フォトグラファーの仕事を通して自分が磨かれている
クリエイティブサロン Vol.143 竹内進氏

今回のクリエイティブサロンのゲストスピーカーは、フォトグラファー・ムービークリエイターの竹内進氏。2016年に株式会社Sharp Focusを法人化し、現在も大手企業の広告写真を中心に、モデル撮影、商品や料理撮影、さらには映像制作まで、幅広く活躍している。そんな竹内氏が40歳という節目を迎え、あらためて軌跡をふり返り、そこで得た人生の信条を語る。

竹内進氏

進むべき道へ導いてくれた伊良部島の海に沈む夕日

中・高校時代の竹内氏は、「そもそも『生きているとは何なのか?』と考え続けていた」と話す。きっかけは中学のサッカー部時代。ケガにより長期離脱を余儀なくされ、「魂は燃えているのに、サッカーができない。そんな葛藤があったんです。そのフラストレーションが溜まり、次第に『生きているって何だろう?』と深く考えるようになりました」
生きるという意味を模索し続ける竹内氏が「写真の道で生きてゆく」と決めたのは、高校三年生の頃。進路に悩み、手探りで自分の生きる道を必死で探していた。そんなモヤモヤした気持ちを抱え、アルバイトで貯めたお金を握りしめて家を出て南港から沖縄行きの船に飛び乗った。
偶然同じ船に乗っていたひとりの青年に誘われ、伊良部島へと渡った時のこと。竹内氏の目の前に、海に沈みゆく夕陽の景色が広がっていた。「これまで見たことのない、ものすごく美しい夕陽でした」。あまりの美しさに、たまたま持っていた一眼レフカメラで無我夢中にシャッターを切った。「その時の想いを抱きしめるような気持ちでシャッターを切りました。その瞬間、『これだ!』と胸をつかれるものがあったんです」。心が震えるような一瞬を写真でとらえたその時、「写真は感動をとらまえるもの」。そう強く感じた竹内氏は、写真の道で生きていこうと決めた。

人やモノの本質を撮影する広告写真の奥深さ

写真を本格的に学ぼうと、高校卒業後は専門学校に進学。卒業後は広告写真を扱う写真スタジオに入社した。アシスタントとして商品撮影やモデル撮影などさまざまな現場を経験するうち、広告写真の奥深さに魅了された。「例えば、白いお皿は照明の当て方によってはただ真っ白に写るだけ。『あれ? これは難しいな』と。これは追求していく価値がある、と思いました。コマーシャルフォトで人やモノの本質を撮影することの奥深さを感じましたね」。魂に火が付き、コマーシャルフォトを追求する日々。3週間泊まり込みで撮影にかかるという過酷な日々があったが「おもしろくて仕方なかったです」とふり返る。
2009年に独立し、Sharp Focusを創業。これまで営業に回る経験もなく、ゼロからのスタートだったが、地道にデザイン会社や制作会社を調べて何十社も作品を持ち込んだ。みずからチラシを作り、土砂降りの中を30件配ったもののレスポンスがゼロという苦い経験をしたこともある。
創業から3年目の頃、北区にスタジオを開設したのがきっかけでスタジオ撮影の仕事を徐々に受注することができ、少し兆しが見え出した。
大手企業の広告写真を数多く手がけるようになり、フォトグラファーとしての技術を磨く一方で、Sharp Focusを経営する上で8カ月に及ぶ「経営者研修」を受けたことも。日本全国から集まったさまざまな経営者と研修を重ねるうちに、自分の視野が広がるのを感じた。「経営者という立場の方々の考えを肌で感じ、学ぶことができたのは大きな収穫でした」

竹内進氏

Sharp Focusを法人化、大阪のスタジオの他、東京に拠点も

2009年に創業したSharp Focusを、2016年3月に法人化。大阪のスタジオは50坪の広さの場所に移転。東京にも拠点をつくった。「基盤を作るという意味でも、法人化してよかったですね」と笑顔で語る。広告写真を数多く手がけてきたこれまでの実績を紹介する中で、「自分が『これだ!』と感じたところを撮っていく」というスタイルは変わらない。その感動した一瞬に心を込め、熱を持ってシャッターを切っていく。
最近では、老舗メリヤスメーカーが展開する新ブランドのブランディング用撮影を手がけている。また、鉛筆削りメーカーが「メゾン・オブジェパリ」に出展するための撮影を担当した。その後、展示会も撮影するため顧客とともにパリへ渡り、展示会に出展しているさまざまな企業のブース撮影を担当した。

出展作品
国際ギフトフェア「NY NOW」に出展した老舗メリアスメーカーブランディング用撮影

仕事人としての質を高め、人を大切にする人間になる

独立から9年が経った今、「これまで出会った方々には感謝しかない」と語る竹内氏。フォトグラファーという立場で、これまで経営者やクリエイターなど、さまざまな立場の人たちと出会い、関係を育むことで、「自分自身が大きく成長させていただいた」と実感している。
2015年にはメビック扇町でコーディネーター活動を通して知り合った、アートディレクター・コピーライター・建築家・インテリアデザイナーといったその道のエキスパートで「天満販売促進部」を結成。行政、地方関連事業のプロデュースや企業の販売促進ツール作成など、精力的に活動している。
これからはフォトグラファーとしての技術を磨くのはもちろん、「人を大切にできる人間になりたい」と話す。とくに大切だと感じるのは「いろんな人の立場と気持ちを理解すること」だと言う。「これまで経験を積んだことで、さまざまな立場の人の想いを汲み取ることができるようになりました。例えば、商品訴求のための表現に悩んでおられるお客様がいれば、その提案をしたり、演出表現に悩んでおられたら、そのアイデアを出してみたり……。フォトグラファーという仕事を通して、まず相手に対して何をどのように提供できるのか、自分がどんな風に役に立てるのかを考えられるようになったのは大きな糧だなと感じています」

写真以外の勉強をすることで「仕事人」としての質を高めていくことに繋がり、もっと広い意味で様々な人の役に立つことができるのだと考えているという。
「自分の人生を山登りに例えるならば、フォトグラファーという登山ルートで頂上を目指しており、そこで出会う問題こそが自分を成長させてくれる課題だと思います」。だからこそ、竹内氏はその“道”を通してこれからも自分自身に磨きをかけていく。

天満販売促進部
メビック扇町で出会ったクリエイター仲間と結成した「天満販売促進部」

イベント概要

写真で感動をとらまえた瞬間 – これまでを振り返り
クリエイティブサロン Vol.143 竹内進氏

そもそも生きるって何?という疑問を抱き続けた中・高校時代。
そして出会った写真の世界。
この道で生きていく!と決意してから23年が経ちました。
今回、サロンという機会を頂きましたので、これまでを振り返り、経緯や仕事観、人生観など、ざっくばらんにお話しさせていただきたいと思います。

開催日:2018年6月1日(金)

竹内進氏(たけうち すすむ)

株式会社Sharp Focus
日本広告写真家協会(APA)正会員

1978年兵庫県生まれ。広告写真スタジオを経て2009年Sharp Focusを設立。2016年法人化。南森町に50坪のスタジオを設立。広告写真と映像制作を事業ドメインとして活動している。

http://sharp-focus.net/

竹内進氏

公開:
取材・文:中野純子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。