メビック発のコラボレーション事例の紹介
ラジオドラマに隠された、“チーム・ナデシコ”もう一つの物語。
ラジオドラマの主人公のキャラクター化
ラジオ×ブログで創る物語の世界観。
ラジオドラマ。この言葉にピンと来る人は、人生のどこかでラジカセから流れる音に、心を躍らせた記憶がある人に違いない。「ABCラジオ」といえば、大阪人にとってなじみ深い放送局だが、2016年に創立65周年という節目を迎えた。そんな記念すべき年を飾るべく制作されたのが、連続ラジオドラマ『ナデシコですから』だ。
脚本・演出を担当したのは同局の橋本祐子さん。ヒロイン・岡野撫子が大企業の御曹司との恋愛&結婚を経て、大阪で送る波乱万丈の新婚生活を、涙あり笑いありの全65話で描いた。「このドラマは普通の女の子である撫子が、カリスマ主婦に成長していくストーリー。じゃあ、カリスマ主婦になるためには? と、考えたのがブログでの情報発信でした」。暮らしのヒントやレシピなどをブログで発信し、次第に話題になっていくという設定。オフィシャルサイトでは、撫子本人がアップする(という設定の)ブログを毎日更新し、ラジオとブログの二本柱でリスナーへ物語を届けた。
決め手は直感。“チーム・ナデシコ”の誕生。
問題を感じ始めたのはブログ開始から間もない頃。「カリスマ主婦のブログだから、普通の内容ではダメ。物語と共にバージョンアップする必要がありました」。そのアイデアとして閃いたのが、撫子をキャラクター化したアニメーションをブログに加えること。しかし、百戦錬磨のラジオのプロも、キャラクターは不得意分野。しかも、アニメーションまで必要となるとラジオ局内の誰もが未知の領域……。悩む橋本さんは、ラジオ局長からのアドバイスでメビック扇町の存在を知り、クリエイターを募ることに。
メーリングリストによる募集の結果、イラストを担当することになったのが漫画家・イラストレーターとして活躍する泉麗香さん。選考した橋本さんは「見た瞬間に泉さんのイラストがいい! この娘が撫子やん!」と、自身がイメージする撫子像にぴったりのイラストに即決した。
当時の募集内容は「これまでの作品提出」による選考。しかし、泉さんは「そこから提案が始まるので」と、自分なりの撫子像を表現した描き下ろしイラストで応募したという。この手間を惜しまない提案の姿勢が、橋本さんの心を打ったに違いない。
そこに、動きを与えるアニメーション担当として、映像を得意とする内之倉彰さんが加わり、“チーム・ナデシコ”が結成された。
思いやりのバトンがつなぐチームワーク。
チームの結成が2016年7月下旬。そして、初納品の締切りが8月中旬。残された時間はたったの2週間強。息つく暇もなく三人の共闘が始まった。その流れは、まず橋本さんがブログの文章やアニメーションのイメージを設定。それを泉さんがイラストに落とし込み、最後に内之倉さんがアニメーションを加えるというもの。
「かわいく、クルクルと動く、明るい撫子を描きました。途中から感情移入しすぎて、自分が入ってしまったかも」と照れる泉さん。内之倉さんは、「イラストを受け取った瞬間、自分が感じた“かわいい”という気持ちを伝えたくて。動きの“間”を工夫するなど試行錯誤しました」と、それぞれが撫子の魅力を引き出すよう苦心。三人四脚で作り上げていった。そして8月23日、ブログでの初お披露目。思いをつなぐリレーが形になった瞬間だ。
担当したブログは23回分。1回のブログに3~4点のアニメーションが入る。しかも毎日更新するだけに、戦いの連続だったことは想像に難くない。しかし、放送が最終話を迎え、戦いを終えたとき、全員が「ナデシコ・ロス」ともいう寂しい気持ちに襲われたそう。
「橋本さんはいつもイラストの感想をくださるんです。否定的な意見は一切なく、全部受け入れてくれた。毎回“安心”が溜っていくようで」と泉さん。その言葉を受けた内之倉さんも、「よいものを作ろうというより、この二人のために作りたいという気持ちの方が大きかったかも知れません」と振り返る。
クリエイターとの挑戦が生んだ新しいカタチ。
ラジオドラマの登場人物に、ビジュアルを与える試みについて、「人物設定から想像してください、というのがラジオの基本。前例はありませんでした」と橋本さん。以前にも、出演者に有名人を起用した際、登場人物に役者の顔が重なってしまうという声があったそう。しかし、イラストを用いることで特定個人をイメージさせることなく、適度な距離感でリスナーの想像力を膨らませることに成功した。
「ブログをまとめて本にして欲しい」「ブログのレシピを参考に料理を作りました」など、反響も上々。また、アニメーションを載せ始めた頃から、過去に公開したブログの閲覧数が伸びるなど、「さまざまな形で手応えを感じられた」と橋本さん。
2017年3月12日には、ブログをまとめた本を出版。全体構成を橋本さん、イラストを泉さん、デザインを内之倉さんと、“チーム・ナデシコ”が担当。集大成ともいえる一冊ができ上がった。また、サントラCDのジャケットにも泉さんのイラストが採用された。
それぞれが思いやり、互いのために仕事をする。出逢って数ヵ月のチームがここまで思いを一つにできるのは奇跡的だ。大阪に美しく咲いたナデシコの花は、これからも力強く咲き続けていくだろう。
日本テクニカル株式会社
内之倉彰氏
公開:2017年5月8日(月)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。