り返すかどうか」です。中小企業は少量多品種の仕事や一点物の仕事が多く、仕事のたびに機械のセッティングを変える「段取り替え」が発生します。ここがロボットには苦手なのです。よって、中小企業がロボット化を進めにはまず、作業の平準化が必要になります。そのうえでロボット化する仕事、従来的な機械で行う仕事、手作業で行う仕事に切り分けるのです。

C氏(プロダクトデザイナー):
一時期、サッカーロボットが話題になりました。あの種のロボットのような、エンターテインメントに軸足を置いたロボットは普及しないのでしょうか。

坂本氏:
サッカーロボットは今も開発が進められていますが、予想されていたほど一般化はしませんでしたね。ビジネスとして考えたとき、エンターテインメント系ロボットは市場が小さいのです。ホビー市場が精一杯でしょう。その点、FA化に用いるロボットの市場は大きい。製造業を広くターゲットにすることができるからです。あと、店頭での案内などを行うサービス系やコミュニケーション系ロボットもビジネスとしては厳しい状況です。これらの分野では、スマートフォンやスマートスピーカーがどんどん進出してきています。

D氏(映像クリエイター):
ロボットへの認識に関して、日本と海外では違いはありますか?

坂本氏:
日本人のほうがヒト型ロボットへ思いが強いのではないでしょうか。海外はそれほどではなく、実用性を重視しているように思います。海外で軍事目的のロボット開発が盛んな要因の一つに、そのことがあるかもしれません。また、日本人は、ヒト型を追い求めてしまうがゆえにロボットに完璧さを求め、それが結果として導入のハードルを高くしてしまっているのかもしれません。

エピローグ

今以上の普及が確実視されており、誰もが夢や期待を抱きがちなロボット技術の世界。この分野に長年携わる坂本氏だからこそ語ることのできる課題やビジネス性など、日頃とは違う視点を得られる研究会となりました。坂本氏が携わるi-RooBOは、ロボット技術に興味を持つクリエイターの参加も受け付けているとのこと。この研究会やi-RooBOをきっかけにして、デザインの力を存分に発揮したロボットが誕生するかもしれません。

公開日:2018月08月24日(金)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

坂本俊雄氏(さかもと としお)

坂本俊雄氏

有限会社パーソナル・テクノロジー 代表取締役

長年、生産や研究開発の現場で使われる制御、計測、監視などのシステムを多く手がけ、機械、電気・電子といったハードウェアからソフトウェアまで非常に幅広い知識とシステムインテグレーション力で数多くの実績がある。また、数々のロボット開発プロジェクトにも関わっており、ロボットやロボットテクノロジーを利用したシステムの開発やコンサルティングを行ってきた。他にも経済産業省の委託事業などでコーディネーターを務めている。